【4WDアバンギャルド】為替レートに負けた?「初代スバル・アルシオーネ」

富士重工が乗用車への4WD装備を当たり前にしたレオーネに続き、当時のスペシャリティカーブームに切り込むために発売した「スバル・アルシオーネ」。スバルとしては唯一のリトラクタブルヘッドライト、先進性を感じさせるコックピットなど「アバンギャルド」らしくもスバルらしくないデザインが印象的なクルマでした。今回は、このアルシオーネに迫ってみたいと思います。

アメリカ輸出のために作られた4WD乗用車「アルシオーネ」

1985年1月にデトロイト・ショーに出展されたコンセプトカーが大きな注目を集めます。その名前は「スバル・XTクーペ」。リトラクタブルを含めフラッシュサーフェイスを意図した平面的なデザインのクルマは、その年、1985年6月に「アルシオーネ」としてアメリカで発売が開始されます。このクルマは、スバル初の海外先行販売であり、リトラクタブルを含め強くアメリカ市場を意識したクルマでした。

アルシオーネはプレアデス星団、つまりスバルの中で最も明るい恒星「アルキオネ」に由来した車名で、それだけで当時の富士重工・スバルが期待と威信をかけたクルマだったということがわかります。

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このアルシオーネ、北米での売り出しに当っては様々な宣伝攻勢を仕掛けたようです。その中でも、有名なのが今や大御所俳優トム・ハンクスが主演した「BIG」の中でトム・ハンクス演じるジョシュの恋人が乗るクルマに使われ、印象的なラストシーンを飾っています。これはターゲットとしていたアメリカ、特にキャリア指向の強い女性を狙った戦略を示していて、アルシオーネのオーナーの6割以上が女性だったという現実が、それを如実に表していたのでしょうし、発売直後、アルシオーネのアメリカで人気を博したことにも繋がるものでした。

初代アルシオーネのプロフィール

アルシオーネは、販売当初の1985年6月には、4WDのVRターボとFFのVSターボの2グレードで構成され、3速のオートマチックと5速のマニュアルトランスミッションが選択できたのは、VRターボのみでした。FFのVSターボにオートマチックが搭載されるのは、翌年1986年の3月に3速オートマチックを待つ必要がありました。

そして1987年7月に、「2.7VX」がラインナップに追加されます。これはスバルの「E-4AT(4速AT)」だけが設定されていて、2,700ccの6気筒ボクサーエンジンが搭載されていました。そして、「VRターボ」は「VR」へ、「VSターボ」は「VS」にグレード名が変更されます。この時、オートマチックも3速から4速に換装され、4WDの「VR」ではオートマチック車のトランスファがMP-T(マルチプレート・トランスファ)からACT-4(アクティブトルクスプリット4WD)へと変更されています。

「アバンギャルド」のベースはレオーネ

アルシオーネは、レオーネをベースにした派生車両で、レオーネ1,800cc GTターボと同じボクサーエンジン、4気筒OHCのEA82型ターボが搭載されました。その最高出力は135PS/5,600rpm、最大トルクは20.0kgf·m/2,800rpmとなっています。但し、レオーネよりも低く、そしてスランとしたノーズというデザインのため、補器類の配置が見直され、スペアタイヤもエンジン上に置くレオーネの方式を踏襲せず、リアトランク内に収納していています。

そしてVRターボAT車には「AUTO-4WD(AWD)」として自動的に4WD走行に切り替えるシステムが搭載されており、急加速時や急ブレーキの時、そして降雨時にはアクセル、ブレーキ、そしてワイパーと連動した形で4WDへと切り替わりました。このシステムが考えだされた大きな理由は、当時のABSの作動精度が低かったこと(当時のパーツサプライヤーが供給するABSは現在とは格段に低いものでした)、そこから4WDがむしろ加速やブレーキ時のホイールスピンやタイヤロックを防ぐ手段として効果的だと考えられたことが挙げられます。そして、この4WDへの自動切り替えというコンセプトは、現在のハイパワー4WD車両にAWDとして搭載され高度な駆動力の制御を行う機構に対する先駆者としての役割を果たしました。

VRターボの5速マニュアル車では、副変速機「デュアルレンジ」を装備しないという、当時の富士重工業が提供していたAWDラインナップの中でも最もシンプルな仕組みになっています。一方のVSターボは、ベースになっていた国内向け3代目レオーネ(オールニューレオーネ)にFFとEA82型ターボを組み合わせた設定が存在しなかったにも関わらず作られたグレードで、当時の富士重工業の4WDを優先したラインナップの中で異色の存在でした。

後のハイパワー車での4WD化に繋がったAWD思想

そして、1987年7月に行われたマイナーチェンジの際に追加された2.7VXでは、既存のEA82型エンジンをベースに2気筒を追加してサイズアップしたエンジンで、水平対向6気筒OHC「ER27」エンジンとされています。そのため、ボアもストロークも「EA82」と共通なのですが、結果としてEA82型エンジンはアルシオーネ以外に搭載されなかったため、事実上のアルシオーネ専用エンジンとして位置づけられています。

また、2.7VX、そして2.7VRには、MP-T(油圧多板クラッチ)の油圧をパルス制御(MP-Tの油圧を1,000分の1秒単位でパルス信号に変換し制御用のコンピューターに送り出し、受け取ったコンピュータはその信号を判断して油圧を加減圧し、トルクの伝達量を制御する仕組み。油圧が一定の値以上に高くなっていてれば直結AWDとして駆動しトルクの伝達は最大になります。これは、オートマチックのライン油圧からフロント・リアのトルク配分を決定していた従来の「MP-T-4WD」と比べれば、レスポンスもスリップ量のコントロール性にも優れた機構となっていました)により、フロント・リアの駆動力の配分を自動的に連続した形で変化させる 「電子制御アクティブトルクスプリット4WD(ACT-4)」が搭載されました。

このACT-4は、2WDに比べて4つのタイヤ全てがパワーを路面に伝えられ、自動車としての駆動力に優れる AWDが持つ特性に、フロント・リアの駆動力を変化させることでクルマ本来の操縦性まで可変化することを可能にしている画期的な駆動制御方法で、これは現在の 「VTD-AWD」のさきがけとなる富士重工業のAWDシステムのコアとなったテクノロジーでした。そしてオートマチックには、従来のランサー、アルシオーネに使われていた3オートマチックに代わり、4速 「E-4AT」 が搭載されています。このE-4ATは6気筒・4気筒のそれぞれのシリーズに対して同一のトランスミッション・ギヤ比が構成されました。更に、このマイナーチェンジを機会に、VRの5速マニュアル車は従来のパートタイムAWD仕様をやめ、レオーネRX-IIと同様のバキューム・サーボ式デフロック機能を搭載した、遊星歯車センターデフ付のフルタイムAWDにされています。

ギミックの魅力が円高に負けた?

このER27型エンジンは2.7VX専用と実車に搭載される以前、XTクーペとしてアルシオーネが公に登場し、アメリカで発売開始された1985年10月の第26回「東京モーターショー」で登場していました。これは、アルシオーネベースのコンセプトカー「ACX-II」として参考出品の形で公開されたのですが、走行可能なコンセプトカーであり、かつ走行シーンも公開されたACX-IIは、この時点では明らかに商品化を目指したモデルでは無かったと見られています。それは、同時に参考出品されていた「レオーネ3ドアクーペ・フルタイム4WD」と同じバキューム・サーボ式デフロックを装備した傘歯車式センターデフ・マニュアルトランスミッションとのコンビネーションが取られている一方、ブリスターフェンダーの張り出しによって5ナンバーに収まらず、3ナンバーサイズのワイドな全幅、そしてショーカーとして人目を惹く数々のギミックが搭載されていたことによります。

ところが、1985年9月に当時のG5で合意された為替レートの安定化に対する「プラザ合意」によって引き起こされた急激な円高が影響して、従来のアメリカ市場で有利に働いていた「廉価な高性能車」という日本車の優位性が失われ、どの国産自動車メーカーも軒並みアメリカに工場を建設し生産を開始するというアメリカ社会との共存、円高の不利を受けない生産体制、そして付加価値の高い高級化という路線転換が必要になってしまいます。このことは富士重工、そしてスバル・アルシオーネにも例外ではありませんでした。当時のスバルのラインナップには、レオーネとアルシオーネ、ジャスティの3車種しかなく、ジャスティは収益性の低さから富士重工の利益への貢献はほとんど無い状態でした。そこで、富士重工業としては、2本柱のうちの一つ、アルシオーネにアメリカにおける深刻な販売不振の解決役を担わせる必要に迫られます。そして、ショーモデルだった「ER27型」エンジン搭載の2.7アルシオーネが市場投入されることになったのです。しかし、ベースとなるレオーネの狭いエンジンルームにER27型エンジンを搭載することはできず、この決定から商品化には2年という長い時間が必要でした。

空力性能をアピールした最初のクルマ「アルシオーネ」

アルシオーネの外観は、リトラクタブルヘッドライトを採用した鋭角的なウェッジシェイプが印象的で、カタログにも「エアクラフトテクノロジーの血統」として日本車で初めてCD値は0.30の壁を突破して0.29を達成、CD×A(空気抵抗係数×前面投影面積)も0.53、CLFは0.10、CLRは0と空力性能は理想的な数値を記録しています。そのため、
・リトラクタブルヘッドライトを採用しフロントフードを低く設定
・フロントとリヤウィンドウの傾斜角を28度と同じ角度に設定
・三次元成形のリヤウィンドウを複雑な形状にし、フラッシュサーフェス・ラップラウンド・キャビンを実現
・ライズアップ格納機構を備えたコンシールドタイプ・シングルブレードワイパー
・ボディからフローティングさせた形状のスペースドアミラー
・可動式フラップでボディ表面の凹凸を完全になくすエアプレーンタイプドアハンドルを採用
・アンダーフロアをフラットボトムに
・サイドエアフラップを採用しタイヤハウスへの風の巻き込みを防止
・ボディ下部に流れる空気を整流し、乱気流の発生を防ぐリヤアンダースポイラー
・ハイデッキ、ダックテール形状による空気抵抗と揚力低減への最適化
といったことが試みられました。従来から、自動車工学では車両の空気抵抗の低減はレーシングカーなどでも明らかなように燃費や高速安定性など自動車が走行する上での性能向上に有効だということは自明のことでした。しかし、アルシオーネのように市販乗用車で空力性能を訴求したものはありませんでした。実際、この後しばらくの間、各メーカーでは空力性能を明記する例が激増していきますが、レーシングカーのよううに高速走行が多くない一般道で、その空力性能が大きな成果を上げるかどうかは別として、アルシオーネにとっては、斬新な外観に説得力を持たせるためには必要な数値化だったと言えるでしょう。

ライバルには「ホンダ・プレリュード」を意識?

そして、2,465mmというホイールベースは3代目レオーネと全く同じで、全長×全幅×全高=4,450×1,690×1,335mmとされたサイズは、当時、爆発的な売れ行きを見せていたスペシャリティカー「ホンダ・プレリュード(2代目)」を意識したものと言えるでしょう。ただ、主戦場とされたアメリカ仕様では、最低地上高の安全基準対策のためレオーネと同等の車高となりました。ちなみに、この時に設定されたボディカラーは、ボディカラーはVRターボ、VSターボともにツートンカラーで、ホワイト、レッド、ブルー、ダークグレーに対してライトグレーが組み合わされました。

そして、1987年7月にマイナーチェンジすると、2.7VXにパールホワイト・マイカ、ディープレッド・マイカ単色という専用色が与えられ他のグレードと差別化が行われます。そして、フォグライトを埋め込むための開口部を拡大した大型の衝撃吸収バンパーが装備され、またフロントフードのエアインテークが省略されています。一方、4気筒シリーズは従来からの2トーンカラーの配色を継続し、また、全グレードともホイールの14インチ化が行われ、新デザインのホイールキャップの採用などを除いてほとんど外観上の変更はありませんでした。

アクティブセーフティ機構を備えた先進性

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アルシオーネのシャシー、サスペンションはともに、ベースとなった3代目レオーネ1,800ccGTターボと共通化されています。そして、2.7VX、VRターボにはE-PS(エレクトロ・ニューマティック・サスペンション)と名付けられた、オートセルフ・レベリングつきエアサスペンションが装備されていますが、その一報VSターボにはコイルスプリング・サスペンションとされました。E-PSはハイトコントロール機構がついていて、標準車高である165mmとハイ車高195mmという2段階で車高を選択可能で、ハイ車高を選択していても80km/hに達すると自動的にノーマル車高へ復帰し、また、50km/h以下の走行では自動的にハイ車高に戻る機能となっていました。

また、富士重工業としてはじめて2.7VXに4センサー対角セレクトロー方式が採用されています。これは当時としては高度なABS制御、そしてAWDの前後駆動トルク配分制御「ACT-4」、また電動パワーステアリング「CYBRID」に対して統合制御を行う機構で、積極的なアクティブ・セイフティの先進性をアピールするものでした。そして、この方式は高い評価を受け、空力性能値のカタログ表示より以上に世界の自動車メーカーに対してアクティブ・セイフティの考え方に強い影響を与えました。

特徴に満ち溢れたインテリア

アルシオーネのインテリアですが、まず、低めのシートポジションに対して高い位置に設定されたセンターコンソールと、当時のトレンドだった「スペシャリティ・クーペ」に沿った形のドライビングポジションとしています。そしてセンターコンソールから運転席前方にへと広がる平面に対して、スイッチやメーター類を散りばめ、印象的なインストルメントパネル、シフトレバーはガングリップ・タイプ、ステアリングは左右非対称「L字型スポークス」とされ、一般的なコラムスイッチの機能は、それぞれボタンスイッチとして独立したパネルに配置した「コントロール・ウィング」という、斬新かつ目立つものでした。これは富士重工としての主張、個性のアピールだったとも言えますが、特にL字型スポークのステアリングはハンドルを切った時の感覚に違和感を覚えるなど、必ずしも高い評価には結びついていません。

廉価な4WD車から高級路線にシフトチェンジ

そしてインストルメント・パネルも非常に印象的なもので、LEDが多用されてまるで当時のテレビゲームそのものといった「エレクトロニック・インストルメントパネル」が選択可能でした。このインストルメント・パネルには、前期型では、簡単な減算・平均車速表示機能の付いたトリップコンピューターや、4スピーカーロジックコントロール機能付きAM/FMチューナーカセットコンポも装備されていて、富士重工業がスバルのフラッグシップとして売りだそうとした意気込み通りに豪華な装備になっていました。

そして、インテリアカラーは、前期型では標準車が明るいブラウン系が、ブルー・メタリック2トーン外装色にはブルー系内装にモケット+ビニールレザーが組み合わされました。これは1986年にビニールレザー張りで簡素な印象だったリアシートを、フロントシートと同一のモケット生地にしています。

さらに1987年のマイナーチェンジ以降では2.7VXのみダークブラウンに毛足の長いディンプルモケット生地の組み合わせが、そして4気筒エンジン搭載の標準車にはグレー基調のインテリアを、そしてブルー・メタリック2トーン外装色にはブルー系のインテリアとされています。

【諸元】
販売期間:1985年6月〜1991年
デザイン:碇穹一
乗車定員:4人
ボディタイプ:2ドアノッチバッククーペ
エンジン:EA82型 1,800cc水平対向4気筒ターボ、ER27型 2,700cc水平対向6気筒NA
最高出力:EA82型 120PS/5,200rpm、ER27型 150PS/5,200rpm
最大トルク:EA82型 18.2kgf·m/2,400rpm、ER27型 21.5kgf·m/4,000rpm
トランスミッション:3速オートマック/4速オートマック/5速オートマック
駆動方式:FF/4WD
サスペンション:フロント ストラット、リア セミトレーリングアーム
全長:4,510mm
全幅:1,690mm
全高:1,335mm
車両重量:1,300kg(ER27型)
ブレーキ方式:フロント ベンチレーテッドディスク、リア ディスク
最小回転半径:4.9m〜5.2m

まとめ

販売当初はマーケティング戦略も上々で「廉価でスタイリッシュなクーペ」として好調な売上が示されたアメリカ市場でのアルシオーネでしたが、1985年9月の「プラザ合意」が招いた円高によって「先進的な高級パーソナル・クーペ」へと路線変更が求められました。このことで、2.7VXが登場したわけですが、この路線変更はアルシオーネにとっての挽回策とはなりませんでした。また、レオーネをベースとしていたために腰高な印象は否めず、展示車両では重りを乗せることで車体を沈み込ませ、高い車高を意識させない努力も行われていたようです。

こうして、初代アルシオーネは一旦退場を余儀なくされ、アルシオーネSVXへと引き継がれますが、これもバブルの崩壊とともに売れ行きは芳しくないまま5年間で生産を終了してしまいます。

しかし、様々なアバンギャルドな機能は結果としてギミックに終わらず、4WD普通乗用車として今に息づく技術的な基盤となっていたことは忘れてはいけないでしょう。格好の良いスタイルながら、どこか隙のあるデザインと、アバンギャルドなコックピットに隠された技術のスバルの心意気、アルシオーネは今ではレアな車両です。できるだけいい状態で保存されていくと良いのですが…