フランス語で“5”は“サンク“です。ルノーサンク(Renault5)という車。

フランスを代表する自動車メーカーであるルノー。カルロスゴーンさんがやってきて日産とつながってからは、日本での知名度も上がりましたね。とはいえ、じゃぁルノーってどんな車を作ってるの?となると、ご存知のかたは余り多くありません。今回は、そんなルノーの名前をヨーロッパ全土に知らしめた立役者、サンクをご紹介します。

ルノーの歩みとサンクが生まれるまで

まずはルノーについておさらいを

ルノーはフランスの老舗自動車メーカーで、創業は1898年ですから、自動車産業の創世紀にあたります。
当時はエンジンの上に座って前輪を操作するレイアウトだった自動車を、もっと便利に快適にしたいと試行錯誤して、“FR”と呼んでいる、フロントエンジン・リアドライブの配置を生み出したのはこのルノーです。
第一次大戦中は戦車やタクシーの製造も手掛け、順調に生産規模を拡大していきます。ですが、フランスは第二次大戦に大敗しドイツの占領下に。ルノーは会社と従業員をまもるためにドイツ軍に協力しますが、後にそれがきっかけで創業者ルイ・ルノーは投獄され、獄中死を遂げます。終戦後の1945年、瀕死の状態だったルノーはシャルル・ド・ゴール将軍により国営化され、ルノー公団となりました。
やっとの思いで1986年に民営化しその後も着々と業績を上げ、1999年には日産自動車を傘下に収めています。
世の中にないモノをつくりだすことが大好きで、小さなことから大がかりなことまで、なんにでもチャレンジします。それこそがルノーの魅力なのかもしれません。

FR→RR→FF

いまでこそ前輪駆動があたりまえですが、初期の自動車は後輪駆動でした。エンジンの上に座って前輪を操舵するスタイルがほとんどでしたが、“もっとたくさんの人を運びたい”という欲求が生まれて、座席の増大が求められます。それには同時に非力なエンジンの大型化が必要になります。ルノーは、エンジンを前部に配置し、プロペラシャフトで繋いで後輪を駆動するというアイデアを実現しました。
その後、ごく一部のお金持ちのモノだった車を大衆に広めるために、こんどは小型化が求められます。そこでルノーはエンジンとトランスミッションを一体化して居室の後ろに置き後輪を駆動する、いわゆるRRを確立しました。
RRはパッケージとしては良くできているのですが、視界を確保するためにはボンネットの高さを抑える必要があり、トランク容量を増やせないのがネックでした。さらに、重量が後ろに集中してしまうので、操舵性が損なわれるのも解決できない問題のひとつでした。
このような背景から、ヨーロッパの自動車メーカーがこぞってFFの開発に取り組みます。もちろん、ルノーもそのうちの1つです。ルノーはRRの技術をそのまま居室の前に置き、FFにしてしまいました。

サンクが生まれるまで

かくしてルノーのFF構想がまとまり、生み出されたのがルノー4(キャトル)でした。えっ?サンクじゃないの?って感じですよね。ここまで引っ張っておいて申し訳ありませんが、ルノー初のFF車はキャトルなんです。ただ、このキャトルの成功があったからこそ、サンクが生まれたのです。
キャトルには、価格を抑えるための様々な工夫が見られます。すべてのガラスが平面だし、室内も鉄板剥き出しです。ガラスの開閉は引き違い仕様。人間とはわがままな生き物ですね。“安いのはありがたいんだけど…”そんな声もあり、ひとまわり上級な車を求められたルノーは、キャトルをベースにさらに小型・軽量・ちょっと高級なサンクをつくったのです。

デビューから日本導入まで

出典:https://ja.wikipedia.org/

ヨーロッパ仕様のサンク

かくしてセンセーショナルなデビューを果たしたルノーサンク。1972年に発売されると、瞬く間にヨーロッパ中でベストセラーになりました。その先進的なデザインと実用性は群を抜いていたからです。
日本への導入は、ヨーロッパデビューから遅れること4年、1976年になりました。日本では排気ガス規制が始まっていましたので、そのまま輸入できなかったのです。日本以前から排気ガス規制が行われていた北米向けのサンクには、排気ガスを浄化するための触媒がついていたので、当初は北米仕様が輸入されました。ところがこの排気ガス対策による不具合が頻発し、“フランス車は壊れやすい”などというレッテルを貼られることになるのでした。

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日本導入当時のサンク

ここで、構造上のこぼれ話をひとつ。これはキャトルも同じなのですが、フロントの足回りは乗り心地と操舵性を両立したダブルウィッシュボーンです。リヤの足回りはトレーリングアームという構造です。これは、荷室の床をフラットにできるためFF車ではポピュラーなのですが、ひとつ問題がありました。
左用と右用を前後に並べて配置したために、ホイールベースが左右で異なるのです。現代のトレーリングアーム車は上下に配置していますのでホイールベースは左右同一なのですが、当時は縦に配置する技術が無かったのでしょうね。厳密に言えば、左旋回と右旋回でわずかに挙動が違うことになります。

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トレーリングアームの配置によるホイールベースの違い

様々なバリエーション

FFパッケージを確立し、コンパクトにまとめられたサンクは、様々なバリエーションを生み出します。特にその動力性能の高さに目を付けたチューナーたちがサーキットやラリーなどへ引っ張りだすのでした。

ルノー5アルピーヌ

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アルピーヌは、ルノーが傘下に収めたチューナーで、スポーツカーメーカーでもあります。そのアルピーヌがプロデュースして、1976年に登場したスポーツバージョンがサンクアルピーヌです。見た目こそたいした違いはありませんが、1,400cc、最大93馬力のエンジンと、より操縦性を高めたサスペンションを備えていました。ひと目でわかるワイドタイヤと、外観にあしらわれたピンストライプが特徴。これもこぼれ話ですが、イギリスでは商標上の都合から「ゴルディーニ」と名乗っていました。

ルノー5アルピーヌターボ

出典:http://www.viaretro.com/

さすがはターボのルノーです。サンクアルピーヌにターボを搭載しちゃいました。外観上の違いはグリルに付く“Turbo”のエンブレムのみです。エンジンは最大110馬力を発生したそうです。

強烈なインパクト サンクターボ

出典:http://rjamp.deviantart.com/

これぞモンスターマシンの代名詞。ルノーサンクターボです。小さなルノーサンクをベースに、リヤシートを取り外してエンジンをミドシップに搭載してしまいました。車幅が5割増しにもなりそうな大型のフェンダーを装備し、強大なパワーを受け取るワイドタイヤと熱量が増えたエンジンをしっかり冷やすためのラジエターが収まっています。WRC(ワールドラリーチャンピオンシップ・世界ラリー選手権)のグループ4 (Group 4) に参戦すべく、ホモロゲーションモデルとして製作されました。当然のことながら、それまでのルノー車中最高価格でしたがごく少量販売されました。後に、普及版の5ターボ2が市販されました。

外観を変えずに大幅モデルチェンジ

大ヒットを収めたルノーサンクですが、市場の変化には対応しきれなくなります。サンクはFFとは言えエンジンを縦に配置した特異なレイアウトです。これは、ベースになったキャトルがRRの機構をそっくり前に置き換えただけの配置だったためで、これのおかげでいろいろと不具合もありました。
RR機構をそのまま前に置いたため、トランスミッションが前、エンジンが後ろのレイアウトです。つまり、エンジンが居室のすぐ前にあるわけです。おかげで室内にエンジンの熱が入り込み、比較的涼しいヨーロッパでもクレームにちかい苦情がありました。日本の夏では・・・言うまでもありませんね。
加えて、FFを採用するメーカーのほとんどが横置きレイアウトにシフトしていたこともあり、サンクも横置きFFへと変更されるのでした。

元祖“小粋なパリジェンヌ”シュペールサンク

出典:http://www.mototechna.wbs.cz/

当時のルノーは、モデルチェンジとともに車名を変更するのが通例でしたが、このサンクに限っては大ヒットモデルだったことから名前を踏襲しました。旧モデルと変わらず単に5(サンク)という名でしたが、前期と後期を区別するために、シュペールサンクと呼ばれました(シュペールはスーパーの意)。
ボディは3ドアハッチバックと5ドアハッチバック。ボディサイズは3ドアが全長3,590×全幅1,590×全高1,365mm、ホイールベース2,410mm。5ドアが全長3,650×全幅1,590×全高1,370mm、ホイールベース2,465mm。世界的な潮流から随所で軽量化が計られました。内外装ともイタリアのデザイナーであるマルチェロ・ガンディーニが担当しています。
上述したとおり、エンジンレイアウトの変更が1番大きな変更点ですが、フロントの足回りもダブルウィッシュボーンからストラットに変更されました。これは、縦置きに比べて横置きエンジンの場合は足回りに使えるスペースが少ないことと、これもFF車全般的な流れだったのでしょう。

シュペールサンクの派生モデルたち

モデルチェンジ後のサンクにも様々なバリエーションがあります。高級バージョン、スポーツバージョン、そして商用車まで。

小さな高級車 ルノーサンクバカラ(Baccara)

出典:http://f.st-hatena.com/

シュペールサンクをベースにした豪華装備車です。内装はすべてフルレザー仕上げとなり、シートやステアリングも標準でレザー仕様の超豪華バージョン。ルノーの最高級車25(ヴァンサンク)にも負けない豪華さと言われました。荷室のトレイまでレザー製で、ジップタイプのジャケットケースとなっています。高級小型車の元祖になりました。

小型フレンチロケット ルノーサンクGTターボ

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名前こそ似ていますが、前期型のサンクターボとは全くの別物です。シュペール5のスポーツモデルという位置づけで、5アルピーヌターボの後継車にあたります。外観はオーバーフェンダーやサイドスカート、スポイラー付きバンパーなど、いわゆるエアロパーツで武装されています。エンジンパワーも115PS(後期型は120PS/5,750rpm)までひき上げられました。小さなエンジンルームにターボエンジンを押し込んだことで冷却に苦労し、キャブレター冷却用に専用の電動ファンを装備していました。日本ではエアコン装備車もありましたが、とても実用出来るレベルではありませんでした。120psで車重は850kgという類を見ない動力性能から付いたニックネームは“フレンチロケット”です。

ハッチバックベースのバン? ルノーエクスプレス

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日本ではあまり馴染みのない形状の車ですよね。ヨーロッパではポピュラーで、“フルゴネット“と呼びます。ハッチバックの荷室だけ大きくしたスタイルで、小型車の操縦性能とバンの積載性能を併せ持つスタイルです。これはヨーロッパ中の商売人に受け入れられました。サンクの生産終了後(つまりクリオにバトンタッチした後)も、このエクスプレスはスペイン、ブラジル、アルゼンチン、台湾で生産が続けられるほどの人気でした。

ルノーサンクのまとめ

いかがでしたか。ヨーロッパ中の人々を魅了したフレンチコンパクト、ルノーサンクをご理解頂けましたでしょうか。
パリやミラノに代表されるヨーロッパの街は、狭い道路が碁盤の目状に走り、その中を住居やビルが埋め尽くしています。加えて石畳の道路を快適に走るためには、しっかり動く足回りとソフトな乗り心地は必要不可欠なんですね。そんな街をキビキビ走り回るために考えられた、小型・軽量ながらも乗り心地がよいサンクが受け入れられないハズがありません。加えてこの洗練されたデザインですから、若者から奥様方まで人気を博したことでしょう。道路事情は日本も同じですので、もちろん日本でも快適に使える車です。
ただ、デビューからすでに43年が経過していますし、モダンに改良されたシュペールサンクでさえも、生産終了から16年もの月日が経っています。正直に申し上げて、よほどの覚悟がなくては維持するのは困難だと思います。もし程度極上のバカラに出会えたら、もう一度乗ってみたいと思いますが、叶わぬ夢でしょうね。
一部のマニアの間では、サンクターボⅡやサンクGTターボが大切に維持・保管されていますので、無理な話ではないのでしょうけど…。
でもご安心ください。エポックメイクが大好きなルノーを代表するフレンチコンパクト。サンクの思想を受け継いだ車は今もなお世界中の若者を魅了しています。サンクの直系にあたる子孫はルーテシアです。サンクを諦めて頂く代わりといってはなんですが、どうしても小粋なフレンチコンパクトに乗りたい貴女には、ルーテシアをオススメします。

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