【マツダ クロノス】真っ当な評価を得らず短命に終わった悲運な名(迷)車!兄弟の紹介から中古車情報まで!

バブル期における多チャンネル経営の失敗例として、業界内外で今でも語り継がれる「クロノスの悲劇」。その車名は知らずとも、この言葉は聞いたことがあるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。1991年、マツダの主力セダン「カペラ」の後継車種として誕生した「クロノス」は、日本での人気では鳴かず飛ばずだったものの欧米では高い評価を得るなど、当時のマツダの混迷ぶりを象徴するミドルクラスセダンです。

マツダ クロノスとは

「クロノス」は、かつて「ファミリア」と共に、マツダの屋台骨を支えた主力セダン「カペラ」の後継車種として、バブル末期の1991年にデビューした、3ナンバーサイズのミドルクラスセダンです。
世界最小クラスの新開発K型V6エンジンを搭載、新たにGEプラットフォームを採用し、直線的なデザインが一般的だったそれまでの日本車のイメージを覆す滑らかな曲面を多用した斬新なスタイルは、見るものに鮮烈な印象を与えました。
車体が3ナンバーサイズにワイド化したものの、それらはサイドインパクト・ビームをドア内部に埋め込むなどの側面衝突安全基準への対応の現れでもあり、デザイン面だけでなく安全面にも考慮したものでした。
1989年にそれまでの3ナンバー税制が廃止され、各メーカーはこぞってワイドボディ化した3ナンバークラスの新型車種を出していきましたが、その流れを受けたこの「クロノス」は、当時マツダのブランドイメージ戦略の一環として展開された「多チャンネル経営」の基幹車種であり、その後のマツダ経営難の引き金ともなりました。

語り継がれるマツダの黒歴史「クロノスの悲劇」

「後悔」と「反省」は違う。失敗したら反省しよう。(イメージ)

「クロノス」というクルマを語る上で、やはり避けて通れない話題は、後に「クロノスの悲劇」と呼ばれ、マツダの黒歴史と評される、ブランドイメージ向上を計るために敢行した多チャンネル化とその著しい失敗についてでしょう。

マツダは元々海外での評価が高く、売上げも上々ではあったものの、国内の人気は今ひとつでした。そこで、バブル景気の真っ只中であった1980年代後期、ブランドイメージをアップしつつ、トヨタや日産の多チャンネル体制に対抗し、国内での販売網を強化するという「MI(マツダイノベーション)計画」がスタートします。
その体制の内実は、それまでの「マツダ店」(一般車種)、「マツダオート店」(スポーツモデル扱い。後に「アンフィニ店」に改称)、「オートラマ店」(フォードブランド車扱い)という3チャンネルの販売網に加え、欧州車イメージの「ユーノス店」、小型車を中心に扱う「オートザム店」を新設した5チャンネル体制を敷き、「マツダ店」以外での取り扱い車種についてはマツダのロゴすら廃して独立した自動車会社のようなブランドイメージを持たせるというものでした。
そして「クロノス」をベースに各チャンネルで専売される派生モデル(いわゆる「クロノス兄弟」)がいくつも誕生することになりました。同じGEプラットフォームを共有するセダン、ハッチバック、クーペなど、その数は10車種近くにも及び、幅広く豊富なバリエーションで多くの顧客を開拓する狙いもありました。

しかし、その思惑は見事に外れます。
そもそもマツダの人気セダンで知名度の高かった「カペラ」から「クロノス」という聞きなれない新しい名前に変えたことに加え、販売店ごとに数多くの車種を作った上に、派生モデルでは車名も似たようなアルファベットと数字を組み合わせたものだったため市場は混乱し、各車種が認知されにくいという状況を、マツダ自らが作り出してしまったのです。
結局、販売台数は伸び悩み、兄弟車すべてを合計しても月間1万台にも満たないという散々な結果に終わります。さらに追い打ちをかけるかの如くバブル崩壊の波をまともに受けて、マツダはこの後数年にわたって深刻な経営難にあえぐことになります。

そしてマツダは、「クロノス」発売僅か4年後には、5ナンバーサイズの「カペラ」を復活させ、「クロノス」(そしてその派生モデル)はモデルチェンジをすることも無く一代限りの短命に終わりました。

「クロノス兄弟」のわかりにくいラインナップ

出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Mazda_Capella#Mazda_Cronos

「クロノスの悲劇」を引き起こした「クロノス兄弟」のラインナップは実に多彩、そしてわかりにくいのが特徴です。
車名とボディータイプ、販売店を列挙すると以下のようになります。

・クロノス:4ドアセダン(マツダ店)
・MX-6:2ドアクーペ (マツダ店)
・アンフィニMS-6:5ドアハッチバック(アンフィニ店)※「Mazda 626」
・アンフィニMS-8:4ドアハードトップ(アンフィニ店)
・ユーノス500:4ドアセダン(ユーノス店)※5ナンバーサイズ
・オートザムクレフ:4ドアセダン(オートザム店)
・フォード テルスター:4ドアセダン(オートラマ店)※クロノスと同型車
・フォード テルスターTX5:5ドアハッチバック(オートラマ店)※MS−6と同型車
・フォード プローブ:2ドアクーペ(オートラマ店)※MX-6と兄弟車扱いだが大分異なる

こうして並べてみても、車名のややこしさとラインナップの複雑さは明確で、当時の市場の混乱ぶりがうかがい知ることができます。

実は筆者もこのシリーズの一つであった「MX-6」というクーペが大好きで、かれこれ20年近く乗っていたことがあり、「クロノス」というクルマ、そしてその兄弟車については人一倍強い思い入れがあります。
もっと評価されていいクルマだったはずの「クロノス兄弟」の各モデルを、いくつかご紹介しましょう。

「Mazda 626」として人気を博した「アンフィニMS-6」

出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Mazda_Capella#Mazda_Cronos

「クロノス」の5ドアハッチバックモデルである「アンフィニMS-6」はアンフィニ店の専売モデルで、Bピラーから後部にかけてのボディと一体化したリアスポイラーが特徴的です。フォード店扱いでフロントグリルの意匠が若干違う「テルスターTX5」も併売され、日産の「プリメーラ」と良く比較されたモデルです。
後述しますが、「アンフィニMS-6」はヨーロッパでは「Mazda 626」として販売され、乗りやすさと使い勝手の良さでそれなりに人気がありました。
日本国内での低迷ぶりを払拭するかのようにセールス的にも好調で、特に質実剛健、基本性能がしっかりしているクルマが支持されるクルマ大国ドイツでの評価はすこぶる高く、日本では受け入れられにくかったボリューム感のある車体デザインも好評を得ています。

孤高のスペシャルティー・クーペ「MX−6」

国内でもまずすれ違うことが稀だったMX−6。だが、それがいい。

個人的な意見で誠に申し訳ないのですが、「クロノス兄弟」の中で特に思い入れの強いのがこの「MX-6」です。
まず目を引くのがまるでネコ科の動物のようなしなやかな曲線美をもつスタイルでしょう。「ラテンの旋律」というキャッチコピーで、まるでイタリア車のような独特なデザインに一目惚れしたものです。
スタイルだけでなく実は車重が比較的軽いので加速性能にも優れ、200psを発生するKLZE型(2,500cc)エンジン搭載の上位モデルは、パワーウェイトレシオだけでいえば約5.9kg/PSと、某日産のR32スカイライン(GTS-t:約6kg/PS)などよりも数値上は上で、スルスルと廻るV6エンジンは実に官能的ですらあります。他の兄弟モデル同様FF駆動でロングホイールベースであるため、コーナーリングではアンダーステア気味でしたが、一部モデルにはそれを補い小回りを利かせるための車速感応式4WSも装備されました。サーキットを攻めるようなクルマではありませんが、夜の空いた高速道路をクルージングといった用途にはまさに最適なラグジュアリーなクルマでした。また2ドアクーペながらベースは4ドアセダンのプラットフォームを利用しているからか、他社の同クラスのクルマと比べて後席やトランクがとても広く、他の2ドアセダンでは事実上難しい4人乗車での長距離ドライブ旅行も可能です。
トヨタ「セリカ」「カレン」、ホンダ「プレリュード」や日産「シルビア」「スカイラインクーペ」、後期では三菱の新車種「FTO」あたりがライバルでしたが、国内での総販売台数は僅か約5,500台程度と低迷し、他の「クロノス兄弟」モデルと同様、モデルチェンジも無く絶版となりました。
兄弟車として扱われる同じ2ドアクーペの「フォード プローブ」ですが、実際には外見、装備含めて全く異なっており、他の「クロノス兄弟」にも同じようなデザインのモデルも存在しないため、ある意味、孤高の存在とも言えます。

あのジョルジェット・ジウジアーロも絶賛したデザイン、唯一の成功例「ユーノス500」

出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Mazda_Xedos_6

今見ても美しい、独特なスタイリング。

不人気車揃いの「クロノス兄弟」の中にあって、多少は成功したともいえるモデルが、「ユーノス500」です。欧州車をイメージしたモデル(「ユーノスロードスター」「ユーノス800」ほか)を扱うユーノス店の専売モデルでした。
なぜ他のモデルと比べて成功したのかと言えば、やはり「シリーズ唯一の5ナンバーサイズ」という手頃なサイズ感と、自動車デザインの巨匠として知られるジョルジェット・ジウジアーロ氏が「小型セダンで世界で最も美しい」と言わしめた秀逸なデザインにあるのではないかと思います。ヨーロッパ市場では「Xedos-6」と名付けられ、ミドルクラスのプレミアムサルーンとして販売されましたが、後の自動車デザイナーにも影響を与えたほどの素晴らしいデザインでした。
「良いものを長く使う」というヨーロッパの風潮にあわせるかのように「10年色あせぬ価値」として耐久性に優れた特許技術の「ハイフレコート塗装」を採用、漆のような深みのある色合いが特徴的でした。
他の「クロノス兄弟」モデル同様、搭載された新開発のV6エンジンは静粛性が非常に高く、スムーズで高級感があり、今でも乗り続ける根強いファンも数多くいる小さな高級サルーンです。

賛否両論 ここまで評価の分かれるクルマも珍しい

さて、では実際「クロノス」というクルマはどういうクルマなのでしょうか。
そもそもごくオーソドックスなセダンであった「カペラ」の後継車種ということで、基本的な仕様や性能について特筆すべき点は特にないでしょう。強いて言えば、搭載されている新開発のK型エンジンは、バブル期に設計されたためか贅沢にもオールアルミ製の軽量なパワーユニットで、このクラスでは珍しいV6仕様だったこと。アクセルを踏み込んだときの中域からのトルクフルなエンジンフィールはとてもシルキーで、実に気持ちよい加速感が味わえました。またヨーロッパ市場の中で鍛えられた少々硬めのサスペンションはしっかりと路面の情報をキャッチし、しなやかな乗り心地にも定評はありました。
しかし、「クロノス兄弟」の中でもそれなりに健闘した「ユーノス500」はともかく、これほど、国内外で評価が全く分かれるクルマというのも珍しいかと思います。

FF駆動のV6、KFZE型 2.0L V6 160PSがスタンダードなグレードでしたが、フルタイム4WDや直4ディーゼルエンジンなどの設定もあり、幅広いニーズに対応したマツダの本気を伺える仕様でした。

【マツダ クロノス】
販売期間:1991年 – 1997年

駆動方式:FF(一部4WD設定あり)

エンジン:
K8ZE型 1.8L V6 140PS
KFZE型 2.0L V6 160PS
KLZE型 2.5L V6 200PS
FSDE型 2.0L 直4 125PS(4WD車専用)
RF型 2.0L 直4 82PS(ディーゼルエンジン)

全長 4,695mm
全幅 1,770mm
全高 1,400mm
車両重量 1,300kg

国内での評価は低い

セダンとしての完成度は十分にクリアしていたにもかかわらず、販売面で苦戦を強いられた「クロノス」。
何故これほどのクルマが売れなかったのでしょうか。
まず考えられることは、それまで「カペラ」という慣れ親しんだ名前を捨てて新しい名前に変えたこと、しかも多チャンネル体制で外観も名前も似たようなクルマがいくつも存在し、ユーザーに混乱を招いたことにあるでしょう。
それから、もう一つの原因としては、その滑らかな曲面を多用した斬新すぎるスタイリングにあるのかも知れません。3ナンバーサイズのワイドボディは、これまで5ナンバーサイズのクルマに乗っていた一般ユーザー、そして既存のカペラユーザーからは、感覚として大きく、取り回しが悪く感じたでしょうし、当時、国内のライバル車は比較的直線的なデザインで、車内からの見切りがしやすく乗りやすいイメージ、というのもあったのでしょう。
また2,000ccクラスの小排気量V6エンジンの宿命として、静粛性とスムーズさと引き替えに低速トルクが細く、それまでの同クラスのクルマで多く採用されいていた4気筒エンジン車と比べ出足が良くないと感じた方も数多くいたかと思います。マツダとしてもそれを認識したようで、翌年にマイナーチェンジを行い4気筒エンジン搭載モデルを追加したほどです。
ほんの少し試乗したくらいではわからないこのクルマの奥深い良さを、購買層に広くアピールできなかったことは、セールス面にも大きく影響を及ぼしたことでしょう。
また、マツダの不振が顕著になったことをきっかけに、クルマそのものの資産としての価値も下がり、不人気に拍車が掛かるという悪循環に陥ったという点も見逃せない事実です。

ただ、実際にオーナーとして乗ってみたとき、クルマそのものの満足度は高く感じるユーザーも多かっただけに、「クロノスの悲劇」ですり込まれてしまった負のイメージが先行して、正当な評価を与えられなかったのはとても残念なことです。
もし、このクルマが「カペラ」という名前だったら、またこれほど多数の名前の違う兄弟車がなかったら、このクルマの評価も、そしてマツダの歴史もきっと違ったものだったかもしれません。

欧米では高い評価で安定的な人気を博す

逆に海外に眼を向けると、日本とは全く違う状況が見えてきます。
「クロノス」というクルマそのものというわけではないのですが、元々マツダは1980年代前半から、欧米で「カペラ(MAZDA 626 )」が好調で、特に「クロノス」と同型車とも言える5ドアハッチバックの「アンフィニMS-6」が「MAZDA 626」として販売されており、そのデザインと、運転しやすさで人気を博していました。
日本でも「カペラ」は教習車として広く使われていた実績があり(実は筆者も教習所で生まれてはじめて運転したクルマは「カペラ」でした)、運転のしやすさ、取り回しの良さでは定評がありました。その後継車種である「クロノス」もボディサイズと形状に慣れてしまえば(といってもそれほどのことでもないでしょうが)、実は癖がなく、とても運転のしやすいクルマでなのです。
速度無制限のアウトバーンや、ヨーロッパの古い町で良く見かける石畳の道、砂利道などで鍛えられた若干硬めの足回りはしなやかで、滑らかに廻るV6エンジン、ハンドリングの素直さ、クルマとしての使い勝手の良さと相まって、販売開始から四半世紀が経った今でも、欧米の街角で良く見かける名車なのです。

今乗るとしたら中古車! 気になる燃費は…

ここまでこの記事を読んでいただいた方の中には、もしかしたらこの「クロノス」というクルマに、不覚にもご興味を持ってしまったという方もいらっしゃるかもしれません。
さすがに四半世紀以上も前のクルマになるので、今このクルマ乗るには中古車を探すしかありません。しかも中古車情報サイトをみても、あまり見かけなくなっています。
しかし、上記の通り、バブル絶頂期に設計されたためかクルマ自体は良い造りですし、良くも悪くも不人気車だったため、同クラスのクルマと比べてもおそらく割安で手に入ると思います。
もちろんコンディションにもよるでしょうが、同じエンジンを積んだクルマに長年乗っていた筆者の経験で言えば、当時の2,000ccクラスのエンジンとしては燃費もそれほど悪いわけでもなく、街乗りで約8km/l、高速で14km/l程度は走ってくれます。(ただしハイオク仕様)
登場した頃は流麗すぎたスタイリングも、今では違和感も少なく、むしろあまり見かけないクルマという意味でレア度は高いですし、パッと見では外車のようにも見えますので、他の人があまり乗ってないクルマに乗りたいというニーズには十分応えられると思います。
また、乗りやすく素直な挙動なので、免許を取って初めて乗るクルマとしてもオススメです。

まとめ

出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Mazda6

アテンザ(現行モデル)

色々な意味で残念なクルマと言わざるを得ない「マツダ クロノス」。
一般にはマツダの多チャンネル化失敗の象徴として捉えられてしまう「クロノス」ですが、クルマそのものは決して悪いわけではなく、むしろ外部からこれほどまでに叩かれ、酷評されつつも、今でも根強いファンがいるという事実は特筆に値すべきでしょう。
このクルマの素性の良さ、そしてメーカーとしての反省は、今でも事実上の後継モデルである「アテンザ」として脈々と受け継がれ、本当にクルマが好きなユーザーから高い評価を受けている結果になっています。
例えなにか失敗したとしても、それをしっかりと受け止めて改善していけば、いつか活路が開けるということを、マツダは自ら証明したということでしょう。