【ホンダ アコードクーペ】留学したまま帰らない本田一家の次男坊

隣の芝生はいつも青い、とか申します。自分の住む所には無く、境目の向こう側でしか見れないし買えない物に、人は自然と憧れや渇望感を抱き、多少の無理をしても手に入れたいと願うものなんです。国内生産していないホンダ車、ホンダ アコードクーペは、そんな意味においても日本の車ファンにとって特別な存在でしょう。とは言え、これが人々の関心を根強く引き続ける理由は、海外生産だからというだけ、でもなさそうです。

生まれた時からアメリカ志向

実は、本田技研工業株式会社は、日本の自動車製造業として米国現地生産を開始した第一号の企業だそうです。米国オハイオ州で製造した最初のアコードがラインオフしたのは、1982年11月1日とのことですから、30年以上も前からなんですね。ちなみに、この年のドル円為替レートは、230円位が中心で推移していて、今よりちょっと円安とは言うものの、その後に襲ってくる円高の時代を予感させるような季節でもありました。為替などの外的情勢により、経営基盤が大きく振り回されるという現状を、早急に改善しなければならない、と、当時のホンダ経営陣は考えていたようです。
そんなこともあってか親切されたオハイオ工場。この、しっかりとした生産拠点を現地に得て以来、ホンダは、北米での地位を着々と固めてゆく訳ですが、同時に、日本の製品ラインアップと海外のそれを分離する可能性も、どんどん膨らんでいったことでしょう。日本人が直接買いたくても買えないアコードクーペは、1988年北米仕様のみとして発表されました。

あの頃は尖がっていた、初代アコードクーペ

アコード全体として見ると、3代目に相当するのが1988年に登場した初代アコードクーペです。この当時の日本市場には、アコードクラスでも3ドアハッチバック(アコードエアロデッキ)が存在しましたが、オハイオで製造されたクーペは、そのノーズ部分だけを継承して、Aピラーから後ろを軽快でスタイリッシュな2ドア車に仕立てた、という車になっています。したがって、ヘッドライトは特徴的なリトラクタブル式が、そのまま使われています。
3ドアハッチバックも個性あふれる一台で、これを愛するファンが日本国内にたくさん居たことと思いますが、その尖がったノーズを持つ車としての印象は、むしろクーペが登場して完成形になった、と言っても良いのかもしれませんね。
このホンダ アコードクーペ、エンジンは2.0L直列4気筒SOHCの12バルブを搭載、また、足回りには当時のホンダが力を入れ始めていた、前後ダブルウィッシュボーン式のサスペンションが採用されています。

ロングセラー商品へ成長するも、帰るべき故郷は…

ここの所、スポーツモデルやクーペの復活、という報が少しずつ聞かれるようになってきましたが、バブル崩壊後の失われた20年の間に、日本の自動車文化から遊び車が完全に排除されてしまったのは、車好きにとっても経済にとっても、大変残念なことです。そして、元来、元気があって面白い車を作るメーカーであった、ホンダが、少なくとも日本国内において、一度はその路線と完全に決別してしまったのも、経営にとってベストなかじ取りだったのか、第三者ながら疑問を感じたりもします。
とにかく、こちらではお豆腐を縦において角を丸めた自動車ばかり製造している間も、アメリカの方では、アコードクーペのように遊び心ある車が生き残り、成長を続けていたんです。
1990年になると、2代目のアコードクーペが登場します。この代になるとリトラクタブルライトは廃止されますが、エンジンは2.0L直列4気筒DOHCのPGM-FI仕様、もしくは、2.2L直列4気筒SOHCから選べるようになります。また、右ハンドル車も生産され、2.0Lモデルがまず日本に正式輸入となり、その後、2.2Lモデルにも路線を拡大しています。
3代目アコードクーペが登場したのは、1994年のこと。エンジンには2.2L直列4気筒DOHCのVTEC(Variable ValveTiming & Lift Electronic Control System)仕様が登場します。しかしながら、日本国内におけるスタイリッシュカーへの需要はどんどん細って行き、このアコードクーペが正規輸入された最後のクーペになりました。

4代目〜6代目

1997年に登場した4代目アコードクーペには、V6 3.0L SOHCにVTECを搭載した車種が加わります。そして、日本の自動車ユーザーの厳しい要求から解放されたからなのか、この代には5速マニュアルのトランスミッションが復活したりします。
その後も、6速MT(5代目、2002年〜)を追加したり、エンジンを3.5LでV6 SOHCにi-VTECを組み合わせたモデル(6代目、2007年〜)を経て、現在、北米で販売中の7代目ホンダ アコードクーペへと成長しつづけてきています。

環境時代の高性能、7代目ホンダ アコードクーペ

2012年の北米国際自動車ショーで、コンセプトカーとして初お目見えし、現在生産されているのが、7代目アコードクーペです。そのデザイン上の印象は、日本国内の4ドアモデルと共有している要素を持ちつつ、フロントのグリルは小さめになり、家庭用の一台というイメージを、遠くへ押しやっているようにも見えます。また、テールランプ廻りの造形も、国内のハイブリッドタイプとは一線を画すデザインでしょう。ただ、全体像としては、初代が持っていた、あの刺さるようなイメージとはかけ離れて、むしろ、いろいろと経験して酸いも甘いも知りつくした、大人の遊び心といったものが表現されているようです。
グレードとしては、4気筒にLX-S、EX、EX-Lの3つ、V型6気筒にEX-L V-6、および、Touringの計5バージョンを揃えます。
その内装は、洗練された外観と豪華な感触を提供する、レザー・トリムド・シートがEX-Lより上のグレードに装備され、運転席のシートには、電動の10段階アジャスト(EX以上)、2つのセッティングを記憶できるメモリー機能(EX-L以上)を用意。さらに、EX以上のグレードなら、iPhoneと接続してその操作が車のタッチパネル(Display Audio)上で出来るApple CarPlayや、Android端末向けの類似機能であるAndroid Autoがあるということです。

意外と魅力的? な駆動系

この7代目ホンダ アコードクーペには、ちゃんと6速マニュアルのギアボックスが用意(LX-S、EX、およびEX-L V-6)されています。3.5L級のV6エンジンで走る、ラグジュアリー・クーペの自動車としてみれば、現在の日本社会では絶対にあり得ないことと言っても過言ではありません。このマニュアルギアは、トルクの大きなV6系よりも、やや力に劣る直4系には短めのギア比が設定されています。とにかくこれで、サーキットへこの車を持ち込み腕試しをしたい、というユーザー層の要求も、ちゃんと満たすことができるという訳ですね。オートマ系の方は、と言うと、EX-L以下のグレードで選べるCVT(パドルシフト付)と、V6エンジンを搭載したEX-L V-6以上には、6速ATもあります。
サスペンションは、前マクファーソン・ストラット / 後マルチリンクを全車に採用しています。その足回りには、タイヤの空気圧が著しく低下した場合に警告を発する、タイヤ・プレッシャー・モニタリング・システム(TPMS)や、トラクション・コントロール付のビークル・スタビリティ・アシスト(VSA)が組み合わされ走行の安全性と安定性を約束します。その他、車線や歩道をカメラで自動認識しながら、進路からずれて走行した場合に警告を発する、ロード・デパーチャー・ミチゲーション(RDM)などのセーフティー機能も充実です。

【基本情報】
名称:ホンダ アコードクーペ(2016年型)
エンジン排気量:2,356cc(直4)、3,471cc(V6)
エンジン出力:185hp / 6,400rpm(直4)、278hp / 6,200rpm
エンジントルク:25kgm / 3,900rpm(直4)、34.7kgm / 5,300 rpm(V6、6MT車)
全長:4,813mm
全幅:1,854mm
全高:1,435mm
重量:1,598kg(V6、6AT車)
ホールベース:2,725mm
サスペンション:前マクファーソン・ストラット、後マルチリンク
燃料消費率:26mile / gallon(約10.9km / L、SAE調べ)

まとめ

本家ホンダの経営企画部門の方々は、北米くらいでしか売れないよ、と思っているかもしれないアコードクーペなのですが、こうやって見てみると、ラグジュアリークーペに本来のホンダスピリットが宿った一台でもあり、国内のホンダファンにとって、実はこれが、最も売って欲しい一台じゃないのか、と思えてきます。素人の超勝手な言い分になりますが、経営効率を謡うのであれば、他に削減すべきラインアップはいくつかあるみたいだけど、と、よけいなお世話ながら、そんなことも考えてしまいます。たとえ国外市場であったとしても、ここまで育ててきた製品を、まったく国内向けの経営資源として活用しないというのは、実はもったいないことをしているのではないでしょうか。
大味なものの方が好まれる、そんな先入観の強いアメリカ市場ですが、本当は国境を越えた向こうの方にこそ面白い車があるんだよ、と教えてくれるのが、このホンダ アコードクーペのようです。

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北米版アコードクーペに関する詳細情報(英語)