【クラッチの仕組み】MT車だけではない、クルマのあちこちを「しっかり握る」クラッチを知ろう!

「クラッチ」と言われて思いつくのは、まずマニュアルトランスミッション(MT)車に使用されるクラッチでしょう。ただ、クラッチ(clutch)は「つかむこと、しっかり握ること」を意味して、何かと何かを連結したり断続するパーツの総称ですからMT車だけに使われているわけではありませんが、その辺を踏まえて他のクラッチの種類、構造を説明しましょう。

クラッチはMT車だけでなく、いろいろな種類、構造がある

クラッチは、何かと何かをつなぐ部分に使われるパーツの総称。

クラッチといえば、なんといってもMT(マニュアルトランスミッション)車のものが一番にあがるでしょう。それだけではないで、ここでは他の部分のものも解説しますが、まずMT車のクラッチを解説します。MT車のクラッチの多くは乾式クラッチが使用されており、クラッチディスクをエンジン側のフライホイールに密着させています。これにクラッチカバーのダイヤフラムスプリングを使用します。操作はクラッチペダルを踏むことで切り離され、離すことでつながります。

クラッチペダルを踏むとエンジンとミッションが切り離される。

クラッチペダルを踏まないときには、クラッチディスクはエンジンのクランクシャフトにつながるフライホイールにダイヤフラムスプリングによって押し付けられています。ダイヤフラムスプリングは板バネになっており、クラッチディスクとフライホイールを密着させます。クラッチペダルを踏むということは、ダイヤフラムスプリングの中心にレリーズベアリングが押し付けられることで、これでクラッチディスクとフライホイールを切り離すということになります。

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この動画の50秒くらいのところを見るとイメージが分かると思います。

この操作系をかつては金属製のワイヤーを用いて行っていました。シンプルではあるのですが、調整するなどのメンテナンスが必要であり、ワイヤー切れる恐れもあります。そこで現在はマスターシリンダーとレリーズシリンダーを用いて油圧(液圧)式のものが多く用いられています。こちらはユニット自体は複雑ですが、メンテナンスに気を使う部分が少ないメリットがあります。作動させるにはクラッチオイル(フルード)を使用しますが、成分はブレーキオイルと同じです。

ギヤチェンジするときにクラッチを踏むのはなぜ?

MTではクラッチを踏まないとローギヤに入れて発進できない。

ところでなぜクラッチが必要なのでしょうか? ひとつは良くわかると思いますが、スタート時です。例えばギヤがニュートラルでセルモーターを回してエンジンをかけたとして、ここでクラッチが切れないと、ローギヤに入れることができません。無理に入れればエンストするかミッションが壊れるかです。もっとも今のクルマはクラッチを切っていないとセルモーターも回りませんから、クラッチペダルは、セルモーターを作動させるためのスイッチにもなっています。

もうひとつは、ギヤチェンジの際のクラッチ操作です。このときもクラッチを切ると思いますが、なぜでしょうか? これはちょっとむずかしいのではないかと思います。ちょっと詳しく見てみましょう。どこかのギヤに入れて走行している時には通常エンジンとトランスミッションがクラッチによってつながっています。そのときエンジンによって回転させられているトランスミッション内部では車輪からのメインシャフトにつながっていスリーブが、ギヤと噛み合う役割をしています。

ギヤチェンジはギヤが動くのではなくスリーブが動く。

ちょっと話がそれますが、「スリーブ」というパーツが出てきました。この補足をします。「ギヤチェンジ」というとトランスミッションの中でギヤの噛み合いが直接変わるようなイメージを持っている方もいるかもしれません。しかし現在のマニュアルトランスミッションは、ギヤ自体が動いて変速をするのではありません。かつては摺動選択式とよばれる、ギヤ自体が移動するものがありましたが、現在は常時噛み合い式とよばれるものとなっています。ここでシフトチェンジの時に移動するのはギヤと車輪とつながるメインシャフトを連結したり解除したりするスリーブと呼ばれるパーツです。これがシフトレバーによって動かされるわけです。そして極端に言えばコレを移動させてはめればいいのですから、クラッチ操作はなくタイミングさえ合えばでもチェンジできます。

ただしエンジンの強い力で回転させられているトランスミッションのギヤにスリーブをそのまま移動して接続しようとすると、弾かれてシフトチェンジできなかったり、スリーブが割れたりする場合があります。そこでクラッチを切って、トランスミッションをエンジンの動力から解き放します。

クラッチを切ってトランスミッション内をエンジンから自由にしてやる

クラッチを切るのは、車輪によって回されるスリーブの回転と内部のギヤの回転を合わせやすくするため。

もう少し突っ込んで解説してみます。ここはトランスミッションの仕組みともからんでいます。クラッチを切るとエンジンからの回転は切断されます。ただ、まだ内部のギヤ自体は走行速度に応じて回転しています。そこでギヤをニュートラルの位置にすると、スリーブがどのギヤにも入っていない状態になりますからギヤの回転数は一気に落ちます。ただし、車輪からの入力によってスリーブはそれなりのスピードで回っています。ここでギヤチェンジしようと思うと、スリーブとギヤの間に回転差があるのでうまくつながりません。そこで現代のトランスミッションには、シンクロメッシュという回転を同期させる機構が付いています。スリーブを動かしたときに、シンクロをギヤにこすりつけてギヤの回転数を上げれば、スポッとギヤチェンジができるわけです。そしてクラッチをつなぎます。

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この動画はわかりやすいと思います。2分10秒位でスリーブが動く解説があります。

これは、信号待ちからスタートするときにクラッチを切ってもローにすんなりと入らないときにも応用が効きます。MTに慣れていない方は、これだけでも焦ってしまうのではないでしょうか? この時、トランスミッションのギヤが入らないのは、停止状態でスリーブの歯とギヤの歯の位置が合っていない状態だからです。ということは、ギヤを回転させればいいわけです。ダブルクラッチの要領ですが、ニュートラルの状態でクラッチをつないで、エンジンによって一旦トランスミッション内を回転させて、もう一度クラッチを切ればローにすんなり入ると思います。

半クラッチの仕方でクラッチディスクの摩耗度合いも変わる。

この乾式のクラッチディスクは一定の熱を長時間持つと急激に摩耗するという性質を持っています。一般走行では半クラッチの状態のときに減る分が多いと思いますが、これも使いかたの上手い下手で大分寿命が変わってきます。いずれにしてもMT車のクラッチの摩耗の問題ですが、普通の使用方法ではそれほど減ることはありません。シフトチェンジのときは半クラッチを使わないか、使っても若干だと思いますので、ここでの摩耗のことはあまり心配する必要はないでしょう。

MT車は乗りたいけれど、スタートが難しいから……と尻込みする方も多いようですね。要は慣れの問題なのですが、スタートさせるコツ? のようなものを書いてみたいと思います。多分教習所ではちょっとアクセルを踏んでクラッチを半クラッチにして、クルマが動いたらクラッチを離すというような教え方をするのではないかと思います。ただ、これだと最初に踏むアクセルに負荷がかかっていないため多めに踏んでしまいエンジン回転が上がりすぎ、焦りの原因になるのではないかと思います。ですから、アイドリングの状態で半クラッチ(クルマがビクッビクッと反応する程度)まで持ってきてアクセルを踏めば、クルマが動き出しますから、そこでゆっくりクラッチを離すと、比較的発進しやすいのではないかと思います。また、平坦路ではアクセルを踏まなくてもクラッチ操作だけで十分スタートできることも覚えておくといいかもしれません。

実はATにもクラッチ機構が使われている

ATのトルクコンバーターも流体クラッチ。

先ほど、クラッチはMT車だけに装着されているわけではないと書きました。実はAT車にもクラッチは使われています。トルクコンバーターという言葉を聞いたことがるかもしれませんが、これも一種のクラッチです。年配の方だとATのことを「トルコン」などと呼んだりもします。トルクコンバーターは内部にATフルードを用いることによってエンジンとトランスミッションをつなげています。具体的な部品は、エンジンによって直接回転させられるポンプインペラ―と、ポンプインペラ―によって流れを作られたATオイルによって回転するタービンランナ―となります。下の写真はトルクコンバーターのユニットです。

よくこの関係の例えに使われるのが向かい合った扇風機の図です。一方の扇風機に電源を入れてスイッチを入れると、電源を入れないもう一方の扇風機が回転しますが、これは前者がポンプインペラ―で後者がタービンランナーとなり、電源が入った扇風機が起こす風がATフルードということになります。MT車ではクラッチディスクがスプリングの反力でがっちりとエンジン側のフライホイールに密着しているため、ギヤを入れてクラッチをつないだまま停車していることは不可能ですが、AT車は、こうしたフルード(液体)を媒介にしているために、Dレンジに入れてブレーキを踏んでいてもエンストしないでいられるわけです。ATではさらにトランスミッション内にギヤチェンジを行なうための別のクラッチを設けてを油圧で断続させていますが、ここでは煩雑になるので、また別の機会に解説したいと思います。

原付きバイクの遠心クラッチはオモリの遠心力でつながる。

クラッチといえば、原付きバイクなどで用いられる遠心クラッチもあります。これは構造としてはシンプルで、エンジンのクランク軸が回転することによる遠心力を利用しています。クラッチの内部にはオモリが付いており、エンジン回転が上がると遠心力によってオモリがクラッチプレートとフリクションプレートを押し付けて駆動力が伝わるものです。これは構造の関係上、圧着力が弱いので大パワー車には使えませんが、便利な機構といえます。

LSDもクラッチプレートを使用して差動制限をする

多板式LSDもクラッチプレートが摩耗する。

スポーツ走行で使用されるLSD(リミテッド・スリップ・デフ)ですが、多板式(モータースポーツで一般的)のものは内部にクラッチプレートが入っています。これはデフに駆動力が掛かったときにプレッシャーリングというパーツが開き、クラッチプレートを押さえつけることにより差動制限が行われます。プレッシャーリングを開くには、トルク変動が必要なので、トルク感応式と呼ばれます。クラッチプレートは擦り合わせられ摩擦するという性格から、当然熱を持ちますし摩耗もします。そこでLSD装着車は定期的なLSDのオーバーホールが必要となるわけです。オーバーホールとは基本的にはクラッチプレートを新品に交換することです。

LSDというと、今はなんとなくドリフトのためのパーツと思われているフシがありますが、実際にはアクセルをオンにしたときに内輪と外輪の回転差を制限してトラクション(駆動力)をかけるためのパーツです。日本では戦後、最初はトラック(プリンス・クリッパー)などに装着されて、不整地や雪道で安定して走れるように考えられたものですが、トラクションがかかるということはスポーツ走行でもタイプアップが可能となります。また、1ウェイ、1.5ウェイ、2ウェイ式とあり、1ウェイは加速時のみに差動制限するもの、2ウェイは加減速両方で差動制限するもの、1.5ウェイは、加減速時に差動制限しますが、減速時の効きが弱いものという違いがあります。減速時にも差動制限すると、ブレーキングをしたときに姿勢を安定させる効果も期待できます。

トルク感応式LSDの解説をしましたが、もうひとつ回転差感応式というのがあります。ビスカス(ビスカスカップリング)式と呼ばれるもので、内部にあるシリコンオイルの粘性を利用したものです。これは雪道などで片側のタイヤが空転しそうになる(回転差が生まれる)と、その差が接地しているタイヤに伝わりLSD効果を発揮するものです。これも一種のクラッチといえるでしょう。こちらは基本的にノーメンテナンスで済み、実用的には十分なものです。

まとめ

クラッチというとなんとなくMT車だけのものと思いがちですが、用途や構造もさまざま。多くがMTのクラッチの意味になると思いますが、他の場合もあるので注意が必要です。恥ずかしい話ですが、私ははじめてLSDを知ったときに、クラッチプレートを使用していると聞いて、MT車のクラッチを利用して作動させているのではないか? としばらく思い込んでいたことがあります。他人はあっちのクラッチの話をしているのに、自分はこっちのクラッチの話をしていた……なんてことがないとも限りませんので、いろいろあるということは認識しておいた方がいいかもしれません。