【フォルクスワーゲン】のリコール問題で分かったリコールに対する心構え

今回の問題をおさらいしておきます。フォルクスワーゲングループは一部のディーゼルエンジン搭載車が各地の排出ガス検査にパス出来る様に、ステアリングや車輪の状態などから検査状態を検知し、排出ガス浄化機能がフル稼働する様に設定していました。その上で通常の走行状態ではソフトウェアのデフィートデバイス(無効化機能)が働き排出ガス基準を大きく上回る有害物質を放出していた事が発覚してリコール対象になりました。

排出ガス規制について

日欧米のディーゼルエンジン規制値

●新車排出ガス規制…下記は日欧米のディーゼルエンジン車の規制値です。
車の排気ガス中に含まれる大気汚染の原因となる有害物質の排出を規制する為に先進国を中心に各国で規制が行なわれています。

【2009年規制(日本)】
2009年〜(型式認定がこの時期以降の車両に規制数値が適用)
NOx<0.08g/km
PM<0.005g/km

【ユーロ5(欧州)】
2008年〜(型式認定がこの時期以降の車両に規制数値が適用)
NOx<0.18g/km
PM<0.005g/km

【Tier 2 Bin 5(米国)】
2007年〜(型式認定がこの時期以降の車両に規制数値が適用)
NOx<0.044g/km
PM<0.006g/km

※NOx(nitrogen oxides・窒素酸化物)光化学スモッグや酸性雨などを引き起こす大気汚染原因物質の総称で排気ガスに含まれている。
※PM(Particulate Matter・粒子状物質)燃焼で生じた煤や石油からの揮発成分が大気中で変質してできる粒子など。

発覚の経緯

欧州では排出ガス規制値(Euro5)に対してガソリン車は基準を満たしている一方で、ディーゼル車が基準を満たしていないケースが目立っていました。そこでアメリカの環境NPOのICCT(国際クリーン交通委員会)がフォルクスワーゲンから2車種、BMWから1車種を選び通常のダイナモ試験と合わせて路上試験も実施したところBMWはほぼ基準値をクリアしていたのに対して、フォルクスワーゲンの2車種がダイナモ試験と路上試験で大きなギャップがあることが判明しました。その結果を2014年に論文として、EPA(アメリカ合衆国環境保護庁)やCARB(カリフォルニア州大気資源局)に報告がなされて今回の不正が発覚しました。

フォルクスワーゲングループが犯した二つの罪

一つ目の罪(不正)

一つ目は「不正」に検査をパスしようとした罪です。このICCTの路上測定結果だと「Euro5」の基準もクリアしていなかった事になります。アメリカの基準が厳しいからという理由ではなく、そもそも自国で「不正」に手を染めていた事になります。

二つ目の罪(隠蔽)

二つ目は『隠蔽」しようとした罪です。その事実が発覚しEPAから改善要求が発せられてから、約1年間に渡り「不正」を認めようとせずに「隠蔽」しようとしました。結果的に2015年の8月に正式に「不正」を認める事になり、今回の大規模リコールにつながったのです。

二つの罪から見えること

ICCTが試験を実施した欧州のディーゼル車3モデルはフォルクスワーゲンの「ジェッタ」『パサート」、BMWの「X5」だそうですが、BMWが基準値をほぼクリアしていたという事実は、技術的に不可能ではない基準が設けられていたことを意味しています。当然、欧州の「Euro5」の基準でも同じ事が言えています。今回の路上試験データでは2006年以降の車に適応させる「Euro4」の基準値もクリア出来ていなかった可能性があります。またフォルクスワーゲンは2015年11月にガソリン車でもCO2(二酸化炭素)の排出量に於いて不正行為があった事を発表しました。フォルクスワーゲンはエンジン性能や排出ガス浄化システムといった技術的問題以前に各国、各地域で社会的責任のある企業が尊守すべきルールを守らなかったのです。食品安全偽装と同じで、人としての「モラル」が失われていたという企業体質を生んだ経営者の罪だと思います。

日本でのモラルハザード事例

日本でも同じ様な「技術」ではなく「モラル」の問題で大きな問題になった事例が幾つかあります。三菱自動車による「車軸からタイヤが外れる欠陥」によって人命が犠牲になってしまった事件。また「オイル漏れやエンジン停止の恐れがある部品の欠陥」などは、実際にドライバーから数多くのクレームが寄せられていたにも関わらず車内で「隠蔽」されていました。もう一つはドライバーと自動車メーカーの信頼を裏切ったエアバックメーカーのタカタの事例です。「エアバック作動時に金属片が飛散し搭乗者に怪我の恐れがある欠陥」について当初は事実を認めず、その可能性が一部商品の問題として過小評価していました。

日本でのリコール状況

ここでちょっと国内のリコール状況について見ておきましょう。過去5年間で国産・輸入車の乗用・商用を合わせると年間300件前後のリコールが発生しているのです。1日1件近い件数でリコールがいずれかの自動車メーカーから届け出がされている事になります。下の表とグラフは国土交通省/自動車局/審査・リコール課が公表しているデータです。国産車はリコール対象車の台数が増加傾向にありますがリコール件数が横ばい傾向にあることが注目すべき点です。おそらく部品やプラットフォームの共通化によって、一つのリコールに対して影響を受ける台数が増えていることが原因だと考えられます。一方で輸入車を見てみると対リコール対象台数とリコール件数が正比例の関係にあります。今回のフォルクスワーゲンのリコール問題は日本国内での影響は無いに等しいので、この場合は日本国内では輸入されている各モデルがもつ固有の問題が累積したものだと考えられます。

出典:http://www.mlit.go.jp/jidosha/carinf/rcl/data_sub/data002.html

出典:http://www.mlit.go.jp/jidosha/carinf/rcl/data_sub/data004.html

出典:http://www.mlit.go.jp/jidosha/carinf/rcl/data_sub/data003.html

出典:http://www.mlit.go.jp/jidosha/carinf/rcl/data_sub/data004.html

国内でのフォルクスワーゲンのリコール状況

フォルクスワーゲングループジャパンの発表では日本国内には正規輸入された対象車はないそうです。また対象車についても不正ソフトが組み込まれた車種の特定が難しく、EA189型のディーゼルエンジン(1.6TDIと2.0TDI)を搭載した車のオーナーにドイツ本国のホームページからオーナー地震が車体番号を入力して確認してもらえる様にアナウンスを出している状況です。「アウディ」「ショコダ」「セプト」といったグループ内のブランドでも同様も措置がとられています。

News | 2015年10月23日
ディフィート・ソフト(機能無効化ソフト)を搭載した車両の日本国内への並行輸入台数について
フォルクスワーゲングループジャパンは、10月22日(木)、今回問題になっているEA189ディーゼルエンジンを搭載した、フォルクスワーゲン車の日本国内への並行輸入台数を、国土交通省に報告しました。調査の結果、フォルクスワーゲングループ全体では、日本国内に正規販売店を通さず、36台の該当車両が輸入されていると判明いたしました。

現状、該当車両への対策内容は未定となっておりますが、決定次第対応できるよう、フォルクスワーゲングループジャパン株式会社、並びに正規販売店ネットワークによる対応を検討しております。

皆様にはご迷惑ならびにご心配をおかけいたしますが、弊社では今後も引き続き、今回の問題に関する情報を速やかに開示してまいります。



フォルクスワーゲン グループ ジャパン 株式会社

出典:info.volkswagen.com

日本国内での過去5年間のリコール件数の代表的なメーカーの合計数字です。

トヨタ:57件
ホンダ:42件
日産:64件
BMW:70件
フォルクスワーゲン/アウディ:22件

各メーカーのモデル数などがあり単純比較は出来ませんが、フォルクスワーゲン系はリコールがすごく少なくて、これまでとても品質管理が行き届いていたことが伺えます。しかし今回の様な「不正」問題が発覚してしまうと今までの努力も虚しくリコール数についても疑いの目を向けられてしまう事になりかねません。この信用の失墜は事後の対策をしたからといって取り戻せるものではありません。フォルクスワーゲン・ジャパンの公式ホームページでは下記の様に2005年〜2015年の10年間のリコール対象になっていない不具合も含めて情報公開をしています。参考までに下記の引用文は2015年の情報です。

 
12月9日 サービスキャンペーン VW CC  エンジン制御コンピュータの不具合
10月21日 サービスキャンペーン VW ゴルフRヴァリアント 遮熱マットの装着
10月21日 外-2245 リコール VW ゴルフ・ゴルフヴァリアント 燃料ポンプの不具合
9月2日 サービスキャンペーン VW ザ・ビートル/ザ・ビートルカブリオレ ウインドウリフターモーターの不具合
7月1日 サービスキャンペーン VW ゴルフカブリオレ  ハーネスカバーの装着
7月1日 サービスキャンペーン VW ゴルフ・ゴルフヴァリアント メータークラスターの不具合
5月27日 サービスキャンペーン VW シャラン リヤハッチストラットボルトの不具合
3月25日 外-2166 リコール VW ザ・ビートル ターボ 燃料パイプの不具合
3月25日 外-2165 リコール VW ゴルフ・ゴルフ ヴァリアント・ポロ・クロスポロ  可変バルブタイミングユニットの不具合
3月25日 外-2164 リコール VW ザ・ビートル 電動パノラマサンルーフの不具合
3月25日 外-2163 リコール VW シャラン ヘッドレストの不具合
3月25日 外-2162 リコール VW トゥアレグ ハイブリッド 燃料パイプ、サーモスタットの不具合
3月25日  改-0466 改善対策 VW ゴルフ・ゴルフ ヴァリアント 自動変速機制御コンピュータの不具合
3月25日 改-0464 改善対策 VW ザ・ビートル リアトレーリングアームの点検
1月28日 改-0460 改善対策 VW ゴルフ ヴァリアント 灯火器制御コンピュータの不具合
1月28日 改-0461 改善対策 VW up! 電動パワーステアリングの不具合
1月28日 外-2143 リコール VW ポロ エアバッグ制御コンピュータの不具合
1月28日 サービスキャンペーン VW シャラン パワースライドドアの不具合

出典:www.volkswagen.co.jp

リコールに対する心構え

下のグラフは国土交通省の資料ですが「届出者別不具合発生の初報日からリコール届出日までの期間区分毎の届出件数(平成21年度~平 成25年度合計)」をグラフ化したものですが、フォルクスワーゲンはリコール件数が少ないのですが、問題の発覚からリコールをするまでの期間が2〜4年経ってからが多い事がやはり気がかりですね。同じ様にBMWの初期不良と件数の多さも気になりますけどね。また輸入車・国産を問わずにピンク色〜黄緑色の帯の部分が多いのでリコール情報として一般ユーザーに届くまでに8ヶ月〜24ヶ月(2年)程度は一般ユーザーから問題が判らない状態にあることを自覚しておく必要がありそうですね。

出典:http://www.mlit.go.jp/jidosha/carinf/rcl/common/data/h25recallbunseki.pdf

出典:http://www.mlit.go.jp/jidosha/carinf/rcl/common/data/h25recallbunseki.pdf

平成 25 年度の「全体」における不具合発生原因別の届出件数のうち、「設計」に該当するものは 205 件で、前年度から 20 件減少(対前年度比約9%減)し、5カ年平均から5件増加(対5カ年平均比約3%増)している。「設計」に該当するもので最も多いものは、「設計自体」120 件であり、前年度から 51 件減少し、5カ年平均から 38 件減少している。「設計自体」に該当するものでは「評価基準の甘さ」に該当するものが 80 件で最も多く、前年度から 60 件減少(対前年度比約43%減)し、届出件数の割合においても、前年度から 23.5%に約 16 ポイント減少している。また、「製造」に該当するものは 136 件で、前年度から 10 件増加(対前年度比約8%増)し、5カ年平均から1件増加(対5カ年平均比約1%増)している。「製造」に該当するもので最も多いものは、「作業工程」124 件であり、前年度から6件増加し、5カ年平均から 12 件増加している。「作業工程」に該当するものでは「製造工程不適切」に該当するものが 69 件で最も多く、前年度から 11 件増加(対前年度比約 19%増)しており、届出件数の割合においても前年度から20.2%に約4ポイント増加している。平成 25 年度において、「設計」及び「製造」の各区分で最も件数の多い項目である「設計自体」及び「作業工程」については、平成 21 年度以降において毎年度件数が多く、届出件数の割合についても、「設計自体」及び「作業工程」がそれぞれ約4割を占めている。

出典: www.mlit.go.jp

リコールは一歩間違うと人命に関わることもあり得るので、参考までにフォルクスワーゲン以外の輸入車や国産車のデータも確認できる様に載せていますが、国土交通省の分析で分かる様に「設計自体」及び「作業工程」で起こる不具合が4割を占めていて、一般ユーザーが気付いたとしても個々の対処ま難しいと思います。またメーカーがリコール届けを出すまでの期間を考えると中古車として出回っている車も対象として十分考えられます。実際に国内でのリコール改修率は70〜80%前後で気づかないで利用している人も大勢いる事になります。自己防衛策としては自分の車のメーカー情報を定期的にチェックすることと、時間があれば新車でも中古車でも正規ディーラーに行って確認することでしょう。また車検や定期点検は確認する良い機会となるので依頼先に調べてもらうのも方法の一つだと思います。また継続して起こる不具合を感じた時は、念のためにメーカーに連絡しておくことも大事なことですね。

クリーンディーゼルへの影響

フォルクスワーゲンの問題はガソリン車にも波及しているので論外ですが、同じ検査で基準を満たしていたBMWやディーゼルエンジンを改良して業績を上げているマツダにとっては真面目に取り組んで成果を上げていただけに迷惑な話だと思います。ディーゼルの燃費の良さや燃料の低価格などユーザーのメリットが大きかったのでヨーロッパではクリーンディーゼル車が新車販売の5割近くを占めていただけにインパクトが大きかったと思います。ハイブリッド車を含め省エネや環境負荷を考慮した技術の進歩は続くと思いますが「不正」が理由でディーゼルエンジンの研究開発がおくれてしまわな様に願うばかりです。

フォルクスワーゲン崩壊の危機

今回のリコール問題というより不正問題はフォルクスワーゲン/アウディグループを存続の危機にさらすことになりました。ヨーロッパを中心に世界でおよそ1,100万台のリコール対象車があり、ガソリン車も含まれてまだ台数が増えて行く可能性があります。そのリコール費用だけで総額110億ユーロ(約1兆5,000億円)と言われています。その他に世界のユーザーからの告訴、本国ドイツを含めたヨーロッパ各国・アメリカ・韓国・中国などは国家規模の制裁金や賠償請求が検討されているとういニュースが流れています。特に問題が発覚したアメリカの米環境保護局(EPA)の調査結果次第では、米当局から最大で180億ドル(約2兆1,600億円)の制裁金が科される可能性があると言われています。

リコールって何だろう

ここで改めてリコールについて冷静に考えてみる必要があると思います。まず「リコール=正直」「不正=犯罪行為に等しい嘘」という事実です。この線引きにあると思います。2014年3月に日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ社長)が自動車メーカーの代表として、「リコールの判断が、以前の法令遵守や技術的な問題があるかどうかから、お客様の安心安全に変わってきている」「リコール=悪と考えないでいただきたい。間違いが見つかったときには即直して、お客様の安全安心を確保する。ご理解いただきたい」と会見で話しています。この意見には一理あると思います。例えば現代の車は電子制御いわばコンピューター制御されていますが、家庭で使うPCでもフリーズやバグなどの不具合が生じる事があります。同様に自動車の電子化が進みソフトウエアによるリコールの要素が増えているということは考えられます。これはPC同様にエンジンを切って再起動させれば直るといった場合もあるそうです。また、前半でも書きましたが部品の共通化によって不具合が多くの車種に影響するため、リコールとなった場合の規模が拡大する傾向にあります。最後に重要なことですが、リコール対象となる不具合に対して「不正」や「隠蔽」が発覚したあとの影響を過去の事例から教訓として、これまでリコールをしなかった問題でもリコールで対処するようになったことで件数が増加している側面もありえます。この様な状況を考えると人の手によって設計され、組み立てられる自動車において不具合を100%無くすことは不可能だと思います。ですからよりメーカーが積極的にリコールをなくす為ににユーザーの声を真摯に聞いてリコールをするこたが必要だと思います。

今回のフォルクスワーゲン/アウディグループに起きた「不正」事件はルールを守ること、リコールが大切であることを改めて世界に示すことになりました。