【ユーノス 500】世界で最も美しいと評された、魅惑のサルーン

かつてのマツダ販売チャンネルのひとつ、ユーノスから販売されていた4ドアセダンがユーノス 500です。ひょっとしたらマツダが今よりももっと個性的で、挑戦的であった時代の象徴とも言えるかもしれないこの一台。一体どのようなクルマだったのでしょうか?ユーノスの歴史とともに振り返っていきましょう。

ユーノスとは

まずはユーノスという存在が、どのようなものであったのかを見ていきましょう。
1980年代、マツダの販売店はマツダ店、マツダオート(のちのマツダアンフィニ)店、オートラマ店の3チャンネルに分かれていました。
一方当時、トヨタと日産はそれぞれ5チャンネルの販売店体型を確立し、販売台数上位を不動のものにしていました。バブル景気の勢いもあり、マツダもそれに乗り遅れるまいと5チャンネル体制を確立しようと試みます。こうしてできた新たな販売チャンネルが、オートザムと今回取り上げるユーノスです。

出典:http://az-1.chicappa.jp/tokubetu/560/560_3.html

ユーノスとはラテン語のEU(喜び)NOS(集まり)からの造語で、「喜びの集合体」という意味を指します。ちなみにエンブレムは十二単の襟の部分を象徴化し、日本発の世界に誇れるブランドを、というマツダの願いが込められています。

ちなみにマツダ店、マツダオート店以外の3チャンネルは輸入車も扱っていました。オートラマ店はフォード車、オートザム店はランチア車やアウトビアンキ車、ユーノス店はシトロエン車を取り扱っていました。また、ユーノス店では認定中古車制度も導入され「オカジオン(Occasion)」と呼ばれていました。オカジオンとは、フランス語で「中古」の意味を指します。

このブランドの立ち上げにはマツダの並々ならぬ思いがあり、全国統括会社として「株式会社ユーノス」を設立します。マツダのクルマではなく、あくまでもユーノスのクルマとして市場に売り込みました。今回取り上げる500も、その一台です。

10年基準。ユーノス 500

クロノス兄弟

バブル景気真っ只中の1989年(平成元年)、これまでの3ナンバー税制(全長:4,700mm以内、全幅:1,700mm以内、全高:2,000mm以内、総排気量:2,000cc以内のいずれか一項目でも超過した場合は3ナンバーになっていた)が廃止され、排気量のみで課税される仕組みに変わりました。これにより自動車メーカー各社は、軒並み3ナンバー車種のラインナップを拡大していきます。

出典:http://www.carsensor.net/catalog/mazda/cronos/

そんな中、マツダから生まれた3ナンバーセダンが「クロノス」です。元々はカペラの後継車種として誕生しました。
プラットフォームは、新開発のGEプラットフォームを採用。マツダはこれをベースに、各販売チャンネルごとの専用ミドルセダンやクーペを市場に送り込みます。これらは俗に「クロノス兄弟」と呼ばれます。

出典:http://happy.ap.teacup.com/indigo-liner/39.html

マツダオート店改めアンフィニ店へは、アンフィニ MS-6として供給されます。

出典:http://www.carsensor.net/usedcar/bFO/s021/nenpi/

オートラマ店では、テルスターとしてデビュー。

出典:http://www.goo-net.com/car/MAZDA/AUTOZAM_CLEF.html

オートザム店では、クレフとして登場。

出典:https://gazoo.com/car/pickup/Pages/meishakan_011_011.aspx

マツダ店専売のスペシャリティクーペ、MX-6。

出典:http://www.goo-net.com/car/EUNOS/EUNOS500/type.html

そして、ユーノス店からは500がデビューしました。

小さな高級車

こうして1992年(平成4年)にデビューした、ユーノス 500。コンセプトは「10年色あせぬ価値」でした。
当時のカタログには、こう謳われています。

出典:http://www7b.biglobe.ne.jp/aishawotukuro/sakuhin/seisakuki/eunos500_seisakuki/eunos500_seisakuki_01.html

「これからのセダンが探求すべき価値。それは、時を超えて輝く、高機能と確かな品質を備えることではないでしょうか。流麗な曲面のボディラインを生み出す精緻な造り込み。いつまでも美しい艶めきを放ち続ける世界最高水準の塗装「高機能ハイレフコート」。綿密な防錆対策が叶えたロングライフボディ。扱いやすい5ナンバーサイズのボディに凝縮したのは、10年という歳月を乗り続けるための「高品質」なのです」

出典:http://www.kahans.com/carlife/20050723214454/

ユーノス 500最大のポイントは、エクステリアデザインにあります。流麗なボディデザインは、当時マツダに在籍していたカーデザイナー荒川健(現、デザインフォース主宰)氏によるものでした。
彼がこのクルマをデザインするに当たって、最も神経を使ったのは「クルマとは、公共の景観に最大の影響力を持つ個人用の製品であり、文化的に成熟していけば最新の建築デザインとの対比は当たり前の事として、自然風景、伝統の古い街並みでさえも、美しく調和するデザインが求められるものである」という「クルマと景観の融合」でした。

クラス最上のクオリティを目指して

当時ユーノス 500開発担当主査であった福永賢一氏は、このクルマのコンセプトをカタログにてこう語っています。

出典:http://www.kanshin.com/keyword/6348

「このセダンシリーズが目指したのは、従来のクラス概念を超えて輝くクオリティです。排気量の大きさや装備の豪華さを競うのではなく、セダンとして本来備えるべき品質や機能を丹精をこめて磨き上げ、揺るぎない誇りとともにお届けすることです。ユーノス 500は、セダンにおけるクオリティの本質を、扱いやすい5ナンバーのボディサイズに凝縮することを目指しました。大人4人が快適にロングクルージングを楽しめるすぐれた高速走行性能。その走りを根底から支える高度な安全性能。精緻な造り込みに徹した心地よいキャビン。そしてそれらの高品質と高機能を味わいながら、愛着を持って永く乗り続けることのできる資質を追い求めたのです。モノの本質をしっかりと見きわめる感性が求められる時代。ユーノス 500はそうした時代を先取りし、クラスを超えたクオリティの練磨に専念したセダンなのです」

出典:http://www.kahans.com/carlife/20121229143336/

この高いクオリティは、このクルマを生産した生産ラインにもよく顕れています。
設計から生産に至る各工程で、スーパーコンピュターをフル活用。当時最新鋭の生産ラインを整備し、高精度なロボットを大量に投入しました。これにより、熟練のもとで高い品質管理を徹底することに成功しています。

出典:http://minkara.carview.co.jp/en/userid/232669/blog/24582117/

そしてユーノス 500のテクニカル・ハイライトといえば、高品質な塗装技術です。
「高機能ハイレフコート」と呼ばれるこの塗装技術は、高鮮映鋼板をベースに中塗り、上塗りカラーベースの塗装工程を経て、上塗り新硬化クリアコートから構成されています。中でも最終工程である上塗り新硬化クリアコート塗装時はボディ自体を回転させながら乾燥・焼き付けを行い、塗料の均一化・平滑化に寄与しています。
このハイレフコートのメリットは、塗装の厚みを飛躍的にアップさせることができ、また漆のような深みのある滑らかさを再現でき、細かな傷が付きにくいタフな塗装にできるといったことでした。さらに酸性雨などの影響を受けにくい塗装の硬さを備え、永きにわたって艶やかな塗装面の美しさを保ち続けるという特徴もありました。

出典:http://www.geocities.jp/mazda_maxpower/mazda_cars/mazda_car_memory.htm

また、この塗装面を支えるうえで行われたボディの防錆対策も入念なものでした。
サビを寄せ付けない各種防錆鋼板を、ボディ重量の約90%に使用。またフロアパネル面には入念なアンダーコート処理を行うことによって、サビの発生を徹底的に抑えたロングライフボディを実現しているのです。

動力性能

ユーノス 500には当初2種類のエンジンが用意されていましたが、1994年のマイナーチェンジ時に1種類が追加され、3種類となりました。2種類のV型6気筒エンジンは静かで滑らかな回転特性とハイパワー&クイックレスポンス、直列4気筒エンジンは低回転から発生する高いトルク特性と低燃費&高い環境性能をセールスポイントとして挙げていました。

出典:http://www.asahi-net.or.jp/~LE9S-ICKW/tokubetu/875/875_3.html

KF-ZE型エンジン
2リッターV6 DOHC24バルブエンジン。4ステージVRIS、炭素鋼鍛造クランクシャフト、炭素鋼鍛造コンロッド、ピストン冷却用オイルジェット、中空カムシャフトなどをの技術を積極的に採用し、高度なエンジン制御が特徴でした。
スペック
・2.0L DOHC 24バルブ
・動弁機構:DOHC 吸気2 排気2
・排気量:1,955 cc
・内径×行程:78.0 mm×69.6 mm
・圧縮比:10.0
・最高出力:160 PS/6,500 rpm
・最大トルク:18.3 kg・m/5,500 rpm

K8-ZE型エンジン
1.8リッターV6 DOHC24バルブエンジン。登場時は、世界最小と言われたV6エンジンでした(後に三菱自動車が「6A10」という1.6リッターV6エンジンを発表)。また、V6エンジンの中で唯一のレギュラーガソリン仕様でした。
スペック
・1.8L DOHC 24バルブ
・動弁機構:DOHC 吸気2 排気2
・排気量:1,844 cc
・内径×行程:75.0 mm×69.6 mm
・圧縮比:9.2
・最高出力:140 PS/7,000 rpm
・最大トルク:16.0 kg・m/5,500 rpm

FP-DE型エンジン
1.8リッター直列4気筒DOHC16バルブエンジン。後期型より登場。主に、ユーノス500のボトムレンジを支えたエンジンです。
スペック
・1.8L DOHC 16バルブ
・動弁機構:DOHC 吸気2 排気2
・排気量:1,839 cc
・内径×行程:83.0 mm×85.0 mm
・圧縮比:9.0
・最高出力:125 PS/6,000 rpm
・最大トルク:16.3 kg・m/4,500 rpm

シャシー性能

ロングホイールベース(2,610mm)とワイドトレッド(前:1,470mm、後:1,480mm)により優れた高速安定性能を実現。また素直なハンドリングを実現するため、サスペンションには4輪ストラット式が採用されています。ブレーキも、信頼性の高いフロントベンチレーテッド式4輪ディスク式ブレーキを採用されました。

出典:http://www.isize.com/carsensor/s/mazda/eunos_500/

安全性能

ユーノス 500には、車体の剛性を高めるため高剛性モノコックボディが採用されました。
またドア内部には衝撃吸収材として、サイドインパクトバーが内蔵されています。運転席SRSエアバッグシステム、4W-ABSもグレードによって選択できました。
独自の装備としてレインガターモール付きフロント&リアピラーがあり、これは左右のピラーに配置された雨どいの役割をするレインガターが雨水をルーフの方向に逃がし、サイドウィンドウの視界をクリアにするという機構です。

出典:http://www.isize.com/carsensor/s/mazda/eunos_500/F001M002/

こうした多くの新機軸を盛り込んで誕生したユーノス 500でしたが、バブル景気の崩壊、ユーノスというブランドが世間にあまり認知されなかったことから、販売台数は伸び悩みます。結局国内では3年しか販売されず、生産台数は23,983台(輸出分含める)でした。その後ユーノスは1996年に消滅、当時の「アンフィニ店」と併合され「マツダアンフィニ店」となり再スタートします。
しかしヨーロッパやオーストラリアでは継続販売され、1999年まで販売される比較的息の長いモデルとなりました。

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当時のCM。「10年色あせぬ価値」が強調されています。

著名人とユーノス 500

ジョルジェット・ジウジアーロ

出典:http://noticias.autocosmos.com.mx/2014/07/11/la-historia-de-giorgetto-giugiaro

マセラティ ボーラ、BMW M1といったスポーツカーやフォルクスワーゲン ゴルフ、フィアット パンダといった大衆車まで幅広くデザインした20世紀を代表する自動車デザイナー、ジョルジェット・ジウジアーロ。
そのジウジアーロが「2リッタークラスのクルマでは、ユーノス 500は世界で最も美しいサルーンだ。市販車メーカーがこんなクルマを出してしまうと、我々カロッツェリアの仕事はなくなってしまう」と言ったのは有名で、後に彼がデザインするアルファロメオ 156のデザインにも多大なる影響を与えたと言われています。

垣根涼介

少年たちと強奪犯との息詰まる攻防を描いた傑作ミステリー「ヒートアイランド」シリーズなどで知られる作家、垣根涼介氏はユーノス 500愛好家として有名で、これまでにもレストアを繰り返し20年以上乗り続けているとのこと。ちなみにグレードは、超希少グレードといわれる「20GT-i」です。

ヒートアイランド (文春文庫)

¥734

販売サイトへ

モータースポーツでの活躍

このように日本では「小さな高級車」として取り上げられることの多いユーノス 500ですが、海外ではレースでも奮闘しました。代表的なのが、イギリスの代表的ツーリングカーレースBTCC(British Touring Car Championship)に出走していた「クセドス(Xedos) 6」です。
クセドス 6は1993〜1994年の2年間出走、目立った成績を残すことはできませんでしたが、その後の「マツダ 323F(日本名 ランティス)」でのレース活動の足がかりを作ることに貢献しました。

出典:http://en.wheelsage.org/category/btcc/25431/pictures/c2m104

BTCCでのクセドス 6

当時のマツダの志を感じるクルマ

他の兄弟たちとは違う5ナンバーというナローサイズのボディながら、当時のマツダの「クラスの概念を超えたクルマを造りたい」という高い志が明確に現れているユーノス 500。
現代の安全基準などから考えても、もう二度とこのようなクルマは世に出ないであろうと思います。歴史に「if」はありませんが、もしユーノスという販売チャンネルが現在まで残っていたとしたら、500はどのような「深化」を遂げていたのか、実に興味深いところです。