ルノーアヴァンタイム 風雲児ルノーはワンボックスをクーペにする

1999年のジュネーブ・モーターショーに現れた奇妙な乗り物、それがルノーアヴァンタイム。フランス語に“アヴァンギャルド”という言葉がありますが、まさにその言葉がぴったりの出で立ちでした。“まさかこのまま...”という憶測を他所に市販してしまうあたりはさすがルノー。世間を“あっ”と言わせたアヴァンタイムをご紹介します。

アヴァンタイムの出現

出典:http://www.fotosdcarros.com/fotos-renault-avantime

それは今から16年前、1999年春の出来事でした。最新作が集合するジュネーブ・モーターショーに、一際人目を引くデザインの奇妙な車が展示されていました。ルノーブースのお立ち台に鎮座する姿は、ワンボックスのようですがドアは2枚しかありません。
大きなグラスエリアに加えてルーフもほとんどがガラスで出来ていて、開放感のかたまりの様なボディ構成です。
見る者を圧倒するその姿は“前衛的”と評されるも、だれもがコンセプトモデルとして終わるのだろうと考えていました。

まさかの市販化

出典:http://auto-database.com/

ところが2年後の2001年、パリサロンで市販型が披露されたのです。コンセプトモデルとほぼ同じ姿で現れたアヴァンタイムは、“まさか”の声と賞賛を同時に受け取ることになったのです。
それにしても、コンセプトとの違いを見つけるのが難しいくらいですね。コンセプトモデルがここまで完成されているケースは、あまり見たことがありません。
一見して違いがわかるのは、ドアのプロテクトモールの有無、ホイールサイズ、ピラー周りのデザイン程度です。

ルノーアヴァンタイムとは

アヴァンタイムを語る上で、いくつかおさえておかなければならないツボがあります。順にご紹介しましょう。

ベースはミニバン

出典:https://ja.wikipedia.org/

日本には正式導入されていませんので、見たことがないという方がほとんどではないでしょうか。これは“ルノーエスパス”という車です。写真は3代目のエスパスです。
初代エスパスは1984年にデビューしました。実はヨーロッパで最初のミニバンです。そのコンセプトはヨーロッパ中で受け入れられ、瞬く間にベストセラーになりました。
トヨタエスティマのデビューが1990年ですから、ルノーはずいぶんと先を見ていたんですね。
なぜここでエスパスをご紹介したかと言うと、アヴァンタイムはこのエスパスをベースに開発されたからです。

エスパスこぼれ話 その1

エスパスは、純粋なルノーの車ではありません。ルノーと提携関係にあったマトラという会社が企画した車です。バッジこそルノーのエンブレムを付けていますが、生産はマトラの工場で行われていました。
このような経緯から、マトラの輸入経験の無い(と言うよりもマトラを自動車メーカーとして見ていない)日本への導入が無かったのでしょう。
マトラは3代目エスパスまで手がけますが、2003年には自動車生産技術部門をピニンファリーナへ売却し、自動車産業から撤退したため、4代目エスパスはルノー社内で生産されています。

エスパスこぼれ話 その2

出典:http://www.f1fanatic.co.uk/

エスパスF1という車があります。とは言っても市販はされていませんけど。ルノーとマトラの提携10周年を記念して、当時のルノーF1のエンジンを積んだエスパス(と言うよりも、F1にエスパスのボディーを載せた)をつくっちゃいました。さすがはマトラですね。発想自体がこの世のものとは思えません。
このインパクトは尋常ではありません。おかげで、当時は各地のモータースポーツイベントに引っ張り凧でした。
エンジンのエアインテーク部分が透明のポリカーボネートで出来ていて、吸気とともに噴射されるガソリンを眺められる構造になっていました。

ミニバン+クーペ

アヴァンタイムをデザインしたのは、当時ルノーのデザインチームのリーダーだったパトリック・ルケマン(Patrick Le Quément)です。
ミニバンはスペースの有効性が優先されてデザインを制約されがち。そんな常識を覆すべく、“ミニバンの使い勝手を満たしたまま、クーペと呼べるほどに美しいデザイン”を求めた結果がアヴァンタイムなのです。

+カブリオレ?

出典:http://tokyobay-used.jugem.jp/?cid=14

RENAULT TOKYO-ARIAKE APPROVED CARより

発表当時のルノーのリリースには、アヴァンタイムにはミニバン・クーペ・カブリオレの要素があると謳ってありました。
“この屋根は開くのか?”と言えば答えは“No”なのですが、ルノーはアヴァンタイムに“ボタン1つでサンルーフとサイドガラスが全開になる”という機能を与えました。
もともとセンターピラーが無いことに加えて、後ろ半分は開かないもののルーフはほぼ全面ガラスですから、クローズの状態でもそうとうな開放感です。
でも、この“全部開け”状態にした瞬間に飛び込んでくる風を感じると、その開放感はもはや“屋根があることを忘れる”レベルに達しています。ただし、60km/hくらいから車内のものが飛びはじめますので、使い方を誤らないようにしてくださいね。

実はハッチバック

出典:http://www.autoweek.nl/autotest/863/renault-avantime-30-v6-24v-privilege

こう見えて実はハッチバックなんです。いわゆる3ドアですね。大ぶりなボディの割に、ラゲッジルームはそんなに広くありません。やはりこのバッサリ切り取られたデザインのおかげですね。そうは言っても、一般的なセダンのトランクに比べれば圧倒的に大容量ですし、リヤシートは分割可倒式ですから用途に合わせて使い分けられます。

ギミック溢れるドア!

出典:http://jalopnik.com/whats-the-weirdest-french-car-ever-made-1563380598

この写真、何が起きているかわかります?
アヴァンタイムのとんでもなく長いドア。おかげでリヤシートまで苦労なく乗り降りできるのですが、そのまま開くのではこれまたとんでもなくスペースを要してしまいますよね。狭い駐車場では人が出入りできるできるほど開くことができなくなってしまいます。
そこでこのギミックの登場です。ドアの中にもう一つヒンジが隠れていて、“開く”というよりも“迫り出す”ように開くんです。
このギミックの恩恵を受けながらもなお、4ドア車のフロントドア全開以上にスペースを要しますので、かなり広めの駐車場を用意する必要がありますね。

短命だったアヴァンタイム

アヴァンタイムの製造は2年間のみ、生産台数はわずか8,557台にとどまります。
アクの強いその出で立ちから、一部の熱狂的な支持はあったものの販売数は伸び悩みました。さらに、マトラ自動車部門の撤退にあわせてベースとなったエスパスもルノー本体が行うことになったため、新型を開発する余裕がなかったことも一因となり、新型アヴァンタイムの登場はありませんでした。
日本でも2002年から販売されたものの、販売実績は期待された数量に程遠い結果となりました。206台が正規で輸入されたものの在庫の払底するのに2005年夏ごろまで販売されていました。

スペック

●形式:GH-EL7X
●全長4,660mm×全幅1,835mm×全高1,630mm
●ホイールベース:2,700mm
●車重:1,790kg
●エンジン型式:L7X 2,946cc・DOHC・V型6気筒・横置
●207ps(152kW)/6,000rpm、28.5kgm(280Nm)/3,750rpm
●タイヤ:235/50R17(Michelin Pirot Primacy)
●価格:500万円(発売当時)

アヴァンタイムのある風景

出典:http://www.renaultavantime.com/

この写真、素敵ですよね。アヴァンタイムが発表されたとき、各国で行われたプレス試乗会は美術館で行われました。日本でのプレス試乗会は、静岡県の長泉町にあるヴァンジ彫刻庭園美術館で行われたそうです。とある雑誌の記事には、美術館の庭園内に停められたアヴァンタイムを“まるで1個の作品のようだ”と表現しています。もちろん、(万人が好きはあり得ませんので)好き嫌いは分かれるのでしょうが、その造形美・計算され尽くしたシェイプは、たしかに“美術品”の域に達していると言ってもよいと思います。
ですから、アヴァンタイムが停まっている駐車場の向こうには、やはりデザイン性に富んだ建物があって欲しいのです。とりわけ“シンプルモダン”なデザインのお宅の前であれば、アヴァンタイムの素晴らしさがより引き立つことでしょうね。
強烈な個性を放つアヴァンタイムのデザインは、入り込む風景をも選んでしまうかもしれません。言い換えれば、このアヴァンタイムの個性こそが、まわりを引き立ててくれるシチュエーションも十分にあり得るということです。

内部も前衛的なデザイン

出典:http://www.autoevolution.com/cars/renault-avantime-2001.html#agal_6

上述したとおり、アヴァンタイムはミニバンをベースにして作られていますので、室内空間の大きさは言うまでもないでしょう。クーペスタイルにこだわったあまり、リヤシートのヘッドクリアランスはさほど広くないのですが、グラスエリアの大きさも相まって“ゆとり感”は素晴らしいものがあります。各部のデザインも秀逸で、センターメーターを採用して低く抑えたダッシュボードやドアエッジは、視界をより広く保ってくれています。
室内のしつらえも素晴らしい出来映えです。左右対称にして極力スイッチ・ボタン類を排したシンプルなデザインのダッシュボード、シートベルトの巻き取り機構まで内蔵した重厚な革シートなどは、車の部品というよりもむしろモダンファニチャーのレベルです。ダッシュボードからドアまで要所に配されたアルミのプレートが高級なAV機器のような雰囲気で、思わず指を伸ばしてしまいたくなります。

現在でも十分通用する機動性

出典:http://www.caradisiac.com/Renault-Avantime-mort-avant-l-heure-82070.htm

路上で鎮座しているアヴァンタイムはそれだけで異彩を放つ存在感ですが、いざ乗ってしまうと意外と普通です。フロアを平らにするためなのでしょうが、床高はかなり高めの設定ですので、小柄な日本人体型では乗り降りだけでも少々苦労しますね。フロアが高いので、着座した際のアイポイントが高くなってとても見晴らしが良く、とても運転しやすい印象です。
走り出すと、その乗り味は日本製の大型SUVに近い感覚です。ロールを抑えつけた足まわりと17インチのおかげでシャキッとしてはいますが、段差を超える際やコーナリング中などはどことなくユサユサとした感じがあります。
1,790kgもある重量級のボディのおかがで、ふわふわした感覚はありません。全体に重厚でゆったり、しっとりした印象です。言い換えればキビキビした感じもまったくありませんけど。
エンジンはルノーでは定番のV6の3.0リッター「L7X」ユニット(207ps)。ラグナやクリオV6にも搭載されているエンジンです。トランスミッションは最近フォルクスワーゲン/アウディ、ポルシェなど、欧州で採用が多い信頼のアイシンAW製5速A/T。ルノー流の変速プログラムは、加速時には6,000回転オーバーまで引っ張り、減速時はエンジンブレーキをガンガン効かせるスポーティな設定で、シーケンシャルモードも備えます。
実際の巡航速度域では、100km/h時、5速トップで2,000回転程度。高速道路でも、ゆったり快適に巡航できます。メーカー公表値で最高速度220km/hとのことですので、その気になれば速くも走れるということですね。
実は、ルノーのもう一つの旗艦である“ヴェルサティス”は日産のVQ35DEエンジン(3.5リッターV6・248ps)を搭載しています。アヴァンタイムにもVQを載せてくれればと思ってみたものの、エンジンルームのスペース上の問題で無理だったようです。
ただ、実際に乗ってみると“このクルマはこれでいいのでは”と思えるほどマッチしていると思います。高回転・ハイパワー型のVQと、ゆったり感やクラシカルな雰囲気満載のアヴァンタイムではミスマッチであることこの上ないと思うのです。

手に入る?

出典:http://www.g-shinwa.co.jp/news_shinwa/renault/2012/09/post-65.php

ルノー豊川店のH.P.より

某中古車サイトを覗いてみましょう。日本全国に9台の中古車がありました。下は50万円~上は148万円までと幅が広いのですが、新車価格が500万円だったことを思うと10年落ちとはいえなかなかの割安感ではないでしょうか。
ただし、50万円台の車輌は走行距離が10万キロを超えていますので、一通りのメンテナンスが必要でしょう。すべての油脂類はもちろん、タイミングベルトを含む駆動ベルト類、車重の割に容量の少ない足回りのブッシュ類、ブレーキまわりなど、車両価格に匹敵するくらいの出費が必要かもしれません。
逆に148万円の最終モデルでも走行距離は7万キロ弱ですので、近い将来にフルメンテナンスの時期を迎えることになりそうです。
であれば、10万キロ走行済みのお値打ちモデルを手に入れて、フルメンテしてから安心して乗り出す、というのも一案かと。

最後にまとめ

不運な境遇のため、1代限りで生産終了となったアヴァンタイム。見れば見るほどルノーの意欲作であったことが伺えます。奇しくも本国では5代目エスパスが発表されましたが、日本への導入どころか右ハンドル市場への対応自体がないようです。
このエスパスをベースに、新生アヴァンタイムを作って欲しいと願うのは、私だけではないはずだと思うのです。