【フォルクスワーゲン ニュービートル】滅びることのないカブト虫伝説

蝉は地下で7年、地上で7日とか申します、昆虫のライフというのは人とは相当違うものなんですね。カブト虫には、1930年代に生まれて21世紀の今も生きている、という種類もあるんだそうです。あぁ、これは自動車の話でしたね。誕生以来の数十年間、微妙に変化し骨格すらも別物に進化しつつ、相変わらず多くに愛され続けるバグ、今回はその一世代であるフォルクスワーゲン ニュービートルについて、ちょっと見てみます。

バグ(ビートル)はマシンにあらず

1930年代に、天才エンジニアであったフェルディナント・ポルシェと彼の率いる設計ファームが、時のナチス政権から受注したのは、ドイツ国民が多く使用できる大衆車でしたから、そこから生まれる自動車は、ともすれば冷徹な科学の力で合理性を究極まで追求した、そんな運輸装置になっていたかもしれません。もしそうなっていたら、フォルクスワーゲン最初の大衆車は、戦後の混乱期にコピーが量産された、という程度の文言とともに歴史の教科書に紹介される、と言うのがベストだったでしょう。
しかし、幸いな事にポルシェと彼のスタッフが描いた、ビートルのスケッチは、補器類の少ないシンプルな動力を後輪の上に配置して駆動する、という道具としての合理性をも超越したものでした。その車体のシルエットは、ほぼ全てを曲線で構成されていて、4輪の存在をあえて表現するかのようなアーチ型のフェンダー、フロントにやや傾斜して取り付けられた2つの丸いヘッドライトなどからは、およそ機械の冷たさがまったく伝わってこないものだったのです。
かくして、このタイプ1とも呼ばれるクラシカルな車、フォルクスワーゲン ビートルは、国を超えて世界中の人に愛され量産され、また改良を加えられながらも、なんと2003年まで製造が継続し、最終的に累計の生産台数は2,100万台にも達することにりました。そして、さらに驚くべきは、そこでビートルの歴史が終わらなかったことです。フォルクスワーゲン社は、オリジナルタイプの製造を終結させつつも、21世紀に見合ったコンポーネンツを組み合わせることで、この人気ブランドを復活させる準備を進めていたのです。
そうやって、1997年に再登場したのが、フォルクスワーゲン ニュービートルでした。

クラシカル路線の魅力

今どきの日本でも、年間にかなりな回数のヒストリカル&ビンテージカーのイベント、が開催されていると思います。まぁ、いわゆるタイプ1のオリジナル ビートルが、ノスタルジー好きな自動車ファンの方達にとって、ビンテージ価値を持ち得るのかどうか分からない所ではあります。しかし少なくとも、1994年の北米国際自動車ショーに、フォルクスワーゲン社のカリフォルニア・デザインスタジオから、コンセプトOneの名で参考出展された車を、企画し、デッサンを描いた人達には、古く時代をさかのぼった頃からずっと、ビートルが人々に伝え続けた魅力について、相当量の思い入れと理解があったはずです。
後に、フォルクスワーゲン ニュービートルの原型となる、このコンセプトOneは、カブト虫のイメージをとても強く継承しつつ、プラットフォームには現在のポロのものを流用したという車でした。そして、現行の部品を使用するというのは、VW社の本気度も伺わせるものだったでしょう、同じ1994年のジュネーブショーには、ルーフを幌にかえたカブリオレ・バージョンも展示されています。
さらに翌1995年には、さらに細部を詰められたコンセプトOneが、東京モーターショーにてお披露目されたりして、世界のビートルファン達の復活への期待感は、いやおうなしに高まるのでした。

ニュービートル、新しく、そして変わらないクルマの形

モノには、古いというだけである程度の価値が生まれますが、一般的にその理由は、希少だという付加価値が付くからです。可処分所得に余裕がある人々は、主にその経済価値に高い値段を支払ってコレクションされる訳ですね。しかし、こと自動車のような道具の場合でいうと、多くの人が、そう言った経済学だけで説明できない、クラシカルな製品に対する憧れや郷愁を抱いているのではないでしょうか。
その事は、参考出品だったクラシックコンセプトカーが、市場から絶大な期待感が寄せられることで、製品化へ大きな追い風となった、このフォルクスワーゲン ニュービートルの例からも、伺い知れると思うのです。

ニュービートルの新しい機構

サードパーティーのガレージが行う作業ならいざ知らず、いくら多くのユーザーが望んでいるからといって、現代へクラシックカーを蘇らせるのは、メーカーにとっては重い仕事のはずです。ひょっとして、市場の要望を読み違えているかもしれず、デザインコンセプトが大ゴケする危険だってあります。そう考えると、フォルクスワーゲン社の経営陣にとっても、次世代のビートルにGOをかける決断は、簡単なものではなかったでしょう。
結局、新世代のカブトムシ、フォルクスワーゲン ニュービートルが完成したのは、1997年のことで、量産版の車体は若干大型化して、第4世代ゴルフのプラットフォームを使うことになりました。それにより駆動方式は、クラシカルなRR(リアエンジン&リア駆動)から、現代ではとても普通なFF(フロントエンジン&フロント駆動)へと大きく変わっています。まぁ、ゴルフのシャシーを前後逆につかってエンジンだけひっくり返して搭載すれば、オリジナルと同様のRRになっただろう、なんて、素人としては言いたくもなるのですが、それもナンセンスな話ではあります。プラットフォームの交換に伴い、サスペンションも、前にストラット、後ろには半独立トレーリングアーム式という、今のFFっぽい形式へと変わっています。
普通に乗り回している分には、ゴルフとまったく同じ、なんて言われる時もあったりして、カブト虫の熱心なファンにとっては、歓待と落胆の入り混じる時もあったかも知れません。ただ、その内装についてみてみると、ヒーター付きのシートや、ダッシュボードにある一輪挿し、など、以前からの伝統を引き継いでいる部分も目につきます。普通どおり、リアにラゲッジスペースができたのも、自動車としては正常な進化だったはずですよね。

ニュービートルのエンジンバリエーション

世界で一番販売された車の後継車種としては、全世界に向けて相当数の輸出と販売が、当然、その使命として与えられます。各地域の事情に合わせて、微妙なモディフィケーションが加えられる訳ですが、実は、その製品ライフを通してニュービートルのために用意されたエンジンも、かなり多岐にわたるバリエーションとなっています。そんなラインアップを、使用された時期によって大まかに分類し、見てみましょう。

1998年~

フォルクスワーゲン ニュービートルが正式販売となったのがこの年で、エンジンには当初から、ガソリン仕様とディーゼル仕様が用意されていました。その中で、おそらく最もベーシックだったタイプが、1,984ccの排気量から、出力116ps/5,400rpm、トルクは16.9kgm/2,800rpmを発揮する直列4気筒のAEG型でしょう。ただ面白いのは、排気量と構造は同じながら、出力を116ps/5,200rpm、トルクは18kgm/2,400rpmと、低速側に振ったAPK系列のタイプも同時期に使用されている点です。この時のガソリンエンジンには、排気量1,781ccの直列4気筒で、出力が150ps/5,700rpm、トルクが20.7kgm/1,750~4,600rpmの、AGUというトップバージョンもありました。
一方のディーゼルタイプは、1,896 ccの排気量から、出力90ps/4,000rpm、トルク20.7kgm/1,900rpmを発生する、AGRおよびALHという直噴&ターボ過給機付きのTDIエンジンが、当初から使われています。

1999年~2000年

この年に追加投入されたのは、1,595ccの直列4気筒から、出力101ps/5,600rpmとトルク14.8kgm/3,800rpmのパワーを出す、AWH型、そして、1,781ccの排気量で150ps/5,800rpmと22kgm/2,000~4,200rpmを発揮するDOHC20バルブの、AWU型(など)のガソリンエンジンでした。後者は日本向けニュービートルに搭載されています。
明けて2000年、この年は、ニュービートルにとってパワーアップの年でした。まず、いわゆる挟角V型5気筒を採用して、排気量2,324ccから、170ps/6,200rpmの出力と、22kgm/3,300rpmを絞り出すAQN型、それに加えて、3,189ccの排気量で、出力とトルクがそれぞれ225ps&33.2kgmの6気筒版、AXJ型というエンジンが登場してきます。独特のV5エンジンは、直列5気筒の長さを抑えるためにシリンダーを交互に配置した、という技術で、6気筒版からシリンダーを削減したというものです。
この時期は、ディーゼルのTDIエンジンも同時にパワーが向上し、1,896ccの直列4気筒というのは同じながら、101ps&24.9kgmに引き上げられた、ATD型(など)が投入されました。

2001年~

この年になると、今度はまず、エンジンのダウンサイジングが起こります。動弁機構をDOHC16バルブとしながら、排気量を1,390ccとし、出力が75ps/5,000rpmでトルクが12.9kgm/3,800rpmの直列4気筒、BCA型の登場です。そしてそれとは逆に、1,781ccの排気量クラスには、DOHCターボを装備して出力を180ps、トルクを 23,8kgmにまで向上したAUQというタイプが、1,984のSOHCは、無過給で116ps&17.6kgmのAZJ 型と呼ばれるタイプがそれぞれ登場し、AZJは日本市場に投入されました。またちなみに、1.6リッターのAWH、1.8リッターのAGUタイプは、この年から使われなくなりました。

2002、2003年、2005年~

2002年は、それまで使っていた1.8リッター・ガソリンエンジンのAUQが廃止になり、同じスペックのAWPというタイプへ変更になります。続く2003年になると、TDIディーゼルに1,896ccから105ps&14.9kgmを出力するBJB型などが加わりました。同時に、ガソリンエンジンのAWUとAUQ(1.8リッター)型が廃止になっています。
2005年には、それまで使用していた1.9リッターのTDIディーゼル、ATD系を廃止して、同じ排気量に同じスペックのBSW型に交換しています。さらに翌2006年は、フォルクスワーゲンがニュービートルのために、新エンジンの投入を行った最後の年で、排気量1,595ccの直列4気筒SOHCから、102psの出力と、15kgmのトルクを出すAYD系が、2,480ccから150ps&21.3kgmを出す直列5気筒のエンジン、BGPなどが使われ始めています。
こうやって見てくると、フォルクスワーゲンのエンジン戦略も一筋縄では行かないと言うか、それはただパワーアップして訴求力を高めるとか言うものではなく、おそらく地域ごとの事情や需要に合わせて、現実的な最適解を求めた結果なのだろうなぁ、と感じさせられます。

遊べるバージョンのニュービートル

レトロな味を踏襲しているがゆえ、その趣味の合う人にとってはとてつもなくお洒落に見える、そんなフォルクスワーゲン ニュービートルですから、やっぱり、ただのクルマで終わってしまっては面目が立ちません。このブランドを愛する人の心をもっと熱くする豊かさも提案しなければ、21世紀を背負って立ったビートルとは言えないでしょう。大体、わざわざ古風なスタイリングを取り入れたその時点から、フォルクスワーゲン社のもつ遊び心が見え隠れしてもいるのです。
そして、それを魅力ある形に具現化したニュービートルが、やはり、オープンカー型のカブリオレという事になるでしょう。最大のアイデンティティとも言えるアーチ形のルーフを、ばっさりと切り取ってしまうのですから、これはビートルにとっては、ある種、最大の決断でもあるはず。そのルーフの代わりに搭乗者を雨からまもる幌は、電動式の開閉機構を備えていて、さらに転倒時の安全確保のために、自動で立ち上がるロールバーをも備えている、と言うのがこのカブリオレバージョンです。最近のモダンなスポーツカーがよく取る手法とは違い、ニュービートルでは、まくり上げてオープンにした時の幌が、後部座席の後方にそのまま露出するデザインとしていて、これも、ビートルの魅力をむしろより良く演出していますよね。

タイプRSi、は戦うカブトムシ?

日本でも、ゴールデンウィークの気候が一番良い時期に、キュートでおしゃれなニュービートルをオープンにしてドライブにでも出かけたら、それはもう、相当な満足感を得られること間違いなしです。けれども同時に、「自動車の本分はやはり走りですっ」、とフォルクスワーゲン社が主張している声も、どこからともなく聞こえてくる気もするのです。
その声を、ニュービートルで具現化したと言えるモデルが、全世界限定250台(大昔なら、グループBからWRCに参戦できる台数です)だけ生産されたという、RSi タイプです。もちろん、そのエンジンはシリーズ最強の3.2リッターV6ターボで225psを発揮します。そして、一時期ポルシェ社がチューニングしている、と噂があったとも言われるリアのサスペンションには、サーキット走行に合わせるよう、ジオメトリーの大幅な変更までなされています。
その他、このニュービートルRSiに与えられた装備としては、6速マニュアルのトランスミッション、レムス制のツインパイプエキゾースト、リアの大型ウィング&ディフューザー、レカロ製のシート(前2席)、80ミリ拡幅されたフェンダーに収まる235/40ZR-18のタイヤ、さらに加えて、前後バンパーのデザインも雰囲気たっぷりであり、名実共に、かっ飛ぶカブト虫の親分でした。
見ように寄れば、ポルシェ911GT3にも似ている、なんて言ってしまうと大げさですが、その弟分くらいの迫力と存在感はありますよね。これに、高速道路で追い抜かれたら、誰でも二度見してしまうことは間違いありません。

4MOTION、カブト虫に健脚を与える?

そして、このRSi におけるもう一つのハイライトが、4モーション(4MOTION)と名づけられた進んだ4輪駆動システムです。前輪側の駆動力と後輪側の駆動力を、常に最適に配分するという目的のこの方式は、前後を結ぶドライブシャフトの中に何らかの差動機構を設けるというもので、ニュービートルの場合は、スウェーデンに本拠を置く、ハルデックス・トラクション(Haldex Traction)社から供給を受けた、多板クラッチ式のカップリングを使用していました。
このハルデックスクラッチは、外部から制御される油圧によりパワーの伝達配分を前後に可変するもので、フォルクスワーゲンの4モーションでは、前後のタイヤの回転数、ドライバーの操作などなどをセンサーが感知して、ハルデックスへの油圧を最適に可変しています。このトルク配分は、最大で後輪に100パーセント伝えることも可能だそうです。したがって、急加速時なども含めたあらゆる走行シチュエーションで、最大限に効果的なトラクションが常に滑らかに変化しながら、危機的な、あるいは困難な運転状態においても、ドライバーをアシストするのです。ちなみに、特に問題のない普通の路面では、そのトルクの90パーセントは前輪に配分され、日常的なFF車両の運転フィールとなるそうで、当然これは、燃費効率の改善にもつながります。
フォルクスワーゲンの4モーションは、適用する自動車のタイプなどにより、3通りの駆動配分を使い分けています。通常、縦置きエンジン車の場合だと、駆動力の差動機構にはトルセン式ディファレンシャル、もしくは、ロック機構付きのセンターディファレンシャルが、ニュービートルのような横置きエンジン車には、このハルデックスクラッチを使用するのだそうです。
この限定生産車、ニュービートルRSiは、2001年から2003年にかけて作られ、日本にも45台入ってきました。

まとめ

実は、正式にフォルクスワーゲン ニュービートルと呼べるモデルは、2011年で生産を終了していて、現在、カブト虫の後継となっているタイプは、日本ではThe Beetleとして売られている、まったく新しいタイプです。しかしまぁ、クラシカルな最初のビートル(タイプ1)が、自動車の歴史とそのファン達の意識に残した、ぬぐってもぬぐいきれない記憶と存在感、それを同じように踏襲するのですから、外観がほとんど似通ってきても致し方ないということでもあります。
大昔のレジェンドに未だ縛られている、とか評してしまうと、これまた、それまでの話になってしまうのですが、あえて復活させたこのボディーシェイプですから、もっといろんな面白いことに使ってもらいたいものです。個人的には、新たにRSiをまた作って、そのカップカーでレースなぞしてくれたら、ゴルフはもちろん本家の911のカップレースをもしのぐ、凄い存在感を発揮できると信じています。キュートなビートルが、一生懸命にサーキットのコーナーを回る姿は、きっと、モータースポーツに興味のない女性も引き寄せてくれるはず、と、そんなことを思うのですが、いかがでしょうか。

【基本情報(参考値)】
名称:フォルクスワーゲン ニュービートル
エンジン排気量:1,984cc
エンジン出力:116ps / 5,200rpm
エンジントルク:17.6kgm / 3,200rpm
全長:4,090mm
全幅:1,730mm
全高:1,500mm
重量:1,390kg
ホールベース:2,515mm
サスペンション:ストラット(前)/ 半独立トレーリングアーム(後ろ)

フォルクスワーゲン「The Beetle」のご案内。ギャラリー、360度ビュー、ハイライト、カラーなどクルマの詳細をご覧いただけます。

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