壊れるかもしれない?エンジンオイルの入れすぎに注意!

エンジンオイルが規定量よりも少ないとなんだか心配になりますよね。“少ない”=“足りてない”という感覚になるからだと思います。実際は、少々少なくても問題はないのですが、規定量はクリアしておいた方が安心ですよね。では逆に、多すぎたらいかがでしょうか。“足りてないよりはいいんじゃない?”と言う意見もあると思いますが、これまた程度問題なのです。あまり多すぎると色々とトラブルの原因になってしまうのです。

エンジンオイルはどこにいる?

出典:http://www.japanclassic.ru/upload/fsm/toyota/2004.11_mark_x_GRX12/cd0425/ncf/xml/s169010005a366.html

まずは、エンジンオイルがどのような動きをしているかを考えてみましょう。オイル交換を自分でやったことがあるかたは思い出してみてください。
エンジンが停止している状態では、エンジンオイルはエンジンの一番下にある“サンプパン”と呼ばれる部分に溜まっています。ですから、サンプパンの下側についている“ドレンコック”を外すとオイルが勢いよく出てきます。
ほとんどのエンジンがこの方式です。“サンプ”というのは“溜まり場”という意味ですので、“サンプパン”=“溜まり場の器”ということになりますね。
このサンプパンにオイルが溜まっている方式のことを“ウェットサンプ(溜まり場が湿っている)”と呼びます。

イレギュラーもある

さきほど“ほとんどのエンジンが...”と書きましたから、おわかりだと思いますが、ウェットサンプ式でないエンジンも存在します。
“ウェットサンプ”に対して“ドライサンプ”と呼びます。
名前の通り、サンプパンは湿っていません。と言うのは大きな嘘で、ドライサンプ方式でもサンプパンは湿っています。ただ、“溜まり場”と呼ぶほど溜まっていないのでこのように呼びます。
ドライサンプの場合は、エンジンの下まで降りてきたオイルを回収して別の場所に溜めているのです。
通常はオイルタンクと呼ばれる大きなタンクを備えていて、そこにオイルを溜めています。必要な場所へポンプを使ってオイルを圧送して、仕事を終えて降りてきたオイルを回収してオイルタンクに戻します。
これは、レース用の車輌によく見られる方式で、市販車で採用しているのはポルシェが有名です。

ドライサンプは優れている?

レース車輌が採用しているくらいですから、ドライサンプ方式はウェットサンプ方式よりも優れているのでしょうか。
その答えは“イエス”です。
エンジンオイルの仕事の効率を上げるためにはドライサンプ方式の方が理にかなっていると言えます。ではなぜすべてのエンジンがドライサンプを採用しないのかと言えば、構造が複雑になる、コストが上がる、オイルタンクの置き場所が必要、などの理由が挙げられます。

では、ドライサンプのメリットってなんでしょう?

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もう一度この画像を見てください。
エンジンの下の方に、なにやらニョロニョロとヘビのようなものがいて、その先にラッパが下向きに付いていますよね。これ、オイルストレーナーと言います。この先はオイルポンプ(オイルを吸い上げるポンプ)につながっています。
ストレーナーですから、オイルの漉し器です。ここで微細なゴミまで漉し取ろうとすると、吸い上げるのに強大な力が必要になりますので、ここでは大きなゴミを吸い上げないようにしています。小さなゴミは、オイルポンプの先にあるオイルフィルター(エレメント)の仕事です。
さてこのストレーナーからオイルを吸うわけですが、ストレーナーがオイルに浸っていなければ吸い上げられないですよね。通常の使い方であれば何の問題もありませんが、レース中には通常でないことが起きるのです。
たとえばカーブを旋回中、遠心力がかかりますからオイルはカーブの外側方向へ偏ってしまいます。たまたまそちら側にストレーナーがあれば良いのですが、運悪く反対側だったらオイルを吸い上げられなくなってしまいます。
これがウェットサンプ方式の一番の弱点と言って良いでしょう。もちろん、偏らないようにセパレーターと呼ばれる壁を設けるのですが、完全に止めるわけにはいかないですよね。ストレーナーのまわりを囲えばオイルの偏りは止められますが、各方面からオイルが戻ってくる道まで塞いでしまうことになりますから、ストレーナーの元にオイルが戻ってこられなくなってしまいます。

オイルをタンクに溜めておいて、エンジン各部の必要なところへ送れば、オイルの偏りを心配する必要がありません。もちろん、平坦な形状のオイルタンクでは意味がありませんよ。タンクの中で偏ってしまいますから。ドライサンプのオイルタンクは縦に長い形状です。

ウェットサンプの油量について

ずいぶん回り道をしてしまってすみません。ほとんどのエンジンがウェットサンプであると言いながら、ドライサンプについてあれこれと書いてしまいました。
でも、ドライサンプと比べることで、今回のテーマである“オイルの量”について話ができるのです。

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くどいようですが、もう一度この画像を使います。この断面図はとても良くできていて使いやすいのです。
先ほど書いた通り、オイルの偏りまで考えると、ニョロニョロの半分くらいまでがオイルに浸っていないと不安になります。
当然ですが、偏りを気にしなければならないのは、エンジンが稼働している(オイルポンプがオイルを吸い上げている)時の話ですから、エンジン各部にオイルが行き渡っている状態です。エンジンが停止してすべてのオイルがサンプパンに集まっている時は、もっとオイルレベルは高くなります。概ねクランクシャフトの下面ギリギリくらいです。

クランクシャフトとの位置関係

初めてちがう画像が出てきましたね。これはクランクシャフトです。裸で見るとこんな形をしています。中心軸上に、きれいに研磨された部分が5ヶ所ありますよね。これを“ジャーナル”と呼びます。エンジンに固定される部分です。ここは薄い油膜で支えられています。
中心軸から外れたところにも4ヶ所ありますね。こちらは“ピン”と呼びます。ここにコネクティングロッドという部品を取り付けて、その先にピストンを取り付けます。
ピンの反対側に大きな板があります。これは“カウンターウェイト”と呼ばれる物で、回転するときに出てしまう振動を打ち消すためにいます。コネクティングロッド+ピストンを振り回すわけですから、それに見合った重量物を反対側で回せば打ち消し合うという理論です。

やっとここまできました。
先ほどまでの画像と見比べながら、このカウンターウェイトの位置を確認してみてください。
先ほどお話ししたオイルの油面に結構近くないですか?

オイルが多いとどうなる? 症状

さあ、いよいよ本題です。
オイルの量が規定量でもオイルの油面とクランクシャフトのカウンターウェイトは近しい位置関係にありましたね。では、オイルを入れすぎるとどうなるでしょう?
オイルの油面が高くなりますから、クランクシャフトのカウンターウェイトに触ってしまうかもしれません。別にオイルが付いたって問題ないでしょ? とおっしゃるかもしれませんが、問題は大ありなんです。

想像してみてください。オイルのプールに飛び込むのです。上の画像のようにきれいな水だったらまだ気持ち良いかもしれませんが、オイルです。あのねっとりしたオイルです。オイルの中に飛び込み、オイルを掻き分け、出てこなくてはなりません。なかなかの仕事量だと思いませんか。そのだけの仕事を余分にさせることになるんです。
たとえば、計算しやすいように600回転で考えてみましょうか。アイドリングよりも低い回転数です。エンジンの回転数は1分間の回転数を表していますから、1秒間に直すと...なんと10回です。想像できますか? 1秒間に10回もオイルのプールに飛び込んでオイルを掻き分けてプールから上がるんです。
オイルの量が多すぎると、クランク(エンジン)にこんな大変な作業を余計にさせることになるのです。アクセルを踏み込んで回転数を上げていったら...想像するのも怖くなります。

燃費の悪化

エンジンが余分な仕事をしますから、当然燃費が悪化します。一般的にはオイルのレベルゲージに“High”と“Low”がありますよね。サンデーレーサーの中にはLowギリギリにいている人がいるくらいです。

ブローバイガスとの関係

ピストンとシリンダ壁の間には隙間があります。ピストンが上下に往復運動をしますから、ぴったり隙間ゼロではスムーズに動けません。
それと、一般的にピストンはアルミ製ですが、シリンダ壁は鉄製です。
シリンダブロックと呼ばれる本体部分はアルミ製がほとんどですが、ピストンと擦れるところにはシリンダライナーと呼ばれる鉄製の筒がはまっているのが一般的です。ピストンには爆発の圧力を逃がさないようにするために“ピストンリング”と呼ばれる“輪”状の部品がはまっていて、シリンダ壁と擦れるのはこのピストンリングなんです。
ピストンリングは鋼製ですので、シリンダ壁も硬度の高い素材でないと負けてしまうんですね。
アルミと鉄では熱膨張率が違います。アルミの方が膨張率が大きいので、同じ温度環境下ではアルミの方が大きくなります。その分のクリアランスを取っておかないと熱で膨張したときにピストンが動けなくなってしまいます。

ちょっと長くなりましたが、このような理由からピストンとシリンダ壁の間には必ず隙間があるのです。
隙間といっても1/100ミリ単位の話です。

爆発した燃焼ガスが吹き抜ける?

ピストンとシリンダ壁との間に隙間があることはご理解頂けましたね。
エンジンが稼働する原動力は混合気の爆発燃焼から得られる膨張力です。その力をピストンが受け取るのですが、さきほどから話している隙間がありますから、その爆風は少なからずピストンの下へ吹き抜けてしまいます。
残念ながら、この吹き抜けを無くすことはできません。

吹き抜けたガスはどこへ?

出典:http://www.ex-n.sakura.ne.jp/notebook/impression/ipcv/index.html

簡単な図ですがわかりやすいので拝借しました。この図のように、ピストンとシリンダ壁との隙間を吹き抜けた燃焼ガスは、クランクケースへ入り込みます。すると、クランクケース内部の圧力が上がってしまいますので、ピストンが下がる動作の邪魔をしてしまうんです。これを防ぐために、クランクケース内の空気の逃げ道が作られています。
このクランクから逃げ出した空気は、初期のエンジンでは大気へ放出されていました。ですが、燃焼ガスですから大気を汚してしまいます。そこで、クランクケースから逃げ出した空気をもう一度エンジンに送り込んで、排出ガス浄化装置を通してから最終的にはマフラーから排出しています。

クランクケースの内部

出典:http://www.weblio.jp/content/%E3%83%96%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%AC%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%AB%E3%83%96

燃焼ガスが少なからずクランクケースへ逃げ込むこと、逃げ込んだ燃焼ガスがもう一度エンジンに吸われることはご理解頂けましたね。
上の図は、PCVバルブの説明図ですが、概ねこのような回路になっています。クランクから逃げ出した燃焼ガスは、混合気と混ぜてエンジンに吸い込まれます。
PCVバルブは、この流れを一方通行にするためのバルブです。

出典:http://www.japanclassic.ru/upload/fsm/toyota/2004.11_mark_x_GRX12/cd0425/ncf/xml/s169010005a366.html

もう一度この画像をお借りしましょう。なんとも便利な画です。
想像してみてください。
クランクケースの下の方にはオイルが溜まっていましたよね。ニョロニョロの半分くらいのところまで。クランクケース内の容積(ピストンの下部分)に対してけっこうな割合を占めています。
この中に隙間をすり抜けた爆風が吹き込んできたらどうなるでしょう。オイルの油面にも圧力がかかりますよね。ブローバイガスは、サンプパンに溜まっているオイルにも影響するのです。

オイルが多いとどうなる? 不具合

クランクケース内でどんなことがおきているのか想像できましたか?
オイルはクランクシャフトとブローバイガスと格闘しているんですね。決して広くない空間で、いろいろなことが繰り広げられていることがご理解頂けたと思います。
では、そんなクランクケースの中にオイルが余分に入っていたらどうなるでしょう。さらにオイルの油面が高くなりますから、ブローバイガスの逃げ場が減ってしまいます。少ない空間に逃げ込んできたブローバイガスは、オイル自体を押し出そうとするのです。クランクケース内の燃焼ガスはエンジンの吸気につながっていますので、ある程度押し出されたオイルは、エンジンに吸い込まれてしまいます。

ゴミの堆積

出典:http://gankochan.livedoor.biz/archives/52003664.html

オイルの量が多すぎると、余分なオイルをエンジンが吸い込んで燃焼してしまうことがあるのです。
エンジンオイルを吸い込んで燃焼してしまうと、このようにオイルの燃え残り成分が堆積していきます。これはスパークプラグですが、排気バルブをはじめ燃焼室内に同じようなゴミが付着していきます。当然、正常な燃焼が出来なくなりますので、エンジンの性能が低下してしまいます。
燃焼可能なゴミが燃焼室にいることで、異常燃焼を引き起こすことも考えられます。ガソリンと空気を混ぜた混合気を圧縮して、最適なタイミングを見計らってスパークプラグで点火します。ところがスパークプラグ以外にも熱を発する物があると、“もう少ししたら点火するぞ!”と思っているスパークプラグの点火よりも前に爆発がはじまってしまうことがあります。“プレイグニッション”と呼ばれる現象ですが、オイルなどの燃焼ガスが溜まっていると、プレイグニッションを誘発する恐れがあります。
理想のタイミングよりも早く爆発・燃焼が始まってしまいますので、最悪の場合はエンジンを壊してしまいます。

オイル漏れ

普段オイルがいない場所にオイルが圧送されてしまいますので、オイルが漏れることがあります。先ほどのブローバイガスをエンジンに戻す経路でも、想定している相手は燃焼ガスを含んだ空気です。オイルが通過することは想定していません。
この経路からオイルが漏れることは十分考えられます。

入れすぎた場合は?

もし、オイルを入れすぎた(多すぎる)ことに気がついたら、抜き取りましょう。“そろそろ交換時期だし”と言う場合はそのままオイル交換をすれば良いですが、“まだ換えたばかりだし”とか、オイル交換時にやらかしてしまった場合など、入れすぎた分だけ抜きたいですよね。

安全な抜き方 上から抜く

一部のドレンコックが付いていない車種用に、オイルレベルゲージの穴からオイルを抜き取る機械があります。整備工場やガソリンスタンド、カーショップなどで相談してみましょう。
もし、注射器のようなポンプを持っているなら、細長いホースを取り付けることで対応できるかもしれません。

危険を伴う抜き方 下から抜く

ドレンコックを緩めて抜く方法です。ただし、けっこうな勢いで出てきますので注意して行ってください。オイルが流れ出てくる穴にドレンコックを差し込むことになりますので、自分の手や周囲が汚れることも覚悟してください。

バイクの場合は?

車のエンジンを例にして話してきましたが、基本的にはバイクも同じです。オイルの量が多ければエンジンの負荷が増えますし、燃費が悪くなります。
各部からオイル漏れがおきる危険も同様にありますし、オイル燃焼がおきる危険も変わりません。

バイクの場合は、車体を垂直に立てた状態でレベルチェックしてくださいね。サイドスタンドで立っている状態でオイルレベルを合わせると、ずいぶん多く入りすぎることになります。

最後にまとめ

いかがでしたか?
“オイルを入れすぎただけ”のことで大変なことを引き起こす可能性があるということ、ご理解頂けましたか?
オイル交換の時などは特に注意が必要です。エンジンオイルに関して言えば、“多めの方が安心”ということはありません。
誤解を恐れずに言えば、“少なめ”の方が危険は少ないのです。もちろん、必要最低限は要りますから“少なすぎ”は問題です。

適切なオイル管理をして、愛車のエンジンをいたわってあげてくださいね。