【フライホイール】はエンジンから超伝導の世界まで活躍しています。

フライホイールっで聞いた事ありますよね。車にとって、というかエンジンになくてはならない機構のひとつです。フライ? ホイール?? “飛ぶ車輪”ってなんでしょうね。直訳するとなんだか訳がわかりませんが、日本語では“弾み車”もしくは“勢車”(いずれも“はずみぐるま”と読みます)と呼ばれています。どんな姿で、どんな仕事をしているのでしょうか。よくわからないシリーズ、今回は“フライホイール”です。

フライホイールって何でしょう?

フライホイールが弾み車だということはわかりましたが、じゃあ弾み車ってなんでしょうね。なかなか説明が難しいのですが、身の回りのもので考えてみました。子供のおもちゃの車っていろいろな種類がありますが、中でもポピュラーなのは3種類くらいですよね。
ひとつ目はいわゆる“ミニカー”です。本来は眺めて楽しむものなのですが、車輪が回る構造になっているものが多いので手で押しながら擬似的に走らせて遊びます。でも、自分では走りませんよね。対して“プルバックカー”と呼ばれるタイプのもの。いったん後ろへ引いてから手を放すと勢いよく走るヤツです。男の子の場合は、こちらの方が断然食いつきがいいですよね。
あとは前向きに押してやると、惰性でそのまましばらく走るヤツもいますよね。2、3度床で前向きに押してやると、これまたけっこうな勢いで走っていきます。言葉だと説明しにくいのですが、“あぁ、あれのことか”ってなってますか? 伝わっているか、ちょっと不安です。
プルバックタイプはいったん後退させたときに中のゼンマイが巻かれる仕組みになっていることは想像できますが、先ほどの惰性で走るタイプはいったいどんな仕組みなのでしょうか。実はこの疑問が“フライホーイール”の謎を解くカギなんです。

フライホイールの原理

フライホイールの原理も、言葉で説明するのが難しいんですよね。でもがんばりますからあきれないでついてきてくださいね。たとえば、手ぶらで腕を回してみて下さい。ラジオ体操の“腕を伸ばして肩を回す運動”です。余計にわからない? 失礼しました。何も持っていないときは簡単に回りますし、止めたいところで止められますよね。
では、何か荷物をもったらどうでしょう。なんでも良いですが、できるだけ重いものがいいですね。ダンベルとか。余り重すぎると肩を壊しますので気を付けて下さい。私はやんちゃ坊主でしたから、よく水の入ったバケツを持たされました。調子に乗って回して遊んだものですが、まさにあのイメージです。あ、子供時代もよい子だった方にはわからないかもしれませんね。
冗談は置いておいて、そこそこ重たいものを持って回すと、急に止めようとしてもすぐには止まりませんよね。真下(垂直に下方向)で止めようとしても行きすぎてしまいます。これは惰性、すなわち“慣性の力”が働いたからなんですね。言い方を変えると、貴方の腕を回す力が荷物に貯められたのです。腕を回す力を抜いてもなお回ろうとする力になったのです。
これこそがフライホイールの原理なんです。回転運動をするもので回転ムラ(速度だけでなく力も)があるときに、重量を持たせると慣性力によって回り続けようとします。その力を利用すれば、回転ムラを抑えるようになめらかな回転を続けさせることができるのです。

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フライホイールカーの動画です。

フライホイールの役割

出典:http://www.samarins.com/glossary/dohc.html

この画はエンジンのバルブ機構の動きを説明しているのですが、クランクシャフトとピストンの関係性がわかりやすいので拝借します。エンジン内部では、このようにピストンが上下に往復運動を繰り返しています。このピストンの往復運動を回転運動に換えるのがクランクシャフトです。ピストンは上下にしか動いていないのに、クランクシャフトは回転していますよね。
でも考えてみて下さい。ピストンは、ガソリンと空気の混合気を爆発させた力で下へ押し下げられるのが原動力です。では下まで押し下げられたピストンは、どうしてまた上がってくるのでしょう。先ほどの腕を回す運動と同じです。下まで下げたところで止めたらそこで止まってしまいますよね。
ここでクランクシャフトにも荷物を持たせるんです。重量のある円盤をクランクシャフトに取り付けて一緒に回転させると、ピストンが運動能力(下へ下がる力)を使い切っても惰性で回転を続けようとしてくれます。もちろんピストンが作り出す力に見合った重さにしなければダメですよ。回せなくなってしまっては本末転倒というものです。
4サイクルエンジンの場合、クランクシャフトが2回転する間に爆発は1回だけですから、爆発で得られる(ピストンが下まで下がりきる)半回転以外の1回転半は惰性で回らなければなりません。しかも爆発の前には圧縮行程があります。圧縮まで惰性で行わなければなりませんから、相当な重さのフライホイールが必要になります。
対して画のように4気筒でしたら、一つ目のピストンが降りきった時には次のピストンが爆発の力を受けていますから、クランクシャフト2回転分を均等に受け取ることができます。とはいえ、ピストンが下がりきる頃には受け取った力も尽きていますので、回転ムラは発生してしまいます。フライホイールはエンジンをなめらかに回転させるために不可欠なんです。

エンジンの作動原理はこちらの記事にまとめてあります。

フライホイールの役割 その2

これは純粋なフライホイールの仕事ではないのですが、兼用している仕事があります。それは、“ドライブプレート”としての仕事です。エンジンの出力はトランスミッションに伝えられなければ車は走りません。この出力を伝えるのがドライブプレートの役目です。
マニュアルトランスミッションの場合、フライホイールにクラッチが取り付けられていて、エンジンの出力はクラッチによって断続されながらトランスミッションに伝えられます。オートマチックトランスミッションの場合は、トルクコンバーター自体の重量が大きいのでトルクコンバーターを弾み車に利用します。フライホイールは無く、ドライブプレート(エンジンの出力をトルクコンバーターに伝える)を使います。

フライホイールとクラッチの関係はこちらの記事にまとめてあります。

フライホイールの役割 その3

“スマートアイドリングシステム”が普及するようになりましたので、もはやこの仕事は必須ではなくなってきました。以前(といってもまだ現役車種が多いですが)のエンジンは、始動するときに“セルモーター”を利用しています。一度火が入ってエンジンが自転を始めれば回転し続けられるのですが、始動するときだけは誰かに回してもらわなければなりません。
キーを捻って(今ではボタンひとつですね)エンジンがかかる前に“キュンキュン”と音を立てるあれです。セルモーターはエンジン回転の要であるクランクシャフトを直接回すのではなく、フライホイールの外周に設けられたギア(リングギアと呼びます)に勘合してフライホイールを回しています。
最近では、ダイナモを利用してセルモーターの代役をさせるシステムが普及して、セルモーター自体が付いていない車種がありますし、エンジンのマネージメントシステムを活用することでエンジンが自ら回転するスタートシステムも開発されています。もはや、エンジンの始動のためにフライホイールを回す時代ではなくなってきたのですね。

軽量フライホイールとは?

軽量フライホイールって聞いた事がありますか? フライホイールは、ある程度の重量がなければ役目を果たさないということはご理解いただけていると思います。でも、そのフライホイールを軽量化してしまうこともあるんです。
お話してきたとおり、フライホイールにそこそこ重量がなくてはエンジンはなめらかな回転ができません。誤解を恐れずに言えば、重いほど回転は安定しますしなめらかに回転します。もちろん重すぎて回せないほどでは意味がありませんが、重いほど慣性力が大きく働きますので安定して回転を続けます。
ところがその一方で、フライホイールが重いことによる弊害も存在するのです。“慣性の法則”を憶えていますか。一定の運動をしている物体はその運動を続けようとします。一定の速度で回転している円盤は、その速度で回転を続けようとするんです。フライホイールも同じなんです。
その速度を変える(加速・減速ともに)ためには力を加えなければなりませんが、これは回転するものに働く慣性力に反抗することになりますので、慣性力が大きいほど加える力もたくさん必要になります。つまり、フライホイールが重いほど速度を変えるために必要な力が増えるということです。
ゆっくりのんびり走る人にとっては、重いフライホイールの方が向いています。だって、一度必要な速度に到達すれば、ずっとその速度を保とうとしてくれるのですから走りやすいですよね。もちろん、機械的なロスやタイヤの摩擦抵抗によってだんだん減速してしまいますが、維持するために補足する力は少なく済みますしなめらかで安定した走行が望めます。
言い換えれば、一気に加速したり急に減速したり、キビキビとメリハリのある走行を望む人には不向きですよね、そうです。モータースポーツの分野では、フライホイールはできるだけ軽い方がメリットがあるのです。もちろん、軽くしすぎるとアイドリングすらままならなくなってしまいますので程度問題ですが、なるべく軽い方が加速にも減速にも有利に働きます。
初めの例えに戻れば、何も持たずに手を回す方が速く回せますし止めるのも簡単ですが、重い荷物をもって回すのは速度を上げるのも逆に止めるのも大変です。これこそが、フライホイルを軽くしたい一番の理由なんです。

アルテッツァ(比較動画あり)

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%A8%E3%82%BF%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%86%E3%83%83%E3%83%84%E3%82%A1

トヨタを代表する往年のコンパクトFRスポーツモデル“AE86”の復活をコンセプトに開発されるはずだったアルテッツァです。ですが同時期に開発途中だった他のスポーツセダンと統合されることになり、さらにレクサスの販売戦略において欧州Dセグメント車(BMW・3シリーズやメルセデス・ベンツ Cクラスなど)の対抗車種としての役割も担うことになりました。スポーツセダンとプレミアムセダンの両方の役割が求められ、高剛性かつ日欧米の各地域の基準をクリアする衝突安全ボディーが採用されるなど、高出力のエンジンを搭載する一方で当時としてはやや重めの1,300kg∼1,400kgという車両重量になりました。
とは言えそのスポーツ性能の高さから、モータースポーツの分野では各方面でベース車輌として使われてきました。中でもスポーツ仕様の“RS200”は直列4気筒DOHCの3S-GE型エンジンを搭載し、吸気・排気の両方に可変バルブ機構(VVT-i)の採用と6速M/Tの210ps仕様にはチタンバルブを採用し、トルセン型リミテッドスリップデフまで装備するなど、その走りを極めた仕様がもてはやされたのでした。

素性の良いアルテッツァですが、モータースポーツユーザーからの一番の不満点が“エンジンの吹け上がりの悪さ”だったのです。上述した通りGTとしての性格も併せ持っていますし、世界のトヨタが市販車としてリリースする以上、乗り心地や扱いやすさも高レベルで実現しなくてはなりませんから、あまりスポーツ寄りにしすぎることは得策とは思えません。正しい判断だと思います。
ですから、アルテッツァをベースにモータースポーツを楽しみたい人たちが初めに手を付ける部品が“軽量フライホイール”ではないでしょうか。同時にクラッチを強化タイプに交換するのもおきまりのコースになっています。フライホイールが軽くなるとふけ上がりが良くなるのはもちろんですが、アクセルを話したときのエンジン回転が落ちるのも速くなりますので、エンジンブレーキが使い易くスポーツ走行にもってこいのチューニングと言えます。

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アルテッツァのノーマルフライホイールと軽量フライホイールの比較動画です。

戸田レーシング 超軽量クロモリフライホイール&クラッチKIT 3SG アルテッツァ SXE10

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多板式のクラッチキットまであるんですね。さすがです。これはエンジンのチューニング度合いに応じて必要になることなのですが、エンジンの出力があがるとそれをトランスミッションに伝えるクラッチの仕事量が増えますから、純正のクラッチでは対応しきれなくなることがあります。その場合は“強化クラッチ”と呼ばれる性能を強化したクラッチを使いますが、クラッチ板の枚数を増やすことで力を受け止める面積を増やしたタイプです。

モンキー

出典:http://www.honda.co.jp/Monkey/

言わと知れたホンダが誇る超長寿バイク“モンキー”です。原付の世界でも2ストロークが全廃されて4ストローク化されて久しいですが、モンキーはもともと4ストロークエンジンを採用しています。“スクーターに負けるバイク”として有名だったモンキーのオーナーたちの間では、2ストロークエンジンが台頭した時代から、モンキーを少しでも速く走らせるチャレンジが続けられてきました。その代表格もやはり軽量フライホイールでした。スタートダッシュで2スト勢に置き去りにされてしまうモンキーにとって、とにかく吹け上がりを速くすることが一番の対策だからでしょう。

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軽量フライホイールのデメリット 乗り心地の悪化

さて、色々と良いことばかり書いてきましたが、フライホイールを軽くすることでなにかデメリットはないのでしょうか。良いことずくめでしたら自動車メーカーが採用しないはずがありません。メリットとデメリットは表裏一体、かならずデメリットも存在します。
先ほどアルテッツァの項でチラッと書きましたが、“乗り心地や扱いやすさも高レベルで実現しなくてはなりません”という下りです。つまり、フライホイールを軽くすると、乗り心地や扱いやすさを失うということですね。フライホイールが重い方がエンジンは回転が安定しますから、軽くすれば不安定になる(回転ムラが出る)ということです。
エンジン回転の立ち上がりが速く、アクセルオフ時の回転落ちも速いということは、車体のピッチング(加速時は頭が上がり、減速時は下を向く動きのこと)が激しくなりますから、ゆったりと乗りたい人には向きませんね。

軽量フライホイールのデメリット 燃費の悪化

フライホイールの働きは慣性力を活用することだと書きましたよね。つまり、惰性で回り続ける力を利用しています。この力が減少して惰性で回る力が減ると、その分エンジンが自力で回らなければならなくなります。エンジンの自力はガソリンが元になっていますから、同じ距離を走るのにも使うガソリンが余計に必要になります。
もちろん、回すものが軽くなりますから回し始めるのに必要な力は少なくなりますので、そこだけを見れば燃費は良くなりますが、エンジンを始動するためにフライホイールを回す時間と、エンジンが始動してから慣性力によって回される時間とでは比べるまでもなく歴然とした差があります。

フライホイールの利用法

これまでは車やオートバイのエンジンに使われているフライホイールについて、とりわけエンジンの回転に関わるフライホイールの役割について話してきましたが、ちょっと違う使い方もありますので紹介します。

PTOってわかりますか?

出典:http://www.isuzu.co.jp/technology/daizukan/pto/02.html

“PTO(ピーティーオー)”ってわかりますか? これは“パワーテイクオフ”の略で、トラックが走行するためのエンジンの動力を、架装(ダンプなど)の動力として伝えるためのシステムです。例えば、ダンプカーの荷台の上げ下げや、セメントを積んで走るミキサー車のドラムなど、働く車には“走る”こと意外にも動力が必要な機構が備わっていますよね。これらのものがどうやって動力を得ているのかといえば、エンジンの力を借りて動いているのです。その“借り方”によって種類があります。
PTOの仕組みには、トランスミッションPTO、フライホイールPTO、フルパワーPTOと3種類あります。トランスミッションPTOは、停車時にしか使わないPTOです。トランスミッションのギアに、外部から勘合できる構造のギアを設けて、そこから動力を取り出しています。トランスミッションの構造上、PTOを使っている最中は走行できませんので、停車時に使う機構にしか利用できません。ダンプカー、タンクローリー車、バキュームカー、クレーン車、高所作業車などに使われています。
フライホイールPTOは、停車時でも走行時でも動力を常に伝えることが出来るPTOシステムです。PTOを入り切りするスイッチが付いているものとついていないものがありますが、基本的には常時動力を伝えています。フライホイールの上方に勘合するギアが取り付けられていて、そこから動力を取り出しています。つまり、フライホイールが回転していれば動力を受け取れる構造ですので、走行中でも停車中でも使えます。ミキサー車、塵芥車、冷蔵・冷凍車などに使われていますが、冷凍・冷蔵車の中にはPTOではなく専用の小型エンジンを搭載しているものもあります。
フルパワーPTOは、エンジンの動力を100%取り出すことが出来るPTOシステムで、大きな動力を必要とする架装に最適です。クラッチとトランスミッションの間から動力を取り出しています。消防車、バキュームダンパーなどに使われています。
このように、PTOの動力源としてもフライホイールが活用されています。

ポンプのブレーキに

“ウォーターハンマー”って聞いた事がありますか。水の流れを突然止めると、ウォーターハンマーが置きます。身近なものに例えると、キッチンにあるレバー式水栓で勢いよく水を流しておいて突然止めてみて下さい。“コン”って音がすると思います。回して止めるタイプの水栓だとゆっくり遮断することになるのでこの音はしませんが、レバータイプだと一気に遮断できるので音がするはずです。これがウォーターハンマーで、日本語では“水撃現象”といいます。
配管内をスムーズに水が流れていて、圧力変動もなく穏やかだとします。この状態で配管末端のバルブを閉めて、流れを急激に止めてしまうとどうなるでしょうか? 定常に流れていた水が行き場を失い、末端では圧力上昇が発生してしまいます。これは満員電車が急停車したら、立っている人が次々に前の方に倒れてしまうのと同じ現象です。こうして行き場を失った圧力が配管を叩くように振動させて音を発生させるのです。
水撃現象を侮るととても危険で、大きな配水管設備では配管の継ぎ手や支持具、ポンプや配管自体を損傷することがあります。これを回避するために、ポンプのブレーキにフライホイールを取り付ける方法があります。

出典:http://www.mohno-pump.co.jp/learning/manabiya/a5.html

こうすることで、水の圧送を停止したいときや突然の停電などでポンプが停止するときに、モーター自体は停止してもフライホイールのおかげで惰性で回転を続けてゆっくり停止することができるのです。フライホイールはこのような活用方もあるのです。

蓄電できる?

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%9B%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%90%E3%83%83%E3%83%86%E3%83%AA%E3%83%BC

フライホイールに一時的に電力を貯めておく技術があります。“フライホイール・バッテリー”と呼ばれる技術で、すでに実験段階から実用化が始まっています。原理はフライホイールの特性を活かしたもので、電気モーターでフライホイールを回転させてエネルギーを保存しておき、必要な時にその回転力を取り出すのです。
なんだかよくわかりませんよね。フライホイールを回転させるモーターを止めても、フライホイールは回り続けます。これは慣性の法則で立証されています。モーターで回されていたフライホイールはモーターのエネルギーをため込み、モーターを止めても回転を続けています。つまりフライホイールが回っていること自体がエネルギーなんです。
この状態で保存しておいて、必要な時に取り出そうという考えです。大気中では空気抵抗で回転力が落ちてしまいますから真空状態にしなければなりませんし、フライホイールを支えるものも、普通のベアリングでは回転抵抗がありますから非接触の軸受けが必要です。現在稼働しているものは磁気軸受を使っています。磁気で浮いた状態で保持できるので、接触抵抗がなく潤滑する必要がありません。
ここまで書いてもわかりにくいと思いますが、回転する運動エネルギーでフライホイールを回して、別の電力に使用することが出来るのです。設備の設置の可否を除いて話せば、車がブレーキをかけて停止しよとするときにこのフライホイールを回せるようにしておけば、このフライホイールを回すという仕事(抵抗)自体がブレーキになりますので、ブレーキのエネルギーがフライホイールに貯められたわけです。これを別の仕事(ライトやエアコンなどの電装品)に利用しようという考えです。
実は、自動車レースの最高峰であるF-1でも実用に向けて開発されたことがありました。2009年シーズンのレギュレーションから運動エネルギー回生システム(KERS)が導入され、ほとんどのチームはバッテリーにエネルギーを充電する電気式KERSを採用しました。ですがウィリアムズチームはフライホイールを利用する機械式KERSに着目し、関連技術を持つ企業を買収して開発を始めたのです。
最終的にはパッケージングの都合上、ウィリアムズもバッテリー式を選択しましたが、開発したシステムは耐久レースでアウディ・R18 e-tornクワトロに転用され、2012年のル・マン24時間レースでハイブリッドカー初の総合優勝を果たしたのです。この技術は世界各国で研究開発が進められています。

UPSになる?

出典:http://www.nipponflywheel.jp/ups/

UPSとは無停電電源装置のことで、停電・瞬停時に貯蔵してあった電力を使用して復旧まで一定電力を供給するための装置です。病院や放送局、銀行や工場など、停電時に備えてありとあらゆるところで使用されています。
大きなバッテリーやコンデンサをなどの蓄電装置を利用するのが一般的でしたが、先ほどのフライホイールに蓄電する技術がこの分野にも活かされ始めています。これは、従来の鉛バッテリーのように廃棄の方法や設備の重量、メンテナンスなどの問題が解決できるという大きなメリットがあるからです。
病院などの場合、施設規模が大きくなれば必要な電力も増えるため、より大型の蓄電設備が必要になり初期費用がかさむというデメリットはあります。ですがメンテナンス性の高さや寿命が無い(理論的には永久的に使えます)のでランニングコストを抑えられることを考えれば、導入のメリットは大きいと言えます。

超伝導フライホイール

“超伝導”ですって。なんだかどんどん難しい言葉が出てきますが、ひとつずつかみ砕いて飲み込んでいきましょうね。

超伝導とは

超伝導とは、特定の金属や化合物などの物質を非常に低い温度へ冷却したときに、電気抵抗が急激にゼロになる現象を言います。
金属は温度が下がると電気伝導性が上がり、逆に温度が上がると伝導性は減少します。これは温度の上昇に伴って伝導電子がより散乱されるために起こります。この性質から、絶対零度に向けて金属の電気抵抗はゼロになることが昔から予想されていました。多くの科学者がこの実験をしましたが、最初にたどり着いたのはヘイケ・カメルリング・オネスと言う人です。1911年のことでした。超伝導となる温度は金属によってそれぞれ異なります。
超伝導環境になると“マイスナー効果”により外部からの磁力線が遮断されることから、電気抵抗の測定をしなくても超伝導状態かどうかが判別できます。この現象が現れるときの温度は超伝導転移温度と呼ばれ、この温度を室温程度に上昇させること(つまり常温で超伝導を起こすこと)は、現代物理学の重要な研究目標の一つとなっています。

マイスナー効果

超伝導の説明の中に“マイスナー効果”と言う言葉がでてきましたね。これまた聞いた事がない言葉です。マイスナー効果は超伝導体が持つ性質の1つです。外部磁場がない状態で超伝導物質を冷却して超伝導状態になってから外部磁場を加え始めても、磁場は超伝導体の内部に侵入しません。先に外部磁場をかけて物質内部に磁場がある状態にしてから物質を冷却して超伝導状態にすると、超伝導状態になったとたんに磁場が物質外部に押し出されます。このように、超伝導状況下で超伝導体内部の正味の磁束密度はゼロになる現象のことです。“完全反磁性”ともいます。

下の画像はスズを用いた完全反磁性の実験です。ガラスデュワーの液体ヘリウムの中に浸けられたスズ製の筒の両側に電磁石を置いて、8mT(80G)の磁場がかけられています。上の写真は温度T=4.2K時で、スズは常伝導状態です。周辺に配置されているコンパスの針の向きから、磁束がスズの円筒の中まで通っていることがわかります。

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%8A%E3%83%BC%E5%8A%B9%E6%9E%9C

電磁石の磁場は保ったまま、ガラスデュワーのヘリウム槽を減圧することで、温度T=1.6Kへ到達した状態です。スズは超伝導状態へ転移しています(転移温度TC=3.72K)。マイスナー効果によって磁束が円柱の外へ押し出されているのがわかります。

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%8A%E3%83%BC%E5%8A%B9%E6%9E%9C

マイスナー効果とピン止め効果による磁気浮上

今度は“ピン止め効果”ですって。これも言葉で説明するのは難しいのですが、まずは第二種超伝導体の話から。主に化合物からできている超伝導体で、磁場の強さをあげていくと、内部のひずみや不純物などの常伝導体に磁場が侵入して、電気抵抗ゼロのまま超伝導と常伝導が共存した状態になることができる超伝導体のことです。
この第二種超伝導体に磁場をかけておいて、内部に磁場を侵入させた状態から超伝導に転移させると、ひずみや不純物には磁束が侵入したままになります。もしくは、外力によって超伝導状態の第二種超伝導体を磁石に近づけて、磁石の磁束を超伝導体内部に押し込んで磁束を侵入させます。すると超伝導体部分ではマイスナー効果によって磁場は排除されるため、侵入している磁束は一定位置に拘束されてしまいます。これをピン止め効果と呼びます。

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%8A%E3%83%BC%E5%8A%B9%E6%9E%9C

マイスナー効果とピン止め効果を掛け合わせると、写真のように第二種超伝導体の上で磁石が浮上し、しかもその位置は固定されるのです。大きな外力を受けるまでこの位置関係は変わりません。
この応用で回転物を浮いた状態で軸固定する方法を“超伝導軸受”と呼びます。何にも触れていませんので、軸受けとしての抵抗は一切ありません。この超伝導軸受を利用してフライホイールを固定するのが、超伝導フライホイールなのです。やっとここまでこれました。つまり、完全に非接触、無抵抗の軸受けですから、回転するフライホイールの邪魔をしません。真空状態下に置けば空気抵抗もありませんので、一度回転させたフライホイールは永久に回り続けることができるのです。フライホイールに貯めたエネルギーを無駄にしない究極の保存方法なのです。

最後にまとめ

いかがでしたか。難しい言葉がたくさん出てきて大変でした。車で使われているフライホイールについては、なんとなく理屈がわかって頂ければ幸いです。最新技術が結集したエネルギー保存装置としてのフライホイールは、小型化と低価格化が進めばもっと身近なものに利用される日がくるはずです。そのときに思い出していただければこれも幸いです。