あなたの愛車もきっと・・・ 4ストロークエンジンについて

ひとくちに“エンジン”と言っても、たくさんの種類があります。使用する燃料、構造、機構でそれぞれ分類することができますが、用途によって使い分け、棲み分けされています。その中でも、みなさんのカーライフに一番なじみの深い、4ストロークエンジンについて学んでみましょう。

エンジンとは何か

エンジンって何でしょう?よく「原動機」と訳されているのを見ますが、これはエネルギーを動力に変換するものすべてを指す総称で、蒸気機関や原子力タービンなども含みます。私たちになじみのある“エンジン”とは少しニュアンスが違いますよね。きっと、なんとなく思い描くエンジンのイメージは、“燃料を燃やして動力を得るもの“くらいではないでしょうか。これは「内燃機関」と呼ばれます。その登場から150年以上経ちます。時速8km程度の乗り物用の原動機から始まり、進化はとどまるところを知りません。より速く、より強くを求めて切磋琢磨し、あたらしい技術が生まれてきました。その過程の中で“4ストロークエンジン”も生まれたのです。ですが、原型となる“エンジン”の概念は変わっていません。まずはエンジンをいくつかに分類し、中でも一番身近な4ストロークエンジンがどんなものかを考えてみましょう。

まずエンジンの分類を確認

使用する燃料によりエンジンを分類

これはご存知ですよね。ガソリンを燃焼して動くガソリンエンジンと、軽油を使うディーゼルエンジンです。ディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンよりも回ろうとする力(トルク)が大きいので、トラックやバスなどの“働く車”に採用されています。対してガソリンエンジンは、出力(パワー)をコントロールしやすいので、乗用車に向いています。天然ガスで走る車もありますが、ほぼガソリンエンジンと同等ですので割愛します。また、近年水素で走る車が登場しましたが、これは水素を燃焼しているわけではありません。内燃機関の概念から外れますので、ここでは触れないことにします。

ガソリンエンジンを構造により分類

ガソリンエンジンは構造によって2種類に分かれます。ピストンが往復運動するレシプロエンジンと、ピストンが偏心運動するロータリーエンジンです。ロータリーエンジンは、レシプロエンジンよりも効率が良く構造は簡単なのですが、高精度の製作技術が必要であること、排気ガスの浄化が難しいことなどから、極一部の用途に限られています。

レシプロエンジンを機構により分類

レシプロエンジンは機構によって2種類に分かれます。吸気・排気の出入り口をバルブと呼ばれる部品で開閉する4ストロークエンジンと、バルブを使わない2ストロークエンジンです。2ストロークエンジンは、バルブ機構を持たないため安価に製造できますし、メンテナンスも容易です。初期の軽自動車やオートバイのエンジンに用いられましたが、バルブがないために完全燃焼できないので、未燃焼のガソリン成分を排出してしまいます。また、潤滑オイルを混合気に混ぜて燃焼させるため、排気ガスの浄化が難しく地球環境の悪化を懸念する動向から、排出ガス規制の厳格化にともない姿を消してしまいました。

なぜ“4ストローク”?

なぜ4ストロークと呼ばれるのでしょう? エンジンの仕事1サイクルの中で、ピストンが1往復(2回移動)するものを2ストローク、ピストンが2往復(4回移動)するものを4ストロークと呼んでいます。そうは言っても、なんだかよくわかりませんよね。実際に、エンジンの中では何が起きているのでしょうか。それぞれの行程を順に見てみましょう。

吸気行程

空気と霧状のガソリンが混ざった“混合気”をエンジンの中に吸い込む行程です。まず、吸気バルブが開いてピストンが下がり始めます。ピストンが下がることでシリンダ内が負圧になり、混合機が吸い込まれます。これはピストンが下がりきるまで続きます。

圧縮行程

ピストンが下がりきったころには吸気バルブが閉じます。その後、ピストンは上昇しますが、その際には吸気・排気の両バルブは閉じたままですので、吸い込んだ混合気は圧縮されます。エンジンにもよりますが、およそ1/10程度まで圧縮されます。

爆発・膨張行程

圧縮した混合気にスパークプラグで着火すると爆発します。爆発により膨張しようとするので、ピストンは押し下げられます。この膨張する力がエンジンの出力の源です。

排気行程

押し下げられたピストンは一番下まで下がりきった後、惰性で上昇します。このときに排気バルブが開いて、燃焼が終わったガスを排出します。排気が終わると吸気行程に戻ります。

さまざまなバリエーション

いかがですか? 4ストロークエンジンが動く原理をご理解いただけたでしょうか。エンジンは、この繰り返しで動いています。ピストン運動を支えている筒をシリンダーと呼びます。オートバイの中にはこれが1つだけで動いているものがあり、1気筒・シングルシリンダーと呼びます。これを複数組み合わせることで、車の重量や用途に合わせた排気量ができあがります。その組み合わせ方にバリエーションがたくさんあります。

直列配置

1列に並べたものを直列配置と呼びます。画像のエンジンは4気筒ですので、直列4気筒エンジンです。直列配置は一番オーソドックスな形で、多くの車に採用されています。

V型配置

直列を2列、Vの字に並べたものをV型配置と呼びます。画像のエンジンは8気筒ですので、V型8気筒エンジンです。8気筒を直列に並べるとエンジンが長くなってしまいます。そこで考案されたのがV型配置です。ほぼ4気筒分の長さで8気筒を収納することが可能です。幅が広くなりますが、2倍にはなりません。Vの字の内角の大きさを挟み角といい、60°・72°・90°・120°などエンジンサイズや特性などによって設計されます。“120°V型8気筒”などと表記されます。イタリアのオートバイメーカーであるドゥカティは、2気筒を90°のV型に配置し、Lツイン(L型2気筒)と呼んでいます。

水平配置

V型の挟み角を180°まで拡大すると、水平になりますよね。これを水平配置と呼びます。このうち、ピストンが向き合うように動作するものを水平対向配置と呼びます。水平配置の一番のメリットは、高さを抑えられることです。重心を下げることができますので、車の運動性能が高くなりますし、ボンネットを低く抑えられますから、デザインの幅が増えます。

星形配置

出典:https://ja.wikipedia.org/

ぐるっと1周、円形に配置されたエンジンです。プロペラ飛行機に最も多い形式です。1気筒分の長さで済みますから、機体の鼻先を短くできます。すべてのシリンダが前面にいて均等に風を受け取ることができるので、冷却効率がとても良いです。そして、振動や慣性力がありません。エンジンが作動すると、爆発による振動や慣性力が生まれます。星形配置は全方位に対象なので、理論上は振動も慣性力もお互いに打ち消し合います。宙に浮いている飛行機にとってとても重要なことです。

バルブ機構に見る技術の進歩

先ほど、バルブの有無で2ストローク・4ストロークに分類されると書きました。エンジンの4つの行程において、バルブが開閉するタイミングは緻密に制御されなければなりません。4ストロークエンジンの進歩は、このバルブ機構の進歩によるところがとても大きいのです。創世紀から今日まで、順に見てみましょう。

サイドバルブ(SV)型

出典:https://ja.wikipedia.org/

初めてのバルブ機構は、燃焼室の横にバルブがありました。その配置からサイドバルブ(side valve)と呼ばれています。ピストンの往復運動を受け取って回転するクランクシャフトにより、バルブを制御するカムシャフトが回転します。ここでバルブを動かすタイミングが決まっています。バルブはカムによって押し上げられて開きます。実にシンプルで理にかなった構造ですが、燃焼室が大きくなってしまい、燃焼効率が悪いのが欠点です。

オーバーヘッドバルブ(OHV)型

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“バルブが頭の上にある“という意味です。その名の通り、燃焼室の上にバルブがあります。サイドバルブではカムが直接バルブを押し上げていましたが、カムとバルブが離れて配置されていますのでそうはいきません。カムがプッシュロッドという棒状の部品を押し上げると、ロッカーアームと呼ばれるシーソーのような部品が反転作用してバルブを押し下げます。部品点数が増えて機構は複雑になりますが、燃焼室が小さくできることで燃焼効率は格段に良くなりました。

オーバーヘッドカム(OHC)型

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今度はカムを頭の上に置きました。初期にはチェーンでカムシャフトを駆動していましたが、音を静かにでき、駆動ロスも低減できるベルトが主流になりました。ですが、バルブの開閉タイミングをつかさどるベルトが切れるとエンジンが壊れてしまうため、チェーンに戻る傾向にあります。

ダブルオーバーヘッドカム(DOHC)型

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オーバーヘッドカム型の発展形で、吸気バルブと排気バルブをそれぞれ別のカムシャフトで制御するもので、2本のカムシャフトが頭の上にあります。DOHCの登場で、エンジンの性能は劇的に向上しました。バルブの挟み角度を自由に変えられることで、混合気の流れを制御できるようになり、燃焼効率は格段に良くなったのです。

※DOHCと区別するため、OHCをSOHC(シングルオーバーヘッドカム)と呼ぶこともあります。

マルチバルブ化

DOHCが普及してほどなくすると、マルチバルブ化が進みました。大きなバルブが2つ(吸排気それぞれ1つ)よりも小さなバルブ4つ(吸排気それぞれ2つ)にすれば、燃焼室の面積を有効に使えます。吸排気量を増やすためにはバルブ面積を増やす必要がありますが、バルブを大きくすると燃焼室も大きくなってしまいます。マルチバルブはこのジレンマを解消してくれました。4バルブが一番ポピュラーですが、吸気x3・排気x2の5バルブエンジンもあります。逆に、部品点数を減らす目的で、吸気x2・排気x1の3バルブエンジンもあります。

身近なものからレーシングカーまで

4ストロークエンジンの利用範囲はとても広く、身の回りでも様々なものに活用されています。

発電機

屋外で電気を使いたいときに便利な発電機。排気量の小さな4ストロークエンジンが搭載されています。モーターは電気を流すと回転しますが、回転させてやると発電します。この原理を応用して、エンジンでモーターを回転させて電気をつくり出します。自動車やオートバイの発電機も同じ原理です。

F-1

みなさんが乗る自動車・オートバイのエンジンは、ほぼすべてが4ストロークエンジンです(大切に維持されている、販売自粛以前の2ストロークエンジンを除きます)。レーシングカーの雄、F-1のエンジンは莫大な時間と費用を費やして研究・開発されていますが、やはり4ストロークエンジンです。次元の違う話のように感じますが、このような研究・開発の成果がフィードバックされることで、乗用車の技術も進歩していると言えます。

異端児

出典:https://ja.wikipedia.org/

これはホンダが実際に走らせていたレース用のオートバイ、NR500に搭載されたエンジンです。わかりにくいかもしませんが、ピストンが丸くないのです。“楕円ピストン”と呼ばれています。厳密には楕円では無く、2つの半円を直線で繋いだ競技用トラックの形状です。

アイデアの発端

ホンダが活動休止していたオートバイのレース活動に復帰することが決まった頃、レ-シングマシンのエンジンは2ストロークでした。すでに2ストロークエンジンによる環境負荷の多さが謳われはじめていたことから、ホンダは4ストロークエンジンで復帰することを考えました。ですが、熱変換効率の高い2ストロークエンジンと戦うためには、4気筒で同じ排気量の場合は20,000回転/分というとてつもない性能を実現しなくてはなりません。8気筒であれば20,000回転でも実績値の範疇でしたが、当時のレギュレーションは4気筒までだったため、V型8気筒の隣り合うシリンダを繋ぐことでピストンを4つにする(=4気筒)という離れ業を実現してしまいました。

戦績とフィードバック

出典:https://ja.wikipedia.org/

実戦投入されたNR500の成績は散々なものでした。1979年~1982年の4年の間WGPに参戦しましたが、勝利はおろか入賞すら一度もできませんでした。1981年の鈴鹿200kmレースでは、2ストローク勢に2秒の差を付けて優勝しています。戦いの場をWGPから耐久レースにシフトしNR750で戦っていましたが、ホンダの執念は1986年秋、ついにオーストラリアで実を結びました。NRプロジェクトの立ち上げ当初から“開発した技術を市販車に活かす”のポリシー通り、NR750は1992年に市販車として登場しました。限定300台を、あっという間に予約完売しています。

最後に

まさに日進月歩の進化を遂げてきたエンジン。中でも一番身近にある4ストロークエンジンについて紐解いてみました。別の世界のように思えるレースでの研究・開発が、普段の生活にフィードバックされていることは、小さな驚きかもしれません。1番を目指す気持ちが新しいものを生み出していることは間違いなさそうですね。