【トヨタ ヤリス】世界制覇を狙うコンパクトカーの正体と評判とは?

1999年から欧州・北米向けにトヨタが販売するコンパクトカーが、トヨタ ヤリス(日本名ヴィッツ)。まさに欧米列強が集い覇権を競い合う中へ切り込んだ、小さなサムライといったところです。地域が変われば自動車文化もユーザーの目も変わる、ということで相応な身支度はして海を渡ったはずで、日本向けとの違いがどこにあるのか、ちょっと興味もあるところ。そしてどうやら、このクルマには壮大な野望もあるようなんです。

ヴィッツの国外仕様

今、世界で一番か、少なくとも二番目に自動車を売りさばいているのが、日本のトヨタ自動車だということは、ほぼ間違いのない話でありまして、したがって、販売個体数を稼ごうとしたら、大衆クラスの顧客層に支持される商品の存在は必須ということにもなります。そう考えると、トヨタの世界ビジネス、その屋台骨を支えているのは、実は、日本でヴィッツと呼ばれているこのコンパクトカー、トヨタ ヤリスなのかもしれません。
欧州向けには、フランスに生産拠点が置かれているそうですし、もともとヴィッツのデザインには、トヨタのヨーロッパ支部が主導的立場だったそうですから、すでに輸出車と呼ぶことすらできない感じなのが、今のトヨタ ヤリスなのです。とは言え、日本国内でもコンパクトカーのセグメントにあるこの車、販売する国が変われば文化も違うし、何より使う人達の体格だって全然違いますから、そんな事情に上手く適合する必要もありそう。小さい日本車の中でもさらにコンパクトな一台は、海外でどう見られているんででょうね。日本国内とは違うヤリスの仕様をちょっと見てみましょう。

ボディー サイズは一緒、デザインでやや差別化が

基本的に、北米仕様も欧州仕様も、ヤリスの基本デザインはヴィッツとまったく同じと言ってよいでしょう。あえてコンパクトだと主張する丸っこい背中や、空気を目いっぱい吸い込もうとして口をあけたフロントグリルなど、すべての特徴が世界共通です。そんな中でも顕著に差別化されるのが、実はドアの枚数でして、ヤリスの方には、北米向け欧州向けともに3枚&5枚ドアのハッチバックが用意されているんですね。逆に言うと、せっかく作ってんなら日本でも売ってくれれば良いじゃん、ということにもなりますが、トヨタ内部のドメスティックマーケティング部門が、それを許さないのでしょうか?
ちなみに、ほぼ同じ位置づけと思われるグレード、つまり北米仕様のSEと日本仕様のRSで、公称ボディーサイズを比べてみても、北米が全長3,950mm、全幅1,694mm、全高1,509mm、ホイールベース2,510mmであり、日本がそれぞれ、3,930mm、1,695mm、1,500mm、2,510mmですから、長さが違うことを除けばインチとミリの変換誤差ぐらいしかありません。まぁ、ホイールベースはそうそう変えられるものでもないでしょうし、全幅を広げる目的でオーバーフェンダーをつけたりしても、見掛けはともかく室内が広くなる訳でもありませんから、考えてみればサイズが違わないのは当たり前です。もちろん、タイヤサイズも両仕様とも195/50R16で、なんら変わりがありません。

動力&駆動系 地域によって細かく対応

デザインはもちろん大切ですが、車の本質を計る時に一番必要なのは、エンジンとサスペンション、そしてギアボックスの情報です。実は、ヤリスとヴィッツを比べた時微妙な差が見えてくるのが、そんな動力&駆動系関係なのかもしれません。

エンジン・セレクション

北米版ヤリスには、5種類のグレードしか用意されておらず、カタログ上でエンジンバリエーションを見ても、1.5リッター直列4気筒DOHC16バルブにVVT-i(Variable Valve Timing with intelligence)を装備したものしか選べません。それだとちょっと寂しいので、欧州向けヤリスと日本のヴィッツでエンジン比較をしてみましょう。

最小排気量エンジンは?

どうも、欧州人と米国人の間には、自動車、というかコンパクトカーに対する違う期待感が存在するようです。先に言ったとおり、米国ヤリスにはシンプル化と言うより簡素なエンジン体系しか与えられないのに対して、ヨーロッパ向けヤリスには、車種のバリエーション、そして組み合わされるトランスミッションに合わせて、ずっと多様な動力源が用意されているのです。
その最も小さいエンジンは、型式1KR-FEと呼ばれる排気量998cc直列3気筒12バルブVVT-i、という仕様のもので、その出力は69ps/6,000rpm、トルクは9.7kgm/4,300rpmという、比較的に非力な動力源です。そのため、日本ではCVTオンリーとの組み合わせなのですが、なぜだか欧州では5速マニュアルミッションのみとの組み合わせになっています。
パワーウェイトレシオが気になるのかな、と思い車両重量ベースで比べてみると、欧州ヤリスは980kg以上、ヴィッツの方が970kgですから、むしろCVTに分があると言わざるを得ませんよね。まぁ、マニュアルをガチャガチャ、という運転文化が、ヨーロッパにはまだまだ深く根付いている、ということなのでしょう。

1.3リッターが主力エンジン

次に大きいのが、型式1NR-FEと呼ばれる、1、329cc直列4気筒DOHC16バルブにDual VVT-iを組み合わせたタイプです。ヤリスの方の出力は99ps/6,000rpm、トルクが12.75kgm/4,000rpmですが、同じ型式で同じ圧縮比のヴィッツ用エンジンになると、出力95ps/6,000rpmにトルクが12.1kgm/6,000rpmと、ややパワーダウンします。とはいえ、カタログスペックですし燃料の質(オクタン価?)などの関係もあるかもしれないので、この違いも誤差の範囲内だと言えるでしょう。
ヤリスにおいて、この1.3リッターエンジンは、『Multidrive S』と呼ばれているCVTと、6速のマニュアルトランスミッションのどちらかに、組み合わされて使用されます。そして、このCVTは5ドアのボディーのみの設定、マニュアルの方は3ドアも選べることになっています。日本では絶対に有り得ないだろう、この6速MTが選べること(スポーティーグレードのRSや、そのドレスアップ版のGʼsパッケージを見ても、5速マニュアルです)は、欧州ヤリスの最大の魅力とも言えるでしょうし、ヨーロッパの人々が羨ましくて仕方ない、と仰るヴィッツのファンも多いのではないでしょうか。

ディーゼルもある欧州ヤリス

排気量だけで分類すると、次に来るのが、89.7ps/3,800rpmの出力と、20.9kgm/1,800-2,800rpmのトルクを発揮する、排気量1,364cc、1ND-TV型のD-4D直列4気筒ディーゼルです。まぁ、日本のヴィッツにはディーゼルはないので比較の対象にもならず、エンジンバリエーション勝負でいったら欧州の方が勝ち、ということになるかもしれませんね。
このディーゼルが組み合わされるのは、ガソリン仕様よりギア比が若干長めに設定された、6速マニュアルのギアボックスのみです。これも、どうせ作ってるなら日本でも売ってよ~、と声をあげたくなるところで、日本では、マツダあたりがやっている組み合わせでもありますから、トヨタも手を出せない理由はないと思うのでですけど、トヨタの商売は、絶対に失敗してはいけないのです。
まぁ結局、ディーゼルに当たる風向きは、ヨーロッパと日本では角度がまったく違うので、このような形になってゆくのでしょうね。

ハイブリッドはアクアの代わり

そして、真打として登場するのが、欧州では販売していないアクアの代わりに、ヤリスへと乗っけられたハイブリッドシステムです。そのエンジンは、1NZ-FXE型と呼ばれる排気量1,497ccで直列4気筒DOHC16バルブにVVT-iを装備したもので、出力は73.4ps/4,800rpm、トルクは11.3kgm/3,600-4,400rpmです。それに、61.2ps&17.2kgmのモーターが組み合わされています。当然、トヨタハイブリッドはCVTのみとの組み合わせ、ボディータイプも5ドアのみが選択可能です。ヨーロッパのテストモードでも、リッターあたり30kmの燃費性能を持つのが、このヤリス ハイブリッドということになります。
このシステムのソースとなっているのが、プリウスc(アクア)で、今回のパワートレイン換装にあたって、メイン動力となる4気筒のアトキンソンサイクルエンジンでは、7割もの部品設計を見直しフリクション低減などに努めたとのこと。また、出力自体は低くなっていますが、熱効率は6パーセント程度向上している、と製造元のトヨタは話しているそうですよ。車体の重心を考慮してホイールベース間のできるだけ低いところへ設置されたニッケル水素電池は、168個から120個へと数が減らされています。

インテリアと快適装備

欧州ヤリスには、シートの種類だけでも20種類、サイドステップは5種類、フロアーマットは6種類がオプションとして選択できるようです。北米ヤリスには、そういったアピールが見えないようで、ここでもやや、国別での温度差を感じますね。
オーディオシステムは、欧州では『Toyota Touch 2』と言う呼び名の、タッチパネル式のものがあり、アメリカ向けヤリスでもほぼ同様なタッチ式が用意されています、どちらも、BluetoothもしくはUSBポートを使い外部接続することで、音楽プレイリストなどを利用できます

ヤリスの評価は?

まぁ、横からどんなに称賛しようがケチをつけようが、結局、日本では触ることも見ることさえできないのが、ヴィッツの国外仕様であるトヨタ ヤリスな訳です。それが、どのように買われ好まれ使われているか、は、やはりアチラの方の評論を見てみるしかないのです。ですので、ここではUSとUK、二か国の自動車系ネットマガジンから、ヤリスの評価を少し抜粋してご紹介します。

edmunds.com(アメリカ):ライバルに負けていたギャップをそこそこ埋めた最新型

だいたい、日本(もしくはヨーロッパ)の、環境志向の強い社会情勢にあった超小型車は、アメリカ人にとっては、なかなか愛せるクルマになりにくい気もします。ともあれ、その評価を見てみると下の様なものがありました。(以下、抜粋意訳)
「競争が激化する超小型車市場では、初代のヤリスの存在は無視できる程度のものだったろう。ユーティリティーや走る喜びという他車に負けていた要素を、この最新型では改善してみせたのも確かだが、それでも、クラスのリーダーシップを取るには至っていない」
「ライバル他社の持つ6速ATにくらべ、ヤリスの4速ATは大きな欠点でもあるが、とはいえ、時代遅れというには当たらない。高速での合流や市街地での走行でも、その適切なギアシフトタイミングは、十分な加速を与えてくれるからだ」
「グレードSEは、クイックなステアリングと高められたグリップで、スポーツライクな感覚を与えてくれはするが、乗り心地は犠牲にされているだろう」

caranddriver.com(アメリカ):外観以外にも改善点がある、とは言うものの…

アメリカでのもう一つ別の評価です。(以下、抜粋意訳)
「外観やインテリアがかなり良くなった、とはいうものの、超小型車界でリーダー格をつとめる車、例えば、ホンダ フィット、フォード フィエスタ、そしてシボレー ソニックなどから後塵を拝していた深刻な問題点は手つかずのままである。その問題は、動力源だ。今回トヨタはマイナーチェンジ版として、2000年から使い続けている1.5リッターエンジンを、これまた、不評を買ったエコーを2007年にヤリスが引き継いでから変えてもいない、5速マニュアルか4速オートマに組み合わせる形で出してきたのである。このクラスの他車が提供してくれる直噴エンジンに比べれば、依然としてポート内燃料噴射のトヨタは、明確に時代に乗り遅れている。」
「とはいえ明記しておきたいのは、今回のヤリスの改善策が、なにも外観という表面だけにとどまるものでもない、ということだ。そのシャーシにおいては、スポット溶接を追加することで、ねじれ剛性のアップをはたし、この強靭さとサスペンションに加えられた巧みなチューニングは、機敏で反応の良い足回りを、今回のヤリスに与えているのも確かだろう。」

autoexpress.co.uk(イギリス):求めやすく買い得感もハイブリッドもある

UKへ行くと、最新ヤリスへの風向きも、少しは変わっている気がします。(以下、抜粋意訳)
「もし、あなたが最低限のランニングコストを望み、おもに市街地だけで過ごすというのであれば、このハイブリッドモデルは一見の価値ありだろう。」
「ヨーロッパでデザインされた初代ヤリスは、1999年のショーケースデビューと同時に超小型車セクターに旋風を起こし、ヨーロッパおよび日本でのカーオブザイヤーを受賞した。しかし、その新鮮な外観を除いたとき、その最大の利点は、小さく見えるパッケージからは想像できない室内の容積にあったのである。2014年にお目見えした最新のヤリスは、初代を取り巻いていたその活気を、再び取り戻そうとしてモダンなフロントデザインを与えられたモデルだ。」
「このトヨタ ヤリスは、運転しても悪くない感覚を与える、とは言えそれも、路面グリップがよく優しく操作した場合の話である。そのステアリング感覚にはやや直接感が欠けていて、結果、プジョー208やフォード フィエスタが持つ機敏さには、到達していないだろう。」
「6速マニュアルは軽く、同時に上手くマッチしているもので、特に3気筒エンジン車に代表される様な、この車の狭いパワーバンドを維持するには役に立っている。このトヨタ車での他の操作系も軽やかで、使い勝手は良いものだ。」

autocar.co.uk(イギリス):ハイブリッドの低燃費は市街地で発揮

さて、欧州向けのヤリスにしかないハイブリッド。あちらの走行環境で燃費を実テストすると、どんな結果が出るのでしょう?(以下、抜粋意訳)
「このエコ減税枠で多くの小型車が競い合う市場において、また、トヨタが主張する76mpg(マイルパーガロン)というクラス最高の燃費性能に近づくためにも、このヤリスハイブリッドは、私たちが数多くテストした超コンパクトガソリン車の平均燃費51.6mpgよりは、少なくとも良い結果が望まれるところだ。そしてもし、これをコンパクトカーとして通常の使い道、つまり市街地で主に使うだけならば、現実的に65mpgという燃費データも可能である。バッテリーが回生したエネルギーを頻繁に使うことができるからだ。」
「よけいな重量を抱えるハイブリッドとしては、ノーマルの乗り心地をいかに維持するかは、走りを演出する上でメーカーにとっても最大の問題である。(そして、このヤリスでは)前後ともガソリン車と同じ形式のサスペンションに、ハイブリッド向けの調整を加えた結果、なかなか良い具合に仕上がったといえる。イギリスの使い込まれた路面にたいしても、この足回りは優雅に柔軟に反応してみせるが、とは言え、フォード フィエスタやワーゲン ポロが持つ、柔軟に制御されたダンピングを再現するレベルには至っていないだろう。」

そして、トヨタ ヤリスの抱く野望とは?

出典:http://gazooracing.com/detail/10064512

2017年から世界ラリー選手権へ本格参戦の欧州向けヤリス

これはもう、ご存じの方が多いと思うのですが、トヨタは、この欧州向けヤリスをベースにした車両で、2017からのWRC参戦を公言しています。しかしまぁ、ヤリスにはマニュアルギアボックスがあり、日本のヴィッツには4輪駆動があって、いろいろ混ぜ合わせたらラリーカーができるなぁ、なんて言うのは素人の甘い妄想でしかないでしょう。
もちろん、今どきのWRCカーなら、変速操作はステアリングホイールに装備するパドルスイッチで行うセミオートマ、プロペラシャフトも強力なものになりましょうし、それこそ時速100キロを超えるスピードでジャンプを繰り返すような過酷なコースも多々ありますから、車体の強度と耐久性にはかなり高いレベルが求められるはず。その上で、選手権を戦うラリーカーにとって、ハンドリングの良さ、セッティングのしやすさ、メンテナンスと修理のしやすさも、必須条件だとも思われます。
今のところ、どのようなテストと開発を行い、どんな進捗なのかは、ほとんど見聞きすることができません(ライバルが居るのですから機密主義は当然ですよね)が、とりあえず、TOYOTA GAZOO Racingの公式ページには、東京モーターショーに参考出展したテスト車両と、おおまかな諸元(と言ってもサイズ程度)が掲載されています。
2017年にはWRCの車両規定が変更になる、ということで、新規参入に近いトヨタ ヤリスにもチャンスは大いにあるかも。しかし、いま絶対的な強さで君臨するVWポロは、そんなに甘いコンテンダーではありません。それでも、その王者に食らいついて、ちょっとでも良いところを見せてくれたら、トヨタファンだけでなく日本中の自動車ファンにとっても、凄く嬉しいことになるはずです。

まとめ

ヤリスの名称は、ギリシャの美とエレガンスを司る神カリスから来ているのだとか。最新のフェイスリフトで、かなり未来志向のルックスに変わりはしましたが、ヴィッツ&ヤリスの本分は、走って楽しく経済性も両立できる元気なコンパクト。欧米での見方にも、そこを期待している感がにじみ出ています。そんなことを考えると、ほぼAT仕様しか売れず、だからそれしか作らないという、不活性な日本のコンパクトカー事情ってどうなんだろう? どこに向かうんだろう? と、余計なことながら心配になります。
コンパクトカーこそ庶民の足、そして、庶民の活力がなくなると国も衰退するのです。だから、そんな私達を元気つけるためにも、トヨタさんには、ヤリスに用意した3ドアや6速MTなどを、早くヴィッツにも取り入れていただきたいものです。

【基本情報】
名称:北米ヤリス 5ドアSE
エンジン排気量:1,496cc
エンジン出力:107.5ps/6,000rpm
エンジントルク:14.2kgm/4,200rpm
全長:3,950mm
全幅:1,694mm
全高:1,510mm
重量:1,050kg
ホールベース:2,510mm
サスペンション:マクファーソンストラット式(前)/ トーションビーム(後)