【ポルシェ 968】FRレイアウトの最終形!オンザレールを体感できる最高のマシン

水平対向エンジンをリアに積んで“オシリを振りながら走り回る”ばかりがポルシェではありません。かつてこのハンドリング特性から脱却するためにFRレイアウトのポルシェが存在しました。1975年、ポルシェ924から始まるこの歩みは、1995年まで、実に20年を超えるながい挑戦になりました。その最後をしめくくるモデル、ポルシェ968をご紹介します。

ポルシェ968というクルマ

出典:http://www.porsche.com/japan/jp/accessoriesandservice/classic/models/968/

1991年にリリースされ1995年まで生産され、ポルシェの水冷FRスポーツカーの最後のモデルとなったのがポルシェ968です。この水冷4気筒エンジンをフロントに搭載しトランスアクスルを介して後輪を駆動する手法は、ポルシェ924から始まりました。RR配置の911や914ではハンドリングのクセがぬぐえないことはわかりきっていて、前後重量配分を50:50にできるこのレイアウトは古くからポルシェの理想だったと言えます。

スペック

ボディ形状:3ドアハッチバッククーペ
乗車定員:4名
型式:E-968
全長x全幅x全高:4,320×1,735×1,275mm
ホイールベース:2,400mm
トレッド前/後:1,472/1,450mm
車輛重量:1,370kg
エンジン形式:水冷直列4気筒DOHC
ボアxストローク:104×88mm
総排気量:2,990cc
最高出力:240PS/6,200rpm
最大トルク:31.0kgm/4,100rpm
トランスミッション:6速M/T
サスペンション(前):マクファーソン・ストラット+コイル/スタビライザー
サスペンション(後):セミトレーリング・アーム+トーション・バー/スタビライザー

本気だったフロントエンジン構想

1970年代当時のポルシェ社長だったエルンスト・フールマンが、新時代のポルシェを創造すべく水冷エンジンをFRレイアウトに搭載する新型車開発に着手しました。空冷エンジン時代のボトムレンジであるポルシェ914という車は、ミドシップレイアウトのおかげでハンドリングは良好でしたが、2人乗りであることに加えて手荷物すらまともに置くスペースがありませんでした。加えてフォルクスワーゲンタイプ1のコンポーネントを流用していたことによる設計の古さもあり、次世代の量産車開発が始まりました。さらに、RRレイアウトによるテールヘビーな重量配分に起因する直進性の悪さや、オーバーステア特性の強い操縦性の克服に長年悩まされていた911に代わる新たな主力車種の開発も始められました。

初めてのFRポルシェは924

出典:http://www.mobile.de/modellverzeichnis/porsche/924.html

914の後継車種構想は、当初はフォルクスワーゲンとの共同開発で“フォルクスワーゲン・アウディ・スポーツ”として開発が進められました。部品共有によるコストダウンとVWの生産ラインを使用することでの量産化が前提でしたが、同社の経営陣の交代によって開発は打切られてしまったのです。
最終的にポルシェが案件を買い取ることで、独自商品として開発を続けることになりました。フォルクスワーゲン及びアウディの市場にある部品を流用しながら、コストを抑えてつくられたのが944の弟分にあたる924です。

フラッグシップもFR化する予定だった

当時911よりも上級グレードだったジャガーEタイプ、アストンマーティン、フェラーリの12気筒モデルなどのプレミアム・スポーツや、高級パーソナルクーペのBMW・6シリーズやメルセデス・ベンツ・SLクラスなどをターゲットとして企画・開発が進められました。こうしてポルシェのフラッグシップモデルとして誕生したのが928です。

924と928の間を埋める944

出典:http://www.artandrevs.com/porsche-924-carrera-gt/en/pr-39-16

911の後継車として開発された928でしたが、911の後継車としてはサイズが大きすぎたため、911の後目を引き継ぐことはできませんでした。とは言えコストを抑えることを主軸に開発した924では力不足ということで、924以上928未満の市場開拓を狙って開発されたのが944です。

そして968へ

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%AB%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%BB968

北米の好景気に乗って大量に売れた944が中古車市場で値崩れを起こし始め、根本的なてこ入れ策としてモデルチェンジが必要になりました。ポルシェはかつて924のデザインを手がけたハーム・ラガーイに944のデザインをリニューアルさせることを依頼しました。こうして生まれ変わった新しいボディに、944S2のエンジンをベースにポルシェ特許の可変バルブタイミング機構であるヴァリオカム(Vario Cam)を吸気側に組み込み、ボア104mmxストローク88mmで総排気量2,990ccはそのままに自然吸気で240ps/6,200rpm・31.0kgm/4,100rpmを発生する新4気筒エンジンを搭載して、1991年のフランクフルトモーターショーで発表されたのがポルシェ968です。生産はそれまでのアウディ・ネッカーズルム工場に変わって、シュトゥットガルトのポルシェ・ツッフェンハウゼン工場で行われました。

デザイン

全体的なフォルムは先代のポルシェ944を踏襲しているように思えますが、ウェストラインの絞りこみやフロントフェンダーの盛り上がりなど、944に比べると面の抑揚が強くよりグラマラスなデザインに仕上がっています。さらに、924、944で採用してきたリトラクタブルヘッドライトを廃止、フロントエンジンモデルのフラッグシップだった928で採用したポップアップライトを採用しています。フロントフェンダー、ボンネットフード、フロントバンパー周りのデザインは944から一新され、その後にデビューする911(タイプ993)に先駆けるデザインになっています。

出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Porsche_928

ポルシェ928のポップアップヘッドライト

コンポーネント

出典:https://de.wikipedia.org/wiki/Porsche_968

開発当初は直列6気筒エンジンの搭載も検討されていたようです。しかし、当時のポルシェの財政状況では新規開発が難しく、以前ポルシェがボルボ向けに設計したエンジンやBMW製の2.5Lエンジンが候補に挙がりました。BMW製のエンジンを搭載した試作車まで完成していましたが、最終的に944S2を超えるパフォーマンスを得ることは難しいと判断されて計画は凍結されました。

944との互換性

944ターボや944S2とシルエットや内装が似ているところから、多くのパーツを共用できると誤解されることが多いのですが、ドアパネルの形状、ウィンドウガラス面の処理、内装パーツなど一見同じに見えるところでもほとんどが違う部品で、基本構成の83%が新造部品でできているそうです。パーツ番号が“944”もしくは“951”で始まるパーツは基本的に944シリーズと共通です。ホイールのディメンションは共通なので、ABSに対応した944シリーズ後期型のホイールであれば流用できます。

終焉

市場での反応は“944の焼き直し”と受け取られてしまい、価格設定が高価だったこともマイナスにはたらき販売成績は振るいませんでした。生産期間の4年間でクーペとカブリオレ合わせて計12,776台を生産し、ボクスターに組み立てラインを明け渡すかたちで1995年に968の生産は終了されました。

モデルバリエーション

では、968のモデルバリエーションを見てみましょう。

1991年 ポルシェ968

出典:http://bestcarmag.com/gallery/porsche-968/page/2

●ポルシェ968
ベースモデルです。当時としては珍しくABSを標準装備しています。
最高出力:240ps/6,200rpm
最大トルク:31kgm/4,100rpm
車輛重量:1,370kg
ゲトラグ製6速マニュアルトランスミッションもしくは4速ティプトロニック(セミオートマチックトランスミッション)が選べました。
オプションでLSDも選択可能でした。

1992年 ポルシェ968カブリオレ

出典:https://de.wikipedia.org/wiki/Porsche_968

●ポルシェ968
変更無し
●ポルシェ968カブリオレ
主要諸元は968と同じです。
車輛重量:1,440kg
カブリオレモデルの人気は高く、出荷台数の約半数がカブリオレモデルでした。

1993年 ポルシェ968クラブスポーツ

出典:http://www.autoevolution.com/cars/porsche-968-club-sport-1992.html#agal_2

●ポルシェ968クラブスポーツ
サーキット走行を視野に入れたスポーツモデルです。リアシートをはじめパワーウインドウ、エアコン、エアバッグなどの快適装備を撤去しての軽量化と、サスペンションの強化が行われています。エンジンスペックはスタンダードの968と変わりませんが、重量は50kgの軽量化をはたし1,320kgまでダイエットしました。新車販売価格はベースモデルやカブリオレより安価でしたが、中古車市場ではベースモデルより人気が高く、総じて高い価格を維持しています。ベースモデルではオプションだったLSDを標準装備しています。軽量な3スポークステアリングハンドル、フルバケットシート、LSD、車高調整式サスペンションを組み込んで純粋にスポーツ性能を高めたモデルに仕上がっています。これはヨーロッパでは好評で968全体の販売に寄与することになりました。市場性の違いから日本仕様ではパワーウィンドやエアコンが残され、コニ製車高調整式スポーツサスペンションと大容量ブレーキシステムがオプションで用意されました。外見上の特徴はボディ同色の17インチカップホイール(グランプリホワイト・スピードイエロー・ガーズレッド・リビエラブルーの場合。ボディカラーがブラックの場合はホイールカラーはシルバーでした)とリアスポイラーです。サーキットトラック走行用のモデルとして、クラブスポーツは現在でも最高のバランスだと評価されています。

日本販売価格:645万円

1993年 ポルシェ968ターボS

出典:http://www.automobile-sportive.com/guide/porsche/968turbos.php

●ポルシェ968ターボS
968CSをベースにした限定モデルです。ADAC GTカップターボRS用に開発された車両の公道バージョンでした。944ターボと同様にSOHCのシリンダヘッドが装着され、KKK製ターボチャージャーとインタークーラーを搭載して305ps/5,600rpm・51.0kgm/3,000rpmを発揮します。最高速度は280km/hです。外観上の特徴としては、フロントボンネットのNACAダクト、フロントスポイラー、角度調整式リアウイング、スピードライン製18インチ3ピースホイールです。ポルシェ本社工場の968生産ラインではなくバイザッハ工場で生産されていました。

日本販売価格:1,740万円

1993年 ポルシェ968ターボRS

出典:http://www.deutschnine.com/porsche-transaxle/porsche-968-turbo-rs.php

●ポルシェ968ターボRS
968ターボRSには2種類あります。ひとつはル・マンに代表される耐久レース仕様で、最高出力350psを誇るモンスターマシンです。ダッシュボードを含むすべての内装は取り払われ、6点式のレーシングハーネスを持つドライバーズシートと溶接されたロールケージ、GTカー規定どおりのレーススプリンクラーも装備されています。レーシングクラッチと硬質ブレーキパッド、レーシングサスペンション、フロント10J×18、リア11J×18の3ピースホイールを装着しています。
もうひとつは、ドイツのADAC GTカップの規定に基づいてつくられています。最高出力337psを誇ります。

日本販売価格:2,230万円

ポルシェ968に乗りたい!

メカニック時代のわたしは恵まれた環境にありましたので、968クラブスポーツのオーナーさんのご厚意でサーキット走行をしたことがあります。ノーマルの968で市街地を走行したこともありますが、クラブスポーツは別物でした。日本仕様では装備されていたパワーウィンドとエアコンも外されていて、オプションだった車高調整式のサスペンションと大径ブレーキも装着された車両でした。前後の重量配分が素晴らしいおかげで、どこまでもニュートラルなハンドリングと、アクセルに忠実についてくるトルクフルなエンジン特性のおかげで全く不安無く走れます。重量配分の均整化と軽量化がどれだけ大切かということを思い知らされた出来事でした。

中古車はあるの?

と思って探してみましたが、クーペはみあたりませんでした。香川県のGT romanさんという車屋さんに黒のカブリオレがありますね。1994年式、走行距離は7万キロで1,999,000円です。クラブスポーツがあれば触手が動くのですが、やはり難しい捜し物なんですね。

最後にまとめ

ポルシェと言えば空冷水平対向6気筒エンジンをリアに積む911が代表格ですが、そのレイアウト故のハンドリング特性に疑問をもったことからフロントエンジンレイアウト構想が始まりました。一時期は911をしのぐ性能を発揮しレースシーンでも結果を残していたのですが、残念ながら生き残ったのはリアエンジンの911シリーズでした。今では911も水冷エンジンを搭載していますし、リアの足回りを一新することでミドシップに近い重量配分を実現していますね。そろそろFRミドシップをもう一度、と言いたいところですが、みなさんはいかがお考えですか。