【ホンダ バラード】ホンダが世の自動車ファンに向け書き上げた小叙事詩

たとえ、それが工業製品であっても、作り手の想いやメッセージは、どこかに必ず込められているものです。例えば、長らくホンダの屋台骨を支えたシビックという車名からは、一般市民にも自動車のある豊かな暮らしを、という気持ちがくみ取れます。そして、その姉妹車として生まれた、ホンダ バラードという名称の車からは、少しばかり上級な香りもすると言えなくもないのですが、その立ち位置はいささか微妙なものだったようです。

ベルノで買えるシビック セダン、ホンダ バラード

出典:http://www.honda.co.jp/pressroom/products/auto/ballade/ballade_1980-08-26/

初代ホンダ バラード

1980年の当時、経済成長期をほぼ終えて、本当に豊かになった日本人は、それまで以上に趣味や趣向に対して多様性を求めはじめていました。本田技研工業株式会社が1978年時点において、すでに新たな販売チャンネル、ベルノ店を開設し、あのプレリュードを専売車種に据えることで、スペシャルティ色を演出していたのも、そんな新時代の幕開けに備えるためだったのでしょう。
一般市民が広く共通に所有するモノではなく、隣の家にはない特別な商品を持つ喜び、そんなことの大切さがクローズアップされ始めた時代に、中でも最も大きな満足感を与えてくれるのが、少しだけ価格が張るけれど、スタイリッシュな外観で軽快な走りを感じさせてくれる、スペシャルティカーだった訳です。とは言うものの実際の所、今も昔も売るのが難しいのが、この分野の自動車であるのだろう、とも思います。
クーペタイプの自動車に憧れるけれど、家族会議にかければ、そのユーティリティー性の低さなどを理由に、やっぱり却下されてしまう。という世のお父さんユーザーたちが、趣味的な車を置いているイメージを強調するベルノ系列から逃げて行ってしまう、そんな危機感が販売現場にあっただろうことは、想像に難くないところです。
いろいろな勘ぐりは別としても、ホンダが基幹車種だったシビックを最初にモデルチェンジした時、その4ドアセダンを若干モディファイして、ベルノ店系列用に生み出した、ちょっと変わった方向性の姉妹車種が、ホンダ バラードでした。

FF-2ボックスの匠が放ったファミリーセダン

ネットで調べると、「自由な形式の民衆的小叙事詩」などとの意味が出てくる、そんなワードを車名に与えられたのが、1980年に初代が発売された、このホンダ バラードです。エンジン的には、当時クラストップの低燃費(ホンダ公式サイトによる)17.5km/Lを誇示した1,488ccエンジンと、1,335ccの二本立てであり、プレリュードと比較しても小ぶりなファミリーセダンでした。
この年までに全車種累積で500万台を売り続けてきたという、FF自動車メーカーのノウハウが、そこに存分に投じられていつつも、そう、例の家族会議でもはじかれる事のない4枚扉の一台だった、というのがこのバラード。取り回しの良いコンパクトながら、横置きFF車というパッケージがもたらす、居住性のゆとりも同時に併せ持つ、そして、ロングノーズ&ショートデッキに安定感を醸すロー&ワイドな車体が、この初代ホンダ バラードの売りでした。
トランスミッションは、MT車として、小さい方のエンジンを積む1300シリーズには4段の、1500シリーズには5段のギアボックスが組み合わされており、さらに、LとODの間に★マークのレンジがあるホンダマチックが、この時代にはまだ生き残っていました。ちなみに、この車種で最も良い燃費性能は、1,488ccエンジンと4段マニュアルギアの組み合わせで発揮され、エンジンは、両仕様とも副燃焼室を持つ希薄燃焼のCVCCが採用されています。

【基本情報】
名称:ホンダ バラード(初代)
型式:E-SS(1300)/ E-ST(1500)
全長:4,095mm
全幅:1,600mm
全高:1,345mm
ホイールベース:2,320mm
重量:840kg(タイプFXE、ホンダマチック搭載)
エンジン排気量:1,335cc / 1,488cc
エンジン出力:72ps / 5,500rpm、80ps / 5,500rpm、85ps / 5,500rpm
エンジントルク:11.0kgm / 3,000rpm、12.3kgm / 3,500rpm
10モード燃料消費率:17.5km / L(タイプFL)
サスペンション:マクファーソン・ストラット方式独立懸架(前後)

ホンダ バラード登場当時のメーカーによる公式説明です

ベルノ店系列だってスペシャルティーだけじゃない品揃え!?

シビックとの差を印象付けるフロントデザインの、2代目バラード

出典:http://www.honda.co.jp/pressroom/products/auto/ballade/ballade_1983-09-22/

少しスペシャルティーな味付け?、がなされた2代目バラード

昔からホンダは、一つのデザインコンセプトを全車種に展開する性質がありますが、時に、そんな風な周囲の予想を裏切って見せる面白さ、があったのも当時のこのメーカーだったでしょう。この2代目ホンダ バラードは、基本イメージを姉妹車種の3代目シビックと共有していながら、前を見据えるその目つきには、明らかな差異が備わっていました。そう、セミリトラクタブル式ヘッドライトの採用です。
昼間は、ややけだるく半開きになっている瞼が、夜になると電動で、かっと大きく見開かれる、この機構は、その時、ホンダ・ベルノ系列に関心を持っていた潜在的なユーザーたちの心を、ぎゅっとわし掴みにしたはずです。この同じ機構は、4ドアセダンより数か月先行して発売されていた、バラードスポーツCR-Xに採用されていたものを、そのまま継承したものでした。CR-Xは、言わずと知れた、日本自動車史上に名を残す、FFライトウェイトスポーツの名車です。
エンジンとしては、1,342ccと1,488ccの2種類で、OHC直列4気筒ながら12バルブを持つという、これまた趣味人の関心をそそってやまない、そんな個性的な組み合わせになっていました。また、1500のハイパワーモデルには燃料噴射のPGM-FIが組み合わされています。

俊足の足回り、その名は「SPORTEC」

ホンダは、この時のシビック・バラードシリーズに、M・M(マンマキシマム・メカミニマム)思想を唱えていました。自動車が必要とする機能や性能は最大限に追及しつつ、その機械的な機構はぎゅっと凝縮して搭載する、という考え方だそうです。そして、その思想が最もはっきりと見て取れるのが、先代までのストラット独立懸架から大きく変更された、通称SPORTECサスペンションでしょう。
前後のサスにそれぞれ新採用された新型サス、その名は、スペース・オリエンテッド・リアクションチューブ・トーション-バー・テクノロジー(フロント)、そして、スペース・オリエンテッド・レスポンシヴ・トレーリング-リンク・テクノロジー(リア)という長い名称から、要所要所のアルファベットを抜き出して、ちょっと強引に作られた造語です。
しかし、この方式の最も興味深い要素と言うのは、前輪サスペンションのばねに、金属をぐるぐる巻いたコイル式ではなく、一本のバーが捻じれることで反力を生む、そんなスプリングを採用したという点にあります。これにより、スプリングを除去されたダンパー高は低く抑えられ、サスペンションはフロアの下に収められたような形になり、ばね下重量の軽減も実現したと言います。
また、リアサスペンションの方も、「ストラット式、トレーリングアーム式、リジットアクスル式、トーショナルビーム式等の利点を集約して」ホンダが生み出したシステムで、低配置のダンパーにより、システムのアンダーフロア―化を実現し、ビームアクスルによってタイヤの対地角度を維持するとか、その他もろもろ、走行安定性のための新機軸が盛り込まれていました。

SPORTECサスペンションについての解説ページです

バラード&シビックのためにホンダが力を注いだ、当時の新型サスペンションの姿とは?

海外にも展開の2代目バラード

その頃、イギリスへと進出していたホンダ バラードは、OEMとして、ローバー・213の名称で販売されていましたが、実際の所、バラードの生産歴は長くなく、少なくとも、日本で売られたセダン系はこの2代目で打ち切りとなっており、バラードスポーツのみがCR-Xとして生産継続され、しばらくの間ベルノ系列で販売されました。(ただ、南アフリカでは、シビックセダンをバラードの名称に変えて、その後4代目まで販売が継続したそうです)

名称:ホンダ バラード(2代目)タイプCR-Mエクストラ
型式:E-AK
全長:4,160mm
全幅:1,630mm
全高:1,385mm
ホイールベース:2,450mm
重量:820kg(5速マニュアル)
エンジン排気量:1,488cc
エンジン出力:90ps / 6,000rpm
エンジントルク:12.8kgm / 3,500rpm
10モード燃料消費率:18.0km / L
サスペンション:トーションバー式ストラット(前)車軸式コイルスプリング(後)

2代目ホンダ バラード発表に際してのプレスリリースはこちら

まとめ

元々ホンダは、どちらかと言うと若い世代の自動車ユーザーを相手にするのが、得意なメーカーだったと思います。その会社が、スポーティ&スペシャルを極めるために、ベルノ系という販売チャンネルを追加した、やっぱりホンダだっ凄いっ、と言うのが、時の自動車ファンの素直な印象だったはず。しかし、そのベルノにおいて、本家となっているシビックより地味な印象すらある、ファミリーセダンが売り出されたのですから、今から振り返っても、コンセプト的にミスマッチじゃなかったのかなぁ、と感じてしまうの訳なのです。
まぁ、当時は、自動車もがんがん売れて、3年の車検期間が来ると、それを買い替えるかどうか、皆が本気で悩んでいた時代ですから、それこそ自動車の販売会社にも雑多な要求が来ていた、ということなのでしょうね。