【シューティングブレーク】ステーションワゴンとは異なるアクティブな自動車たち

シューティングブレークという自動車のタイプをご存じですか?週末の狩猟のお供として馬車の時代から続く伝統的な様式は、100年を超えた今もなお、自動車市場の一角で存在感を放っています。ステーションワゴンとはひと味違う、シューティングブレークについてまとめました。

シューティングブレークについて

シューティングブレークは、近年脚光を浴びているクルマのボディタイプのひとつです。

ときに何百kgにも達する重量物を積むような状況を想定しているステーションワゴンに比べて、シューティングブレークは、荷室は広いものの積載性を再優先しているわけではなく、走行性能を重視したスポーティーなハンドリングや、プレミアム感の強いデザインが特徴となっています。一方でステーションワゴンでも、スポーツワゴンと呼ばれるコンセプトの近い系統が過去に少なからず存在し、それらとのすみ分けは曖昧になりつつあります。

シューティングブレークの歴史

シューティングブレークのおこり

シューティングブレークという言葉は古く馬車の時代からありました。ブレークと呼ばれるタイプの馬車のうち、とくに狩猟用に用いられるものを、シューティングブレークと呼称したのです。馬車のシューティングブレークは、運転手や案内役が前向きの前座席に座り、また後方に通勤電車のような横向きの対面座席が備わり、ここに狩猟に出かける人が複数人乗ることができるほか、猟銃や猟犬、そして獲物のためのスペースも確保されていました。シューティングブレークは、貴族階級の狩猟のための実用的な馬車だったのです。

20世紀に入り、馬車から自動車への転換が進むと、シューティングブレークもコンセプトを変えずに自動車への転換が進みました。当時の自動車は、特にロールス・ロイスなどの超高級車の場合、馬車からの影響が強く、自動車メーカーが作るエンジンやフレームに対して、複数のコーチビルダー(車体製造元)が供給する車体を、バリエーションとして選ぶことができました。このようなコーチビルダーの中には、馬車時代から車体づくりを行っていたところもあり、その一部がシューティングブレークを供給していたのです。

ちなみに、より大きな分類である"ブレーク"については、今でも名前が残っています。これはプジョーやシトロエンが積極的にステーションワゴンに対する仕様名として利用し続けてきており、かつては日本仕様でもブレークという名前が使われていたことがありました。現在の日本仕様のプジョーやシトロエンではブレークという名前は使われていませんが、仕向地によっては今でもブレークという名前が採用されています。

戦後のシューティングブレークの発達と衰退

そんなシューティングブレークですが、第二次世界大戦が終わり、自動車の在り方が変わると、コンセプトの転換が始まりました。運転手付きの自動車であるショーファードリブンカーという立ち位置から、自分で運転する自動車であるドライバーズカーとしての立ち位置への変化が起こったのです。

戦後、ヨーロッパの貴族階級社会は徐々に薄れました。もちろん旧来の貴族階級も残っていて、ショーファードリブンの高級車の市場も発展を続けていたのですが、かといって何人も連れ立って1台の自動車で狩猟に出かけるための自動車が作られる機会は減りました。

また、自動車の発達・発展により、自動車は運転自体が楽しまれる存在となりました。航続距離も伸び、以前よりも遥かに長い距離を、高速で快適に移動する手段となったのです。それに伴い、戦後のシューティングブレークは、ドライバーが自ら運転し、後ろに猟犬や猟銃が乗るスペースを確保したものにコンセプトが変化しました。

この時期のシューティングブレークは、ジャガーやアストンマーティンの高性能クーペの車体に、コーチビルダーが大きく手を加えて仕上げたものが主でした。また、1970年ごろになると、ボルボやリライアントなどは、カタログラインアップにこのようなシューティングブレークを設定して、狩猟用のみならず、実用性が極めて高い3ドアクーペとしての役割も担いました。

しかしコーチビルダーの衰退に伴い、彼らがコンセプトを保ってきたシューティングブレークも徐々に衰退をはじめます。シューティングブレークに近いコンセプトのモデルも不定期に生まれていましたが、1990年代には過去の存在になってしまっていました。

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%83%81%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%82%B4%E3%83%B3%E3%83%80

アストンマーティン ラゴンダのシューティングブレーク

2010年代のシューティングブレークの再興

そんなシューティングブレークですが、2000年代後半になると復活の兆しを見せます。ボルボの小型車、C30や、BMWの元で再スタートしたミニ クラブマンは、シューティングブレークの再来だと評価されました。

そして2011年にフェラーリがFFを投入します。フェラーリにとって、V型12気筒エンジンをフロントに積み後輪を駆動、そして4人が乗れるというGT志向の2ドアクーペは、元々彼らの乗用車作りの源流ともいうべきものでしたが、フェラーリはクーペのデザインを捨てて、3ドアのハッチバックボディに舵を切りました。これはまさに、過去の高級なシューティングブレークの再来でした。

降って湧いたようなシューティングブレークの復活の背景には、リーマン・ショックなどによる北米市場の減速があると言われています。これまで北米で好まれていたエレガントな2ドアのクーペよりも、新鮮な価値観を提供した方が、中国などの新興市場で受け入れられるのではないかという、野心的な戦略というわけです。

さらに近年メルセデス・ベンツは彼らの4ドアクーペであるCLS、そしてその弟分のCLAにシューティングブレークを設定しています。車種名としてシューティングブレークという表記が備わった市販車は稀に見るものでしたが、元が4ドアなので、メルセデス・ベンツのシューティングブレークは、3ドアハッチバックではなく5ドアのステーションワゴンのような車体形状を持っています。シューティングブレークのコンセプトは、ここに来て少なからず変化しつつあるとも言えるでしょう。

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%96%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%AF

アウディによるシューティングブレークのコンセプト

過去の主なシューティングブレーク

ここでは過去に存在した自動車の中で、シューティングブレークという括りで言及されるものについて紹介します。

ロールス・ロイス シルバーゴースト シューティングブレーク

出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Shooting-brake#/media/File:1910_Rolls-Royce_Silver_ghost_Croall_%26_Croall_Shooting_Brake.JPG

英語版ウィキペディアのシューティングブレークのページで真っ先に紹介されているシューティングブレークで、1910年のものです。エンジンが収まるボンネットこそありますが、全体的なイメージとしては馬車に近いものが見て取れるのではないでしょうか。これはまさに、馬車時代のシューティングブレークの基本的な源流を汲んだ自動車だと言えるでしょう。後ろに飾られている当時の狩猟の風景も印象的です。

ちなみに原型のシルバーゴーストは1906年から1926年まで製造されました。この時代のロールス・ロイスはコーチビルダー全盛期で、ひとくちにシルバーゴーストと言っても、何種類もの車体形状がありました。近年、ゴーストの名前は新生ロールスロイスの中で、セダンの名称として復活しています。

Harold Radfordによるアストンマーティン DB5のシューティンブレーク

出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Aston_Martin_DB5

映画007シリーズに何度も登場するボンドカーとしても著名なアストンマーティン DB5ですが、この1960年代の名車にもシューティングブレークの存在が知られています。これは当時のアストンマーティン社のオーナーであり、狩猟家・愛犬家でもあったデビッド・ブラウン氏の要請で特別に作られたもので、車体の架装はコーチビルダーであるハロルド・ラッドフォードの手によって行われました。彼らはベントレー カントリーマンをはじめ、高級車にアウトドア的な用途に使えるエッセンスを加えることを得意としていました。

生産台数は11台か12台、もしくはそれ以上だと言われています。

リンクスによるジャガー XJ-Sのシューティングブレーク、"イヴェンター"

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%82%AC%E3%83%BC%E3%83%BBXJS

1975年代から1996年までの長期に渡って製造されたジャガーXJ-S(1991年代からはXJS)は、ジャガーのセダンであるXJをベースにしたグランツーリスモクーペでした。このXJ-Sにも、シューティングブレークが設定されたことが知られています。

生産を担当したのはコーチビルダーのリンクス・エンジニアリングで、1983年ごろから生産が行われ、1990年代に生産された個体もあると言われています。総生産台数は67台、ベースとなったグレードは、通常のモデルからハイパワーなモデルまで、多岐に渡りました。

マイナーなモデルですが、イヴェンター(Eventer)という名称が用意され、イギリスではジャガーのディーラーにて実際に注文することができたようです。

リライアント シミター GT

出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Reliant_Scimitar

3輪自動車のロビンがMr.ビーンの劇中で頻繁に転倒する印象が強いリライアントですが(ちなみに転倒の演出はリライアントの粋な計らいであり、実際にはちゃんと走るクルマだったそうです)1960年代にはシミターというスポーツカーを作っていた時代がありました。

シミターにも、こんなシューティングブレーク形状のボディがありました。ドアの短さの割に車体後半が長いのが、いかにもシューティングブレークといった雰囲気を醸し出しています。

ボルボ 1800ES

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%83%AB%E3%83%9C%E3%83%BBP1800

1960年代に販売されたボルボのクーペであるP1800は、モデルチェンジ末期の1973年までの長期間製造されました。2013年には1966年式の個体が300万マイル(約480万km)の走行距離を達成するなど、ボルボの耐久性の高さを象徴する存在でもあります。

シューティングブレークボディの1800ESは、モデル末期の1972年に登場しました。古くなった1800シリーズの若返りをはかったものですが、当時のボルボの主市場であった北米の安全基準に対応できなくなり、これに伴って1800シリーズは1973年に生産を終了することになりました。

車体製造はボルボのLundby工場で行われていました。(初期のP1800は、イギリスのコーチビルダーであるジェンセンが担当していました)

ボルボ 480

出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Volvo_480

1800ESが短命に終わって悔しかったのか定かではありませんが、ボルボは、1970年代以来影響力を強めていたオランダの自動車会社DAFで、480という名前のハッチバック車を製造します。これがシューティングブレークかは議論が分かれるところですが、しばしば言及されるのは不運の先祖、1800ESの恩恵でしょう。

メカニズムは当時のボルボの主流の後輪駆動ではなく、DAFが持っていたジアコーサ式の横置きエンジン前輪駆動の技術を採用、エンジンは当時上級エンジンを共同開発していて関係があったルノー製の1.7リッターを引っ張ってきて、ハイパワーなターボはポルシェの外注部門に依頼するという、キメラ感漂うモデルでしたが、特に前輪駆動技術は1990年代以降のボルボの主軸となりました。

この480、実は日本にも若干台数が正規輸入されていました。リアシートは左右独立したものが備わるなど、確かに普通のハッチバックとは異なる存在感のあるものでした。

ボルボ C30

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%83%AB%E3%83%9C%E3%83%BBC30

ボルボは2000年代に、Cセグメントのエントリーモデル、C30を発売しました。アイディがA3を、BMWが1シリーズを投入するなど、中型の乗用車を作っていたメーカーが小型車に舵を切る機会は増えていましたが、ボルボはよっぽど過去のコンセプトにこだわりがあるのか、ライバルとは異なり2ドアのみとして、またテールゲートは大きなガラスハッチとしました。この成り立ちから、C30は1800ESや480の再来だと言われました。

しかしあまりにもニッチ過ぎたのか後継車は登場せず、2012年に生産終了になりました。

ホンダ アコード エアロデッキ

出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Honda_Accord#Accord_AeroDeck

ヨーロッパの事例ばかり紹介してきましたが、日本でもホンダが1980年代に、アコードエアロデッキというシューティングブレーク的なコンセプトのモデルを日欧で販売していました。

日本では顔が変わって巨大になったワンダーシビックといった印象で不発だったようですが、この価値観を理解したヨーロッパの消費者の間ではそれなりに人気が出たと言われています。

新車で買える主なシューティングブレーク

フェラーリ FF

上でも軽く紹介しましたが、伝統の2ドアGTを捨ててフェラーリが販売したFFは、まさに戦後の高級シューティングブレークの流れを汲む保守本流の王道モデルだと言えるでしょう。

ちなみに4輪駆動なので、ウィンタースポーツの足にするにもピッタリですよ。

メルセデス・ベンツ CLS シューティングブレーク

ベンツは4ドアクーペのCLSの派生車種としてシューティングブレークを投入。

ドアが4枚もあるなんて邪道だという声も聞かれましたが、このテールゲートの形状や、あまり天地高が取れない荷室形状は、まさしくシューティングブレークです。猟犬のアプローチは後席ドアからどうぞ。

メルセデス・ベンツ CLA シューティングブレーク

CLSでの成功に味を占めたのか、弟分のCLAにもシューティングブレークを設定。元ネタがAクラスということもあり、やや寸詰まりな印象も否めませんが、スポーツワゴン的なモデルとして人気を集めています。

まさに新世代のシューティングブレークと言えるでしょう。

ミニ クラブマン

最後にミニ クラブマンをどうぞ。

登場時、シューティングブレークの再来だと言われたモデルでしたが、現行モデルでは前身のような左右の観音開きドアが失われ、ややスペシャリティ感が減ったという指摘もあります。とはいえ他にあまり似ていないこのモデルは、多彩な需要に応える現在のミニの販売姿勢を強く印象づける存在です。

まとめ

シューティングブレークについて駆け足でまとめてきましたが、いかがでしたでしょうか?

ワゴンともクーペとも違う独特な存在のシューティングブレーク、クルマ選びに悩んだら、一度選択肢に入れてみても良いかもしれませんね。