【ポルシェ944】20世紀ポルシェ最大のヒット作

ポルシェのフロントエンジンと言えば、パナメーラやカイエン、マカンなどを思い浮かべますか。実は1970年代中頃~1990年代中頃まで、空冷リアエンジンから水冷フロントエンジンへ移行しようとした次期がありました。実際、レースシーンでもリアエンジン勢よりも良い成績を収め、販売台数は商業的にも大成功を収めています。今回は水冷フロントエンジンシリーズ第3弾。944を振り返ってみたいと思います。

ポルシェ944という車

出典:http://www.autoevolution.com/cars/porsche-944-1981.html#

ポルシェ944

1981年フランクフルトモーターショーで発表され、1983年から製造が開始されました。ボディ形状は2ドアの4座クーペです。当時のポルシェ最高責任者ペーター・シュッツの政策で、当初は911の後継車という位置づけでした。1986年発売の944ターボは“世界一ハンドリングが良い自動車(Best Handling Car In The World )”と称され、スポーツカーのベンチマークとして同業他社からマークされる存在でした。当時は販売台数でも911を上回り、商業的な成功と実質的にこの時期のポルシェの経営を支えたモデルになりました。
実は911の後継としてデビューしたのは“928”という車でしたが、サイズが大きくて911の後継にはなり得ないとの判断から、914の後継として設計され当時ポルシェの市販車の主軸だった924の上級モデルとして登場しました。924、928と同様にエンジンをフロントのほぼミドシップに配置し、FRベースのトランスアクスルレイアウトにすることで、前後軸の重量配分をほぼ50:50にしています。ポルシェの代名詞でもある空冷水平対向6気筒エンジンをRRレイアウトで搭載する911シリーズに比べ、理想的な重量配分の944はニュートラルなハンドリングで実に扱いやすい車に仕上がっています。

デザイン:ハーム・ラガーイ
乗車定員:4名
ボディタイプ:2ドア クーペ
エンジン:水冷L4SOHC2,478cc
変速機:5速M/T
駆動方式:FR
サスペンション:前 マクファーソンストラット+コイル
        後 セミトレーリングアーム+横置トーションバー
車両重量:1,120kg

ポルシェの思惑

1970年代当時のポルシェ社長だったエルンスト・フールマンが、新時代のポルシェを創造すべく水冷エンジンをFRレイアウトに搭載する新型車開発に着手しました。空冷エンジン時代のボトムレンジであるポルシェ914という車は、ミドシップレイアウトのおかげでハンドリングは良好でしたが、2人乗りであることに加えて手荷物すらまともに置くスペースがありませんでした。加えてフォルクスワーゲンタイプ1のコンポーネントを流用していたことによる設計の古さもあり、次世代の量産車開発が始まりました。さらに、RRレイアウトによるテールヘビーな重量配分に起因する直進性の悪さや、オーバーステア特性の強い操縦性の克服に長年悩まされていた911に代わる新たな主力車種の開発も始められました。

924の誕生

914の後継車種構想は、当初はフォルクスワーゲンとの共同開発で“フォルクスワーゲン・アウディ・スポーツ”として開発が進められました。部品共有によるコストダウンとVWの生産ラインを使用することでの量産化が前提でしたが、同社の経営陣の交代によって開発は打切られてしまったのです。
最終的にポルシェが案件を買い取ることで、独自商品として開発を続けることになりました。フォルクスワーゲン及びアウディの市場にある部品を流用しながら、コストを抑えてつくられたのが944の弟分にあたる924です。

928の誕生

当時911よりも上級グレードだったジャガーEタイプ、アストンマーティン、フェラーリの12気筒モデルなどのプレミアム・スポーツや、高級パーソナルクーペのBMW・6シリーズやメルセデス・ベンツ・SLクラスなどをターゲットとして企画・開発が進められました。こうしてポルシェのフラッグシップモデルとして誕生したのが928です。

944の誕生

出典:http://www.autoevolution.com/cars/porsche-944-1981.html#agal_1

ポルシェ944

911の後継車として開発された928でしたが、911の後継車としてはサイズが大きすぎたため、911の後目を引き継ぐことはできませんでした。とは言えコストを抑えることを主軸に開発した924では力不足ということで、924以上928未満の市場開拓を狙って開発されたのが944です。

出典:http://passion944.forumgratuit.org/t3-924-gtp-944-lm-1981

ポルシェ944LM

初めて944の名称が使用されたのは、1981年のル・マン24時間レースにヴァルター・ロール/ユルゲン・バルト組の運転で参戦したレーシングマシン“944LM”です。これはポルシェ・924カレラGTのボディーにポルシェ・928のV型8気筒SOHC4.7Lエンジンを半分の直列4気筒とし、ボアアップ、DOHC化、シングルターボによるチューニングを受けたもので、市販車ベースながら総合7位GTプロトタイプクラス3位になりました。後にトランスミッションはポルシェ・956に流用されています。

出典:http://passion944.forumgratuit.org/t3-924-gtp-944-lm-1981

ポルシェ944LM リア

市販車の登場

出典:http://www.conceptcarz.com/view/photo/63007,759/1983-Porsche-944_photo.aspx

ポルシェ944

スタイリングデザインのモチーフになったのは、924のレーシングバージョンである“924カレラGT”です。上の写真と見比べると、フロントバンパー下のエアダム、前後のブリスターフェンダー、ハッチ後端のスポイラーなどに影響が見られます。

出典:http://www.artandrevs.com/porsche-924-carrera-gt/en/pr-39-16

ポルシェ924カレラGT

エンジン

弟分の924とは違い、全てがポルシェ製です。基本的には928のV8エンジンを半分にした片バンクをベースに、5mmボアを拡げボアφ100mm×ストローク78.9mmの2,478cc、SOHC直列4気筒水冷エンジンを搭載しています。V型では問題にならなかった振動が直列4気筒では大きな問題になり、バランスシャフトを用いる方法を採用しました。

特許侵害

ところがバランスシャフトについては、日本の三菱自動車工業がすでに取得していた特許があり、一部書籍では“三菱がポルシェに技術供与した”と受け取れるような記述が見られるものもあります。ポルシェ側は、独自に研究開発していたバランスシャフトが、三菱自動車工業が持つサイレントシャフトの特許に抵触したと説明しています。バランスシャフト自体は、自動車のエンジンに限らず内燃機関に広く利用される技術で、三菱自動車工業の特許はその装着方法(シャフトの位置関係等)のひとつに対するものでした。最終的にポルシェと三菱自動車工業との間の契約として、ポルシェは三菱自動車工業が特許を持つバランスシャフト技術を、三菱自動車工業はポルシェが特許を持つトランスアクスル技術を、お互いに利用することを認めるという内容になったと言われています。

トランスミッション

発売当初から、5速マニュアルトランスミッション車と3速オートマチックトランスミッション車が設定されています。トランスミッションはどちらもアウディ製で、トランスアクスルレイアウトです。

モデルの変遷

1983年にデビューしてから1992年の春までの約10年間で、精力的に開発が進められ幾度となく進化しました。

デビューモデル 1983年

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%AB%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%BB944

ポルシェ944 1983年

【ポルシェ944】
ボア×ストローク:φ100mm×78.9mm
総排気量:2,478cc
圧縮比:9.5
エンジン形式:SOHC・M44/02
マネージメント:ボッシュLジェトロニック
最高出力:155ps/5,500rpm
最大トルク:20.2kgm/3,000rpm(日本仕様:19.6kgm/3,000rpm)
トランスミッショ:5速M/Tまたは3速A/T
ホイールサイズ:7J-15及び7J-16(オプション)
タイヤサイズ:185/70VR15及び205/55VR16(オプション)

特記:924と同様の3連独立メーター、マニュアルエアコン、集中ドアロックはなし
1984年、パワーステアリングをオプション設定、リアスポイラーを標準装備

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%AB%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%BB944

ポルシェ944の内装(ステアリングは非純正)

ターボの登場 1985年

出典:http://www.imagejuicy.com/images/exotic-cars/p/porsche-944-turbo/30/

ポルシェ944ターボ

【ポルシェ944ターボ】
ボア×ストローク:φ100mm×78.9mm
総排気量:2,478cc
エンジン形式:SOHC・KKK製水冷インタークーラー付きターボ・M44/51
圧縮比:8.0
最高出力:222ps/5,800rpm
最大トルク:33.6kgm/3,500rpm
ホイールサイズ:7J-16
タイヤサイズ:205/55VR16
ブレーキ:ブレンボ製4ポッド

特記:トランスミッションは強化されたM/Tのみ
内装はコンビネーションメーター
944とはフロントマスク(バンパー回り)のデザインが異なる
リアバンパーの下にエアスポイラー装備
車両型式で951と呼ばれることが多い
オートエアコン装備
集中ドアロックはなし

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%AB%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%BB944

ポルシェ944ターボの内装

DOHC化 944S 1987年

出典:http://www.porsche-mania.com/porsche-models/porsche-944/

ポルシェ944S

【ポルシェ944S】
ポルシェ928S4のシリンダヘッドを搭載してDOHC16バルブ化しました。
圧縮比:10.9
最高出力:192ps/6,000rpm
最大トルク:23.5kgm/4,300rpm
エンジン形式:DOHC16バルブM44/40
トランスミッションはM/Tのみ

限定車のターボS 1988年

出典:http://forums.pelicanparts.com/porsche-944-turbo-turbo-s/364513-fs-1988-944-turbo-s-9-200-miles.html

ポルシェ944ターボS

【ポルシェ944ターボS】
ターボカップレーサーがベースの1,000台限定車です。フロントブレーキを大径化し、タービンも大型化して250psを発揮するモンスターマシンです。

出典:http://www.porsche-mania.com/porsche-models/porsche-944/

ポルシェ944ターボカップ

排気量が拡大された 1989年

出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Porsche_944

ポルシェ944S2

【ポルシェ944】
ボア×ストローク:φ104mm×78.9mmに変更
総排気量:2,681cc
最高出力:165ps/5,800rpm
最大トルク:22.9kgm/4,200rpm
ホイールサイズ:7J-15
タイヤサイズ:195/65ZR15

【ポルシェ944S2】
ボア×ストローク:φ104mm×88mm
総排気量:2,990cc DOHC
圧縮比:10.9
最高出力:211ps/5,800rpm
最大トルク:28.6kgm/4,000rpm
ホイールサイズ:フロント7J-16 リア8J-16
タイヤサイズ:フロント205/55ZR16 リア225/50ZR16

特記:ABS装備
カブリオレモデル追加
シャシはポルシェ944ターボを流用
内装は944ターボと同じ

【ポルシェ944ターボ】
ブースト圧:0.7Bar
最高出力:253ps/6,000rpm
最大トルク:35.6kgm/4,000rpm
ホイールサイズ:フロント7J-16 リア9J-16
タイヤサイズ:フロント205/55ZR16 リア245/45ZR16

特記:集中ドアロック装備
リアシートは3点式シートベルト

出典:http://www.porsche-mania.com/porsche-models/porsche-944/

ポルシェ944S2カブリオレ

モデル末期で熟成 1990年

出典:http://rennlist.com/forums/944-turbo-and-turbo-s-forum/172983-what-color-bings-out-the-porsche-in-you.html

ポルシェ944S2クラブスポーツ

【ポルシェ944S2】
ダイアグノーシス採用
セキュリティーシステムとアンチロックブレーキを標準装備

【ポルシェ944S2クラブスポーツ】
サーキット走行を想定したスポーツモデル
快適装備を外して軽量化しスポーツオプションの足回りが標準装備され、大型フロントブレーキとLSDを標準装備
【ポルシェ944ターボ】
リアスポイラーをウイングタイプに変更
この年で生産終了

最後にまとめ

ポルシェ944は924をベースに開発を進められました。924と同じホイールベースに広いトレッドを持つベストハンドリングマシンと言えます。ブリスターフェンダーになったルックスも迫力がありますね。20世紀のポルシェの中で一番売れた人気モデルです。後年になって空冷エンジンの人気が再沸騰すると、水冷フロントエンジンシリーズの中古相場が暴落しました。実際、“ポルシェの入門車”とか“プアマンズポルシェ”なんて呼び方をする人もいました。ですがこうしてみてみると実によく練られた設計ですし、純粋に操縦性能を追求した車づくりが出来ていますよね。私がメカニック時代はまだ現役モデルでしたので、944や944ターボに乗ったことがあります。実に素直なハンドリングでアクセルレスポンスが良いという印象でした。おしりの重たい911よりもずっと扱いやすかったと記憶しています。中でもDOHC3.0Lになった944S2は、1気筒あたり750ccというトルクフルながらDOHCにしてよく回るエンジンをターボのシャシに載せています。街中から高速道路まで、さらにはサーキット走行まで楽しめる車に仕上がっていました。“フロントエンジンだから”とか“空冷エンジンじゃないから”などなど、“ポルシェはかくありき”に縛られた人たちはいろいろなことを言ったものです。ですが、レースでの成績や、ワークスチームがレースカーに採用していた事実が、何よりも944の素性の良さを物語っていると思いませんか。現代では911は水冷エンジンですし、パナメーラはフロントエンジンです。そういう角度から見れば、30年以上も先を歩いていたと言えます。911とは路線が違いながらも、ポルシェが本気でつくったスポーツカーなんです。