【三菱 ランサー】硬派なハートを持ったファミリーセダン

今の自動車業界を見たとき、より強く走り屋のイメージと結び付けられているのは、ともすれば、ホンダよりむしろ三菱自動車の方かもしれないな、と思います。その歴史の中の一時期に主力車種であったランサーは、実際にラリーへ関与したこともある走りのクルマでしたし、ボディーシェイプから受ける印象は、モータースポーツでいうところのハコそのもの、硬派な走り屋です。今回は、そんな三菱 ランサーを振り返ります。

走りに拘るランサーの系譜

三菱 ランサーの製造と販売はすでに何年か前に終了し、最近ではこれを街角で見つけることも少なくなりました。しかし一方で、ランサーの歴史から生まれた、『エボリューション』の方は元気に走り回っていて、そのクルマをどこかで見掛ければ、巨大なリアウィングに代表される念の入った空力処理や、あえてそう選択したと思われるボクシーな4枚ドアのスタイリングなどから、すぐに、ランエボの名前が頭に浮かび、走りへの拘りが大いに感じられるその容姿を見るとき、関係のない第三者なのに、なぜだかこちらの方が変な緊張感を感じたりするんです。
走りと性能をダイレクトに追及するのが、ランエボの役割で、したがってこのクルマは、三菱自動車ラインアップ上における技術的、イメージ的なフラッグシップであることは確かでしょう。しかし、その走行性能追及の姿勢は、実は、1973年初頭に誕生したランサーを始祖とするものなのです。

初代ランサー:ラリーでの成功とともに始まった歴史

出典:http://www.mitsubishi-motors.com/jp/spirit/history/year/index.html#y_1980

今では、4ドア車のイメージが基本になったランサーも、1973年に登場した最初のモデルは2ドアのスポーティーなクーペを含むモデルでした。駆動方式の方も時代を反映してFRであり、(技術的な制約で表現しきれない部分があったとしても)そのデザインのコンセプトには、現代の『ハコ』というイメージより、愛嬌と遊び心がにじみ出るような、お洒落と言えばお洒落な車だったのです。(レトロに宇宙的、というか、宇宙カエルのイメージもありますね)
しかし、そのボディーはモノコック構造として強度と剛性を確保し、さらにエンジンにはMCA(三菱クリーン・エア)と呼ばれたシステムを採用し排気ガス対策を整え、この年のモデルではいち早く米国環境保護庁の認定を受けたモデルでもあったそうです。さらに後々エンジンに、ツインキャブ仕様の1.6リッターが追加されると、そのモデル『1600GSR』は自動車としての基本性能を確かめるべく、サファリラリーへと参戦し優勝をもぎ取ってしまいます。この時点で、あのエボリューションへと通じるランサーの系譜が、すでに始まっていたということですね。エンジンには他に、1.2リッターと1.4リッターが用意されていました。

【基本情報(参考値)】
名称:ランサー(初代)
駆動:FR
全長:3,960mm
全幅:1,525mm
全高:1,360mm
ホールベース:2,340mm
重量:825kg

2代目ランサー:ターボの登場

ランサーは、槍騎兵という意味だそうですが、その高尚にして勇猛、ちょっといかついようなイメージは、この2代目であるランサーEXでは消えていて、むしろ良くまとまったファミリーカーと呼ぶべきデザインへ変わります。とは言え、その車名に追加されたアルファベット2文字から、Exceed(はるかに卓越した)存在、と主張することも忘れてはいません。その卓越振りを最も良く表現したのが、三菱重工製TC05型ターボチャージで加給し、1.8リッターの排気量から135psを絞り出していた、いわゆる『ランタボ』と呼ばれたモデルです。このエンジンには、ECI(電子制御燃料噴射装置)による燃料供給機構も組み合わされていて、当時としては高性能を誇りました。
やや保守的になったファミリーカーだった、とは言え、この頃の三菱自動車には独特の遊び心があったようで、フロント大型エアダムスカートに書かれた鏡文字は、全車のルームミラーに映ると「TURBO」と読めるようになっていて、「おいらが後ろについたら、むちゃして張りあうもんじゃないぜ」、とのメッセージを伝えてきます。このモデルでは、そんな点でも当時の車ファン間で話題に上る事が良くありました。この代までの三菱 ランサーはFR駆動で、またエンジンとしては、1.4リッター&1.6リッターのモデルも用意されています。

MCA-JET

この頃の三菱を思い起こすと、キーワードの一つとしてあがるのが、この『MCA-JET』と言われたエンジン技術です。当時、排気ガスの浄化には様々な方式がトライされていたと思いますが、三菱のこの技術は、通常の吸・排気バルブに加えてもう一つ、ジェットバルブと呼ばれていた非常に小径のバルブを追加し、そこから勢いよく吹き込む空気により燃焼室内のスワールを強化することで、25対1という超希薄な混合気でも、あるいは、高度のEGR(排気再循環)を施した場合でも、燃焼室内においてガソリンを安定燃焼させることができると言う技術です。三菱独特なこの技術により、燃料消費量の低減や、Noxの低減と部分負荷時の燃費向上のために行われるEGRに対しても、確実なエンジンの動作を約束していたのです。

【基本情報(参考値)】
名称:ランサーEX(2代目)
全長:4,225mm
全幅:1,620mm
全高:1,395mm
重量:955kg
ホールベース:2,440mm
サスペンション:ストラット(前)/ 4リンク車軸(後)

ミラージュとの関係

三菱ランサーの系譜を追う時、これまた面白いと思うのは、その存在が同社の別車種である、ミラージュと交わっている時期があるということです。そんなことを振り返って思うのは、今の様に硬直ちていなく自由があった時代性を背景にしていたとしても、どうも三菱自動車という企業自体が、技術屋であると同時に、時々、不思議な遊び心を発揮する企業なのだなぁ、ということです。まぁ、考えようによっては、商品企画戦略を、自由自在に組み替えることができる会社、と言えるのかもしれません。

初代ランサーフィオーレは4ドア担当

出典:http://www.mitsubishi-motors.com/jp/spirit/history/year/index.html#y_1980

ミラージュに4ドアセダンが追加になったので、それにランサーの名称を付けて別の販売チャンネルで売る、というのが、このランサーフィオーレでした。ハッチバックのイメージが強いミラージュに対し、セダンを全面的に受け持つのがこのモデルだったと思います。という訳で、駆動方式も必然的にFFとなり、ボディーのデザインもますます保守的で、一家庭の中にうまく収まる雰囲気(要はミラージュと同じデザイン)へと変わります。エンジンも1.2と1.4リッター(発表後しばらくして1.4ターボ追加)であり、当時のコンパクトとしてはいたって普通だったでしょう。
とはいえ、そんな中にも一発仕込んでくれるのが、この頃の三菱自動車です。1.4リッターエンジンの最上位には、MDエンジンという独創的な燃費向上技術が採用されていたのです。この技術では、要求される出力が大きくないとき、1番目と4番目のシリンダーでは吸気・排気の両バルブを閉鎖して、無駄な燃料消費を抑えるという、21世紀の今でもそうは多く見かけないハイテク(?)が使われていたのです。

2代目フィオーレは、ランサー/ミラージュワゴンへ改名

これも、ミラージュの5ドアワゴンへランサーの名前をくっつけたモデルです。まぁ、名称うんぬんの問題はさておき、搭乗者の頭上にゆとりを生み出すセミハイループの形状や、そこに設置されたダブルサンループ(前が固定で後ろがスライド式)、リクライニングも可能だった分割可倒式のリアシートも装備していました。その上、センターデフ式のフルタイム4WD仕様も追加されたりしていて、個人的にこの車、嫌いじゃありません。
エンジンとしては、電子制御式キャブレターで87psを発生した1.5リッターエンジンに加え、始動性の悪さを改良したスーパー・クィック・グロー・システムを搭載の、1.8リッターディーゼルがありました。

【基本情報(参考値)】
名称:ランサーワゴン
全長:4,135mm
全幅:1,635mm
全高:1,420mm
ホールベース:2,380mm

3代目ランサー:ハコ、の復活

出典:http://www.mitsubishi-motors.com/jp/spirit/history/year/index.html#y_1980

ミラージュとの境目が薄くなって早や6年、1988年になってから、とうとうランサーにあの鋭さが戻ってきます。フィオーレの時期を別とすれば3代目となるこのモデルでも、まだミラージュとパーツを共有してもいましたが、そのボディーは真横から見た時、ともするとノッチバックのセダンかと思わせつつ、そのリア部分全体が大きなハッチゲートになっているという、5ドアの『アクティブセダン」と呼ばれるタイプでした。内装では、2分割ダブルアクションシートによって後席と荷室がフラットにできるよう、設計されています。
足回りには、固さの設定をスイッチ一つで切り替えられる、デュアルモードサスペンションなども持っていましたし、AT車の暴走防止機構として、シフトロック、キーインターロック、リバース警報なども採用され、結構今の時代に通じる要素が垣間見えます。その車体に搭載されたエンジンは、1.3、1.5、1.6DOHC、1.6DOHCターボ、さらに1.8のディーゼルと、かなりバリエーションへ拡大されたことからも、このクルマに対する三菱の力の入れ方が感じられるでしょう。1.6のターボはインタークーラーも備えていて、その出力は145psを誇り、このパワーを有効に使い切るフルタイム4WDも用意されました。このくらいの時代になると、外観から今のエボリューションに通じるイメージもうかがえますし、ミニギャランと呼んでも良い気もします。ある意味で言うと、この頃のランサーが、最もランサーらしくて三菱らしかったのかもしれません。

【基本情報(参考値)】
名称:ランサー(3代目)
全長:4,235mm
全幅:1,670mm
全高:1,405mm
重量:1,180kg
ホールベース:2,455mm

4代目ランサー:新世代のベーシック

出典:http://www.mitsubishi-motors.com/jp/spirit/history/year/index.html#y_1980

1991年になると、ランサーにフルモデルチェンジが加えられ、サスペンションやエンジンのみならず、シャーシにも根本的な設計変更を受けます。さらに、それまで引きずっていたミラージュとの関連性を打ち消すデザインが与えられて、先代のイメージを上手く踏襲しつつ、曲面を多く使用したボディは、全長および全幅が拡大され、室内空間をより広くし、セダンの正統派という位置づけを主張しています。
エンジンには、縦渦層状吸気方式と全域空燃比制御という何だか難しい名前の技術で、燃料消費を著しく向上させたMVV技術を1.5リッターに装備、その他には、1.5と1.6のDOHC、1.8リッターのインタークーラーターボに、1.8リッターのターボディーゼル、さらには、当時の量産エンジンでは世界最小であった、1.6リッターのV6まで用意されました。
サスペンション関係では、剛性アップのためサブフレーム方式としたマクファーソンストラット式を前輪に、そして後輪には、マルチリンク式を新開発するなど、なかなか凝った作りを採用。もちろん、ビスカスカップリング付きのフルタイム4WD搭載車も存在しました。

【基本情報(参考値)】
名称:ランサー(4代目)
全長:4,270mm
全幅:1,690mm
全高:1,385mm
ホールベース:2,500mm
サスペンション:マクファーソンストラット式(前)/ マルチリンク式(後)

5代目ランサー:全面進化

出典:http://www.mitsubishi-motors.com/jp/spirit/history/year/index.html#y_1980

1995年に、再びランサーがフルモデルチェンジを迎える頃は、モータースポーツ界での高い評価も定着し、走り屋が乗るランサー、という今に通じるイメージが出来上がっていたでしょう。その時生まれたモデルでは、10パーセント拡大したラゲッジスペースなど、室内空間の充実や、最適制御と学習機能によってより良くシフトチェンジする電子制御ATの導入、といった利便性・快適性の追求と、1.5リッターのDOHCを新開発したり、V6エンジンの排気量を1.8に拡大しての走行性能強化も行われましたが、もうひとつ忘れてはいけないのが、可変バルブタイミング機構を実用化した、MIVECエンジンの採用です。

高出力、低燃費、そして環境性能の両立

自動車のレシプロエンジンは、すべからく空気という流体を扱っていて、その内部に出入りする空気(あるいはガス)を統制制御するため、吸気側と排気側にそれぞれバルブを持っています。それらを、エンジンの回転、つまりピストンの上下動に合わせて上手いタイミングで開閉し、気体がエンジンを出入りするよう促がしている訳ですね。
しかし、自動車エンジンの場合、使用される回転域が非常に広いので、ピストンの動く速度も大きく変化し、それにつれて移動する空気やガスの速度も変わるため、ある一定の形でセッティングされた吸・排気バルブのタイミングでは、常に最高の効率を実現できる訳ではないのだそうです。
吸気側の問題としては、排気行程の最後の瞬間からバルブを開くことで、吸気流速を高めることができ、また、圧縮行程が始まる瞬間までバルブを開けておくと、気体の慣性力によりプラスアルファの充填もみこまみたい所です。そしてそういったベストのバルブタイミングはピストンの速度により決まる、いわば関数関係にあるのだそうです。
一方、排気の場合は、燃焼ガスの圧力が高いので、ピストンが下がっている途中でもバルブを開き、排気ガスを捨て始めることができ、結果的にピストンで押し上げる仕事(ポンピングロス)を軽減でき、その方が効率も良いのですが、その開閉タイミングもピストン速度により変わります。
古典的な技術では、エンジンが使い物になるそこそこのタイミングで、それぞれのバルブが開閉するようにカムの形状を設定した訳ですが、もちろん、エンジン回転数にバルブ動作が追従するように出来るのなら、それに越したことはありません。と言う訳で、エンジン回転数を低回転と高回転の2つの領域に分割して考え、それぞれにあったプロフィールのカムを用意し、エンジンの動作速度がある一定値を超えたら、より最適な方のバルブタイミングを選択する、という方式を取ったのが三菱のMIVECエンジンです。実際には、バルブにカムから伝達する駆動力の経路を分割し、油圧機構によってどちらかを選ぶ、というイメージのメカニズムになっています。
もっとも、1995年型ランサーに採用された、この切替タイプのバルブタイミング機構は初期のもので、最近では、バルブ位相も連続可変で吸気系のリフト量(空き具合)まで制御できるタイプなど、かなりなハイテクに進化してきているそうです。

詳しいMIVECの説明ページ(公式)です

【基本情報(参考値)】
名称:ランサー5代目
全長:4,290mm
全幅:1,690mm
全高:1,395mm
ホールベース:2,500mm
サスペンション:マクファーソンストラット式(前)/ マルチリンク式(後)

6代目ランサー:セダンの新スタンダードをめざして

出典:http://www.mitsubishi-motors.com/jp/spirit/history/year/index.html#y_1980

次にランサーが大きく設計変更をうけるたのが、2000年になってのことで、この時、ミラージュセダンと統合して1車種となりました。その名も、ランサーセディア(セディアは、CenturyとDiamondを結合した造語だそうで、若干販売路線に苦慮している様子、と言うか、ゆらぎが生じた感もありますね)、ルックスとしては、2代目、3代目にあった目を引くようなクールさは消え去り、いわば普通のファミリーセダンとなっています。ランサーが育てていたモータースポーツ路線は、すでに、1992年に生まれたランサーエボリューションへ引き継いでいましたから、すでにこのブランドを購入する顧客層は、セダンを求める家庭人へとシフトしていたと言うことなのでしょう。
印象が保守的になったとは言え、異形4灯式ヘッドライトやボンネットに一体化したグリルなど、その質感自体はなかなかのレベルですし、技術的にも、1.5と1.8リッターに設定されたガソリン直噴のGDIエンジンやCVT変速機などが、ランサーとしてはじめて導入されたのが特筆すべき点だと思います。また、エンジンとしては、他に2.0リッターの直4もありました。サスペンションも、前ストラット、後マルチリンクの構成を踏襲し走りの追及も忘れていませんし、さらにビスカスカップリング式のフルタイム4WDも、ちゃんと存在していました。

【基本情報(参考値)】
名称:ランサーセディア
全長:4,360mm
全幅:1,695mm
全高:1,430mm
ホールベース:2,635mm
サスペンション:マクファーソンストラット式(前)/ マルチリンク式(後)

7代目ランサー:集大成にして原点回帰

2003年には、ランサーセディアおよびセディアワゴン系列に大幅なテコ入れがなされ、名称も本来のランサーへと回帰します。この時の改良では落ち着いた品質感よりむしろ、スポーティーな印象が重要視されたようで、ヘッドライトも流れるようなシェイプの異形タイプ、グリル部分には三菱のアイデンティティーを表す、スリーダイヤのマークが大きく描かれています。シャーシにも改良が加えられ、高められたその剛性とチューニングしなおされたサスペンションによって、走行性と静粛性の両面が向上されました。その車体を駆動するエンジンは、1.5リッターに加え、1.8GDIと、1.8GDIターボまでが用意されています。
少なくとも日本国内での三菱のランサー、という車名は、2010年の本モデルの販売終了をもって、その幾多の変遷に彩られた長い歴史に終止符を打ち、消滅しています。

【基本情報(参考値)】
名称:ランサーセダン(7代目)
全長:4,470mm
全幅:1,695mm
全高:1,430mm
ホールベース:2,600mm
サスペンション:マクファーソンストラット式(前)/ マルチリンク式(後)

まとめ

歴史上の一時期において若干のブレがあったとは言え、三菱 ランサーが持つ基本イメージは、ボクシーな4枚ドアの車体に走りを意識したメカニズムも忘れない、というファミリーカーだと思います。そして、三菱自動車は、このクルマがモデルチェンジをするたびに、必ずと言って良い程、新しい技術を投入してきました。その前向きな姿勢は、この車にラリーなどでの活躍をもたらし、三菱自体の個性的なイメージをけん引してきたことでしょう。そんなランサーの系譜は、車好きな一人としても、一つの関心を払うべきものだったと思います。