【ポルシェ356】ポルシェ初の量産車は文句なしのスポーツカーだった

1931年の創業以来、他社の設計と開発を生業にしていたポルシェ。スポーツカーの自社生産に新たな活路を見出し、大戦後に開発に着手しました。そうして始まったのが“356プロジェクト”です。ですが、当のフェルディナント・ポルシェは連合国軍に拘留されてしまいます。356の開発をしたのは、息子のフェリーでした。かくして生まれたポルシェ356は高性能、居住性、実用性と3拍子揃った小型スポーツカーでした。

ポルシェ356という車

出典:http://auto.howstuffworks.com/porsche-356-history4.htm

試作期間から抜け出せたのは、1949年9月にフォルクスワーゲンと技術コンサルタント契約を締結したことで、ロイヤリティを受け取れるようになり経済的なゆとりをもてたことに加えて、フォルクスワーゲンの部品と販売網を利用できるようになったことがきっかけです。
終戦後に連合国側当局に接収されていたシュトゥットガルト本社敷地の返還交渉を進めながら、その向かいにあったロイター(現在のレカロ)の工場に間借りして生産を始めました。さらにボディー生産を委託することで生産性の低さを解消できました。こうして、1950年4月にドイツ製ポルシェの第1号車が生産されたのです。
試作車ではアルミだった車体材質が鉄製に変更されました。固定式三角窓の廃止やフロントバンパーの変更を受け、ボンネットも少し高くなっています。微妙にウエストラインが上がって室内が広げられ、屋根がなだらかになりました。ボディは何枚ものパネルをガス溶接し、ハンダで埋めて製造されています。車体側面のサイドシルが内側に回りこんでいるのが大きな特徴で、後に愛好者に“プレA”と呼ばれるようになる年代の超初期モデルです。左右が独立したシートと、リアに補助シートが設定されました。

高性能と居住性、実用性の3つを高度に満たした小型スポーツカーで、第二次世界大戦後の小型スポーツカー分野において指標となった車です。

プレAの中期モデル

出典:http://www.autoviva.com/porsche_356_1300/photo-make/22776

1952年モデルです。ポルシェ製シンクロメッシュを内蔵した新型トランスミッションの採用や、中央が折れたV型ながら1枚板になったフロントのウインドシールドが特徴です。ボンネットフードの開閉ハンドルが穴あきに変更されています。タコメーターと燃料計が標準装備になりました(従来は木製レベルゲージを差し込んで残量確認していました)。ポルシェエンブレム付き2本スポークのステアリングに変更され、ウインカーレバーを装着(従来はインパネのトグルスイッチで左右操作していました)。ドア上部についていたウッドパネルが廃止され(鉄板むき出し)、リアシートが可倒式になっています。ボンネット内のスペアタイヤを平置きから縦置きに変更することで荷物が積めるようになりました。バンパーがフェンダーまで回り込まないデザインになり、前後ランプ類も小変更を受けています。

356A

出典:http://silodrome.com/porsche-356-a/

1956年モデルとして1955年10月より生産開始された“356A”。最大の特徴は、フロントガラスが曲面になったことです。あわせて屋根の前端部も変更されました。内装は合成革が標準ですが、特別注文で本革シートも対応可能になりました。インストゥルパネル上部にソフトパッドが付き、イグニッションキーとエンジンスタータボタンが一体になっています。ステアリングは3本スポークになり、ホーンスイッチはリング式からハンドル中央のボタン式に変更されました。ハンドブレーキがレバー式からステッキ式に変更されています。

356B

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%AB%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%BB356

1959年フランクフルトショーで発表された“356B”。各部が微妙に変更されていて、外装部品は356Aとの互換性はありません。前部ウインカーと一体だったグリルは別になり、2連フィンデザインに変更されました。側面下部のサイドモールが少し細くなり、バンパーが大型化されました。ヘッドライトの位置がフロントフェンダーの頂点まで上がり、フェンダーラインの丸みがなくなっています。フロントウィンドの角度が高くなり、三角窓が標準装備されました。ボンネットアンダーラインが下がり、エンブレム付きメッキハンドルが幅広く厚い形状に変更されています。

356C

出典:https://uk.wikipedia.org/wiki/Porsche_356

1963年に“356C”へマイナーチェンジしました。前後輪ともATE製ディスクブレーキが採用され、鉄ホイールも専用に変更されました。外装はエンブレム以外に変更はありません。内装はシートクッションが下げられて着座位置が低くなりました。合成革がやわらかい物に変更されて、オプションだったドアパネルのアームレストが標準装備になっています。ハンドブレーキ警告灯とグローブボックスの蓋に鍵が追加されました。
これが356シリーズ最後のモデルです。

試作車輌

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%AB%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%BB356

アルミニウムボディーの2シーターで、ロードスター型プロトタイプ“356.001”を試作しました。ポルシェの名を冠した初の車であることから“ポルシェNo.1”と呼ばれる車輌です。量産型の356とは異なり、試作1号車は鋼管スペースフレームにミドシップレイアウトでした。エンジンはフォルクスワーゲン用の空冷水平対向4気筒OHVエンジン。内径φ75mm×行程64mmで1,131cc、25馬力の369型をベースに、圧縮比を5.8から7.0に上げるなどの改良を施し41PS/4,000rpm・7.0kgm/2,600rpmを絞り出しました。機械式のドラムブレーキとノンシンクロの4M/Tを搭載しています。596kgの車体で最高速度は135km/hに達しました。
1948年3月にグロスグロックナー峠でテストが始められました。1948年9月、あるスイス人ユーザーに販売され、スイス国内でヒルクライムレースなどに出場して好成績を収めています。その後何人かのユーザーの元を点々としましたが、1958年に買い戻されてポルシェ本社に併設されている博物館に展示されています。

試作2号車“356/2”

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%AB%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%BB356

試作2号車はクローズドボディのクーペで、1948年7月に完成しました。エンジンはリアに移動されています。現実的に量産することを前提に、座席やラゲッジスペース確保による実用性の向上と、フォルクスワーゲンとの構造・部品の共通化によるコストダウンが考えられました。車体はクーペとカブリオレの2種、後部に補助シート2席を追加、フロントガラスは中央2分割窓、シャーシをビートルと同様の鋼板プレス、溶接組みたてのプラットホーム型、リアエンジンレイアウトなど。
エンジンは引き続きフォルクスワーゲン用369型がベースですが、スポーツカーカテゴリの1,100ccクラスへ出場するために内径φ73.5mm×行程64mmで1,086ccにスケールダウンしています。当初36PSだった出力は、シリンダーヘッド改良、ソレックス26VFJキャブレターで41PS/4,200rpm・6.5kgm/3,300rpmまで引き上げられています。最高速度は140km/hです。
サスペンションはVWと同じ4輪独立トレーリングアームと横置きトーションバースプリングで、ブレーキは4輪ドラムです。ボディはアルミ製でシャーシに溶接されていました。プラットホーム型シャーシは、補強が不要なほどの強度を備えていて、カブリオレでも追加補強はありません。
当時の少量生産車にはよくあることですが、ボディを製造する工場や時期の違いによって細部に差異があります。グミュント工場で生産されていますが、外部の複数の会社が架装した車両も多数あったようです。そのためにメッキモールの仕様や、アルミ製バンパーもオーバーライダー付きと無しが存在し、ランプ類もボッシュ製とヘラー製があります。ライト下のウインカーレンズやリアのテールランプには形状が違うものが複数存在します。腕木式の方向指示器の仕様も存在していたようです。
内装もインパネ形状やメーター類、シートも左右独立のタイプとベンチシート仕様があり、後席も左右独立と一体型、カーペットを敷いただけの車両もあります。
プロトタイプ以外に49台が生産されましたが、この時期のグミュント製車両は手探り状態で製造販売されていて、量産車というよりも追加試作車と言うべき車輌です。

フォルクスワーゲン・ベルリンローマ速度記録車

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%AB%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%B2%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%9E%E9%80%9F%E5%BA%A6%E8%A8%98%E9%8C%B2%E8%BB%8A

ポルシェ356/001、つまり356試作1号車の原型となったと言われている車です。
1938年、ベルリン-ローマラリーに出場させるために、ポルシェが製作したレーサーです。フォルクスワーゲン・タイプ1の試作車だった“KdFヴァーゲン”がベースで、流線型の空力ボディーを載せています。エンジンは1,131cc・40PS、シングルシーターです。テストでは140km/hという高性能ぶりを発揮しましたが、第二次世界大戦によりラリーは中止されてしまいました。
ポルシェとしてのタイプナンバーは64です。

魅力的なバリエーション

出典:https://de.wikipedia.org/wiki/Porsche_356

上述したとおり、開発当初からカブリオレモデルの計画がありました。写真は希少な356Aのようですね。なんとも優雅な雰囲気が素敵です。356はシャシ剛性がとても高く、カブリオレ化する際にも追加補強はひとつもありません。おかげで、カブリオレにありがちな重量の増加がなかったため、クーペと遜色ない動力性能を持っています。折りたたんだ幌を格納したトノカバーと、リアフェンダーからヒップラインに掛けての曲線が、“淑女”と呼ばれるに相応しい優美さを持っていますね。

もはや別格扱いの“スピードスター”

出典:http://silodrome.com/porsche-356-pre-a/

カブリオレと似ていますが、色々と違いますよね。これは356の中でも異色のモデル“スピードスター”です。プレAの時代に200台だけ生産されました。356A時代には1,700台生産されたそうです。
カブリオレと何が違うのかというと、サイドガラスが無いんです。フロントガラスも小さいですね。そうなんです。“スピードスター”と呼ばれるのは、屋根を持っていない完全なオープンカーを指します。カブリオレは幌があって、屋根を閉じることができます。幌はフロントガラスと結合できて、サイドガラスも閉じることができます。対してスピードスターには幌もありません。そもそもこの形状のフロントガラスでは屋根とガラスがくっつかないですし、サイドガラスもありません。
ちなみに欧州にはスピードスターという呼び方は一般的ではなく、クーペの屋根を切り取ったものを“ロードスター”と呼びます。スピードスターはアメリカで使われる名称で、西海岸を中心にほとんど雨が降らない地域では人気があります。もちろんこの356スピードスターも、アメリカ市場を狙ってつくられたのでしょう。

新車で手に入る356?

残念ながら1965年にすでに生産を終えている356シリーズ。ポルシェ356を新車で手に入れることは不可能なんです。
でも名車中の名車ですから、たくさんのレプリカが存在します。

インターメカニカ

出典:http://www.intermeccanica.co.jp/pic_ss03.html

356レプリカの中でも一番メジャーなのがインターメカニカ社です。オリジナルに忠実につくられていて、各部の仕上がりも素晴らしいのです。もちろん、本物か偽物かと言えば偽物ですが、ここまで忠実に復元していれば、準本物と言いたいくらいです。

スピードスターエレクトリック

出典:http://www.delta-force.jp/ev/catalog/

2013年の東京オートサロンの会場に、美しい356Aスピードスターが展示されていました。よく見ればレプリカであることはわかりましたが、それでも細部までしっかりと作り込まれてなかなかの出来映えです。と思ってみていると、車輌の脇にある説明看板には“Speedster Electric”の文字が!
そうなんです。この車はスピードスターの姿をした電気自動車だったんです。
全長3,860mm×全幅1,650mm×全高1,220mm。パイプフレーム+FRP製ボディという軽量な車体構造で、重いバッテリーを搭載しながら車両重量は920kgに抑えられているそうです。モーターはリア・オーバーハングに搭載され、もちろん後輪駆動です。電気自動車なのに4速M/Tが組み合わされているあたりが面白いですね(ギヤチェンジしなくても走れるそうです)。
最高速度は180km/hを超え、0-100km/h加速は12.3秒。サスペンションはフロントがツイントーションビーム式で、リアはトーションバー式。ブレーキは4輪ディスクで、回生ブレーキとして働きバッテリーに電気を蓄えます。充電時間は200Vで約7時間、100Vで約12時間とのこと。リア・フード内に標準的なSAE-J1772規格の充電ポートが設けられています。
注文生産のため内外装のカラーを選択でき、ボディ・カラーはホワイト、ベージュ、シルバー、レッド、ブラックなど全9色、インテリアは赤、黒、グレイ、紺、タンの全5色から注文可能とのこと。ヘッドライトはHID、リアのストップ・ランプとウインカーはLEDと、見た目に似合わず現代的な灯火装置を採用しています(消費電力を抑えるため?)。

株式会社DELTA FORCEの電気自動車ご説明のページです。

最後にまとめ

さすがに電気自動車の356に出くわした時には面食らいましたが、ヒストリックカーを現代に復活させるには面白い試みだと思います。
初めて量産した車が、非の打ち所のないほどの出来映えで、賞賛をもって受け入れられるとは、さすがはポルシェです。