【プジョー 205】舶来品&くどさなし、だから惹きつけるフランス流

日本みたいな市場で、欧州もの、特にフランス産の製品が好まれる理由の多くは、日本のセンスからは生まれそうもない雰囲気にあると思います。1980年代にフランスからやってきた車プジョー 205、当時はハイセンスなピープルがこぞって欲しがっていたと記憶しているのですが、今こうして振り返ると、ルックスから独特なムードを発していても、普通の2ボックスだったんです。とはいえ、その生涯にもドラマがありました。

205、youは何しにニッポンへ?

唐突ですが、1986年に日本の自動車業界が何をしていたか? と言うと、2月にはトヨタ自動車からスープラ、日産自動車からはサニーRZ-1が、11月になるとダイハツからはリーザという、それぞれスペシャリテな感じのあるクーペが登場していたり、あるいは、10月にはホンダからクイントインテグラの4ドアセダンが、それに先んじて8月には日産からSUVのテラノが登場したりと、景気が良かった時代ということもあるのでしょうか、それは多様性と華を感じさせる新製品が現れた季節だったのです。
すでに、大きく豊かに成熟した日本の自動車文化の中では、好みのクルマが(ローンを組んででも)自由に手に入った訳ですから、それ以上に欲しいと思うクルマなんてなかったろうと思えるのですが、でも、人の好奇心というのは本質的にとどまる所を知らないものです。なにせ、資本主義経済を推し進める原動力は、そんな好奇心と技術的イノベーションなんですから。
まぁ、そんな世の中の余白、というか伸びしろの部分に生まれる市場が、海外からの輸入品ということになるんでしょう。そんな1986年当時、ブランドとして認知度をまったく獲得していなかった、日本のマーケットへ初輸入されたのが、あのプジョー 205だったんです。とは言え、205自体その3年も前に本国フランスでリリースされていたという、新鮮味よりもほぼ出来上がった感のある製品でした。
当時のプジョー本体も、さほど日本市場に関心がなかったのか、あるいは日本の経済が輸出の一方通行で、外に対しては閉鎖的だったからなのか、その両方が理由なのかもしれませんが、ずいぶん遅まきなスタートではあります。とにかく、この時点で売り込む玉が揃っていたというのは、新規参入に近い企業にとっては好ましい状況だったとも言えるのでしょう。
そのスタイリングの評価は、個人の好みに寄るので断定もできかねますが、あえて言ってみれば、ダサくもないけれど、スタイリッシュかと言えばそれ程でもなく。それでいて無個性とも言えず、バタ臭くもなくドライだけど、日本車とは違うという、今見ても独特な一台でした。とにかく、殆ど顧客を持っていなかった日本において、このブランドのための素地を築いたのが、このプジョー 205だったのは確かなんです。

実はすごかったプジョー 205のルーツ

神戸とか横浜の港へ、プジョーの車が本格的に送り込まれるようになったのは、今から高々30年前の話なんですよね。しかし、ちょっと調べると、この企業には、軽んじてはいけない程の長い伝統があることが分かります。プジョー家が大きな農家としてフランスの歴史に登場したのは、なんと15世紀にさかのぼるというんです。もともと、技術者や軍人など、多岐にわたる人材を輩出した一族でもあります。
そのプジョー家が、本格的に工業界の実業家に転身したのが1810年だそうで、まずは製鋼所を設立する所から出発しています。最初に作り上げた乗り物は3輪式の自転車、それより前は手回しのコーヒーミルとか、金属製の道具類なんかもやっていたんですね。
そして、そんなプジョー社を自動車産業の道へ導いたのが、1849年生まれのアルマン・プジョーという人です。1890年に彼が作った最初のプジョー自動車は蒸気機関を搭載していましたが、すぐにその限界に気づき、早々にダイムラー製のガソリンエンジンへと換装した、という話も残っています。
1925年になると、プジョーの自動車は年間の生産が20,000台程にもなっていたそうですし、1928年には初のディーゼルエンジン車を投入したり、第二次大戦直後の1948年にはモノコックボディーを採用したりと、自動車の黎明期から先進的な取り組みで、この産業と技術の発展に貢献してきたのが、このプジョー・ブランドだったんです。
正直、おそれいりました。205の事を可もなく不可もないクルマの様に評してしまい、本当に反省しきりです。

プジョー 205、日本向けは完成型!?

1986年当時の日本人は、フランスの事なんて今よりもっと分かっていませんでしたから、プジョー 205は、言ってみれば、「ワイキキで流行っているパンケーキ」と大差ない存在で、つまり、それに接する人々にも、今流行みたいだから購入したい、という程度の意識しかなかったかもしれません。その205、日本に投入されたモデルはかなり限定的でしたし、実際のところ、さしたるデザイン上のオプションも付けずに、グレード名だけで20以上にも分割しているという、やはり、熱が感じられない訴求戦略で販売されたクルマです。とは言え、フランスのプジョー社においては、1983年から1998年まで販売された、人気モデルだったことも確かなようです。

205は5ドアが最初に登場

20世紀も後半になったころでは、プジョーが製造する自動車のスタイルは、どちらかというと固いセダンタイプが多い、との印象を持たれていたようですが、1978年にクライスラーの欧州部門シムカなどを買収した事で、205のような中堅サイズの小型で遊び心のある車種を開発する道筋が開けました。1983年にはすでに、104という『超小型車』が存在はしていましたが、その上の車格を埋めるために生まれたのが、当初はプジョーM25のコードネームで開発が進められていたという、このプジョー 205の初号機だったのです。その205は、まず、5ドアのワゴンのボディータイプではじまり、後の3ドアハッチとカブリオレ(オープンカー)が追加されています。
ボディデザインについては、イタリアのピニンファリーナが担当している、という噂もあったそうですが、当時のデザイナーであるジェラルド・ウェルター氏は、基本的にはプジョー本社内部のもので、ピニンファリーナのデザインはカブリオレのみだと語っているそうです。(ただ、諸説あります)
初期設定で、205のためにプジョーが用意したエンジンは、1.0、1.1、1.4、1.6リッターのガソリンと、1.8の自然吸気ディーゼルでした。ガソリンエンジンにシングルポイントの燃料噴射が投入されるのが、1990年になってかららしいので、やっぱりこのメーカーのクルマ作りは保守的だ、と言えばそうだったかもしれません。サスペンションは、前輪にマクファーソンストラット式を、後輪にちょっと変わって、トレーリングアームとトーションスプリングで構成する、トーションバー式という、独立懸架が使われています。
ちなみに、発売開始直後に競い合った欧州カーオブザイヤーでは、フィアット ウーノに大賞を奪われてしまい、そのことが、この205の販売初期のつまずきになった、とも言われています。

205、フランス流の正解!?

製品としてのライフが長いプジョー 205ですが、その期間の間でも、まるで窓のブラインドみたいにも見えるフロントグリルや、ライトの形状、基本的にシャープだけれど簡素なボディーのシルエットなど、外観上の変更はほとんど受けておりません。トランスミッションも、殆どのグレードで5速マニュアルしか設定しておらず、それらのグレード自体も、ほぼ、エンジンの変更・追加のみによって追加され続けた感があります。
ほとんど、ギミックが取り付けられていない、そのボディーデザインは、一線んを踏み出したくないという、当時のプジョー社のメンタリティーが表れていたのかもしれません。つまりそれは、フランス人流の気取りとか節操とかが自然に滲み出した結果であって、だからこそ1986年の日本みたいな市場で一種のエキゾチシズムを発散でき、かなりの人気を博した、とも言えるのでしょう。
そして同時に、あの3ドアハッチバックの205には、お洒落さとスポーティーさが備わってもいて、それが当時の日本人が求めていたプラスアルファと上手く合致した結果、今でも記憶に残る一台となったのだと思います。

205GTi、は今でも欲しいホットハッチ

ハイパフォーマンスで格好いい輸入車の面目躍如たるのが、プジョー 205GTiです。すでに、ヨーロッパでは1984年に発売となっていましたので、初期段階から当然のように日本へ輸入されています。そのエンジンは1.6リッターで、出力が105psと115psの二種類あり、もちろん変速機は5速マニュアルです。
プジョーの経営陣は、ブランドを引っ張るこの象徴的なモデル、205GTiにおいても、また、さしたる外観のオプションを追加していません。強いて言えば、大型化したタイヤに合わせボディーを調整した程度です。まるで、ユーザーに対しては、欲しいんなら買えば? と言い放っている印象すらあるのですが、そのホットな走りは世界的に人気を集め、諸外国における当時のプジョー像をひっくり返したのも事実だそうです。
しかし、走りに一番大切なのはサスペンションです。その形式は、オリジナル205とは大きな変更がないものの、このGTiにはかなり固めの設定をしたようで、1985年の段階でややソフトな方向へチューンし直してもいます。さらに、ウィッシュボーンの形状見直しや低めに設定した車高などの改良&チューニングが施され、華美なことを恐れていたイメージがある当時のプジョーとしては、このモデルで、大胆にスポーツカー寄りへ踏み出した、と言えるのではないでしょうか。
そして、ピニンファリーナがデザイン&製造に関わったと言う、例のカブリオレ、1.6CTi、が登場したのは1986年、これはGTiからそのループを切り取って、幌に取り換えたと言って良いオープンカーです。また同年、クローズドボディーのGTiには、1.6からストロークを拡張した1.9リッター版の、ハイパワーエンジンが追加されています。この1.9GTi向けエンジンは、発売の初期は、128psを発揮するものでしたが、その後、排ガス浄化のために触媒が追加され、122psという、ややおとなしいスペックへ落ち着きました。
205全体の製品寿命も長いですが、その間にスポーツモデルであるGTiには、いくつか限定モデル(もしくは応用モデル)が作られています。たとえば、Griffe 、というモデルはヨーロッパ専用の限定モデルで、ブラックにまとめられたフルレザー仕様のインテリア、電動サンループにパワーステアリング、ABSなど、当時用意されていたオプション全てが網羅されたバージョンです(エアコンは別でした)。
もう一つの限定モデル、1FM、は、イギリスBBCラジオ局の25周年を記念したモデルで、25台のみが製造され一台ごとに固有の番号を振ったプレートが張り付けられているそうです。これには、クラリオンの特製オーディオ(CDチェンジャー付き)という気の利いた装備も加えられました。
しかし、そういった諸々を振り返った時、なお、この205GTiについて、ちょっと不思議というか、プジョーらしさみたいなものを感じさせるのは、そのブレーキの設定かもしれません。1986時点で1.9リッターモデルが登場し、やっと四輪ディスクブレーキとなりましたが、その時点でも1.6リッターのGTiには後輪にドラムブレーキが使われていたりして、何というか、車作りに対するアグレッシブさが薄かったのか、性能的に十分だからそれ以上は必要ない、という節度と合理性からなのか、欲張り過ぎると良くないという戒めなのか、どちらにしても、プジョーというメーカーの素性と、そこから生まれた205という車、の本質が、そこに垣間見る気もしてくるんですね。

205 Rallye、さらにスポーツ度合を高めて

今みると、半分はクラシカルな世界に居るのが、プジョー205という車だ、と言っても良いと思うのですが、プジョー社はそんな中でも、運転する相手を選ぶようなクルマを、たまにひょこっと出したりしています。それが、GTiをベースとしてさらなるチューニングを施した、プジョー205 Rallyeというタイプです。
1988年から1992年に製造された、この205 Rallyeは、オーディオその他の快適装備を極限まで取り外し、究極の軽量化をはかったという、一種の競技ベース車両と言えるモデルで、その重量は794kgまで削減されていました。フロントグリルには、開発を行った、プジョー・タルボ・スポールのカラフルなロゴが描かれていて、ボディー色はホワイトのみ。エンジンには1.1リッターのボアを拡大し、1294ccの排気量としたものが搭載され、出力は103psを絞り出していました。ブレーキは、前にベンチレーテッドディスク、後ろは相変わらずのドラム式です。
プジョー 205 Rallyeには、ドイツ限定モデルとして1.9リッターエンジン搭載車が、1990年に発売となりましたが、出力105psのこのエンジンは、当時のドイツ国内における規制に合わせる目的で、オリジナルの1.3リッターから変更されたものです。この車種は、ヨーロッパの特定の国でのみ販売され、最終的に30,000台を超える台数が出荷されたと言うことです。

ディーゼルの205

以前から、ディーゼルエンジンはヨーロッパの方が評価が高い、と言われています。一般的には、圧縮率が高く、エネルギーを取り出す時の効率もガソリンエンジンより良いので、Co2排出量が低くなるのが期待できる、と認知され、環境意識の高い人が選ぶエンジンだと思います。そして、プジョーもヨーロッパメーカーですから、205のために、当初からディーゼルエンジンを用意していました。
この1.8リッターエンジン(XUD7)は、ことのほかユーザーに評判が良く、当時として、同じプジョーの1.4リッターのガソリンタイプより、スムーズで回転も良く吹け上がると言われ、さらにディーゼルの経済性も好まれたので、かなり売れたという話もあります。
1991年には、205へターボ過給付きディーゼルを搭載したモデルも加わっています。後々、このターボにはSTDT(スペシャル・トリム・ディーゼル・ターボ)というグレードが作られました。これは、従来の205ターボにGTi系の装備・変更点などを移植したグレードです。バケットシートに上質な内装など、上級ビジネスマンへ訴求するように設定されたのが、このSTDTで、電動パワーウィンドウや電熱式のミラーなどもついていたそうです。

T16(モンスター)の登場

自動車のオールドファンですと、プジョー205、の名前を、こちらのタイプ名と一緒に憶えている方が多いかもしれませんね。プジョー 205T16は、あのプジョーがWRCでの成功を本気で求めて作り上げた、グループB仕様のスーパースポーツカー。しかし、同じ名前をシェアし、見た目も205の3ドアをベースにしていた、とは言っても、その中身はびっくりするほど違うマシンでした。

ホモロゲーションモデルは、怪物

ホモロゲーション。モータースポーツの世界では、一般的に、競技に出場するマシンとしてFIA(国際自動車連盟)から受ける認定、のことを指す言葉です。そして、その一種類でありグループBと呼ばれた規定は、モータースポーツの歴史の中でも、ある意味、一番カゲキだったと評しても良いでしょう。プジョー 205が生まれるのと時を同じくするように発足したこの規定は、WRC(世界ラリー選手権)に出場するマシンのための規則で、連続する12ヵ月に200台生産された車を、市販車として公認する、というものでした。
表向きで、ラリー車両はロードカーの改造車両でなければならない、と言っていたとしても、この規定の誕生により、ほぼプロトタイプカーであっても、ラリーの世界チャンピオンを競う舞台へ、乗り込むことができるようになった訳です。そして、このことが、あのプジョーの中の何かに火を付けてしまったらしいのです。

夢のスーパー・プジョー

プジョー 205T16の、16はDOHC16バルブを指し、T、はターボの意味。それにより過給されるエンジンは、なんと、ドライバーシートの背後と後輪の前に横置きされるミッドシップレイアウト、排気量は1,775ccで、(200台の)ロードバージョンでは、概ね200ps程度の出力を発揮しましたが、WRCに持ち込む本番バージョンになると、最終的に400psオーバーを絞り出しました。このエンジンのブロックは、ディーゼル用の鋼鉄鋳造タイプをベースに改造されたものだと言います。
さらに、駆動方式はフルタイム4WDを採用して、当時のWRCで覇権を握っていたアウディクワトロに対抗しました。それらの機構を保持する車体の構造も、いわゆる普通の車である205とはまったく変えられ、車室を覆うシェルの前方を鋼管チューブラーのフレームとし、ダブルウィッシュボーン式のサスペンションを装着、リア部分はチューブラーに鋼鉄パネルで補強して、強力なエンジンとリアのダブルウィッシュボーンサスペンションが、その部分に組み付けられました。
保守的なプジョーが、はじめて205のために行った、メジャーな設計変更、なんてことさえ言えないほど、本当に別物のマシンに生まれ変わったT16ですが、この試みは大成功を収め、1985年のWRCをティモ・サロネン、1986年はユハ・カンクネンのドライブにより、それぞれ、ドライバーと製造者の両タイトルを連続奪取しました。
グループBカーがWRCを走った時代は大変短かったですから、その最後の2年間。チャンピオンの栄冠を勝ち取り、いろいろな意味で歴史に名を残し、人々の記憶にも残ったのが、このプジョーのモンスターマシン、205T16だったのです。

まとめ

今、プジョーの公式ページを開くと、モダンな曲線美を身にまとった車の写真が並んでいます。もちろん、そのフロントグリル中央には、時代を超えて全車種に共通したライオンのエンブレムが、誇らしげに飾られています。それを今、こうしてプジョー205と見比べてみると、まったく別次元のデザイン性でありつつも、どこか共通するセンスを感じてしまう、と言う訳で、それはある種の不思議な感覚です。
当時のプジョー社は、この205に過度な開発コストをかけることなく、15年の長きにわたり製造しつづけました。そこには、これが幸いのヒット商品だったという理由もあるのでしょうが、同時に、ものつくりや商売に対する、同社独特の考えが表れているような気もします。
開発段階から、無理して何かを盛り込むようなことはしない、という姿勢は、一度も使わないような機能ばかり搭載して、それを進歩だと言い張る最近の製品が、もうちょっと見習っても良いのかもしれませんね。

【基本情報】
名称:プジョー205GTi 1.9
エンジン排気量:1,905cc
エンジン出力:131.8ps / 6,000rpm
エンジントルク:16.45kgm / 4,750rpm
全長:3,705mm
全幅:1,572mm
全高:1,372mm
重量:875kg
ホールベース:2,420mm
サスペンション:マクファーソンストラット式(前)/ トーションバー式(後)
最高速度:123mph
0-60mph加速:7.8sec

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