【ホンダ ビガー】大人向けホンダ車の一翼を担っていた、こんな一台がありました

今でも、「エンジンのホンダ」という表現をたまに聞きます。本来、本田技研工業が作るクルマは、走行性能に重きを置いたものだったと思います。走り、爽快感、そして活力&元気。つまり、この今回ご紹介する一台ホンダ ビガーこそ、名称の中にホンダスピリットが込められていたかもしれません。とは言えこのクルマ、セダンが主流の大人っぽい雰囲気だったんです。

ベルノ店系列のためのアコード、それがビガー

かつて存在したホンダベルノ店系列は、たとえばプレリュードやNSXなど、スポーツ&スペシャルティな品揃えが売りだったと思います。しかしややもすると、これでは販売する数が限られてしまいそう。「ウチにも、シビックやアコードが欲しい…」そんな営業さん達の声が聞こえてきそうでもあります。ということがあってかなくてか、アコードが最初のフルモデルチェンジを迎えた1981年に、ベルノ向けに用意されたのが、このビガーだったようなのです。

と言う訳で、最初のホンダ ビガーはアコードとさほどの差別化もされておらず、車種構成も4ドアセダン&3ドアハッチバックの組み合わせでした。

ホンダ ビガーの系譜

初代ビガー

今では、ほぼタブーとも言えそうな1.8Lエンジン搭載の3ドアハッチバックがあったのが、この頃のアコード&ビガーでした。まぁ、ホンダでなく別メーカーででも、今のダウンサイズ技術を導入して同様なクルマを新らしく作ったらどうだろう、なんて想像も面白い所ではあります。
時代を超えて、そのホイールベースで比較するなら、同社の『フィット』が2,530mmであり、この初代ビガー3ドアハッチバックは2,450mmいう結果。数値での比較を見る限りでは、すでに現在のコンパクトには足りていないとも言えそうなのが、この頃の1.8Lカーだったのですね。

この世代のビガーに使われていたエンジンは、1.8Lのキャブレター式SOHC(CVCC)であり、出力は97psのトルクは14.3kgmという能力です。前出のフィットが1.5Lながら、132ps&15.8kgmを発揮しますから、技術によるエネルギー効率の進歩は凄いとしか言いようがありません。

まぁ、さすがに35年後の未来カーと比較しては気の毒です。このビガーのアピールポイントとしては、ステアリングホイールに操作スイッチを設置したクルーズコントロール(日本初)や、インパネ全面に広がる横一線の吹き出し口から極微風を送風する『マイルドフロー ベンチレーション』(世界初)など。さらに、トーションバー内蔵の車速応動型バリアブルパワーステアリング(世界初)や、2段階車高調整機構&4輪自動・車高制限装置(日本初)他も装備。

サスペンションは、低ロールセンター化を行った上にリンク方式のスタビライザー装着、そしてスプリングオフセット方式などを前輪に採用。これで、直進性などの向上を図っています。同時に後輪には、オフセットスプリング方式とロングロアアー ムを採用しました。また、10モード燃費は、5速MT車で13.5km/L、ホンダマチック(オートマ)車では11.0km/Lとなっています。

グレードとしては、ハッチバックに『MX-T』と『ME-T』、セダンには『MG』に『ME』そして『ME-R』という設定。これらは、エンジンではなく装備品の違いによって差別化されています。3ドアが主力のような構成であり、古き良き時代のホンダ車を引き継いでいるといった感もあるのが、この代のホンダ ビガー(&アコード)ではなかったでしょうか。

【基本情報】

名称:ホンダ ビガー(3ドアハッチバック)
型式:E-SZ
エンジン排気量:1,750cc
エンジン出力:97ps/5,300rpm
エンジントルク:14.3kgm/3,500rpm
全長:4,210mm
全幅:1,650mm
全高:1,335mm
重量:935kg
ホールベース:2,450mm
サスペンション:ストラット式(前)/ ストラット式(後)

2代目ビガー

アコードとともに、ビガーも最初のフルモデルチェンジを迎えたのが、1985年です。この年は、ウィリアムズチームにエンジンを供給していたホンダが、シーズン終盤の3連勝を含めて4勝をあげた年でした。そして、F1と言えばDOHCエンジン。この時代に、そのタイプのエンジンで訴求するのが最もふさわしかったのは、やはりホンダでした。
この時のモデルチェンジでは、2.0L&1.8LにDOHC16バルブを投入。それぞれの出力は160psと130psとなっています。同時にシャーシ周りでも、FF車世界初となる4輪ダブルウィッシュボーン式サスペンションを新開発。エンジンでも足回りでも、F1に通じるイメージを打ち出してアピールしました。

ボディーとしては、アコードにあった3ドアハッチバックは取り入れられず、ビガーの方はこの代からセダン専用車種になります。一方で、この世代の大きな特徴の1つであるフルリトラクタブルヘッドライトは、このビガーにも採用されています。このフロント部分のデザインも、最近では同類のものをあまりみかけない、とても個性的な出来上がりと言えるでしょう。全体的には、そのフロントのシャープさとリアまわりの回り込んだ局面で、モダンな雰囲気を醸し出したのがこのデザイン。

トランスミッションは、5速のマニュアルに加え、ロックアップ機構付ホンダマチック4速フルオートマが選べました。他の装備としては、4輪アンチロックブレーキや、電動スモークドガラス・サンルーフもオプション選択が可能となっています。

この時代の4輪ダブルウィッシュボーンサスペンションは、見方によれば、やや無理もあったかもしれません。しかし、そんな勇み足さえも魅力になってしまうという活気が、世の中や自動車業界に流れていたんだと思います。そんな車体で実現した10モード燃料消費率は、5速MTだと12.0km/L、オートマでは10.0km/Lとなっています。

【基本情報】

名称:ホンダ ビガー 2.0Si
型式:E-CA3
エンジン排気量:1,958cc
エンジン出力:160ps/6,300rpm
エンジントルク:19.0kgm/5,000rpm
全長:4,535mm
全幅:1,695mm
全高:1,355mm
重量:1,150kg
ホールベース:2,600mm
サスペンション:ダブルウィッシュボーン式(前)/ ダブルウィッシュボーン式(後)

3代目ビガー

そして迎えた1989年。フルモデルチェンジを機に、アコードの上位車種『インスパイア』とビガーが姉妹車種となります。そして再びこの時、ホンダは、ちょっとしたトリックをしかけます。これらのクルマに、『縦置きエンジン・フロント・ミッドシップ・レイアウト』のFFという方式を採用したのです。しかも搭載されたエンジンは、新開発の直列5気筒SOHC16バルブで排気量は2.5L。出力は160psにトルクは19.0kgmという性能のものでした。
他のメーカーであれば、『縦置きFF方式への回帰』と表現されるかもしれませんが、随分最初の頃から横置きFFに拘るイメージでやってきたホンダです。ですからこれは、回帰ではなく新たな挑戦だったのだと思います。
世界的に見れば、縦置きFFはあり得なくもないものでしょうし、最近(2015年)ではルマン24時間に日産がFFのプロトタイプカーを持ち込んで話題になったりもしました。そして一般的に言っても、エンジンの向きが90度回転すれば、左右のスペースが解放されるメリットも考えられます。だとしても、ややコクピット側に食い込んだトランスミッションから何故、前側にプロペラシャフトを返えさなければならなかったのか。考えれば不思議な話です。同時に、フロントミッドシップありきなら、むしろ4気筒の方がさらにコンパクトだったはず。

もちろん、個性的なクルマへの拘りは、ユーザーとしては歓迎すべき所でもあります。とにかく、ホンダというメーカーは、凡人の期待を裏切ることが好きな会社だったのですね。

その縦置きエンジンにつながる変速機からは、5速のマニュアルはなくなり、7ポジション4速電子制御オートマチックトランスミッションのみの設定となりました。この時代はもう、クラッチをヘコヘコ踏んでビガーのような上級の自動車を運転する時代ではなくなったとも言えるでしょう。この組み合わせでの10モード燃料消費率は9.3km/Lとなっています。

(プロペラシャフトが縦に通ることはなかった)そのシャーシ周りで言うと、先代ではちょっときつかったはずの前輪ダブルウィッシュボーンサスペンションは、楽なジオメトリーになったはずです。これは縦置きエンジンのメリットではあったでしょう。もちろん後輪もダブルウィッシュボーン式の、4輪独立懸架です。

外観デザインでは、先代の個性となっていたフルリトラクタブルヘッドライトがなくなり、切れ長の角目になりました。これにより、以前はあったかもしれない遊びクルマのイメージは消え、相手を選ぶようなステータス感が生まれていると思います。フロントセクションも、縦置きエンジンのわりにはコンパクトで低いボンネットを実現しました。この辺はホンダの意地かもしれませんね。当時まだ高価だったはずのワークステーション上で、エンジニアの人が日夜CADを操作しまくっている姿が想像できます。

他の装備としては、『SRSエアバッグシステム』や『3チャンネル・デジタル制御 4輪アンチロックブレーキ』などの安全機能も持っています。さらに、『AM/FM電子チューナー+ハイパワーフルロジックカセットデッキ(16cm×4スピーカー)』なんていう時代ものの快適装備もありました。グレード体系としては、最上位の『Type X』を筆頭に、『 Type W』から『 Type E』、そして最廉価グレードの『 Type N』まで設定されていました。

いろいろな点での合理性がどこにあるかは別として、1つのセダンとしてより良い印象になったのが、この3代目ビガーでもあると思います。

【基本情報】

名称:ホンダ ビガー Type X
型式:E-CB5
エンジン排気量:1,996cc
エンジン出力:160ps/6,700rpm
エンジントルク:19.0kgm/19.0rpm
全長:4,690mm
全幅:1,695mm
全高:1,355mm
重量:1,350kg
ホールベース:2,805mm
サスペンション:ダブルウィッシュボーン式(前)/ ダブルウィッシュボーン式(後)

4代目ビガー

1992年になると、ホンダ ビガー(およびアコード インスパイア)は、ホールベースはそのままに、全長・全幅・トレッド幅を拡大した普通車専用ボディーに成長します。同時にこのモデルチェンジでは、主力エンジンも2.5Lに大型化。出力は190psでトルクは24.2kgmとなりました(5気筒2.0Lも出力を5psアップして継続)。もちろん、エンジンは直列5気筒の縦置きフロントミッドシップレイアウトを継承です。ホンダの広報資料では、これにより前後の重量配分は「FFとして最適な60:40」を実現しているのだそう。

トランスミッションは、『7ポジション電子制御4速オートマチック』。これには、坂道やコーナーなど走行状況に応じて最適なギヤを自動で選ぶプログラム、『プロスマテック(PROS-MATEC』が投入されています。適切なギヤ比は燃費にも好影響が出たのか、10・15モードでの燃料消費率は、10.2km/Lと悪くもない数値を達成しています。

もちろんサスペンションも、4輪ダブルウィッシュボーン式を継承。それを、低バネレートとしつつ『ホンダ・プログレッシブ・バルブ・ダンパー』と組み合わせ、リアはストロークを長く設定しています。これにより、スポーティさと乗り心地のさらなる向上を達成したそうです。『SRSエアバッグ』に『4輪アンチロックブレーキ』、そして『トラクション・コントロール・システム(TCS)』も当然のこと備わっています。

オーディオは、この車体のために専用設計された『8スピーカー&DSP』の、『スーパーリアルサウンドシステム』です。これで、3ナンバーの上位車種にもとめられる、豊かな音楽空間を実現したということでしょう。

グレード構成は、最上級の『25XS』を筆頭に『25S』から『25X』そして『25W』に2.0Lエンジンの『20G』と続き、最廉価バージョンは『Type W』です。

外観のデザイン的には、ほぼ先代の正常進化でさしたる飛躍はありません。1992年と言えば、日本の好景気がピークアウトをし始める頃で、そんな時代の上質車には外観のギミックは不要だったのでしょうか。重量で比べてみたとき、初代のビガーの重い方でも高々935kgであり、この代では最大で1,440kg(サンルーフに全安全機能装着時)となっています。この辺りを見ても、クルマとしての格がかなり成長したと言えるのが、4代目のホンダ ビガーだったでしょう。

【基本情報】

名称:ホンダ ビガー 25XS
型式:E-CC2
エンジン排気量:2,451cc
エンジン出力:190ps/6,500rpm
エンジントルク:24.2kgm/3,800rpm
全長:4,830mm
全幅:1,775mm
全高:1,375mm
重量:1,440kg
ホールベース:2,805mm
サスペンション:ダブルウィッシュボーン式(前)/ ダブルウィッシュボーン式(後)

中古を探すと…

結局、21世紀に入る事なく1995年をもって絶版した、ホンダ ビガー。とは言え、こうやって振り返ってみると、なかなか面白いクルマではありました。アコードから継承した、初代の3ドアハッチバックや、フルリトラクタブルヘッドライトのデザイン、はたまた縦置きエンジンなどなど個性が一杯です。

そんな一台を、今現在、入手することはできるのでしょうか?

ためしに検索してみると、1995年登録の25Sというグレード(2.5Lエンジン)で、走行距離が8.3万kmに車検付きの車体が450,000円とあります。また、1993年登録で走行距離6.2万Kmであれば、おなじく車検付きで290,000円です。

実際、かなり古い車体でもこうして今残っているのを見ると、オリジナルオーナー様達の「ホンダ愛」が感じられるというものです。今とは一味違う「あの頃のホンダ車」を失ってはいけない、とお思いの方にとっては、上記の価格なら結構よい掘り出し物と言えるかも。ご検討いかがでしょうか?

まとめ

正直なことを申せば、スポーティカー販売チャンネルのベルノ店で、どうしてセダンを設定するんだろう? と思っていた時もありました。しかし振り返ってみると、4ドアセダンのホンダ ビガーには、やはりスペシャルティな香り付けがされていたと分かります。
ウェッジシェイプのスポーツカーではないけれど独特の風貌も持つビガーは、やはり、ホンダらしく表現された「大人なクルマ」だったのだと思います。