【ポルシェ914】ポルシェとワーゲンが協力して開発した安価なMRスポーツカー

ポルシェはRR! というファンは多いですが、純レーシングカーでは積極的にMRを取り入れています。1960年代末、日本グランプリでプリンス・スカイラインと名勝負を演じたのもポルシェ904というミッドシップレーシングカーでした。RRでは操縦安定性を確保するのも難しいことは事実です。そんな問題をクリアすべく、ポルシェがVW社と共同して開発、市販したMRスポーツカー「ポルシェ914」を解説します。

MRの優位性を古くから認識していたポルシェ

RRのポルシェがはじめて市販したMR車が914

一般的にポルシェはRR(リヤエンジン・リヤ駆動)が伝統という認識が強いメーカーです。スポーツカーとして成功したポルシェ356がそのスタートともいえるでしょう。しかし、天才と呼ばれたフェルディナンド・ポルシェ博士は当然RRよりもMR(ミッドシップエンジン・リヤ駆動)の方がスポーツカーとしての操縦特性に優れるということは認識していました。ポルシェのMRはRR以上の歴史があるといっていいものです。下の写真はRRのイメージを決定づけたともいえる356です。

一例はポルシェ博士がアウトウニオンの依頼をうけて設計したレーシングカー「Pヴァーゲン」です。B・ローゼマイヤーという類まれな才能を持つレーシングドライバーによって1930年代後半のGPレースで活躍しました。戦後となっても、イギリスのクーパーがMR車を開発し1959年、60年のF1タイトルを獲得していますし、フェリー・ポルシェの時代にもイタリアのチシタリアのレーリングカーにたずさわっています。これはスーパーチャージャーを装着した1.5LのV12エンジンをミッドにマウントしたものでした。ポルシェ社自体も、1963年には904を発表していましたから、その優位性は十分に認識していたと思います。下の写真がアウトウニオンの「Pヴァーゲン」です。Pはポルシェのイニシャルです。

RRは実は妥協の産物だった?

ただし、それらは純レーシングカーでした。ポルシェ356のプロトタイプはMRだったことは有名ですが、それに続く911も含めて市販車としての居住性を優先したためにやむを得ずRRを採用した面があります。そういう意味で1970年になって発売されたポルシェ914は、ようやく市販車でポルシェの理想を実現したというクルマでもあります。事実、その当時は911がRRのためにリヤヘビーから来る操縦性の悪さに苦しめられている時期でした。

RRの素性に苦労した上でポルシェ914を世に問うた

ポルシェ使いに好まれるRRは操縦性については難がある。

エンジンやそれに近い位置にドライバーが座ることになるMRは、重量物が車両の中心に来ることにより、(ドライバーの腕によるところは大きいですが…)コーナリング性能やトラクション性能がアップします。しかし、エンジンがリヤにくるRRの場合は、コーナリング進入時はフロントに荷重がかかりにくいため曲がりにくくアンダーステアとなり、一旦曲がりはじめると、一転して重いリアが振り子のように振り出し強烈なオーバーステアとなります。そこをカウンターステアで抑えこんで走るドライバーを「ポルシェ使い」と呼ぶのですが、誰でもできる芸当ではありません。トラクション性能では有利になるといわれますが、スポーツカーとして重視したいのはコーナリング性能ですから、やはり最適なのはMRという事になります。

ポルシェ914は安価なMRというコンセプトのもとリリースされた。

ポルシェ914はそういう期待の中で登場したクルマといえます。しかも、安価なスポーツカーとして市場に出すということは、コーリン・チャプマンが世に出したロータス・ヨーロッパなどにも通じるもので、当時求められていたと言えるでしょう。

ポルシェとVWは、それぞれ50%ずつ出資したVW-ポルシェ・フェルトリーブスゲゼルシャフト(VW-ポルシェVG)という合弁会社をシュトゥットガルトに設立し、914や両社のクルマも後に発売する予定でした。ポルシェ914は完成度の高いMR車となっていました。VWとの共同開発だったためVWポルシェとも呼ばれます。そのため搭載された空冷水平対向4気筒エンジンはVW411(タイプ4)に搭載されていたものと同じユニットです。

スタンダードバージョンではワーゲンタイプ4のユニットを流用

基本となったエンジンはフォルクスワーゲンタイプ4の1.7L水平対向4気筒エンジン。

特に安価に性能の良いMR車を作るには、流用可能なパワートレーンがあることが重要でした。VW社には、やはりポルシェ博士の関わったビートルがあります。そのパワートレーンはRRですから、914はそれを前後逆にするだけでMRとして成立させました。このVW411(タイプ4)用の水平対向4気筒エンジンは、基本はビートルと同じです。カムが合計で4個だけで良い水平対向OHVはコスト的にも優れており、ロングストロークが常識だった時代に、かなりのショートストロークとしたことでピストンスピードが低くてすみ、高速連続走行での負担が少ないものでした。空冷ということから熱の問題には苦労しており、解決策として、容量の大きなオイルクーラーを装着していました。これは「油冷」とも言えるもので、ポルシェ911の成功ともつながっています。さらにハウジングが強化され、冷却フィン形状が変わるなど、各所が改善されていました。下の写真がフォルクスワーゲンタイプ4です。

タイプ4では、ツインキャブで65PS/4,500rpmを発揮していましたが、914に搭載する際にソレックスキャブレターからボッシュ製のインジェクションに変更されたため411Eと名付けられ、排気量が1,679ccでボア☓ストロークが90.0mm☓66.0mmのショートストローク。圧縮比8.2で最高出力は80PS/4,900rpm、最大トルク13.4kg-m/2,700rpmというものでした。

オープンカーはどうしてもボディ剛性を確保するために重量増となってしまいますが、914では、オールスチール製のモノコックに911のタルガと同じような堅固なロールバーが備わっていたため、剛性にも優れていました。荷室、室内、エンジンルーム、リア荷室がコンパートメントとなり、必然的にバルクヘッド(隔壁)が設けられることもボディ剛性の向上につながっていました。そのため914はMRらしい優れたハンドリングを備えていました。しかも、スポーツカーでは必ず装着されているともいえるスタビライザーは前後とも設定されていませんでした。これは、914テスト時にロールセンターが地上11.4~12.7cmと比較的高い位置にあったことと関係しています。

重心とロールセンターが近くなったことで、当初はスタビライザーも不要でOK。

基本的にロールセンターとクルマの重心の距離が近いほど、ロールは少なくなります。クルマの重心というのはボディスタイルやエンジン搭載位置など重量物の搭載位置で決まりますが、下げるのには限界があります。ロールセンターはサスペンションの設計で決まりますが、ポルシェ914の場合はその設計が良く、双方がかなり近くなりました。スタビライザーはロールを抑えるパーツですが、それが不要と判断されました。テスト時は、0.6Gの横Gをかけた時に4度しかロールしなかったといいます。

また、2シーターではありましたが実用性も重んじていたために、フロントとリアエンジン後方に合計で450リッターのトランクルームを確保していました。それはサスペンション形式がフロントにスペース効率が良いマクファーソンストラット式し、リヤにも構造が簡単でスペース効率がいいトレーリングアームを使用したことによって果たされました。これも411からの流用です。このリヤサスペンションは、それまでポルシェはトーションバースプリングだったのを、はじめてコイルスプリングとしたものとなりました。

燃料タンクはフロントにあり、水平対向エンジンの短さを生かすことによって、着座位置も後ろに下げられたために、足元のスペースにも余裕ができました。欠点としては脱着式のタルガトップを収納する必然性から、トランクの開口部を広くとったため、エンジンリッドが狭くなったことです。水平対向エンジンは、深いところにあったために、整備性は良いとは言えませんでした。

非力な4気筒に加え、ポルシェ911Tの6気筒エンジン搭載のバージョンも設定

ポルシェ製水平対向6気筒搭載車も同時に発表される。

ただタイプ4のエンジンの最高出力80PSというのは、お世辞にもパワフルとはいえませんでしたので、911用水平対向6気筒エンジンを搭載した914/6も設定されました。このユニットはポルシェ911Tのもので1,991ccの排気量でボア☓ストロークが80.0☓66.0、圧縮比8.6で最高出力が110PS/5,800rpm、最大トルクが16.0kg-m☓4,200rpmとなっています。

1969年6月のフランクフルト・ショーでポルシェ914は発表され、同年の東京モーターショーでも展示されました。この時は、4気筒モデルのスタンダートとデラックス、そして6気筒の914/6でした。価格はそれぞれ2,200,000円、2,350,000円、3,550,000円となっており、6気筒バージョンは高性能でした1,000,000円以上の差がありました。

1973年4気筒エンジンのバージョンには914専用のエンジンも開発されました。これは、1,971ccでボア☓ストロークが94mm☓71.0mmで、圧縮比8で、最高出力が100PS/5,000rpm、最大トルクが16.0kg-m/3,500rpmとなりました。このユニットを搭載したモデルを914 2.0Sといいます。この性能アップで動力性能は6気筒バージョンに匹敵するものとなりました。サスペンションにはスタビライザーが装着され、アロイホイールが装着されていました。また914ではなく916と呼ばれるバージョンもあり、こちらは911Sの2,341ccエンジンが搭載され 190PSを発揮するものや、911RSの2,687ccエンジンが搭載され210PSを発揮するものが少量ながら生産されました。

そのスタイリングは好評とはいえず、販売的には不振に終わる

性能的には高度にまとまったがスタイリングがイマイチ?

914で問題があったとすれば、そのスタイリングにあるでしょう。914は、実用本位のスタイリングは決してかっこいいと言えるものではなく評判は芳しいものではありませんでした。このスタイリングは南ドイツのノイ・ウルムのゲーゲルロート・デザインGmbhが作った1/2サイズのスケールモデルのデザインを元にしていたといいます。これをもとにフェルディナント・ポルシェ博士の孫にあたるフェルディナント・アレクサンダー・ポルシェ(ブッツィー・ポルシェ)が決めました。元のデザインから前後方向の室内長を縮め、フロントのトランクスペースを増すなど実用性を重視した変更が加えらたのです。

ポルシェ914はクルマの機能という面から見れば非常に高いものとなっていました。ただ、残念ながらスタイルという点で広く受け入れられたと言えず、販売面では不調に終わってしまい1976年にFR(フロントエンジン・リヤ駆動)のポルシェ924に引き継ぐカタチで生産を終えました。その後は、924、944、928とスポーツFRモデルを手がけますが、これも熱心なファンには受け入れられず、911系のRRが不変の人気を持っているのはご存知の通りです。ただし、やはり純レーシングカーではMRとなりポルシェ962などルマン24時間をはじめとした耐久レースでの活躍はご存知のとおりです。近年、市販モデルでも、ボクスター、ケイマンといったMRモデルもようやくマーケットに受け入れられるようになってきました。ここでポルシェの理想が受け入れられつつあるということでしょう。

まとめ:ごく私的な思い出……。

私的なことを書けば、私がはじめて乗ったMR車もこのポルシェ914でした。まだ、1970年代の小学生の頃ですから、父親のサイドシートです。ワクワクしながら首都高を走ったことが鮮明な記憶として残っています。夜はリトラクタブルヘッドライトがカエルの目のようでかっこいいというよりはかわいいというイメージでした。さすがに、操縦性がどうだったかまでは分かりませんが、父が生き生きとドライビングしているのを見たのは懐かしい思い出となっています。今でも機会があれば一度入手したいクルマの一台です。中古車価格は不人気車? ということでこなれており、4気筒のバージョンなら1,500,000円から2,000,000円程度になっているようです。