【タタ ナノ】10万ルピー=世帯年収!思いの他高級品だったナノ

世界で最も安い4輪車として発表当時話題になったのがタタモータースのナノです。その割り切った装備品とその割には立派に出来上がった外観、そして何より10万ルピー(当時レートで21万円)という日本ではありえない新車価格で話題になった自動車ですが、発表以降はニュースサイトなどでも取り上げられることが少なく、もう忘れてしまった方もいるのではないでしょうか?そんなナノについて教は迫ってみたいと思います。

タタモータースについて

タタモータース

タタモータースはタタグループというインド有数の財閥グループの一部門である、日本でいうところの三菱財閥と三菱自動車との関係です。調べてみるとこのタタグループも中々面白い部分があるので、少し触れておきたいと思います。
このタタグループはペルシアからインドに渡ってきたパールシーというゾロアスター教徒を先祖に持つジャムシェトジー・タタがムンバイで設立した貿易会社から始まりました。その後ジャムシェトジー・タタからその子孫に事業が受け継がれていく中で事業はどんどん拡大していき、現在では綿紡績、鉄鋼、電力、金融、不動産、自動車、食品、レジャー、通信、IT、小売と多くの部門で計91もの会社を持つ企業グループとなっています。
インドでは生まれながらに仕事・身分が決定されているカースト制度が有名ですが、タタグループはそのカースト制度に関係なく能力のある労働者を抜擢することでも知られています。その企業理念もしっかりと確立されており、論理感が欠如している企業が多いインド国内では非常に珍しい、筋の通った経営を行っている企業と言えます。2012年までタタモータースの社長だったラタン・タタ氏もタタグループの会長を務めていた人物であり、彼の引退後現在はサイラス・パロンジ・ミストリー氏は同グループ初のタタ一族ではない会長であり、その就任は世界でもニュースとして取り上げられました。

タタグループ

1945年にインドのマハーラーシュトラ州ムンバイに本拠地として設立されたのがタタ・モータースです。現在は商用車部門が事業の主な柱となっており、インド国内での商用車部門のシェアは60%、バス・トラック部門の世界販売台数は世界第5位となっています。韓国やスペインにも自社の名を持つ子会社がある他、イギリスのジャガーランドローバーを参加に持ち、フィアットとも合併企業として活動を行っているインドでも有数の国際企業です。
順調に成長してきたタタ・モータースだが、2008年のナノ発表以後は現在まで新車が発表されず、雲行きが怪しくなってきている。2012年には経営不振に陥っているとされ、社長がラタン・タタ氏からGMインドで在籍経験を持つカール・スリム氏に移り、氏が経営再建の舵を取ることとなりました。
しかし、2014年にカール・スリム氏は滞在中だったタイ・バンコクのホテルの22階から転落死しており、警察は自殺とみているが、当時エアポットという空気で動く車を開発していたこと、カールスミス氏がタタモータースで長期的な改革をしようとしていたなど、きな臭い噂が多く語られています。
2016年3月には同社の工場で150人規模でのストライキも発生しており、タタモータースは現在混乱の中にあることは間違いないでしょう。

世界最安値を記録した驚異の市販車タタ ナノ

タタ ナノ

インドの自動車メーカータタモータースから2008年1月に10万ルピーカー(当時のレートで28万円)という価格で発表され、世界最安値の車として当時世界中で話題になったのが「ナノ」です。インドの自動車市場では日本の自動車メーカーであるスズキがマルチ・スズキ・インディアとして大きなシェアを誇っており、ナノがタタ・モータースから発表される以前はマルチ・スズキ・インディアの「マルチ800」が20万ルピーでインド市場の最安値の車として販売されていました。ちなみにこのマルチ800は1983年から1986年まで日本で販売されていたスズキ・フロンテもしくはスズキ・アルトのことです。マルチ800は初代と2代目が存在し、初代は5代目スズキ・フロンテ、および初代スズキ・アルト、2代目は6代目スズキ・フロンテ、および2代目スズキ・アルトがインドでマルチ800として販売されています。驚くべきことに2代目以降のマルチ800は現在に至るまで基本設計もそのままに20年以上インドで販売され続けています。
このナノですが、外観は日本の軽自動車に近く、デザインも1986年設計のマルチ800とは違い現代の車に思えるものとなっています。10万ルピーという価格は、当時タタ・モータースの社長だったラタン・タタ氏の10万ルピーで買える車という構想に端を発しています。インド人の平均年収が9万ルピーであり、最安値のマルチ800で20万ルピー、バイクは4万ルピー程で購入できたことから、インドでは多くの人がバイクを移動手段としていました。そうした状況もあり、雨の中体を濡らしながら走るインドの人々を見たラタン・タタ氏が、バイクとマルチ800の間を埋める車として10万ルピーで買える車を構想し、発売に至ったのがナノなのです。この10万ルピー車という構想はスズキの会長である鈴木修氏の耳にも入り、「10万ルピーの車は非現実的」という発言を残していた。いざナノが発表されると鈴木修氏も非常に驚いたようで、「外見は立派な車であり、相当に売れるであろう」とコメントを残しています。


実際ナノがどんな車なのかと言うと、装備を極限まで簡素化しつつ立派なデザインと4人乗りとして申し分ないパッケージングを確立した車というのが特徴です。アルミブ製の623ccの直列2気筒SOHCエンジンをRRレイアウトで装備しトランスミッションは4速MTのみ、重量約600kgで最高時速は105km、燃費は20km/Lと日本の軽自動車と比べてもそれほど遜色のない性能となっています。
特徴的なのは助手席側のドアミラーがない、前輪後輪ともドラムブレーキ、バックドアがない4ドアセダン(リアゲートが閉めっぱなし)、といった現在の日本車では見られない部分で装備の簡素化が図られています。
そもそも日本とインドでは平均年収が全く違うということで、日本では年400万円稼いでいる人が200万円の軽自動車を買う場合がありますが、インドでは9万ルピーから20万ルピー(25万円から56万円)が平均年収ということで、インドでも裕福な方なら年収の半分、つまり日本で200万円の軽自動車を買う感覚でナノを買う方がいることになります。
しかしながら、日本では中古車市場があり、お金に余裕のない方は中古で自動車を購入される方が多いので、実際の所は100万円前後か、それこそタタと同じ20万円ほどで車を購入することも可能と言えば可能です。収入と価格を比較した場合にインドの人にとってナノが必ずしも安い買い物ではないことがわかりますし、そのことを考慮すると、ナノが販売面で苦戦するのもうなずけます。

予想とは裏腹に販売面では苦戦となったナノ

当初は大ヒットとなると予想されたナノですが、実際の所販売面では苦戦を強いられることとなりました。
まず販売面では、ナノの車両価格と燃費がバイクと比べてしまうと決して魅力的ではないというのが原因の一つと考えられています。ナノの燃費はリッター当たり20km弱と4輪自動車としては悪くないものですが、2輪車と比べてしまうとどうしても見劣りしていまいます。また、車の構成パーツを4輪ドラムブレーキにするなど安価に抑えてはいるものの、修理・維持していくとなるとその面でもバイクに費用面で対抗することは難しい所です。
さらに追い打ちを掛けるように、3件の出火事故が報告され、タタ・モータースではステアリング周りの電装系に対策を施すこととなりました。累計でも5万台以上発売されているため3件という数字は決して多いものではないのですが、それでもこの出火事故はナノの信用を落とすことにつながってしまっています。
さらに、ナノはインドでの衝突安全試験でなんと失格してしまっています。衝突安全性が確保されていないのに販売できているインドの情勢がどのようになっているのかはわかりませんが、そういった情報が出回ってしまうこと自体がナノの名前に傷を付け、販売台数を減らすことになってしまっているのは間違いないでしょう。
発表直後に世界情勢がどんどん動いてしまったことも、ナノの販売に影響を与えています。原油や鉄など原材料費が世界的に高騰したことで、ナノは販売を目前に控えながら10万ルピーでの販売が難しくなってしまったのです。10万ルピーで販売するということがナノの存在意義といっても過言ではなく、設計もすでに終了していたため、この問題はタタ・モータースに重くのしかかることとなりました。10万ルピーという価格でなければ販売面で苦戦するのは目に見えているが、かといって10万ルピーで販売してしまっては一台売るごとに赤字を出してしまうこととなる、そんなジレンマを抱えることになってしまったのです。
結局タタは11万2735ルピー(約21万7000円)と若干10万ルピーを上回る価格で販売されることとなりました。
現在ナノは2代目へとフルモデルチェンジを果たしており、現在の販売価格は199,000ルピーからとマルチ800に迫る価格にまで上昇してしまい、10万ルピーからは程遠い車となってしまっています。

スペック

初代ナノは装備の簡素化が図られ10万ルピーを目指して作られたラタン・タタ氏の意欲作とも言えるのが初代タタです。装備の簡素化を施しても結局10万ルピーに価格を抑えられなかったのが残念ではありますが、そのたたずまいはそれでも価格以上の価値を感じる立派なものになっています。

初代
乗車定員:4人
ボディタイプ:4ドアセダン
エンジン:623cc 直列2気筒 SOHC
変速機:4速MT
駆動方式:RR
サスペンション
前:マクファーソン・ストラット
後:セミトレーリングアーム
全長:3,100mm
全幅:1,495mm
全高:1,600mm
ホイールベース:2,230mm
車両重量:580-600kg
出力・トルク:24kW(34PS) / 5,500rpm 48Nm(5.1kg/m)/ 2,500rpm
ブレーキ
前:ツー・リーディング式ドラム
後:リーディング・トレーリング式ドラム

2代目ナノではリアドア、電動パワーステアリング、助手席側のミラーが標準装備となり、装備も充実した分価格も199,000ルピーとなって販売が開始されました。構想時の10万ルピーカーとは完全に違うものとなり、2015年からインド国内にて販売されています。

2代目

乗車定員:4人
ボディタイプ:5ドアハッチバック
エンジン:623cc 直列2気筒 SOHC
変速機:4速MT / 5速AT
駆動方式:RR
サスペンション
前:マクファーソン・ストラット
後:セミトレーリングアーム
全長:3,164mm
全幅:1,750mm(ドアミラー部分を含む)
全高:1,652mm
ホイールベース:2,230mm
車両重量:695-765kg
出力・トルク:28kW(38PS) / 5,500rpm 51Nm(5.3kg/m) / 4,000rpm
ブレーキ
前:ツー・リーディング式ドラム
後:リーディング・トレーリング式ドラム

タタ ナノは日本で買えるのか

ナノ発表当初はその価格が日本でも話題になり、一度乗ってみたいと思われた方もいるのではないかと思います。ですが、残念ながらインド国内の衝突安全性基準を満たせていないナノが日本国内で走ることはできないというのが答えです、そもそも助手席のミラーついてないですし。見た目はかなり立派に、見えるのですが、そこはやはり日本車のほうが優秀というか、日本の衝突安全性基準を意識しながら切磋琢磨される日本の軽自動車はやはり素晴らしいものなのだと再認識させられます。

一般的なインドの人達にとって、ナノは高級品なのです

世界最安値と鳴り物入りで登場したナノですが、2代目へとフルモデルチェンジした今に至るまで好調な売れ行きだったとは言えない状況です。結局のところインドで平均的な所得を得ている人からすれば、ナノは高級品だったのでしょう。平均的と言われる所得が9万ルピーから20万ルピーなのですから、9万ルピーあたりの年収で生活している人からすればナノは自分の1年の稼ぎに相当する高級品です。しかも、この平均年収は実は世帯年収です、ということは、家族1人当たりの収入はもっと低くなる可能性が極めて高い。日本なら夫婦二人共働きなら計600万円から800万円くらいの年収という世帯はざらにあると思われます。そういった年収で働く日本人が800万円の車を購入するかと言えば、普通は買いません。自分の世帯年収1年分を車に掛けるなんて恐ろしくてとてもできないでしょう。
インドの中古車市場がどのようなものなのかはわかりませんが、もしあるのなら中古車市場ではかなり安い価格でバイクなど2輪車が取引されているのではないでしょうか、新車の2輪車で4万ルピー程ということなので、半額の2万ルピーからそれ以下で買える2輪車もあるのではと思われます。
10万ルピーという金額は、インドの人にとっては年収1年分にも相当するものであり、ナノは実の所高級品だったというのが本当の所ではないでしょうか。