【サーブ 93】北欧の航空機メーカーが本気で臨んだ自動車づくり

北欧の国スェーデンの自動車メーカー、サーブ。本業は航空機事業だってご存じですか? 日本でも日本エアコミューターや北海道エアシステム、国土交通省(航空局・海上保安庁)などがサーブ製340や2000シリーズを導入しています。第二次大戦中は軍用機を生産していましたが、戦後は需要が少なくなったことから自動車製造を始めました。そんなサーブが、自動車を作り始めたころのお話です。

サーブ93というクルマ

出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Saab_93

サーブ93は、その名のとおりスウェーデンの航空機メーカーであるサーブの自動車部門(現サーブ・オートモービル)が、1956年から1960年まで製造した乗用車です。サーブ初の乗用車となったサーブ92の改良型として、2サイクルエンジン・前輪駆動方式・シクステン・セゾンによる空力的な車体デザインを継承しながら各部に改良が加えられたクルマです。

車両構成について

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%96%E3%83%BB93

サーブ92では2気筒だった2サイクルエンジンは、DKW(アウディの前進となるアウトユニオンの中核を成したドイツの自動車メーカー)出身の技術者によって開発された新しい直列3気筒となり、92では横置きだった搭載方法も縦置きに改められ、デファレンシャルが車体中心線上に配置されました。排気量は92の764ccから748ccとやや小さくなりましたが、最高回転数が上がったために最高出力は33馬力に強化されています。特筆すべきは、航空機の設計技術から生まれた、軽量かつ高剛性、しかも空力特性に優れたボディです。おかげで非力なエンジンでも高いパフォーマンスを得ることができました。スロットル全閉時のエンジン焼きつきを防ぐフリーホイール機構(ワンウェイクラッチ)も92から引き続き採用されていますが、走行中でも無効・有効の切り替えができるように室内にノブが設けられました。ラジエーターの配置はグリルの奥ではなくバルクヘッド側で、冷却水の循環は対流式という古くさい設計でした。これは寒冷な気候の北欧では非常に都合が良かったのですが、輸出先の気温が高い地域では、低速時のオーバーヒートが深刻な問題になりました。縦型の大きなラジエーターグリルと拡大されたリアウインドウがサーブ93の特徴です。サキソマット自動クラッチやキャンバストップも選択できました。

対外輸出・日本への導入

93の代になって海外への輸出も本格化して、アメリカ合衆国には多数が輸出されました。残念ながら当時の日本は外国車輸入が厳しく制限された時期だったことから、サーブの輸入は途絶えていました。

モデルの変遷

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%96%E3%83%BB93

1957年型からは前席2点式シートベルトがオプションで装備可能になりました。同年9月に改良型の“93B”が登場し、二分割だったフロントウインドシールドが一枚ガラスに変更されました。1959年後半には再び改良を受けて“93F”になり、“GT750”と同じようにドアが前ヒンジに改善されました。同年にはワゴンモデルのサーブ95も追加されています。
1960年に後継モデルとなるサーブ96が登場しますが、しばらくは93も継続生産された後に生産を終了しました。累計生産台数は52,731台とのことです。

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%96%E3%83%BB95

サーブ95
ドアヒンジが前側にあるのがわかります

先代はサーブ92

photo by hertylion

サーブ初の市販乗用車、サーブ92です。登場は1949年で、93にバトンタッチする1956年まで生産されました。2サイクルエンジン・前輪駆動方式、そしてシクステン・セゾンによる航空機設計技術を駆使した極めて空力的な車体デザインが特徴です。サーブ92の基本設計は発展型の93・96へと受け継がれ、96が生産中止となる1980年まで続きました。
私は恵まれた環境にいましたので、この92の整備をしたことがあります。“サーブきちがい”と呼ぶほどサーブ好きなお客様のおかげで、ずいぶんと鍛えられました。部品の調達はお客様がしてくださいましたので苦労しませんでしたが、現代の日本の道を走るには問題が多すぎて本当に大変でした。新規登録検査に出かけた際に、検査場でスピードメーターテストをしていてオーバーヒートしてしまったのは良い想い出です。

後継はサーブ96

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%96%E3%83%BB96

96になってサスペンションが大幅に進化しました。トーションバーからダブルウィッシュボーンに変更されています。ラジエターもグリル直後へ移動して、冷却効率が格段に上がりました。特に、1963年に登場した“850モンテカルロ”はトリプルキャブレターを備えたハイパーモデルで、2ストローク3気筒841ccから57馬力を絞り出しました。上述のお客様はこのモンテカルロもお持ちでしたから、とても楽しい仕事をお任せ頂いていました。

モータースポーツでの活躍

出典:http://www.autoblog.com/2010/03/03/geneva-2010-1957-saab-93-rally-headed-for-mille-miglia-with-spy/

軽量かつ高い車体剛性と優れたロードホールディング性、さらには空力特性を生かして小排気量ながらモータースポーツでも大きな成功を収めました。名手エリック・カールソンの運転により、 1957年のラリー・フィンランド、1959年のスウェディッシュ・ラリーに優勝するなど、特に北欧圏のラリーで活躍して、サーブという新しいメーカーの名を高めたのです。また、1957年の ミッレミリア750ccクラスで優勝し、1959年のル・マン24時間レースではクラス2位・総合12位に入賞するなど、耐久レースでも好成績を残しています。

最後にまとめ

書きながら、楽しかったあの頃を思い出してしまいました。自動車がすごい勢いで進化した50年代から、80年ごろまでのクルマは、各社の主張や拘りがしっかり詰め込まれていて、整備する側としてもとても楽しませてもらえます。