カート日本チャンピオンが教えるドライビングテクニック講座 上級編

前回は中級編と題してレーシング走行の基本をご紹介しましたが、前回ご紹介した技術が安定して出来るようになり「もっと速く走りたい」と思うとさらに壁にぶつかります。そんな時のヒントになればと思います。

荷重移動のコツ

前回紹介した荷重移動ではしっかりとブレーキングすることによって荷重がフロントに移動するとご紹介しましたが、それだけではカートの荷重移動は不十分です。なぜか? と言いますと車には「デフ」と呼ばれる左右の回転差を生み出して車を曲がりやすくする装備が搭載されていますが、カートにはデフは装備されていないためにハンドルを切るだけでは素早く曲がることはできません。そのために必要な荷重移動の技術とコツをご紹介します。

もっとも大事なのは体の使い方

カートの車重は70kgほどです。カートの車重に対して人間の体重はほぼ1:1になるほどの重みです。
ですので自分の体をどう使うかでカートの動きは大きく変わります。では、まずどうしたらカートが曲がりやすくなるのか? 先ほどカートには「デフ」がないというお話をしましたが、カートでは自力で回転差を作り曲がりやすくします。具体的にはどういうことなのかと言いますと、ブレーキングからハンドルを切ってコーナーに入っていくときにうまく体を使って荷重移動をするとコーナーの内側の後輪タイヤが浮き上がり、片側のタイヤのみ接地するため実際は回転差が生まれることになります。

では、どうすればいいのか? まずは曲がる時に車のどこに荷重があるのかを確認していきます。左に曲がる時には右に荷重が、右の時は左に基本的に荷重はあります。そしてそれとは別にブレーキング時は前に、アクセルを踏むと後ろに荷重移動します。ですのでコーナリング中にはそれが複合しておきます。例えば左コーナーを曲がる時、コーナーの前にブレーキングをします。それによって荷重は前に移動します。そしてハンドルを左に切ります。それによって右に荷重が移動します。ですのでこの時もっとも荷重ががもっともかかっているのは右前のタイヤとなり、逆にここでもっとも荷重が乗っていないのが左の後ろのタイヤになります。上述したようにそのもっとも荷重が乗っていない左の後ろのタイヤを浮かすためにはもっと右前に荷重をかけるということです。具体的には、カートの場合はハンドルを押したり引いたりします。左に曲がる場合はハンドルを切りながら、右手を押す、左手は引くといったように負荷をかけることによって荷重を動かします。その動きに足して、左コーナーの場合は右に重心がよるので右側全体に荷重を寄せます。
そのためにシートの中でお尻の位置を変えます。左コーナーを曲がる時はお尻を右に突き出すようにして右に荷重を寄せます。右コーナーの場合はその逆を行います。
レーシングカートで実力のあるドライバーはブレーキペダルを踏んでハンドルを切るだけではなく、腕や体全体を使いほぼ同時に行います。
この同時進行をできるようになるにはかなりの時間を要しますし、さらに体に感覚が染み込みます。
カートでの荷重の変動を敏感に反応できるようになれば、車などの車体が大きい物では簡単に感じ取れるようになります。

全てが連動すると

カート場にいる上級者、特に早いエンジンを乗せていてうまいドライバーに目をやると入り口でリアタイヤを流して、ドリフトのようなカートの動きでターンインをしているドライバーを見ることがあると思います。もちろん無駄にリアタイヤを流して乗っていいるわけではありません。
コーナー自体が極端に狭い場合、いくらカートが小さく旋回できると言っても曲がるのを待つなんて0.01秒を争うレースの世界で悠長なことは言ってられません。そんな時に瞬時に向きを変えるためにあのようにドリフトのようなドライビングを時にはします。しかし、見た目が派手でカッコよく、マシンを手足のように扱えているという”勘違い”をして無理やりリアタイヤを流している人もいますので”勘違い”をしないようにしましょう。上述したように荷重移動をさらに体を使って行えるようになり、さらにより高速で走ると自然と急なコーナーでは少なからずリアは向きが変わる時に流れます。そんな流す角度などを自由に変えられれば超上級者と言えます。

ブレーキング

ブレーキングやその他の操作を%化し1%ずつ動かす意識を持ち操作すると以前にお話ししましたが、意識して走行しているうちに繊細な操作はできるようになりましたでしょうか? そう簡単には習得できてはいないと思いますが走行に少し余裕が持てるようになってきたと思います。そんな余裕ができた方には理想のブレーキングについてのお話をします。

最近のレースの世界では色々なデータを走行中に取得しドライビングやセッティングに生かすということをしています。ブレーキやアクセル、速度などをグラフなどで表しますがそんなグラフの形で理想な形が見えてきます。その理想な形とは「台形」です。

出典:http://bm-zone.com/dorateku/step1/time_axis.html

では、「台形」とは何か? を解説していきます。分かりやすい画像がありましたので画像を使用して説明していきます。上の図の赤い線がブレーキの踏力を表しています。ブレーキペダルを踏むとグラフの上方向に線が上がるという仕組みになっています。もちろん数学で出てくるような完璧な「台形」を作ることはなかなか難しいですが、”グラフは綺麗なほどいい”と考えていただいて構いません。上のグラフもギザギザになっていますが、このギザギザが大きい、多い場合はいいブレーキングとは言えません。踏力を安定させ、グラフでしっかりと線を描き、形を「台形」にすることができれば素晴らしいブレーキングと言えます。
ご自分のブレーキングはこんなグラフをかけているでしょうか? おそらくしっかりとグラフを描けるブレーキングをしている方はわずかだと思います。ですのでブレーキング時にこのグラフを意識しながら走行することで「台形」に近づけることができます。グラフを理想に近づけることを意識していると自然とタイムアップしていきます。常に意識して走行しましょう。
なかなかデーターロガーを使用することはないかもしれませんが、できるだけ活用しましょう。データーロガーを使用することで自分の短所や長所となぜ良いのかのか悪いのかをより具体的に解析することができ、走りの完成度が一段と上がります。グラフや数値で表してその数値に近づけていくというスポーツらしからぬ作業ですが、走りを追求していくと必要不可欠になっていきます。

「台形」を作るための踏み方のイメーシを上の図と照らし合わせながら説明しますと、踏力がほぼ垂直に上の図では上がっています。これは迷いなくしっかりとブレーキが踏めているということになります。そしてこのグラフで最も上まで線が上がったポイント(このグラフだと150.0という数値の少し下)が最大踏力です。その最大踏力の理想は以前に説明した”タイヤロック寸前”の強さのブレーキングです。その強さまで一気に踏み込みますと、上のグラフのように線が上がります。その最大踏力を同じ強さでキープすると図形でいう上底が作られます。その後ブレーキを一気に離してはいけません。しっかりと%を意識しながらブレーキを抜いていきます。そんなイメージで走行すれば「台形」を描けます。

アクセリング

次はアクセリングです。ブレーキをした後はアクセルを踏む訳ですがそんなに簡単に”踏む”という表現で済むほど簡単なものではありません。車を不安定にも安定にもなりうるのがアクセリングです。とにかくアクセルを踏めば前に進むと思いがちですが、どんなに早く踏んでいても前ではなく横に車が動いてしまうことがあります。この現象は適切な量の入力をしていないことにより起こります。
アクセリングだけでなくブレーキングや全てのことがそうですが、その日の天気や路面コンデション、湿度、温度、タイヤのコンデションなど様々な条件でどれくらい踏むか踏めるかなどは変動していきます。その中でもアクセルは色々な役割を果たしてくれます。故に条件が変わるたびに色々な使い方ができ最も使い方が変動します。

出典:http://www.tm-square.com/minoru/?p=678

上の画像はアクセルのデータロガーのグラフです。アクセルは理想の形はなく、コンディションにより使い方が変わります。ですが、基本的にギザギザになっていたり極端な入力をしているグラフはいいとは言えません。このグラフの460〜480にかけての谷と山の作り方は基本的なアクセルの開け方のグラフになっています。谷の底面が少し右肩上がりになっているのがわかると思いますが、これが重要なポイントです。ブレーキングやアクセリングに関して急な雑な操作は悪い挙動を作ってしまう大きな要因になってしまいますが、グラフのように「徐々にアクセルを開けていき挙動が安定したところで一気に全開にする」が基本です。

逆に応用のアクセリングが見て取れるのが540〜560の間のアクセリングです。グラフを見てみると段々のようになっているのがわかると思います。このアクセリングの意図としては、荷重バランスの調整をしているアクセリングです。アクセルを入れることで荷重はフロントからリヤに移動します。そうなると起きる現象としてはアンダーステアになります。アンダーを出さないためには、アクセルを我慢しなければなりません。そういった場合にはグラフのようなアクセリングが有効となります。

パターン別現象

どういったシュチュエーションでどういった現象が起きるのか、どういった対処が求められるのかをよくあるパターンを幾つか例にあげます。

アンダーステア

上述したように、アクセルを踏むことでアンダーを作ってしまう事があるのですがそういった現象が起こりやすいパターンとしては、登りながら曲がるコーナーです。なぜかという事を解説していきます。
例えばフラットな状況で車体の前後バランスが、F:R=50:50とすると、登りでは荷重がリヤにかかっているので30:70のように変動しています。たとえそこでいつものようなブレーキングをしても50:50の荷重バランスにすることしかできないこともあります。ですのでフラットな状況でのコーナーリングと同じようなブレーキングの仕方、アクセリングの仕方ではうまく曲がることはできません。
では、どうすればいいかといいますと「ブレーキングを長めに残し、アクセルを我慢」という事が求められます。「?」の方もいるかと思いますので解説しますと登りでは常にフロントの荷重が抜けている状況になっている中でいつもと同じブレーキングをするとフルブレーキングしてハンドルを切ってアクセルを抜いていくと車が曲がる初動は作る事ができますが、コーナーの後半でどんどんアンダーステアになってしまうと思います。そこでブレーキを長く残すことでフロントの荷重を抜かずに車の向きがしっかりと変わるのを待ちます。この時にアクセルを全開にしてしまってはブレーキングをいくら残しても残しても意味はありません。ですのでアクセルは全開にするのを我慢しながらしっかりとリヤにトラクションをかける程度の開度をキープし向きがしっかり変わったところで全開にします。
ドライビングの仕方はコーナーやコンディションで変動しますので一概には言えませんが、これが基本的な対処となります。

オーバーステア

アンダーステアの逆のオーバーステアになりやすいパターンとその対処方を解説していきます。そのパターンもアンダーステアとは逆で下りながら曲がるコーナーです。上述したように前後バランスが変わっている状況でいつもと同じ入力をすることでおきます。ではどうすればいいかを解説します。
まず、下りでは荷重バランスがF:R=70:30などフロントによっています。その中でブレーキングをすることで90:10ほどにまでフロントに荷重がかかります。逆に言えば、ほとんどリヤに荷重がかかってない状態です。その状態でハンドルを大きく切るとたちまちリヤが流れドリフト状態のようになります。ですので下りのコーナーに恐怖心を抱いている方も多いと思います。そうならないためにもより慎重な操作が求められます。具体的には、ブレーキングの後のハンドリングを丁寧に切り、舵角をいつもより少なめにします。そうすることで挙動の大きな変動を防ぎ、荷重が十分にフロントにある場合は舵角が少なくてもしっかりと向きが変わりますので無駄な抵抗も防げます。アクセリングは荷重が抜けているリヤに荷重を与えるために使い、これはリヤの横方向へのスライドへの抑止力にもなります。下りでは車の向きが変わりやすいため早めにアクセルを開くことができますのでより早くアクセルを全開に出来るかがタイムに大きく影響します。

バンク

路面が内側に向かって傾斜していることをバンクと呼びますが、そのバンクの場合はどうでしょうか? 解説していきます。バンクが付いていることで車は内側に入ろうとします。そうするとオーバーステアの現象が起きやすくなります。ですのでハンドルを繊細に切りオーバーステアを防ぎましょう。バンクが付いている場合は走行ラインで挙動の安定感が変わってきますので、上級ドライバーのラインを研究したり色々なラインを研究してみると攻略できると思います。

逆バンク

路面の内側から外側に向かい傾斜していることを逆バンクと呼びます。この逆バンクが付いていると難易度が高く簡単には攻略できないですが、解説していきます。バンクの逆ですので起きる現象としてはアンダーステアになります。ですのでアンダーステアのところで紹介した攻略が基本となりますが、バンク同様ライン取りが肝になり、インに切り込んでいくタイミングなどで大きくタイム差が出ますので根気よく研究を繰り返しましょう。

簡単ではありましたが、どうすればいいのかを代表的な事例をあげさせていただきました。

まとめ

簡単ではありましたが基本的な攻略法を書かせていただきました。とはいえ今回挙げたことを頭と体で理解して感覚とデータをすり合わせることができるようになればライバルは数えるほどしかいないほどのレベルにたどり着くことができます。以上を上級編としてさせていただきます。次はレース編と題してレースに必要な技術や考えなどをお話しさせていただきます。