F1 2016「メルセデスPU(パワーユニット)」強さの秘密を解き明かせ!」スプリット・ターボ編

最近気になるF1のニュースを目にしました。メルセデスチームのマネージングダイレクターのアンディ・カウエル氏のインタビュー記事の中で、F1エンジンの歴史的転換期であることを伺わせる内容だったのでご紹介します。彼は現在のメルセデスPUがは900馬力以上の出力があり、熱効率は45%を超え、さらにERSがフルパワーで稼働すれば効率性は50%以上になると話していたのです。

「熱効率」がスプリットターボの秘密を握っている

「熱効率」について簡単解説

2013年までの2.4リッターのNAエンジンが750〜800馬力くらい出ていたのは知られています。そして2014年からの新たなエンジン規定の1.6リッター・ターボだと当初は600〜700馬力のエンジンだろうというのが専門家の予想で大勢を占めていました。ところが規定変更の2年目にして900馬力を上回っていたのはすごいことなんですね。排気量の減少と燃料の流入量制限から専門家だと計算出来てしまいますから決して的外れな数字予想ではなかったのですが…。しかし今回注目したいのは馬力の方では無く「熱効率」の方なんですね。何故かというと専門家の予想が外れた要因がまさにこの「熱効率」にありそうだからなんです。
物理は得意な方じゃないんでザックリ説明すると、これまで自動車のエンジンは燃焼時の全エネルギー:100%に対して有効仕事:20〜30%で、機械的損失:5〜10%、放射損失:1〜 5%、排気損失:30〜35%、冷却損失:30〜45%と言われていて、燃焼時のエネルギーの2〜3割程度しか仕事には取り出せないとされてきました。 これはあくまでエンジン単体での話で実際にはミッション〜デフ〜タイヤに至るまでさらに伝達時の損失が起こるからもっと少ないのです。なんのこっちゃ? ですけど要するに「うぉりゃ〜」ってエンジンが回って100の力を作っててもタイヤに伝わって走る力になっているのは20〜30くらいなのです。この100に対しての利用出来てる力の割合が「熱効率」と呼ばれているのです。
現実には起こりえませんが今回の件を例え話にすると、熱効率25%の100馬力のエンジンがあります。このエンジンが熱効率100%だったら4倍の400馬力を発生する事になるとうのが理屈です。これを踏まえてがアンディ・カウエル氏の話を置き換えると、メルセデスチームは900馬力で50%の熱効率を達成していたと仮定すると、100%だと1,800馬力を発生すパワーユニットのポテンシャルをどこまで引き出せるかを研究・開発してますって宣言してる様なものなのです。も〜ビックリです。専門家の予想が外れたのもこの「熱効率」の常識が要因だったので〜す。
これまで内燃機が発明されてからのおよそ100年くらいは自動車エンジンの熱効率は20〜30%のままでしたが、 近年(だいたい20年くらい前)になって素材・部品・検知・測定・電子制御技術等のめざましい進化によって、乗用車では「熱効率」が40%代まで上がって来ているんです。

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%83%AB%E3%82%BB%E3%83%87%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%99%E3%83%B3%E3%83%84

1894年製ベンツ

メルセデスの狙い

常識を打ち破れ

今回のエンジン規定で、この「熱効率」を上げる主な要因が「ターボチャージャー」「MGU-H」「MGU-K」の3つなのですが、今回はこのターボチャージャーにフォーカスして「メルセデスPU」の強さの秘密を探って見たいと思います。まずメルセデスが今回のエンジン規定で注意をしたのがターボの配置に関するルールです。どんなルールかというと「ターボはエンジンを前後からみてセンター、横から見たときにクランクシャフトに対して水平のシャフト(棒)に吸排気のタービンがつながっていて、その同軸上に発電機(MGU-H)もつけなさい。」大雑把に言うとこんな感じです。そこで「ルノー」は吸気タービンの前にMGU-Hを置くレイアウト、「フェラーリ」と「ホンダ」と「メルセデス」が吸排気タービンの間にMGU-Hを置くレイアウトにしたのですが、ここで「メルセデス」がやったのがシャフト(棒)を長くしてエンジンまで吸排気タービンの間に置いちゃおうって事にしたのが、現在「スプリット(分割)ターボ」と呼ばれているメルセデスのターボレイアウトです。

でも「メルセデス」がこのレイアウトしたから他のエンジンより100馬力アップ出来るとか、そんなことは全くありません。レイアウトに於けるメリットは多々あるのですが数回分けてご紹介するとして、賞賛に値するのは一般的なターボという形に拘らなかったことだと思います。今回の「メルセデス」強さの秘密は「熱効率」の向上をエンジン開発の主眼において、「これまでの常識を変えていく」というそのチームスピリッツであり、それをこのタービンレイアウトが表していると感じました。

出典:https://www.fujitsubo.co.jp/mechanics/front_pipe

吸排気のタービンをつないでいるのシャフトの延長線上に発電機(MGU-H)を付けないといけないので、吸気タービンの前か吸排気タービンの間の2択なんですね。排気タービンの後ろ(排気ガス出口側)にはテールパイプ(マフラー)が付くので設置不可です。

ターボが「熱効率」を向上させる

排気損失:30〜35%を利用しろ

ターボの話にいきなりですが「リーンバーン=希薄燃焼」という言葉を聞いたことがありますか? これって簡単にいうとガソリンと空気を混ぜる割合で一番パワーがでるのが約1:15なんですが、1:16とか1:17で燃料を少なめにして燃費を良くするテクニックなんです。乗用車では排気ガス中のNOxが増えちゃうとか、ガソリンエンジンでは点火タイミングとか色々とコントロールが難しいのですが、レースに排ガス規制はないし燃料噴射技術と電子制御技術の進化のおかげで理屈では可能になっちゃっています。そしてこれが空気量とガソリン量の調整ですからターボとの相性がいいんのです。リーンバーンは着火や燃焼の技術的要求が高いので、乗用車では低回転域での低燃費、低出力が一般的ですが、F1の燃費レベル(約2.5km/L)なら高出力・低燃費?にセッティングが可能ってわけなんです。今回のエンジン規定ではターボの過給圧制限がないから高回転時に高圧力で一気に空気を送り込めるので「燃焼効率」を上げられるわけです。要するに本来捨てていた排気ガス(排気損失:30〜35%)にお仕事をさせて「熱効率」を上げているわけです。
ひと昔前のターボのイメージだと「パワーは出るけど燃費は悪い」が定着していましたが、今は乗用車でもデーゼルエンジン中心に低燃費・省エネ技術としても見直されてきているのです。
という訳で「メルセデスの強さの秘密」1つ目はターボの吸気系統のコントロールにあると見ています。

機械的損失:5〜10%を利用しろ

「熱効率」に関するターボの役割についてあと2つもご紹介しておきますね。1つ目は「ポンピングロス」の低減という効果なんですね。これは注射器を思い浮かべていただいて、液体を吸い上げてもらうと力が必要となります。この力を「ポンピングロス」と呼んでいます。NAエンジンで吸気するときの抵抗のことなんですが、ターボエンジンは理屈でいうとこれが0(ゼロ)になります。ピストンで注射器の様に混合気を吸い込むのではなく、ターボでは混合気でピストンを押し下げている状態になるからです。この「ポンピングロス」の恩恵は他のチームも同様ですが、相対的な話ですが900馬力で50%の「熱効率」を達成しているメルセデスPUにとっての1%は18馬力に相当する訳です。エンジン内でたくさんの部品が動いていて機械損失はありますが、この「ポンピングロス」は結構なウェイトを占めているので低減できるのはターボのメリットの1つなのです。

冷却損失(30〜45%)を利用しろ

2つ目のご紹介です。これはエンジンの耐久性やライフサイクルに重要な意味をもつのですがシリンダー内の冷却効果です。要素の1つとしてはインタークーラーによってどれだけ効率良く冷やされているかによりますがNAエンジンでは吸気温度は70〜80°くらいと言われています。低ければ低いほど酸素の密度も上がりますしシリンダー内の温度上昇も抑えられるので効果的です。そしてターボによって押し込まれる混合気が排気ガスを押し出す効果があります。これによって排気圧も上がって排気タービンも良く回りますから一石二鳥といったところでしょうか。それとターボエンジンは一般的には圧縮比を下げるのがセオリーになっているのですが空気は圧縮されると温度が上がってしまうのでこれもシリンダー内の温度を抑える要因になります。これはターボで加圧された混合気をNAエンジンと同じレベルで圧縮してしまうとノッキングが起きてしまうからです。この様にターボは上手にセッテイングが出来るとエンジンに優しかったりもするのです。冷却損失はエンジンが高温になりすぎて壊れない様にするために冷やすことによって失われるエネルギーなのでエンジンの温度を一定に保てる様にすることは「熱効率」を上げることになるのです。このあたりも耐久性という意味で「メルセデスの強さの秘密」の1つかも知れません。

出典:http://shakoire.com/blog/2015/03/13/%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%9C%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%B3%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/

F1エンジンのパワーアップは凄い

1980年代後半にV61.5Lツインターボのホンダエンジンが1,000馬力を越すパワーでF1を席巻していた時代がありましたが、ターボがシングルでもツインでも排気量は100cc大きいエンジンなので今回のエンジン規定でも700〜800馬力は電気アシストなしでも十分出ているはずです。F1は1989年から2013年の25年間NAエンジンを使ってきましたが3.5LV10〜12で〜800馬力(6年)、3.0LV10で〜900馬力(11年)、2.4LV8で〜750馬力(8年)といった具合に規制が厳しくなってもパワーアップしてきました。このエンジン規定変更ごとに1年間で約20馬力くらいはパワーアップしてきたと言われています。今回のターボエンジンも2012年の頃は600馬力くらいからスタートしてたと思いますが、おそらく2014年の段階で「メルセデスPU」に関しては電気アシスト無しのターボエンジンで700馬力程度は出ていたと思います。そうなるとアンディ・カウエル氏の900馬力(700馬力+160馬力・120Kw)も納得がいきます。

スプリットターボレイアウトはベストチョイス

スプリット・ターボのレイアウトから生まれるメリット中で今回のターボエンジンとしての「熱効率」部分だけを捉えてみると、やはり吸気温度に対する影響は見逃せません。排気ガスの温度は800°〜900°くらいですが、その高温にさらされている排気タービンも回されているシャフトも同じくらいの温度になっています。そうなると当然吸気タービンにも熱が伝わって吸い込んだ空気はドライヤーから出てくる温風状態になります。その排気タービンの熱を伝わりにくくすればインタークーラーは小さく出来るし吸気温度が下がるメリットが大きいのです。このシャフトが長ければそれだけ熱の伝わる距離が長いので温度が下がるのと、常にエンジンオイルで冷却しているのですが表面積が増えるので放熱性も高くなります。結果的に両方のタービンの温度上昇を抑えることになり耐久性も上がるとういメリットが生まれるんですね。それから、これは地味な話なんですが吸排気タービンが近くてシャフトが短いと温度が上がりすぎてエンジンオイルが耐えられなくなって焦げちゃうんですね。よくスナッジとか言うのですが、この煤状のものがエンジン内のゴミとしてターボのシャフトが焼付く原因になったり、最悪はエンジンを壊す原因になったりもするのです。F1の様な過酷な状況であれば致命傷にも成りかねないので温度抑制はリスクヘッジにも成ります。この様に「熱効率」の向上に寄与するターボのディメリットを少なくするのがスプリットターボレイアウトのなのです。

出典:http://www.formula1-dictionary.net/engine_power_unit_and_ers.html

スプリットターボレイアウト

「熱効率」に対してスプリットにレイアウトしたターボのメリットについてはこんなところなのですが、さらに言うとエンジンの総長とうか荷重を少しでもホイールベースの中心に寄せることができる事と、吸気の配管の取り回し距離が短くなるのもメリットといえると思います。それと機会があればご紹介しますがスプリットターボのレイアウトと「MGU-H」の相乗効果も見逃せません。今回は配管と絡んで言うとMGU-HからES(蓄電池)までの配線距離も最短ルートを辿ることが出来るのです。こうやってこれまでの一般的なターボと比較して色々と「メルセデスPU」の強さについて考えてみましたが、この2011〜2013年の間によく細かいことを丁寧に研究開発をしてきたことが伺われて感心してしまします。

1.6LV6ターボエンジン単体はいわば基礎体力みたいなもので、どこまで鍛え上げていけるか?ルール上燃料流入制限がある中では過給圧と燃料だけに頼ったパワーアップは望めない。そこで「熱効率」を上げるためのターボエンジンとして鍛え上げてきた(パワーアップしてきた)のが「メルセデスPU」の強さの秘密だと思います。

ホンダにはオリジナル技術によってブレークスルーを目指してもらいたい反面、ホンダのノウハウと開発力を考えればスプリットターボを採用してメスセデスと真っ向勝負してもらいたい気持ちにもなってしまします。