日産パラメディック たまには救急車について知りたいと思いませんか?

単にハードウエアとして見るだけでなく、その時代と背景に基づいて救急車の役割と機能の変遷を見るのも面白いものです。業務用車両と言うのは、その必要性に応じて進化していくもの。何気なく街中で見ている救急車も、これからは違った視点で見られるかもしれません。ちなみにパラメディックとは英語で「救急救命士」等の(医師を除く)医療従事者を意味します。

まずは救急車の歴史から

救急業務の始まりとしては18世紀のナポレオン戦争の時代、救急馬車を戦場に走らせて傷ついた戦士の運搬に使ったとのこと。民生用としては1869年に米国オハイオ州シンシナティ市が救急馬車を使って患者の運搬にあたったのが始まりです。救急車としては、1899年に米国イリノイ州シカゴのミハエル病院で使われたのが最初と言われています。

日本では昭和8年(1933)になってやっと横浜で、キャデラックの改造救急車を配置したのが始まりです。当初は救急車自体が全く珍しい時代であり、その存在自体を知らせるのにも苦労したようでもあります。そのために告知のアイデアとして救急車を呼び出す電話番号や救急車のナンバーを「99」が使われた、なんてこともありました。現在の119番もここに起因しているのでしょう。その後、太平洋戦争を経た昭和23年(1948)の消防組織法、昭和38年(1963)の改正などによって初めて救急業務の法制化が実現していきます。その後、自動車の普及と共に救急需要も急速に増加し、その活動内容も複雑化、多様化するようになって、年々困難性を増していきます。

この頃、欧米では必要性の高まりからドクターカー(医師が同乗している救急車制度)やパラメディック制度(救急隊が救急現場で医療行為の一部を行う)が導入されるようになっていきます。それに影響を受けた日本でも平成3年(1991)に救急救命士法が制定され、それまで禁止されていた医療行為の一部を実施できるようになりました。これにより、この法律にもとづいて所定の教育訓練を受けた救急隊員が、現場で処置できるようになったのです。この法律の制定によって、救急車が搭載する装備にも大きな変化をもたらしました。また目的自体もそれまでの「患者や疾病者を医療機関に運搬する」から「搬送中にも適切な処置を行い」救命活動の一助を果たすことが可能になったのです。

高規格救急車の誕生

救急救命士の誕生に伴い、より高度な処置が行えるように、高規格救急車という新しいカテゴリーが生まれ、必要な資材や機材を積載するようになります。疾病者を収容するために収納スパースを拡大し、また救急救命士が立ったまま処置できるように室内高にも配慮されます。また救急患者に走行時の振動を与えないように、緩衝装置が付いた防振架台も備わっているだけでなく、車内には医療用装備として次のものが搭載されています。(自治体救急車の場合)

観察用機材:聴診器、血圧計、患者監視装置など、疾病者の生体反応を測定するための装備
人工呼吸器:自動式人工呼吸器、バックバルブマスクなど
自動式対外除細動器:AED(ただし救急車に搭載のものは、隊員自らが心電図モニターにより除細動の適応を判断し解析を行い、除細動適応であれば通電する点が一般向けのものとは違う)
気道管理セット:吸引器、咽喉鏡など
搬送機材各種:ストレッチャー、布担架、毛布など
観戦予防用具:グローブ、マスク、ゴーグルなど
脊柱固定用具:交通事故などで脊椎損傷の可能性がある患者に対し全身固定を行う
外傷キット:ガーゼ、タオルなど
分娩キット:
救出用具:ハンマー、バール、シートベルトカッター
医療用酸素:10ℓボンベx2~3本

あの狭い空間に、ストレッチャーに加えてこれだけの装備を詰め込んでいるのですから、いかに広いスペースが必要かわかりますね。

日本で使われている高規格救急車とは

日産パラメディック

初代
日産アトラス20をベースとして開発された初代は1992年に発売されました。ストレッチャーに収容した患者を社内に搬入する際に、退院の身体への負担軽減のために電動で格納するシステムが最初から装備されています。現在は多くが廃車となり、予備車や消防学校の教材になっていたり、時にはテレビドラマや映画の中で使われることもあります。

2代目
1994年には日産キャラバンをベース車としたパラメディック-IIが登場。4ナンバーサイズの車幅と短い車長でありながら、最大限のスペースを活用して作られました。

3代目
三代目は初代パラメディックとパラメディック-IIを統合する形で1998年に発売されました。初代エルグランドの前部とE24型キャラバンの後部を組み合わせたモデルで、全幅もエルグランド比で125mm、キャラバン比で210mm広げた特殊な車体になっています。なお、この車体はパラメディック以外にも「エルグランド・ジャンボタクシー」やキャンピングカーのベース車として提供された「エルグランド特装車」としても流用されたようです。
搭載エンジンはV型6気筒OHC3.3LのVG33E型あるいはDOHC3.5LのVG35DE型で、駆動方式は2WDと4WDの両方が提供されています。インテリアはその必要性に応じて角型であるのが特徴になっています。1994年の登場以来、現在も生産が継続されています。  
1998年以降、何度かマイナーチェンジを繰り返していますが、18年間もモデルチェンジされていません。そのために同種車となるトヨタ・ハイメディックとは装備面、機能面の両方で差別化された結果、マーケットシェアでは大きく後れを取っており、現在はモデルチェンジが望まれているところです。

主なスペック
乗車定員:7名
エンジン:VG33E型 3.3L V6 OHC 170PS
VQ35DE型 V6 3.5L DOHC 240PS
変速機:4速AT
駆動方式:FR/4WD
全長:5,640mm
全幅:1,900mm
全高:2,480mm
車体重量:2,600kg (2WD)
2,680kg (4WD)

トヨタ・ハイメディック

1991年の救急救命士法の施行後、1992年に国産の高規格救急車としては最初に誕生しました。
現在は高規格救急車市場ではトップシェアとなっています。

初代
初代はハイエースワゴンをベースにし、車幅を115mm拡幅。エンジンには本来ハイエースには設定のない初代セルシオ用V型8気筒4.0Lの1UZ-FEが搭載されています。

2代目(1997年-2006年) VCH32S・38S
2代目はグランビアをベースに、コストダウンと初代の反省に基づいた使いやすさの向上がはかられました。衝突安全性を高めるため、グランビアとセミキャブオーバー化された欧州仕様のロングホイールベースを持つハイエースと、デザインと走行機構の大部分を共有しています。 内装もグランビアから流用され乗り心地も改善されました。

3代目 (2006年-) TRH221S・226S
2006年、再びハイエースをベースとして初代と同様のキャブオーバースタイルに戻りました。サイズは2代目と比べて全幅で80mm拡大し、全長は10mm短くなりました。
救急車としては初めて2列目のスライドドアが採用され、また2代目よりも広い患者室が確保されました。室内幅ではパラメディックに劣るものの、室内長ではセミキャブオーバーのパラメディックを上回っており、遠因8人乗りを実現しています。(パラメディックは7人乗り)
また救急車としては初めて、平成17年度基準排出ガス50%低減レベル車として認定されました。

主なスペック
乗車定員:8名
エンジン:2TR-FE型 直列4気筒 DOHC 2693cc 151PS
変速機:4速AT
駆動方式:FR/4WD
全長:5600mm(リアステップ含む)
全幅:1880mm
全高:2490mm
車体重量:

このほかにトラックをベースとした高規格救急車もありますが、ここでは省略します。

進化する救急車

1991年京都で開催された日本医学会総会の場で「未来の救急車」のコンセプト提案が行われました。この頃はまだインターネットの泰明期で、ほとんどの人はその名前も聞いたことのなかった時代。それでも医療分野ではMacが紹介され始め、PCがやっと使われ始めた頃でもありました。通信インフラとしては従来の9,600bpsのアナログ電話回線に加え、新たにISDNが紹介され始めていたころといえばわかりやすいでしょうか。今から25年も前のこの時、将来の救急車のあるべき姿として、現在の救急車が実現している機能と役割の多くのコンセプトが既に提案されていました。やはり世の中の進歩というのは、こうした先見性のある具体的な提案が大きな方向づけとモーチベーションになるものです。

それにしても通信インフラの進歩がもたらす影響というのは医療の分野でも計り知れないものがあります。 通信インフラと医療技術の進化に伴い、今では単に救急病院へ搬送するだけでなく、患者の状況によって専門性を要求される場合は直ちに対応がとられ、適切な医療施設に搬送されるようになってきています。 通信ネットワークを利用することによって、より適切な医療施設が直ちに判別できるようにもなり、医療機関に到着前に状況も刻々と伝えられるようにもなるのですから、今まで助からなかった命まで救えるようになりつつあります。今後も救急車の果たす役割に大いに期待したいものですね。

救急車が有料化する?

最近、救急車の使用に対して有料化すべきという議論が高まりつつあります。緊急性のない軽傷なのにタクシーの代わりに呼んでみたり、救急車で運ばれれば優先的に診てもらえるから、という理由が背景にあるようで、実際の出動回数のほぼ半数がそんな軽症者に相当するということです。こんな使い方をする人たちは論外ですが、それによって急を要する重傷者が運べないのであれば本末転倒とも言うものです。例えば有料化にしても、その患者を診察した医療施設の判断によって、重傷相当者には後で払い戻すとか、やり方も色々とありそうです。いずれにしてもこうしたフル装備で日夜活躍している救急車と隊員の方たちの努力を無駄にはしたくないものですね。