【ホンダ クイント】そのコンセプトはずばり「5」

アパレル商品程ではないにせよ、自動車というのも想定している顧客像が、その成り立ちにかなり影響を与える製品だろうと思います。ずいぶん前ですが、ホンダのベルノ店で販売されていた、ホンダ クイントという車は、多様な要求に応えることができる5ドアの車体に、少し、スポーティさを導入しようと生まれた自動車だったと思われますが、本来のそのコンセプトも、市場の要求にはだんだんと流動的になってしまったようです。

ラインアップの隙間を埋めるセグメント

1970年代から80年代にかけてのホンダは、シビックとアコードという、2本の太い柱によって屋台骨が支えられていた訳ですが、大衆車の代表とも言えるシビックと、もっと大人よりの貫禄を感じさすアコードの間には、明らかなギャップがあったというのも事実でしょう。その隙間を埋める必要がある、と判断した本田技研工業が企画した戦略が、1978年に新設していたベルノ店系列から、5ドアの自動車をリリースすることでした。
その車の名前が、ホンダ クイントです。クイントは、五人組や五重奏という意味の、Quintetをもじったもので、それは当然、5ドアというパッケージ上の特徴をコンセプトの中心に据えた、そんな性格の自動車でありました。
動力としては、アコードにも使われることになる、新設計、排気量1,601ccから最高出力90psを発揮する、CVCC方式のエンジン、1タイプのみが搭載されていました。その、5速マニュアル車の10モード燃料消費率は14.5km/Lを記録しています。また、トランスミッションとしては、オーバードライブ 付ホンダマチック仕様もありました。

ラインアップの伝統を守るそのルックス

出典:http://www.honda.co.jp/news/1980/4800213.html

スポーツとユーティリティーの融合、初代ホンダ クイント

大きなウィンドウを直線基調のシルエットで囲んだと言う、ハッチバックスタイルのボディは、側板一体型で軽く剛性に優れたモノコック構造に加え、室内の骨格部が持つ箱型断面形状と、衝撃吸収性にすぐれた車枠構造を与えられ、乗員周辺の高い安全性を確保したそうです。
また、この頃のホンダ車としては当然のように、前後マクファーソン・ストラットによる独立懸架を、足回りに採用してもいます。クイントには、TEとTSの2グレードしか用意されませんでしたが、デザイン上も共通なコンセプトを感じさせた、同時代のシビックとアコードの技術を受け継ぎ発展させて、中間的な車として設計されたのが、この初代ホンダ クイントという自動車だったのですね。

【基本情報】
名称:ホンダ クイント(初代)
エンジン排気量:1,601cc(直列4気筒OHC CVCC)
エンジン出力:90ps / 5,500rpm
エンジントルク:13.2kgm / 3,500rpm
全長:4,110mm
全幅:1,615mm
全高:1,355mm
重量:900kg(タイプTE、ホンダマチック車)
ホイールベース:2,360mm
サスペンション:マクファーソン・ストラット独立懸架(前後)

「5」を捨てた新型クイント

中身はともかく、その外観デザインと車名の語源を確かめるとき、このホンダ クイントには「5」という数字が永遠について回るだろう、と多くの人が直観したはずですし、本来はそのコンセプトだったはずです。しかし、サプライズ好きのホンダは、2代目ホンダ クイントにとんでもない捻りを加えました。1985年発表の2月発表のこの新車は、なんと、3ドアハッチバック車両として発表したのです。さらに、その正式名称もホンダ クイントインテグラに変更します。
インテグラ、という名は、「スタイリング」「居住性」「走り」など自動車に求められる性能を、ホンダの高い技術力で統合(インテグラル)した、という考えから来ているそうですが、いろいろと統合したら、なぜかドアが2枚減っちゃった、というのは、この製品企画の内情を知らない者からは、なんとも理解に苦しむ現象ではありました。

それでも格好良い、フル・リトラクタブル・ヘッドライト

最近、殆ど見ない気もしますが、大昔の一時期、ヘッドランプのON / OFFによって、それをカバーする蓋が自動で開閉する、リトラクタブル式ヘッドライトが、スポーツカーやスーパーカーの証のように捉えられていた時期がありました。そして、この新型ホンダ クイントインテグラには、堂々とその方式が採用されたのも、時の自動車ファンにはうれしい事件だったかもしれません。そのおかげもあり、ボンネットの形状は尖ったように低く、また、減らしたドアの分、全体の印象はハッチバックというよりスポーツカーに近い印象さえ与えました。
そして、スポーティさを、外観の問題だけに留まらせなかったのは、当時のホンダが持っていた元気さを、そのまま表現していたでしょう。なんと、このクイントインテグラのエンジンは、全車種4バルブDOHCを搭載していたのです。これも、当時の自動車産業界ではかなり画期的だったはずです。これらのエンジンは、燃料噴射式のPGM-FI、もしくはキャブレター式の2種類があり、それぞれの10モード燃料消費率は、噴射式で14.4km/L、キャブ式で15.4km/Lを記録しています。エンジン出力のチューニング(135psと115ps)の関係もあって、キャブレター式の方が良い燃費性能を出しているのが、ちょっと面白いところですね。
そのエンジンから噴き出す排気ガスの処理にも、ホンダはそれなりの拘りを見せていて、排気脈動効果を最大限に活用するべく、PGM-FIには、一度2本から1本に束ねてから2分割する(4-2-1-2)エキゾーストシステムを、キャブレター車両には、マニホールド内で一度別個に集合させ、最終的に1本にまとめるシステムをそれぞれ採用しました。また、トランスミッションとしては、5速のマニュアルか、3速ロックアップ付きのホンダマチックのどちらかが、組み合わされました。

【基本情報】
名称:ホンダ クイントインテグラ・3ドア
エンジン排気量:1,590cc(直列4気筒DOHC)
エンジン出力:115ps / 6,500rpm(キャブレター)、135ps / 6,500rpm(PGM-FI)
エンジントルク:13.8kgm / 4,000rpm(キャブレター)、15.5kgm / 5,000rpm(PGM-FI)
全長:4,280mm
全幅:1,665mm
全高:1,345mm
重量:970kg(タイプGSI)
ホイールベース:2,450mm
サスペンション:ストラット式(前)車軸式(後)

遅れてやって来た本命、5ドアのクイント

自動車としての血統が誕生した経緯を思えば、クイントインテグラは、クイントにあらず、ということになってしまいそうですが、1985年の10月になって、やっと本命の(?)クイントインテグラ・5ドアが公式発表になります。3ドアが採用したリトラクタブルライトのノーズはそのままに、ドアはもとどおり4枚に増えて、リアのハッチが一つというデザインが復活したのです。
微妙に湾曲したラップラウンド・リアウィンドウと、後席にもできた乗降口のおかげで、真横から見たとき一瞬セダンかな?、と感じさせる、それはそれで個性のある外観になっていたのが、このクイントインテグラ・5ドアでした。また、エンジンは、3ドアで成功していた全車種DOHC路線を継承していながら、最高出力はキャブレターと燃料噴射共に120馬力となり、発生回転数が高めに設定しなおされました。

【基本情報】
名称:ホンダ クイントインテグラ・5ドア
エンジン排気量:1,590cc(直列4気筒DOHC)
エンジン出力:120ps / 6,500rpm
エンジントルク:12.8kgm / 4,000rpm(キャブレター)、14.0kgm / 5,500rpm(PGM-FI)
全長:4,350mm
全幅:1,665mm
全高:1,345mm
重量:1000kg(タイプGSI、ホンダマチック車)
ホイールベース:2,520mm
サスペンション:ストラット式(前)車軸式(後)

まとめ:そして「5=クイント」は去り「統合=インテグラ」が残る…

結局、シビックとアコードの間を埋めるはずだった、ホンダ クイントは、インテグラの名前が登場した時点でその存在意義が薄れ始め、最終的には2代目で生産をストップします。インテグラの名称は残され、同時期に同じベルノ系列で販売されていた、CR-Xが持ち合わせていなかったユーティリティー性を備えた、スペシャルティーな車種として成長してゆくことになります。そして最終的には、タイプRなどが加わる、ややスパルタンなイメージの車へと、変身してゆくことになったのです。
1980年代はバブルへと向かう時代。若者を含めた全ての日本人が豊かさを享受していた頃ですから、スポーツカーに保守性を持たすより、もっと尖らせたほうが売り上げを伸ばす、そんな事情もあったかもしれませんね。とにかく、ある種、数奇な運命をたどったかもしれないのが、この気の良い5ドア車、ホンダ クイントだったとも言えるでしょう。