【トヨタ セラ】日本で初めて採用されたバタフライドア

かつてトヨタが“ガルウィングドア”を市販車で採用したことがあるってご存じですか。トヨタ車のなかでは後にも先にもこの車だけだと思います。いや日本中見渡しても、他にはマツダのAZ-1くらいではないでしょうか。生まれてきたいきさつや当時のトヨタの思惑なども含めて、今回はこの特別なトヨタ車“セラ”について振り返ってみたいと思います。

AXV-IIの存在

出典:http://www.carstyling.ru/en/car/1987_toyota_axv_ii/

時はバブル真っ只中の1987年。東京モーターショーに出展された“AXV-II”というコンセプトカーです。車づくりの方向性が“乗る楽しさ”から遠ざかってしまった現代では考えられないコンセプトですが、勢い余っていた当時は、これ以外にも“およそ実現しないだろう”というコンセプトカーがたくさん出展されていた時代です。
トヨタさんも、すぐに市販化する気などはなかったのだと思いますが、出展してみたらバカウケしてしまったので「それなら市販化してみるか」となったのは容易に想像できます。当時の車雑誌には軒並み“NVX-IIの市販化はいつ?”というような内容が踊っていましたから、トヨタさんもその気になってしまったのでしょう。
いくら反響があったからといって、コンパクトクーペのドアをガルウイングにしてしまうあたりには、バブル経済のパワーを感じます。とにかく作る側(メーカー)も買う側(ユーザー)も、現代とは勢いが全然違うことを感じずにはいられません。その勢いに乗っかって、1990年に市販デビューをはたします。

トヨタ・セラという車

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%A8%E3%82%BF%E3%83%BB%E3%82%BB%E3%83%A9

NVX-IIコンセプトから3年。1990年に市販車がデビューしました。その名は“セラ(Sera)”です。フランス語で“意志”を表す言葉ですね。そうです。あの“ケ・セラ・セラ”の“セラ”です。どうです、この大胆なデザイン。トヨタの車とは思いがたいですね。“グラッシー・キャビン”と表現された天井が全面ガラス張りというのも驚きでしたが、なによりも驚いたのはその売れ行きでした。最近のプリウスほどではないかもしれませんが、およそ実用的とはいえないセラに初期注文が殺到したのです。

トヨタ・セラ スペック
ボディタイプ:クーペ
ドア数:3ドア
乗員定員:4名
型式:E-EXY10
全長:3,860mm
全幅:1,650mm
全高:1,265mm
ホイールベース:2,300mm
トレッド前/後:1,405/1,405mm
室内長:1,675mm
室内幅:1,380mm
室内高:1,055mm
車両重量:890kg
エンジン型式:5E-FHE
最高出力:110ps/6,400rpm
最大トルク:13.5kgm/5,200rpm
種類:直列4気筒DOHC16バルブ
総排気量:1,496cc
内径×行程:74.0mm×87.0mm
圧縮比:9.8
過給機:なし
燃料供給装置:EFI
燃料タンク容量:40リットル
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
10モード/10・15モード燃費:14.6km/リットル
ステアリング形式:パワーアシスト付きラック&ピニオン
サスペンション形式(前):ストラット式コイルスプリング(スタビライザー付)
サスペンション形式(後):トーションビーム式コイルスプリング(スタビライザー付)
ブレーキ形式(前):ベンチレーテッドディスク
ブレーキ形式(後):ドラム(リーディングトレーディング)
タイヤサイズ(前):175/65R14 82H
タイヤサイズ(後):175/65R14 82H
最小回転半径:4.6m

新車販売価格:5速M/T 1,600,000円
       4速A/T 1,675,000円

セラにまつわるいろいろ

苦労したボディーワーク

ガルウイングドアを採用した上にグラストップなので車体上部に重量がかさんでしまい重心が高くなってしまいました。そのためにロール角を減らす対策として、特にリヤ廻りのロールセンターが引き上げられています。足廻りはベースとなったEP82スターレットほぼそのままで、フロントはスタビライザー付きのマクファーソンストラット、リヤはトレーリングアーム+ラテラルロッドを採用しています。ショックアブソーバーやスプリングをはじめ、サスペンションマウントブッシュやスタビライザー、ラテラルロッドまで、EP82向けの社外品を流用することが可能です。
ブレーキもEP82と同様で、フロントは浮動式シングルピストンのベンチレーテッドディスク、リヤはリーディング・トレーリング式ドラムですが、メーカーオプションとして4輪ABSの装着が可能で、その場合はリアがソリッドながらディスクブレーキになります。
ボディーカラーは当初はメタリック系統のみでしたが、マイナーチェンジを受けて黒や赤などのソリッドカラーも追加されました。そのマイナーチェンジと同時に、濃いグレーのウレタン樹脂製だったリヤスポイラーの形状が変更され、ボディー同色のガラス繊維強化プラスチック製となり、ハイマウントストップランプも内蔵されました。

丸見えの内装

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%A8%E3%82%BF%E3%83%BB%E3%82%BB%E3%83%A9

グラストップを採用しているためにセラの車内は外から丸見えです。それを気にしてのことだと思いますが、セラの内装は少々凝った形状をしています。ダッシュボードの造形やメーター基盤の文字や色は運転席を主体としたデザインで外部からは見えないので、外から覗き込まれても見栄えが良いように上手くまとめられています。ドアを肘で押し上げる際に使うドア内張の凹みや、ドアを閉める際のグリップ部なども考えられた形状となっていて、多少のコツは必要ですがドア開閉時の利便性は悪くありません。
前席にはセミバケット形状のシートを、後席は完全セパレートのシートが採用されていますが、大人4人が乗車するには少々窮屈であると言わざるを得ません。ほぼ同じサイズのEF型CR-Xも同様ですが“ワンマイルシート”と揶揄されることもあります。むしろ2+2というか、手荷物のためのスペースと割り切るべきでしょう。
後席部分も前席と同じように、グラストップによって外部からは丸見えです。およそ使い道のない後部シートですが、マイナーチェンジ後にはELR機能付きの3点式シートベルトが備わります。カーオーディオには、オプションで10スピーカー(F/R4スピーカー+センター+F/R4ツイーター+サブウーファー)+DSP機能を搭載したAM/FMチューナー付きCD+カセットプレイヤーのスーパーライブサウンドシステムも選択できました(標準車両は4スピーカー+AM/FMチューナー付きCDプレイヤー、もしくはAM/FMチューナー付きカセットプレイヤー)。
またルームランプ兼用の空気清浄機(オプション)も用意されていて、マイナーチェンジ後(1993年12月~1995年12月に実際に生産されたセラで、生産番号が16324以降のもの)には、集中ドアロックシステムも装備されました。
標準でオートエアコンが採用されていて、グラスルーフによる室温変化の大きさを考慮して1.5Lモデルよりも大型のものが搭載されています。マイナーチェンジ後は、代替フロンであるR134a(134a装備車は500台ぐらい)へエアコンガス及び機器の変更がなされました。

それでもエアコンが効かない?

それでもほぼ全面に採用されたガラスルーフの面積には太刀打ちできず、エアコン(とりわけクーラー)の効きは今ひとつという声が多く見られます。実際のところはどうだったんでしょうね。

ガルウィングドア

出典:http://www.carsensor.net/contents/editor/category_849/_9561.html

日本人の記憶の中でガルウイングと言えば、ランボルギーニカウンタック以降モデルや映画“バック・トゥ・ザ・フューチャー”でお馴染みのデロリアンではないでしょうか。そうなんです。スーパーカーにしか採用されていないようなドアを、コンパクトクーペに採用してしまったのです。しかも中身は“小さいカローラ”のようなもの。お手頃な大衆車クラスにスーパーカーのような仕掛けを採用してしまう。この頃のトヨタは明らかに“クルマ屋”としての心意気を貫いていましたね。
ガルウイングドアを採用する理由は様々あると思いますが、このセラの場合は安価な小型量産車で企画・設計・販売することによって、トヨタの企業イメージをアピールすることだったと言えるでしょう。実際にところ、この構造を可能にするために用いられた生産技術や構造は、当時のレベルとしてはとても高度だったと言えます。
ハッチバック車に採用されているダンパーは、季節(気温)によって作動の固さに大きな差が出ます。これはダンパーに封入されたオイルの粘度が気温によって変化するためです。その結果夏は軟らかく冬は固くなってしまうのです。そこで、セラのドアには通常のドアダンパーに加えて温度補償ダンパーもう一本組み込むことで温度に関係なく性能を発揮させることに成功し、季節・気温による変化を最小限に抑えています。 また、ガルウイングドアはその見かけ上、乗降時には周辺に相当なスペースが必要に思えますが、セラに採用されているガルウィングドアは全開時でもミニバンクラスの高さよりも低く、横への振り出しも43cmしかありません。これは、通常の4ドア車の数字に匹敵し、2ドア車としてはより狭いスペースでの開閉を可能にしたと言えます。ただ室内からの開閉には、一般的なドアのようにノブを引いて横へ押すというよりも肘で斜め上に押し上げるようなコツが必要です。

本当は“バタフライドア”

出典:http://netaki.fc2web.com/JS2/2-09.htm

このように上に持ち上がるドアのことをひっくるめて“ガルウィングドア”と呼んでいますが、実際には厳格な呼び分けがなされています。特に英語圏ではほぼ間違いなく訂正されますので、注意してください。このセラのドアは英語では“バタフライドア”と呼びます。これは蝶が飛び立つときの動きに似ているからなのでしょう。どちらかと言えば、私にはカナブンやカブトムシに近いように見えますが。

これがガルウィング

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%83%AB%E3%82%BB%E3%83%87%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%99%E3%83%B3%E3%83%84%E3%83%BB300SL

“ガルウィング”とはカモメの翼ですから、このスタイルが本来のガルウィングなんですね。ちなみにこの車はメルセデスベンツ・300SLという車です。世界で初めてがルウィングドアを採用した車です。まあ、“採用した”というよりは“これしかなかった”というのが本当のところなんですけど。

メルセデスベンツ・300SLについてはこちらの記事にまとめましたので、ぜひ一度読んでみて下さい。

国産車でもガルウィングドアが存在します。

出典:http://car-me.jp/photos/6874/1014

かつてマツダが生産していた“オートザムAZ-1”です。5,000台しか生産されていない超稀少車です。

これは有名ですね。

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%83%AD%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%B3

バックトゥーザフューチャーでドクがタイムマシンのベースに選んだデロリアンです。なぜデロリアンがベースになったかと言うと、雷の電気を利用してタイムトラベルを行うために、ボディがオールステンレスのデロリアンが好都合だったということになっています。

こちらは“ヒンジアップドア”

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%9C%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%82%A6%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%83%E3%82%AF

ランボルギーニ車に見られるこの垂直に持ち上がるのは“ヒンジアップドア”と呼びます。呼び分け方、憶えましたか?

中古市場はたいへんなことに

自動車の表情が画一的になってきた現代において、このように突飛なデザイン、コンセプトを持った車はまれな存在と言えるでしょう。そのおかげなのでしょうか、セラは中古市場で人気車種になっているそうです。少し前に知り合いの車屋さんから“セラない?”と聞かれたことがあります。すでに私の記憶の中では“遠い昔”ですので、正直な話“セラってなんだっけ?”と聞き返してしまいました。説明されて“あー”となったものの私の回りでは思い当たりません。彼が言うには“見つけたら買え!”だそうですので、もし皆さんのまわりにセラがありましたらご一報ください。
ということでセラの中古車市場をのぞいてみましょうか。

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本当に25年も前の国産車が取引されているんですね。驚きましたねぇ。旧車とか絶版車とか呼ばれるヒストリーのある車種でしたらうなずけますが、変わり者とはいえ中身は大衆車ですからね。しかも70万円台と新車時の半額程度のプライスがついているものもありますね。

最後にまとめ

往年の迷車? セラをみてきましたがいかがでしたか。デビューしたときのインパクトはありましたが、正直そんなに惹かれる車ではありませんでした。面白い反面“目立ちすぎる”という一面もありましたからね。こんなことが許される時代があったことを思い出させてくれたことは感謝しなければいけませんね。所有欲を刺激されてしまった方は、いまからでも遅くありません。日本で初めてリフトアップドアを採用した迷車セラを手に入れることは可能です。かくいう私もその1人ですので、真剣に物件を見て回ろうかと考えています。