【マツダ キャロル】歌いたくなる楽しさ。それこそが“キャロル”

マツダと言えばこのところ話題に事欠かない印象ですよね。“Be a driver”なんて言われちゃうと、それだけで少し心踊ります。とりわけ“乗って楽しいクルマ”を目指して開発しているそうですから、まさにドライブを楽しむというクルマ本来の使い方を再確認させられているようです。そんなマツダがリリースしている一番小さなクルマが“キャロル”です。50年以上前にデビューした初代から現行まで一挙公開します。

現代のマツダキャロル

キャロル GS

んん? これは!? スズキアルトじゃないですか?? いえいえ、エンブレムをよく見て下さい。れっきとしたマツダ車なんですよ。ネームプレートにも“CAROL”とありますよね。これは紛れもなくマツダキャロルなんです。お察しのとおり、スズキアルトのOEMなんですけどね。もはやエンブレムが違う程度しか見分けがつかなくなっています。
ちなみに現行のマツダキャロルは7代目モデルです。冒頭で書いたとおり、初代モデルは50年以上前の1962年にデビューしています。実はスズキからのOEMは4代目からですが、詳しいことは後ほどお話しますね。
現行の7代目キャロルは8代目スズキアルトをほぼそのまま踏襲していますが、残念ながら“ターボRS”や“ワークス”の設定はありません。

●マツダキャロルのスペック
ボディタイプ:ハッチバック
ドア数:5ドア
乗員定員:4名
型式:DBA-HB36S
全長:3,395mm
全幅:1,475mm
全高:1,500mm(1,475mm)
ホイールベース:2,460mm
トレッド前/後:1,295(1,305)/1,300mm
室内長:2,040mm
室内幅:1,255mm
室内高:1,215mm
車両重量:650kg(700kg)
エンジン型式:R06A
最高出力:52ps(38kW)/6,500rpm
最大トルク:6.4kg・m(63N・m)/4,000rpm
エンジン種類:水冷直列3気筒DOHC12バルブ
総排気量:658cc
内径×行程:64.0mm×68.2mm
圧縮比:11.5
過給機:なし
燃料供給装置:EPI(電子制御燃料噴射)
燃料タンク容量:27リットル
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
JC08モード燃費:37.0km/L(33.2km/L)
ステアリング形式:パワーアシスト付きラック&ピニオン
サスペンション形式(前):マクファーソンストラット式
サスペンション形式(後):トーションビーム式(I.T.L:アイソレーテッド・トレーリング・リンク式)
ブレーキ形式(前):ディスク
ブレーキ形式(後):ドラム(リーディングトレーディング)
タイヤサイズ(前):165/55R15 75V(145/80R13 75S)
タイヤサイズ(後):165/55R15 75V(145/80R13 75S)
最小回転半径:4.6m
駆動方式:FF(フルタイム4WD)
トランスミッション:CVT(無段変速車)

※()内は4WD車

初代キャロル

初代キャロル

素晴らしいデザインですね。これが初代“キャロル”です。当時は社名を“東洋工業”と名乗っていましたので、“マツダ”は自動車部門のブランドネームでした。当初1961年(昭和36年)の東京モーターショーで、700ccのセダン“マツダ700”として原型が発表されましたが、市場へ送り出されたのは360ccの軽自動車でした。軽乗用車でありながら、ボンネット・キャビン・トランク(RRのためエンジンルーム)が外見的に分離した“完全3ボックススタイル”のデザインと、後部座席背面のリアウインドウ部分はガラスを垂直に立てた“クリフカット型”にして、ヘッドクリアランスとエンジンフード(他のFR車ではトランクリッド)の開口面積を稼いでいます。このデザインは、アメリカ製の大型車やイギリスのフォード・アングリア1959年(105E)型などに先例がありますが、当時の日本では珍しい個性的なデザインでした。エンジンも軽規格の360ccながら、水冷 4ストローク直列4気筒OHVのアルミシリンダーエンジンを採用していて、それをリアに横置き搭載したリアエンジンの後輪駆動車(RR)レイアウトです。ラジエターは、フロントではなくエンジンに接して装備されていて、走行風を利用できないことからエンジン駆動の強制冷却ファンが装備されています。側面のスリットグリルから冷却気を導入する方法で、このファンの音も初代キャロルの特徴のひとつになっています。

キャロル誕生まで

R360クーペ

東洋工業は1960年(昭和35年)にマツダ・R360クーペで軽乗用車業界に参入していましたが、これは4人乗りだったものの後部座席が極めて狭く、実質は2座席車でした。当時の軽乗用車市場を席巻していた4人乗りのスバル・360に対抗するには機能面でも不足していて、発売当初こそ低価格で注目されましたがスバルの牙城を崩すには至りませんでした。空冷V型2気筒という簡易なエンジンも、乗用車エンジンとしてはやや洗練に欠けるということも否定できませんでした。キャロルはこのR360クーペに代わる主力車として開発企画されたのです。

ぜいたくな設計の集合体

水冷式4気筒4ストロークOHVというエンジンは、軽合金材料や高剛性の5ベアリングクランクシャフト、半球型燃焼室とクロスフロー配置の吸排気バルブなど、当時の小型乗用車と比較しても極めて高水準な設計でした。この時代の軽自動車としてはホンダ・T360のスポーツカー用を流用したDOHC4気筒エンジンと並ぶ非常に贅沢なものでした。これは、エンジンブロックの設計を共用しつつ排気量を拡大して、続いて発売される上位の小型車“ファミリア”にも搭載して開発コストを抑えるという、スケールメリットを念頭に置いてのことだったのです。

難点もアリ

4気筒エンジンの採用は、ゴムスプリングを利用する“ナイトハルト機構”のソフトな乗り心地の4輪独立懸架と並んで振動抑制や静粛性確保には絶大な効果を発揮しましたが、2倍以上の800cc級にまで対応する設計があだとなって、360ccとしては体積が大きく軽合金製にもかかわらず重い仕上がりでした。またフル・モノコック構造のボディは部材剛性を高くするべく補強され、当時としては頑強な構造ながらもそれだけに重量が嵩み、400kg未満と軽量なR360クーペやスバル360と比べて空車重量で150kgも重くなっていたのです。
当時の軽自動車規格に合わせたボディはもともと狭いのですが、これに加えて前後方向のスペースをトランクとエンジンルームに取られることで室内空間は大きく削られ、乗員はかなり窮屈な乗車姿勢を強いられることになります。

8年で閉じた生涯

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%84%E3%83%80%E3%83%BB%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%AD%E3%83%AB

キャロル360は、軽乗用車初の4ドアモデルの利便性やデラックスな装備類で、一時はスバル・360の首位を脅かす存在でした。ですが当初から車重の重さによる動力性能不足が指摘されていたところへ、競合するスバルが軽量ボディによる元来の動力性能の高さに加えてデラックス仕様の充実と値下げで巻き返しを図って首位を守り、キャロルは市場の主導権を握るまでには至りませんでした。1966年以降は、軽乗用車市場への新規参入やスバル以外の既存メーカーの新型車発表が続出しました。中でもスバルをも上回る高性能なホンダ・N360が登場すると、動力性能やスペース効率で不利なキャロルの弱体化は著しいものとなってしまったのです。

魅力の薄弱

当時ロータリーエンジンや小型車開発などに注力していた東洋工業は、キャロルの根本的なモデルチェンジに余力を割けず、その機を逸したまま1966年にマイナーチェンジを行いました。エンジン出力の向上、陳腐化したダミーグリルとリアデザインの変更やスペアタイヤのエンジンルームへの移設(トランクスペースの拡大)が施されましたが、根本的なパッケージングの悪さによる車内の狭さや元来の車重過大・パワー不足による動力性能の低さは解決できておらず、その末期にはスペック・販売実績とも軽乗用車市場最下位に位置する存在となってしまいました。

ロータリー化の壁

モデル末期には、打開策として1ローター仕様のロータリーエンジン搭載の計画もあったのですが残念ながら頓挫してしまいました。ロータリーエンジンは、その特殊構造と高出力という面で課税や規制の見地から額面上の排気量をレシプロエンジン基準に換算する必要があります。仮に普通車規格並みの換算基準を認めると、実質的にはレシプロ360ccよりもはるかに過大な排気量を持つ強力なエンジンが実現してしまい、他の軽乗用車メーカーから問題視されて業界内でのクレームがもち上がったのです。結局、当時の運輸省による判断で、軽自動車用エンジンとしての認可は下りませんでした。実車搭載による試作も行われていますが、1ローターエンジンでは振動が大きく燃費も悪い等のデメリットや、1ローターだと逆作用の力が加わってしまった場合にローターが逆回転してしまう等の問題がありました。ある程度は克服できましたが、市販車として認可される途が開けなかったため計画は実現しませんでした。
後継車となる“シャンテ”にもロータリーエンジン搭載が計画されましたが、これもまた1ローターエンジンの頓挫から2ストロークエンジンを用いざるを得なかったのです。

稀少な600モデル

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%84%E3%83%80%E3%83%BB%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%AD%E3%83%AB

マツダ・キャロル600 100万台生産記念車

1962年(昭和37年)11月には、600ccのエンジンを持つキャロル600が発売されました。軽規格のキャロル360に先駆けて4ドアモデルを発売しました。キャロル600は、1963年(昭和38年)3月9日にマツダ100万台目の生産車にもなっています。キャロル360よりもデラックスな内外装や大型バンパーなどが特徴でしたが、室内スペースの狭さは360と同様で本格的な小型車規格の800cc車となるファミリアの生産開始に伴って2年ほどで生産を終了しました。

歴代のキャロル

キャロル復活の2代目

2代目キャロルFタイプ

1989年(平成元年)にデビューした2代目です。スズキアルトのF5B / F6Aエンジンやプラットフォームを共有しながら、内外装は独自デザインで開発しました。キャロル復活にあたっては、新規販売チャネル“オートザム”を設立してチャネル基幹車種“オートザム・キャロル”として発売しました。商用車(バン・トラック)を設定しない3ドアセダン(ハッチバック)のみの構成で、当時のオートザム店の広告では新車3年車検など軽乗用車の利点をアピールしていました。

怪しくなってきた3代目

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1995年(平成7年)デビューの3代目です。先代モデルからドアとリアバンパー、インテリアの大部分を流用しています。先代の丸みを帯びたスタイルをコンセプトとしながら、ボディ後半を同年式セルボモードと共通のショートノッチバック風のスクエアなフォルムにしています。特徴的な丸形2灯ヘッドランプは受け継がれましたが、カバーが廃され簡素化しています。また、グリルに埋め込まれたフォグランプもフロントバンパー前輪前へ設置スペースが設けられました。
先代ほど人気が伸びず、マツダ(オートザム)オリジナルの開発はここで終了することになりました。マツダの自社生産の軽自動車は38年の歴史に幕を閉じました。

スズキのOEMとなる4代目~

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%84%E3%83%80%E3%83%BB%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%AD%E3%83%AB

1998年(平成10年)10月13日軽自動車規格改正と同時にモデルチェンジした4代目です。コスト削減のためスズキアルトと同一のOEM化です。この代からキャンバストップとターボの設定がなくなりました。

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%84%E3%83%80%E3%83%BB%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%AD%E3%83%AB

2004年(平成16年)9月27日アルトのモデルチェンジにあわせてデビューした5代目。先代と同じくアルトのOEMで、変更点はグリルとエンブレムくらいです。

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%84%E3%83%80%E3%83%BB%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%AD%E3%83%AB

2009年12月17日スズキアルトと同時にフルモデルチェンジした6代目です。先代と同じくアルトのOEMですが、エンブレム以外に異なるのはマツダ車の特長“五角形ロアグリル”です。キャロルにも副変速機構付CVT搭載車が設定されてAT車は4ATに統一されました。エンジンもVVT仕様になって燃費が向上しています。ホイールベース拡大により後席乗員の快適性も向上されました。

最後にまとめ

いかがでしたか。“キャロル”とは“頌歌”や“讃美歌”を表す言葉です。きっと家族みんなでドライブしながら、自然と歌いたくなるようなクルマを目指したのでしょうね。もしくは、市場から賞賛されることが目標だったのかもしれません。結果的には成功と言えるほどではありませんでしたが、軽自動車の市場になかったものをたくさん持ち込んだという意味では、大きな意義があったように思います。とりわけその独創的なデザインは、今になってみればとてもキュートで参考にすべきことが多く含まれているように思います。