【ポルシェ カレラGT】今なお語り継がれるポルシェの本気が詰まったスーパースポーツ

2000年代に発表されたスーパーカーの代表として圧倒的な支持を誇るポルシェ カレラGT。数々のレーシング技術が用いられたこのクルマに垣間見える古臭い部分。しかしそれは時代遅れのテクノロジーではなく、あえてそれを取り入れたポルシェのクルマに対するこだわりなのかもしれません。生産中止から10年が経とうとする今、改めてその魅力を振り返ろうと思います。

ポルシェ カレラGT

プロローグ

1990年代後半において、各スーパースポーツカー開発を担うマニュファクチャーたちは新たなスーパーカーの軸を作り上げました。その軸とは圧倒的な馬力、大排気量はもちろんのことながら、F1やル・マンなど世界のトップカテゴリーでレースする彼らならではのものでした。トップカテゴリーで用いられるテクノロジーやデザインを公道を走ることを基準に考えられたロードカーに取り入れようと考えたのです。それはまさにスーパーカー新時代の幕開けでした。2000年初頭になると、あらゆる最新鋭のエンジニアリングやテクノロジーはスーパーカー開発のために惜しみなく導入され、数々の名車が生まれました。そして2000年、ポルシェもその流れに乗る形で「カレラGT プロトタイプ」をパリ・モーターショーにて発表しました。ポルシェが満を持して繰り出す本気のスーパーカーの登場でした。

カレラGTの登場

「カレラGT プロトタイプ」発表から4年の月日が流れた2004年、ついにカレラGTが発表となりました。それまでポルシェがこだわり抜いていたRRの駆動方式は用いれられず、カレラGTはMRのミッドシップスーパーカーとなりました。販売価格は5,000万円と発表され、ポルシェでは過去最高額のクルマとなりました。しかし、そこにはその値段に見合うポルシェならではのテクノロジーやエンジニアリングが施されていて、販売が開始された2004年から販売終了する2007年までの間に1,270台が生産されました。日本国内でも当時のトップ3に入るほどのスーパーカーで、同時期に発表されたエンツォフェラーリが1億円近い販売価格だったということもあり、エンツォフェラーリの対抗馬としても大きな注目を浴びました。

歴史

ポルシェがカレラGTの開発に着手し始めたきっかけは、最初のカレラGTの製造に関するアナウンスがあった2000年より2年遡る1998年にありました。この年数多くのGTカーレースシリーズに参戦していたポルシェはFIAとACOが行ったレギュレーション変更に頭を悩まされることになります。そのレギュレーション変更に伴い、ポルシェはそれまでポルシェレーシングカーの最前線であった911 GT1とLMP1-98のデザインの使用を終了し、新たなレーシングカーのコンセプトを作り上げることを強いられました。そこで新しくレーシングカーを設計することになり、そのプランは「ル・マン プロトタイプ 1999」と名付けられました。当初そのレーシングカーは直列6気筒のエンジンを採用する予定でしたが、その後デザインは一新され新たなV型10気筒のエンジンが採用されました。ポルシェのV10エンジンの開発は1992年に始まっていました。当時F1に参戦していたフットワークF1チームのためポルシェが極秘で開発を行っていたのです。そのエンジン開発は結局白紙になりV10開発は切り上げられていましたが、1999年その開発が新たなレーシングカー設計に伴い復活しました。1992年当初のV10開発案からル・マン プロトタイプ 1999に適合するようにいくつか変更された点もありました。ル・マンカーのためにエンジンサイズもより大きく改変され5,700ccになりました。開発の遅れもあって、当初は1999年のル・マンカーに搭載するエンジンとして企画されていましたが、その計画は2000年に持ち越しされました。そして、1999年半ばポルシェはこのレースのために仕上げたV10エンジンを市販車にも活かせないかと考え始め、カレラGTのコンセプトが生まれることになります。

エクステリアデザイン

カーボンを多用したボディ構造

カレラGTのボディは90年代のスーパーカーの台頭でもあるマクラーレンF1のようなモノコックを使用した手法は使われませんでした。その代わりとして、カーボンファイバーが使用されフレームを連結させて構成するというスーパーカーとしては異例のボディ構造がカレラGTには用いられました。しかしカーボンの使用は車重の軽量化の面で大きな効果を見せたほか、シャシーに高い剛性を持たせ、ポルシェがもくろんでいたシャシーのしなりを利用してのコーナリングを実現させることに成功しました。さらにタルガトップの導入にも何の支障もきたしませんでした。

ル・マンレースのために開発された大容量エンジン

カレラGTは前輪と後輪の間にエンジンを載せたMRの駆動方式が使用され、今までのポルシェとは一味違ったクルマとなりました。そのエンジンはル・マン レーシングカーのために作られたV型10気筒で、馬力は600馬力を超え、排気量も5,700ccにもなる大きなエンジンです。カレラGTのコンセプトが持ち上がった時点では排気量は少し抑えた5,500ccが考えられていましたが、後に開発したエンジンをそのまま載せることが決定しこの大排気量となりました。性能も申し分なく、0-100km/hまでわずか3.5秒、最高速度は330km/hを上回る性能を誇ります。

トランスミッションに見るポルシェのDNA

カレラGTのトランスミッションは6速マニュアルミッションです。1990年代後半~2000年代前半、F1シーンでは主流になったパドルシフトの影響をスーパーカーはもちろんのこと市販車も強く受けていました。実際にカレラGTと同時期に発表されたスーパーカー、エンツォフェラーリはパドルシフトが採用され新しいスーパーカー時代の象徴となりました。パドルシフトをあえて導入しなかったポルシェですが、このポルシェの6速マニュアルミッションという選択はいかにもポルシェらしさを残すものでした。過去にも時代の波にあえて乗らずRRの駆動方式を貫いていたポルシェ。カレラGTはMRのクルマですがそれでもクルマを操る喜びをできるだけ削りたくないというポルシェのスピリットが、この6速マニュアルミッションからも垣間見えるような気がします。さらにそれだけではなく、カレラGTはポルシェの伝説的なル・マンカー、ポルシェ 917に敬意を表し、917にインスパイアされた木製のギアノブが使用されています。カレラGTももともとはル・マン レースカーが基であるだけに、しっかりとそのDNAは受け継がれていることが確認できます。

最新のエンジニアリングが詰まったブレーキ

カレラGTのブレーキにはF1にも用いられるカーボンディスクのブレーキが採用されました。このポルシェの最新鋭を注ぎ込んだブレーキの制動力は抜群で、同時に高い耐久性と耐熱性を実現させました。

カラー

ポルシェが公式に発表したカレラGTのオリジナルカラーオプションは5種類です。ガーズ・レッド、フェイエンス・イエロー、バサルト・ブラック、GT・シルバー、そしてシール・グレイが発表されました。

カレラGTに宿る”ポルシェ”のレーシングスピリット

ル・マン レーシングカーの開発中に生まれたこともあり、カレラGTにはその随所にレーシングカー特有の特徴を見ることができます。上記のようにエンジンやブレーキももちろんのことですが、そのサスペンションもレーシングカーに用いられるダブルウィッシュボーン式、シャシーにもカーボンが多用されたためこれだけの大型のエンジンを搭載しながら車重は1,380kgに抑えられています。これだけレーシーな使用をしているにも関わらず、テクノロジーの工夫のされ方や外観は”ポルシェ”らしさが満載で、誰が見ても一目でポルシェだとわかるようになっています。その理由はカレラGTのデザインを手がけたのが、ポルシェ 911のデザインを手がけるチームと同じだったからです。そのため、とことん速さを追求したレーシングマシンに限りなく近いクルマでありながら、ポルシェの印象を強く残すことに成功したのです。

内装・インテリア

内装はレーシングカーを基にしたスーパーカーにとっては非常に方向性が難しい部分です。単なる高級車なら内装はラグジュアリー感満載のシートやインテリアにすればそれで話は済みますが、スーパーカーはもっとレーシーな要素を内装に取り入れることを要求されます。しかし、返ってレーシングカーのような内装にしすぎてしまうと、今度は逆に快適性が失われてしまいます。例えば、フェラーリF430 スクーデリアはレーシングカーとしてはある一定以上の評価に値するほど完成度の高いクルマですが、その内装はあまりにもレーシングの要素が強く、シートはホールド性を重視したため硬い上、音楽を聴くためのスピーカーやナビゲーションシステム、高級なマットすらなく、快適な高級スポーツとは言い難いものでした。
その点、カレラGTは非常にバランスよく仕上げられており、シートはホールド性がありながらも柔らかく座っていて快適なレザーシートが使用されています。さらにBOSEのスピーカーとナビゲーションシステムも標準装備されています。スピードメーターの表示は380km/h、シフトレバーの位置はかなり高めの位置に設置されています。エンジンスターターの位置は”ポルシェの伝統”である左側に設置されてあり、ここにもポルシェの配慮が見えます。

走行性能

圧倒的な加速

カレラGTの加速は凄まじく、レーシング用に開発されたV10エンジンのハイパワーに加え、その車重の軽さも手助けし、レッドゾーンの8,400rpmまでスムースに一気に駆け上がります。φ169mmの超小径のクラッチはスタートダッシュには最適で、静止状態から一気に背中を蹴飛ばされるような加速に容易に持っていくことができます。このクラッチのおかげでエンジンを低い位置に搭載することが可能になり、重心を低くしマシンバランスを最適に保つことを可能にしたほか、耐久性にも優れるまさにレーシングカーには打って付けのクラッチです。一方で、この超小径クラッチは街乗りに弱点があって、クラッチミートが一般のクルマに比べて難しいため、信号待ちの場面などでは慣れが必要かもしれません。

レーシングカーから引き継いだパフォーマンス

600馬力を超えるハイパワーを持っていながら、スロットルからタイヤに伝わるそのレスポンスは決してパワーが手に余って扱いきれないような、じゃじゃ馬特性ではなく逆にドライバーが思うがままのレスポンスが返ってくるとても扱いやすい仕上がりになっています。300km/hにもなる高速走行のなかでも、念入りに設計されたエアロパーツや110km/hを超えると作動するリアスポイラーのおかげで非常に安定した走りを生み出しています。またコーナリングも凄まじく、シャシーの高剛性に加えてダブルウィッシュボーンのサスペンションが単なるスポーツ走行とは違う、1つ次元を超えたようなコーナリングを可能にしてくれます。その非常に高いレベルの走りはまさにレーシングカー譲りです。

スペック

全長:4,613mm
全幅:1,921mm
全高:1,166mm
ホイールベース:2,730mm
車重:1,380kg

エンジン

エンジンタイプ:68° アルミニウム DOHC V型10気筒
バルブ数:4バルブ
ボア・ストローク:98.04mm×75.95mm
圧縮比:12:1
馬力:605馬力@8,000rpm
トルク:590N・m@5,750rpm
レッドゾーン:8,400rpm
トランスミッション:6速マニュアル 2セラミック・ドライ・クラッチ

ボディ

積載量:76L
地上最抵高:86mm

加速性能

0-100km/h:3.57秒
0‐200km/h:9.9秒
0‐400m:10.97秒
0‐1,000m:19.42秒
最高速度:328.2km/h

制動性能

160km/hから停止:84m
100km/hから停止:32m

まとめ

いかがだったでしょうか?
2000年前半より始まった新世代のスーパーカー時代、レースシーンで使われる最新鋭のテクノロジーやエンジニアリング技術がますます進歩し、それらがスーパーカーと呼ばれるクルマたちをさらに進化させました。その速さは本物のレーシングカーに肉迫し、その技術はドライビングをより快適に、そしてより高性能にしました。そんな中で登場したポルシェ カレラGT。この時代の他のスーパーカーに負けず劣らずのテクノロジーを持ちながら、ポルシェであるが故の”らしさ”も数多く兼ね備えた、何とも魅力的なスーパーカーなのです。