【リンカーン タウンカー】大切な人をお運びするのが、ジドウシャの本分です!

フォードモータース傘下のリンカーンは、(名称からも分かるとおり)米国大統領のために専用車を制作&納品も行っているという、特別な高級車ブランドでしょう。しかし、そこがつくる市街地(タウン)乗り向け自動車というのは、ちょっと想像範囲を超えている気もします。まぁ実際のところ、このリンカーン タウンカーの意味は、スーパーマーケットの駐車場が似合うということでもないようなんです…。

最後に生き残ったフルサイズセダン、リンカーン タウンカー

リンカーンには、その名前を知らない人でも知っている(?)、『コンチネンタル』というレジェンドモデルがあります。1930年代から全部で10世代に亘り作られ続けた、まさに『ジドウシャのイメージ』を支える看板と言えるのが、そちらのクルマな訳です。しかしそれだけに、色々と風当りも強いのかもしれません。たとえば、原油が高騰するような時代には、人の目に付く大柄なボディーを捨てつつFF化まで行ったりしています。
そして、そのフラッグシップが近代的にダウンサイズする過程で、大きな高級車市場を受け持つ役目を背負いつつ据え置かれたのが、このリンカーン タウンカーだったと言うことらしいです。

そんな訳で、合理性とか効率重視とか言った理屈は、ちょっと横に置いておける立ち位置を手に入れたタウンカー。そのルックスも、古風なアメリカンスタイルを完全踏襲して1981年に生まれました。

そのルーツは、コンチネンタル・マークIVの最高位グレードであったという、このタウンカー。使用する車台は、言ってみれば時代ものの『フォード・パンサープラットフォーム』がそのまま残されました。これは、骨格となるフレームの上にボディの箱を乗せる構造。古いと言えばそうかもしれませんが、ことリンカーン タウンカーにとっては、それも1つの魅力となりました。

3世代に亘って発揮したその存在感

まさにリンカーン像を体現する初代タウンカー

(もちろん、ここで言う像とは大統領の銅像ではありません)1981年に新たなモデルラインとして独立した、このリンカーン タウンカー、やはりどこかで見たことがあるような外観です。1979年のファンタジックホラー映画「ファンタズム」で、怪しげな墓守が運転していた車が、これを改造した霊柩車だったような気もします。他にも、この時代のハリウッド映画には、同じ種類の車がけっこう登場したでしょう。

その外形は、前中後ろを別々のブロックにして結合したような感じ。とは言え、同じ時代のボルボ車よりも、私のような日本人にはなじみがあるのが、リンカーン タウンカーかもしれません。その車体は、ルーツであるコンチネンタルの流れをくんで、2ドアと4ドアセダンの2本立てでした。

ある意味、ちょこまかと細かいギミックで変更されないのが、このモデルの良いところだと思われます。そして、第一世代のこのタウンカーに与えられたエンジンは、その基本設計をその後も10年に亘り継承されてゆきます。排気量4.9LのV型8気筒OHVであるそのエンジンは、『フォード・ウィンザー・スモールブロックV8』とも呼ばれるもの。1981年当時は出力が97kwでしたが、年をおって改良され、このモデルが終了する頃には120kwへパワーアップしていました。それに組み合わされる変速機は、4速のオートマチックのみです。

ぐっと来るくらい古風なのが魅力のタウンカー、駆動方式はもちろんフロントにエンジンを置き、プロペラシャフトで後輪へ駆動を伝えるFR方式。そのプラットフォームが持っていたのは、前後ともにウィッシュボーン式の4輪独立懸架でした。

ある程度以上のラグジュアリー性を確保しなければいけないとしても、「足らないスペースは広げれば良い」と言っているそのスタイルは、現在の日本のエンジニア達からは羨ましがられること必至でしょう。

グレード構成は、ベーシックなレベルと、その上位に『シグネチャー』がある2段階構成でした。ベーシックなモデルは、ルーフにビニール製のカバーが乗っかる外観になります。またオプションで、布製のキャンバストップなども選択が可能だったということ。加えて1982年には、更に最高級のグレードとして『カルティエ・デザイナー・エディション』を追加(コンチネンタルからの移動)します。このバージョンには、特別なコーディネートを受けた外装カラーと内装のデザインが与えられました。さらにシート状のリンカーンエンブレム内には、『カルティエ』のロゴが印字されたということです。

また別のグレードとして、1987年のヨットレース『アメリカズ・カップ』に『Stars & Stripes 87』が優勝したことを記念し、フォードはタウンカーの限定版車両を作ります。それが『Sail America Commemorative Edition』。このモデルは、開閉可能なルーフや内装も含めて白と青で鮮やかに塗られた、海を強くイメージさせるようなクルマだったそうです。

【基本情報】

名称:リンカーン タウンカー(初代)
エンジン排気量:4,942cc
エンジン出力:100kw(136ps)/3,400rpm
エンジントルク:315Nm(32.1kgm)/2,200rpm
全長:5,565mm
全幅:1,984mm
全高:1,430mm
重量:1,817kg
ホールベース:2,979mm
サスペンション:ウィッシュボーン式(前)/ ライブアクスル式(後)

それでもちゃんと進化します、2代目タウンカー

ちょこまか変わらずに堂々としている、その姿勢によって顧客を得るのがリンカーン タウンカーの役目だったと思います。そして、リンカーン でも最上級の豪華さを誇るクルマで、ひょっとしたらホワイトハウスから特別車両の発注が来るかもしないのです。そんな事情もあってか(なくてか)、タウンカーは1990年にそれなりにモダンな外観を得て生まれ変わりました。

外観としては、少し曲面を取り入れながらも、このモデルのアイデンティティである保守性を生かしたデザイン。オプション設定ながら、ルーフにもビニール製のカバーが継承されています。とは言え、空力性能の改善は顕著で、この代のモデルはCd値⁼0.36を達成したとのこと。もちろん、基本になる骨格(プラットフォーム)は先代と同じものを継続利用で、駆動方式もFRとなっているのがこの2代目タウンカー。

サスペンションも基本的には変わらないものの、ちょっと前の1988年にオプション設定されていたリアのエアサスペンションが、このモデルでは標準となりました。エンジンは、本来新開発のSOHCでデビューするはずでしたが間に合わず、発表当初は旧来の『ウィンザーV8』を使いました。それでも1991年には、この2代目タウンカーが、フォードグループの新世代エンジン『フォード・モジュラーV8』登載の一号車となります。この動力源は、157kwを発揮します。

この世代では、基本グレードに『エグゼクティブ』という名称が与えられ、従来の『シグネチャー』と『カルティエ・デザイナー・エディション』と合わせて3段階となりました。『シグネチャー』ではベース仕様の布製シートがレザー張りとなり、ホイールも鉄製から合金製へ変更。『カルティエ』になると、オーディオがJBL製に変更となったりと、豪華仕様に変わります。

【基本情報】

名称:リンカーン タウンカー(2代目)
エンジン排気量:4,601cc
エンジン出力:157kw(213ps)/4,600rpm
エンジントルク:366Nm(37.3kgm)/3,400rpm
全長:5,558mm
全幅:1,984mm
全高:1,440mm
重量:1,830kg
ホールベース:2,982mm
サスペンション:ウィッシュボーン式(前)/ ライブアクスル式(後)

さらに洗練された3代目タウンカーのデザイン

1998年になると、リンカーン タウンカーは再びの(そして最後の)大幅な設計変更をうけます。プラットフォームはあいかわらず同じものを使用していましたが、3インチ短く2インチ幅広となった車体では、フロントグリルやヘッドライトも含めてさらに曲面が多用されることとなりました。
また、リアのトランクリッドも後方へと大きく傾斜して、従来のモデルが持っていた四方へ張り出すイメージがかなり薄くなっています。Cピラーに開いていた嵌め殺しの窓もなくなり、スッキリ感がましたのが、この世代のタウンカーだと思います。

投入されたエンジンは一機種ですが、エキゾーストの違い(シングルかデュアルか)などにより、その出力が153kw(エグゼクティブかシグネチャーに搭載)か164kw(カルティエ)、あるいは178kw(新設定のシグネチャー・ツーリングに搭載)かに分かれました。また、内装では、シートに内臓のヘッド&トルソーエアバッグが標準になったりしています。

2001年にはホイールベースを長くした『L』シリーズが、すべてのグレードに設定されます。翌2002年には『プレミアム』という、ガラスサンルーフなどを追加した設定もうまれました。2003年には、古い設計の『パンサー・プラットフォーム』にも改良が加えられ、捻じれ剛性のアップやサスペンションチューンを改良、さらにラック&ピニオンのステアリングも良くなりました。

2004年には、『カルティエ』グレードが消滅し、代わりに『THX』公認のオーディオシステムなどを持つ、『ウルティメート』というグレードが新設定されます。これにももちろん、ロングホイールベースの『ウルティメート L』バージョンがありました。また、2006年にはリンカーン タウンカー誕生25周年を記念して、『25th・アニバーサリー・エディション』という限定車を作ります。

2008年には、製造工程合理化のためにほとんど全ての装備を標準とし、タウンカーはHIDヘッドライトやアルミホイールなどの限定されたオプション設定に整理されます。そして最終的には、2011年をもってリンカーン タウンカーの製造販売が終了してゆきます。

【基本情報】

名称:リンカーン タウンカー(3代目)
エンジン排気量:4,601cc
エンジン出力:160kw(218ps)/4,500rpm
エンジントルク:387Nm(39.5kgm)/3,000rpm
全長:5,469mm
全幅:1,986mm
全高:1,473mm
重量:1,836kg
ホールベース:2,990mm
サスペンション:ウィッシュボーン式(前)/ ライブアクスル式(後)

こっちが本業? 特別仕立てのタウンカー達

2004年には、『エグゼクティブ』グレードが、リースや業務用など専用のグレードになったタウンカー。もともと大柄な高級車であり、同時に古典的な車体の構造が、修理やメンテナンスを廉価で容易なものとしていたことの表れです。つまり、カスタマイズやデコレーション、そしてリムジン化などのベース車両として人気があったのですね。

商用での耐用走行距離が40万マイルに及ぶという、このタウンカー。1989年には時のレーガン大統領は、それまで使用していたキャデラックに代えて、リンカーン タウンカーを大統領専用車に指名します。このクルマは、パパ・ブッシュが大統領を務める間中も継続して、「世界のリーダー」を安全に運びつづけました。
リンカーンのこのノウハウは、2003年に登場した重装甲バージョンのタウンカー、『バリスティック・プロテクション・シリーズ』として商品化されてもいます。このクルマでは、銃弾に耐えるガラスや分厚い装甲パネルなどにより、車体重量が3,000kgを優に超えていました。そのため、サスペンションとブレーキも強化し、自動車としてのハンドリングを維持する工夫がなされました。

日本にありますかね?…中古市場を探すと

その名の示す通りに、『都市部での特別な用途』にぴったりのクルマが、リンカーン タウンカーということになると思います。大きさだけでなく、今となっては(やや)異形とも言えるルックスは、存在感に関してだけはピカいちでしょう。

ということで、興味を持たれる方も居そうな一台。しかし、こんな自動車が日本国内に現存するのでしょうか? まあ、手に入れるとしても新車はないので中古車でということになります。

ちょっと調べると、2005年登録の『シグネチャー』で走行距離が6.0万kmの車検付き車体(正規輸入)が、1,880,000円というのがありました。また、同じ年式で走行距離7.3万kmの『カルティエ』が、車検付きで480,000円なんてものもあります。
あるいは、「ヤフオク」を除いてみたら1988年型の初代タウンカーに、80万円弱の値段が付けられたりしています。やはり、この「本当のリンカーン」には、興味を示す人が意外と多いということなのでしょう。

古風なアメ車で中古、ということになると、トラブル&修理のことが気になります。話としては、エンジンんのヘッドガスケットが損傷したとか、アクスルシャフトの交換などが聞こえます。あるいは、ライトの明滅や、エアコンモーターが停止するなどの電気系故障は、結構あるようです。

あと、おおがらな車体で気になるのは燃費ですね。ところが、ちょっと調べたところ、7.0km/L位から良いケースだと10.0km/Lを超えてくる場合もあるようで、思ったほど酷くないのかもしれません。まぁ元来、山道で振り回すクルマではありません。

ある意味、車としての位置づけがかなり特殊なタウンカー。一応、信頼できる工場を見つけてから購入する方がよさそうにも思います。そうだとしても、この独特な存在感は、なかなか他で代えがたいものだと思いますが、いかがなものでしょう…。

まとめ

辞書で調べると、「タウン」には、都市とか都会の意味に加えて、首都の意味もあるらしいです。特殊用途向けにカスタマイズしやすく、ゆとりの室内があるリンカーン タウンカーは、まさにワシントンDCで要人を運ぶためのクルマなのかもしれません。

無骨ということではなく、むしろ保守的なところが良いところ。価値観によりますが、いわゆる「格好良いクルマ」ではないのがタウンカーです。特に初代のタウンカーにみられる、ブロックを並べてくっつけた様なボディーシェイプは、自動車そのもののルーツとも言えます。そしてそんなところに、独特な愛嬌を感じてしまったりする、今日この頃なのです。

現在は、お出迎えや個人所有向けには『リンカーンMKS』が、リムジン用途には『リンカーンMKT』がその任務を引き継いでいるということです。