【動弁系チューニング】カムシャフトと吸排気バルブのチューニングで高回転に対応!

エンジン性能はひとつの部分だけで語れるものではありません。これまで「吸気系」「燃焼系」などのチューニングを紹介してきましたが、これらはエンジン本体にはあまり手を加えないものでした。「動弁系」は少なくともシリンダーヘッドを開けなければならないので、ヘビーな部分に入ります。こと「パワー=高回転化」に関する限り、ここのチューニングが大きなカギとなります。(飯嶋洋治)

動弁系のチューニングとは?

エンジンのシリンダーヘッドの内部に手を入れて吸排気効率を上げる!

動弁系のチューニングは、以前に解説した「吸排気系のチューニング」や「燃焼系のチューニング」がエンジン外部からのチューニングが主だったのに比べると、エンジン本体のチューニングとなります。必然的に大掛かりなチューニングになるので、中途半端な知識と技術ではじめることはお勧めできません。チューニングの度合いによっては、エンジンの寿命を短くすることにもなります。チューニング費用も多額になる覚悟が必要ですが、実際に自分でやらないとしても知識として覚えておくのは悪いことではありませんし、楽しいものだと思います。

エンジン性能を向上させる3つの方法。

エンジン性能を向上させるための基本は(1)吸入空気量を増やすこと(2)燃焼を良くすること(3)フリクションを減らすことです。(1)の吸入吸気量を増やす方法としては、以前、「吸排気系のチューニング」で解説したエアクリーナーやインテークマニホールドなどによるもののように、吸気抵抗を減らすことがあります。その他には、燃焼室に取り入れる混合気をできるだけ短時間に多く吸入させる方法があります。具体的には吸気バルブを大きくしたり、バルブの開いている時間を長くするなどの方法があります。これが動弁系のチューニングの部分です。(1)の「給排気系のチューニング」、(2)の燃焼を良くする「燃焼系のチューニング」については以下を参考にしてください。

(3)のフリクションロスの低減は、シリンダーとピストン、クランクシャフトとベアリング、カムシャフトとバルブリフターなど金属同士の接触による摩擦損失です。これを小さくすることはエンジンのパワーアップにとって非常に重要なことになります。ピストンやクランクシャフトは「主運動系」と呼ばれますが、こちらは「主運動系のチューニング」として改めて解説したいと思います。

カムシャフトのチューニング

カムシャフトの作用角を大きく広くすることによりバルブを大きく開く!

動弁系のチューニングでカムシャフトのチューニングは代表的なものです。特にNA(自然吸気)エンジンの場合にはポピュラーで、適切にチューニングすればパワーアップの効果は大きいものです。まずカムシャフトというパーツについて説明しておきます。エンジンの吸排気効率は、吸排気ポートに装着された吸排気バルブの開閉による影響が大きくなっています。この吸排気バルブを駆動しているのがカムシャフトです。カムシャフトは、クランクシャフトの回転を利用して回転していて、クランクシャフトが2回転する間にカムシャフトは1回転するようになっており、駆動に関してはタイミングベルトによるものやタイミングチェーンを使用するもの、レーシングエンジンではタイミングギヤによるものがあります。

カムシャフトが回転することでバルブを駆動するわけですが、これにも大きくわけて2つのタイプがあります。直接駆動しているタイプ(直動式)と、ロッカーアームやスイングアームを介して駆動しているものです。シンプルでパーツ点数が少なくなる直動式の方が良いともいえますが、ロッカーアーム式の物もテコの作用が働き、バルブのリフト量が稼げるなどの利点があるので、どちらが優れているかは一概に言えない部分です。

ハイカムを使用すると高回転で調子の良いエンジンになる!

カムシャフトのチューニングが、吸排気効率に大きな影響があるのは、吸気バルブを長く大きく開くようにして、より多くの空気を燃焼室に導くようにできるからです。また、排気バルブも効率的に作動させることができるので、吸排気効率を上げることができます。吸排気バルブの開閉の大きさや時間は、カムシャフトの作用角によってきまります。パワーアップを考えた場合には、まず吸気量をふやすためにカムシャフトを高性能が狙えるものに交換します。具体的にはカムの作用角が広く、カム山が高いものにします。こういうカムシャフトのことを「ハイカム」と呼びます。吸気用カムだけではなく、排気用カムも基本的には同じで、排気バルブが大きく長く開いていれば効率よく燃焼ガスが排気されることになります。

これは「バルブタイミング」にも関係してくるのですが、高回転域を多用する場合には、吸気と排気のオーバーラップ(同時に開いている時間)を大きく取ることにより、効率的な吸排気が可能になるのです。こうした場合、デメリットもあります。低中速回転でエンジンが不安定になり、高回転が当たり前というエンジンになってしまうということです。カムシャフトのチューニングはこの兼ね合いがポイントにもなります。バルブタイミングは、改めて詳しく解説してみたいと考えています。

エンジンは高回転域での性能を狙うと低回転では使いづらくなり、低中速回転を重視すれば、日常では使いやすいトルクフルなエンジンになりますが、高回転までは回らないエンジンとなり、トレードオフの関係がある程度なりたつことは覚えておいてください。ちなみに、ホンダのV-TECや三菱のMIVECと呼ばれる可変バルブタイミング・リフト機構を持ったエンジンはこの辺を上手に対策したエンジンと言えます。これらは、一つのエンジンで低中速回転用カムと高回転用カムを持ち、油圧でカムの切り替えを行い、バルブタイミングやバルブリフト量をコントロールして、オールマイティに回転数に対応できるもので、大変優れた機能です。

カムシャフトは交換に付随するチューニング

カムシャフトに合わせたセッティングにすることにお金がかかる。

カムシャフトのチューニングの話に戻ります。ここをチューニングしたい場合、自分でカム山を成形するか、チューニングパーツとして販売されているカムシャフトを購入してくることになります。ただし、自分でカムを作るというのは、かなりの熟練が必要になり、あまり現実的ではありません。チューニングのベースになりやすいエンジンの場合には、メーカー系のショップなどでモータースポーツ用のカムシャフトが設定されていることもあり、同系統のエンジンでハイカムの設定がある場合には、それを流用するという手段もあります。これもただカムシャフトを交換するというだけでなく、それに対応してバルブタイミング、点火時期、バルブ、バルブスプリングなどトータルで見直す必要が出てきます。

カムシャフトの価格自体は驚くほど高いものではありません。1本1万円~というところだと思います。ただ、特注品であるとかレア車のものだと数十万円というように幅があります。装着するのには「はい買ってきました、はい交換しました」で済むものではないところがポイントです。少なくともシリンダーヘッドカバーは開ける必要はありますし、外して、装着するのでも熟練が必要です。交換と付随してバルブタイミングの取り直し、点火時期の設定、燃調…などとやっていると数十万円コースになってしまう可能性もあります。

バルブ&バルブスプリングのチューニング

吸排気バルブのチューニング

バルブには、先に書いてきたように吸気バルブと排気バルブがあります。カムシャフトによって駆動され、エンジンの燃焼室までに設けられた吸排気ポートの可動式のフタの役割をしています。バルブは本体の他に、バルブリフター、バルブスプリング、バルブスプリングリテーナー、コッターなどによって構成されています。チューニングを考えた場合は総合的なチューニングを考えなければいけませんが、ポイントを絞るとバルブ本体のチューニングとバルブスプリングのチューニングということになるでしょう。

バルブ本体に求められる性能は、十分な吸排気ができる傘径、しっかりと圧縮を保つために燃焼室のバルブシート(バルブが密着する縁の部分)とバルブの密着性などになります。効率よく吸排気させることを考えれば、バルブの傘径を大きくする方法がある。いわゆる「ビッグバルブ」とすることで、吸気効率、燃焼室への充填効率を上げられるのでエンジンの性能向上につながります。ビックバルブ化するには、そのエンジン用のビッグバルブとして市販されているものを購入して使うか、同系統のエンジンで排気量の大きなもので流用できるものがあれば、それを使うという手段が考えられます。もちろん、シリンダーヘッドのバルブシート側の加工も必要になり大掛かりな作業となるのは避けられません。

ちなみに排気バルブは吸気バルブより傘径が小さく設計されているのが普通です。傘の面積にすると、吸気バルブの7割から8割の大きさになります。吸気側はシリンダー内のピストンが下がるときのシリンダーの負圧によって吸気するのに大して、排気側は圧力の高い燃焼ガスが、排気ポートから噴出することもあり、排出しやすくこのくらいの割合でバランスが取れるからです。

サイズの大きなバルブにするとバルブシートのチューニングも必要に

吸排気バルブを交換すると、それに付随してシリンダーヘッド側のバルブシートの加工が必要になります。ここは、バルブが閉じたときに燃焼ガスがもれないように、気密性が重要になる部分です。気密性を保つためにバルブシートカット、すり合わせ、バルブの当たり幅の問題が出てきます。バルブシートカットは、バルブに合わせて土台のカタチを作りなおす作業です。シリンダーヘッドが鋳鉄の場合には、バルブシートはそこに作られていて、隣接するバルブシートとの距離の関係などを見ながら、大きなバルブに合わせてカットすることになります。これに専用のカッターが必要になります。

すり合わせは、バルブとバルブシートの密着性を向上するための作業です。これはエアラッパーという工具や、タコ棒という工具とコンパウンドを使用して、バルブとバルブシートを擦りあわせて当たりを出す作業です。バルブの当たり幅は、バルブとバルブシートが密着する幅のことです。これが広いと冷却効果が大きいのですが、狭いほど密着性が高くなる傾向があります。これらも専門ショップに任せる作業になるでしょう。

現在のエンジンはDOHC4バルブとなって、もともとのバルブもそれなりに大きくなっていることから、ビッグバルブ化は慎重に行なう必要があります。いくら吸気量を増やしても、エンジン本体が壊れてしまっては本末転倒だからです。またビッグバルブにするということは、バルブの重量が増すということです。高回転を目指すエンジンが重いものを駆動すると、これもフリクションの増大につながるので見極めが大事なところです。

吸排気バルブの価格は、1本数千円というところです。ただしこれも、シリンダーヘッドを外して交換したり、バルブシートカットを行なったり、すり合わせをしたりという作業が必要になりますから、やはり工賃が高くなります。バルブを交換するだけで数万円から10万円。その他の作業が加わると数十万円から事実上上限はなくなってしまうと思います。

バルブスプリングの強化

エンジン回転が高まるとバルブスプリングの強化が必要

バルブを大型化すると、それに合わせてバルブスプリングの強化も必要になります。また、ビッグバルブではなくても、高回転になったときに、バルブスプリング柔らかすぎると、このスピードに耐え切れず、バルブのジャンプ(バルブスプリングがバルブの動きに追いつかなくなること)やサージング(バルブスプリングの共振運動でバルブがカムシャフトをうまく駆動できなくなること)といったエンジン本体にダメージを与えかねない現象が起きる場合があります。そこで、高回転化した場合には、バルブスプリングを強化する必要が出てきます。これはカムシャフトと同じようにスポーツキットとして用意されている場合もあります。

バルブスプリングの強化も、フリクションの増大につながる部分です。ビッグバルブにして吸排気効率を高めるのがいいのか、それともフリクションの軽減を重視してエンジンが軽く回るようにしたほうがいいのか? この辺に関しての判断は、やはりノウハウな豊富なチューナー、チューニングショップにお願いすることになります。

バルブスプリングの価格は車種や精度によりますが1万円から5万円以上という感じです。もちろんセットで考えると4気筒と12気筒では価格も大きく違ってきます。交換費用自体は数万円というところですが、これだけ強化するのは無駄が多いので、他の作業と合わせてやることが効率的です。また、カムシャフトのチューニング次第では交換しないという判断もあります。

まとめ

いわゆる「エンジンチューニング」というとエンジンのシリンダーヘッドを外して……というのが、一番面白い部分と言えると思います。ただ、やはり熟練が必要な作業になりますので、気軽にはいきません。ひとつ自分でやる方法としては、エンジン本体だけを安く購入してきて、自分で分解したり、いじったりしながら覚えていくといいと思います。普段の足に使っているクルマのシリンダーヘッドを開けてしまうと、明日からの通勤にも困る可能性がありますので……。