【トヨタ アイゴ】イギリス発、チェコ生まれの小型車は骨太なシティカー

トヨタの小型車といえばヴィッツやパッソ、最近ではアクアが代表的ですが、アイゴというクルマをご存知でしょうか?ネーミングから関連検索に韓国というキーワードが出てくるなどアジア向けのクルマだと思われていることもありますが、チェコの工場で生産されヨーロッパで販売されているれっきとしたヨーロッパ車です。プジョーやシトロエンにも兄弟車が存在する、日本ではマイナーな小型車、トヨタ アイゴをご紹介します。

ヨーロッパでのトヨタの小型車戦略沿革とトヨタ アイゴの歴史

2016年現在、世界最大級の自動車会社として成長しているトヨタ自動車は、日本で開発・生産された車種の輸出のみならず、今や世界各国に生産拠点や開発拠点を置いています。これらのグローバル化は1990年代から進められてきていました。

このうち、ヨーロッパでは1992年のイギリスへの進出を行い、フランスやポーランド、トルコなどへの進出を果たしています。特にイギリスは日本と同じ左側通行・右ハンドルのエリアで、日本車との親和性が高く、1990年代当時はホンダがローバーとの結びつきを強めているなど、日本車や日本企業の存在感が強まっていた時期でした。(ちなみにローバーはホンダと合併直前まで進んでいましたが、規模の拡大を目論むBMWが割って入るカタチで頓挫しています。但しBMWにとってはこのローバーの吸収合併は大失敗に終わり、大赤字を出してミニブランドなどを残して叩き売りする羽目になり、当時の重役が辞任するなどの騒動になりました)

TPCA外観

今回ご紹介するトヨタ アイゴは、そんなトヨタが2002年からチェコのコリーンに設置した、トヨタとPSAプジョー・シトロエンとの合弁会社、TPCA(トヨタ・プジョー・シトロエン・オートモービル)にて生産されている小型車で、全長3m台半ばのAセグメントと呼ばれるジャンルに属する小型車になります。

冷戦の集結に伴い、ヨーロッパでの自動車市場は少なからず変化が置きました。自動車会社各社は人件費の安い旧社会主義の東ヨーロッパに続々と工場を進出させ、そこで西ヨーロッパではあまり需要のなかった、小型ながら大人4人が乗りこめる実用車の製造と市販に舵を切ったのです。それまでのヨーロッパのAセグメントの小型車といえば、ドアは基本的に2枚、後席も状況次第では広々と使えるものの、基本的にはパーソナルカーとして使うことを前提にした内容でしたが、そこから変化が生じたというわけです。

トヨタのチェコ進出も、まさにその変化の中で行われた事業でした。またPSAプジョー・シトロエンにとっても、これは利害関係が一致するプロジェクトでした。PSAプジョー・シトロエンは、ルーマニアのダチアを子会社としていた同じフランスのライバルであるルノーや、チェコのダチアを子会社にしていた大手フォルクスワーゲンに比べて、東ヨーロッパ向けの需要を睨んだ小型車の生産体制を持っていなかったのです。

合弁事業とはいえ、TPCAの発足に際しては、主に生産管理部門をはじめ、トヨタ自動車が陣頭指揮を取りました。日本からは多くのスタッフが派遣され、トヨタの品質水準に叶った製品が製造できる体制が整えられました。一方のPSAプジョーシトロエンは、フランス車の強みであった、石畳の上でも良好な乗り心地を保ちながらハイペースを保てる、しなやかな足回りなどのノウハウを提供しました。

こうしてTPCA発足から3年後の2005年に、トヨタからはアイゴ、プジョーからは107、シトロエンからはC1を名乗る3車種が、それぞれの会社の長所を併せ持った小型車としてヨーロッパ全土に送り出されたのです。

プジョー 107、トヨタ アイゴ、シトロエン C1の3兄弟

初代トヨタ アイゴについて

かくして登場したトヨタ アイゴですが、まずは気になるのがネーミングです。なんとなく韓国語の感嘆詞を想起させるネーミング、しかもアイゴーという感嘆詞はネガティブな場合に使われているそうですが、これとは全く関係なく、「I Go」という文章からの造語だとのこと。なるほど、ヨーロッパでしか販売するつもりがなかったので、こんなネーミングにできたというわけです。

名前こそインパクトがありましたが、初代アイゴのフロントデザインは結構地味でした。イメージとしては、同年代にヨーロッパで販売されていた他のトヨタ車と共通性を持たせていたのですが、なにせ小さなクルマなので、どうしても地味な印象は拭えなかったのです。

一方で兄弟車のプジョー 107とシトロエン C1は、それぞれ大きな口を開けたようなデザインを採用していました。いずれも当時のプジョーやシトロエンのデザインテイストにのっとったものだったのですが、インパクトという点では負けていた感が否めません。

リアデザインについても、テールゲートに沿わせたテールランプを持つ兄弟車たちと比べると、アイゴのものはちょっと地味な印象でした。ちなみにテールゲートは巨大な1枚のガラスハッチとすることで、コストの低減とデザイン性の高さを両立させる手法が取られました。この方法は、後にフォルクスワーゲンのup!も採用しています。

モデル半ばの2009年には、フロントグリルの形状変更やテールランプのクリアレンズ化が行われました。地味な印象を踏みこえて、少し個性的になることができました。更に末期の2012年にもデザインの変更が行われています。

初代トヨタ アイゴのボディタイプ

初代トヨタ アイゴには2ドアと4ドアが設定されました。

特筆すべき点は、このボディサイズの小ささにも関わらず、4ドアが設定されたことです。初代アイゴのボディサイズは日本の軽自動車より少し長い3,415mmでした。軽自動車の感覚からいえば、この長さの車体で前席と後席のそれぞれにドアがあるのも違和感はないかもしれませんが、体格が日本人よりも大きなヨーロッパで販売されること、ヨーロッパの速度域が速いこともあり、空力に配慮してボディ後半を絞り込んだ車体形状とするなど、軽自動車に比べると室内空間を再優先させたパッケージングではなく、軽自動車に比べると実質的には室内が狭めのことを考えると、後席ドアの設定はちょっとした革命でした。

4ドアモデル(特別仕様車)

これはまさに、ヨーロッパでのAセグメントの小型車が、パーソナルカーからファミリーカーへと転換していくことを体現していました。

そしてこれを機に、ライバル各社も同クラスのモデルで、積極的な4ドア化を進めていったのです。例えばフォルクスワーゲンは2ドア専用のルポをかつて販売していましたが、同クラスに投入したup!では4ドアモデルを設定して積極的に販売し、伝統的に2ドアだったルノー トゥインゴも、最新モデルでは4ドアのみの設定となりました。

2ドアモデル

現行トヨタ アイゴの特徴

2代目となる現行トヨタ アイゴが登場したのは2014年のことでした。といっても、開発はなんと2008年から行われていたといいます。コンピューター技術が発達して、自動車の開発期間が短縮化される昨今、これだけの時間を、利幅の低い小型車に対してかけるというのは、なかなか見られない気合の入り方です。

初代アイゴはTPCA発足から3年間で発売されていましたが、準備期間不足により、もっとやっておきたかったという部分が少なからずあったのかもしれません。

2代目アイゴの開発を主に行ったのはトヨタのヨーロッパでの販売戦略の要(かなめ)であるイギリスの開発部門で、チーフデザイナーは日系人のデビッド寺井という人が行ったそうです。彼はトヨタ アイゴを、必ずしも東ヨーロッパの所得に余裕が無い層にしか魅力がないクルマとしてではなく、もっとヨーロッパ全土で広く愛されるモデルとなるべく、アイゴに強烈な個性を持たせようと画策しました。参考にしたのは日本のマンガ文化で、かくしてトヨタ アイゴは、かなり度肝を抜くデザインのモデルとして登場したのです。

2代目のアイゴでなんといっても目を引くのがフロントのX状のデザイン。イギリスのトヨタ的にはこれはアルファベットの「X」だということだそうで、リアデザインにも同じモチーフを取り入れているほか、各グレード名や装備名にも、やたらとx-pressionだとか、x-shiftだとか、Xを執拗に加えてきています。ただ、これは口を開けているような雰囲気もあり、ジェームズ・キャメロン監督のエイリアンだとか、岩明均の寄生獣だとか、なにかとネットで話題になることが多いミッフィーの口の構造を連想する人も多いかもしれません。ちょっとギョッとするデザインです。

けれども、このギョッとさせるというのは、きっとイギリスのトヨタの開発陣の確信犯なのでしょう。日本ではレクサスブランドを展開、他にもクラウンやセンチュリーなど、高級車のイメージもあるトヨタですが、ヨーロッパでも知名度こそあれ、日本のような高級イメージは強くはありません。ですから妙に背伸びして、今までのクルマの枠で地味なものを作るよりも、安くて小さなクルマだけど、どうだこのインパクトは! 参ったか! と勝負に出ているような、そんな印象を受けます。

ちなみに兄弟車のシトロエンのC1や、先代から数字が1つ増えたプジョーの108は、どちらかというとシトロエンやプジョーの上級モデルと同じようなデザインモチーフを取り入れていて、ちょっとした高級感も漂っています。保守的なモデルが欲しければ、伝統のメーカーのそちらの商品をどうぞと、上手く棲み分けられているようにも見えますね。

トヨタ アイゴのボディタイプ

2代目のトヨタ アイゴのボディタイプは、先代に引き続いて2ドアと4ドアが設定されています。4ドアについては、このクラスのヨーロッパ車でも、すっかり当たり前の存在になってしまいました。また、居住性に配慮して、天井は頭上の部分が膨らませてあり、車内で動き回れるような余裕や、視覚的な余裕はないものの、座ってしまえば快適に過ごせるように配慮されています。

オプションとしてはキャンパストップが設定されています。フィアット 500やシトロエン 2CVなど、ヨーロッパの小型車ではキャンパストップは伝統的な装備のひとつでした。空調が完備されておらず、また室内騒音が激しかった昔の小型車では、天気が良い日はキャンパストップを開放するのが、快適なドライブをする上では必須だったのです。アイゴはもちろん天井があっても快適に過ごせますが、キャンパストップがあれば往年の小型車気分を味わえますし、白人にとっては大切な日光浴もできるというわけですね。

トヨタ アイゴの主なグレード

現行のトヨタ アイゴのグレード名は、前述の通りなんでもXをつけて表記しているのが特徴です。列挙すると

・x
・x-play
・x-pression
・x-pure
・x-cite
・x-clusiv

といった具合です。完全な造語もありますが、英単語の元ネタがあるものもありますね。

ちなみにキャンパストップはx-wave、2ペダルのロボMTはx-shiftという名前で呼ばれています。

トヨタ アイゴのスペック

トヨタ アイゴに搭載されるエンジンは、トヨタ製の1.0Lの直列3気筒ガソリンエンジンだけです。このエンジン、日本ではヴィッツやパッソに積まれているのと同じもので、地味なようですが、ヨーロッパでは過去に賞を取ったりと、評価が高いものです。エンジン自体はポーランドで生産されたものが、チェコに運ばれて組み付けられているようです。

先代では設定があったディーゼルエンジンは現行モデルでは廃止、兄弟車が搭載しているPSAプジョーシトロエン製の1.2Lの直列3気筒エンジン(プジョー 208やシトロエン C3に積まれているのと同じものです)の設定もありません。アイゴの場合は、あくまでベーシックカーとして背伸びはしませんよということみたいです。

スペックの主な部分は以下のとおりです。


全長x全幅x全高 3,455x1,615x1,460mm 
ホイールベース 2,340mm
トレッド(前/後) 1,430mm/1,420mm
車両重量 約900kg
トランスミッション 5MTとx-shift
エンジンタイプ ガソリン自然吸気 直列3気筒 DOHC
排気量 998cc
ボアxストローク 71mm x 84mm
圧縮比 11.0
最高出力 51kw(69ps)/6000rpm
最大トルク 95Nm(9.7kgm)/1500rpm

まとめ

さて、日本ではあまり馴染みのないトヨタ アイゴについてまとめてきましたが、いかがだったでしょうか?

最近は日本に限りませんが、価格の安い小型車というのは、生活臭を消すために、背伸びをしがちなところがあります。例えば同じトヨタ車でもヴィッツを例にとると、ダッシュボードの表面加工を、高級衣料品ブランドの財布などの表面加工を思わせるような形状にしたりしています。こういった工夫も大切ですが、どんなに頑張っても値段相応なので、逆にちょっとした虚しさを感じてしまう方もいるかもしれません。

その点で、このアイゴというのは、安くて小さくて、そこに大人4人が寿司詰めになるクルマですが、それがナンボのもんじゃい! と言わんばかりの個性に溢れています。小さなクルマには小さなクルマなりのクールさがあるという価値観の提供、そして骨太な基本設計。日本でアイゴに乗るにはちょっとハードルが高いかもしれませんが、アイゴのコンセプトは2010年代の今、ちょっと新鮮で、そして色々参考になるかもしれません。