フロントエンジンなの?ポルシェ924に見るポルシェの哲学

1975年から15年間、後継車も入れると20年間になりますが、ポルシェがFRレイアウトのスポーツカーを製造していたことをご存じですか? そのスタートを切ったのが“924”です。突出したスポーツ性能を発揮する“911”に対して廉価版だった“912”やスモールスポーツの“914”の進化形として開発されました。“フロントエンジン”には様々な意見がありましたが、素晴らしいスポーツ性能を持ったポルシェです。

ポルシェ924ってどんな車?

出典:http://petrolicious.com/porsche-s-924-watered-down-the-recipe

ポルシェ924のデビューは1975年です。先代にあたるのはポルシェ914という2人乗りのミドシップスポーツです。914と同じく、フラッグシップである911のひとつ下の市場を狙ったモデルです。価格も911より安価な設定でした。
そのために、フォルクスワーゲン、アウディ各車の部品を多数流用してコストダウンを図っているのが特徴的です。
たとえば...
前後ブレーキ(前ディスク、後ドラム)はフォルクスワーゲンK70
ドライブシャフトはフォルクスワーゲン181
フロントサスペンション(ストラット部)、ステアリング系統、ヒーターユニット等はフォルクスワーゲン・ゴルフ
フロントサスペンション(ロアアーム部)はフォルクスワーゲン・シロッコ
リアサスペンションはフォルクスワーゲン・タイプ1
エンジンはアウディ・100
という具合です。
ただ、決して寄せ集めではなく、部品の選択と組み合わせは深く吟味されていて、当時としては第一級のスポーツカーに仕上がっています。

本物のポルシェじゃない?

量産車の部品を多数流用しているために、一部には“本物のポルシェじゃない”と揶揄する声もありました。でも、安定供給が見込めてしかも安価な既存量産車の部品を多用して、コストを抑えながら高品質・高性能なスポーツカーを造るという思想は、ポルシェが初めて手がけた市販車“ポルシェ356”がまさにそのままで、むしろ“ポルシェらしい”と言えます。
開発当初は、さらなる部品共用化のために前輪駆動の採用も検討されたようですが、当時の前輪駆動の技術ではポルシェの理想とする操縦性は実現できないという理由で却下されました。
先代のポルシェ914では、理想の操縦性を獲得するためにミッドシップレイアウトが採用されましたが、結果的にそれまで採用してきた“+2のリアシート”が設置できませんでした。さらにトランクが前後に分かれてしまい、実用性の点でユーザーから不満の声もありました。
この反省から、924の開発では実用性も大いに重視され、実用性と操縦性を兼ね備えたFR(フロントエンジン、リアドライブ)レイアウトを採用したのです。

エンジン

出典:http://www.classicarimages.nl/english/garages/altena/carpages/2014/0314-10-06.htm

フォルクスワーゲン・LT用に開発されアウディ・100に使っていた水冷直列4気筒OHV1,871ccエンジンがベースですが、ボア×ストロークを86.5mm×84.4mm・1,983ccまで拡大したうえコグドベルトによりSOHC化し、ボッシュKジェトロニックインジェクションを装備してほとんど別物に仕立ててあります。
最高出力はヨーロッパ仕様で125PS/5,800rpm・16.8kgm/3,500rpm、日本仕様は51年排気ガス規制に合わせて100PS/5,500rpm・15.6kgm/3,500rpmでした。
このエンジンはアウディが生産し、その後シングルキャブレター115PSという仕様でアウディ・100にも搭載されました。
1977年後半からは日本仕様のエンジンは圧縮比が8.5に上げられ、115PS/5,750rpm・15.9kgm/3,500rpmにパワーアップしましたが、ヨーロッパ仕様には及びませんでした。

トランスミッション

出典:http://www.carid.com/articles/transaxle-vs-transmission.html

最高の操縦性を実現するために、前後倫への重量配分は特に重視されました。一般的にエンジンの直後に位置するトランスミッションをデファレンシャルと一体化して、後輪車軸に直結する“トランスアクスルレイアウト”が採用されました。
通常、前輪に掛かりがちなトランスミッションの重量を後輪に移すことで、前後倫の重量配分をほぼ同じにしています。このトランスアクスルは、縦置きエンジンの前輪駆動車アウディ・100用のトランスアクスルをほぼそのまま流用しています。
当初は4速M/Tのみの設定でしたが、1977年後半に3速A/T仕様が加わり、1978年にはM/Tが5速になりました。

デザイン

出典:http://www.roadsmile.com/image-model/1619-porsche-924_brown_10.jpg.html

当時のチーフデザイナー、アントワーヌ・ラピーヌの元で、若きデザイナーのハーム・ラガーイが担当しました。
リトラクタブル・ヘッドライトや、曲面ガラスのリアハッチゲートなどは当時としては斬新でした。様々なスポーツカー、スポーティーカーに影響を与えたと言われています。その後のマツダ・サバンナRX-7など、類似デザイン車が続々登場しました。

スペック

乗車定員:4名
ボディタイプ:2ドア クーペ
エンジン:水冷直列4気筒SOHC1,983cc(924)
変速機:4速M/T
駆動方式:FR
サスペンション:前 マクファーソンストラット+コイル
        後 セミトレーリングアーム+横置トーションバー
全長:4,185mm
全幅:1,685mm
全高:1,280mm
ホイールベース:2,400mm
車両重量:1,085kg

誕生秘話

1972年にポルシェ一族から経営を引き継いだエルンスト・フールマンの指揮により、新世代のポルシェとして開発されました。マーケティング上はポルシェ・914の後継車種にあたります。
当初はフォルクスワーゲンとの共同開発で“フォルクスワーゲン・アウディ・スポーツ”として開発が進められていたようです。部品共有によるコストダウンとVWの生産ラインを使用することでの量産化が前提でしたが、同社の経営陣の交代によって開発は打切られてしまいました。
最終的にポルシェが案件を買い取ることで、独自商品として開発を続けることになりました。生産はポルシェではなく、NSU(アウディ)の本拠地であったアウディ・ネッカーズルム工場に委託されたのでした。

実はポルシェで一番のセールス

いきさつはいろいろありましたが、販売は実に順調だったようです。
生産開始5年目の1981年2月4日に10万台目がラインオフしました。単純比較はできませんが、ポルシェ356は17年の間で総生産台数が7万9千台、ポルシェ911は10万台生産までに12年を要しています。
“スポーツカーの命”である操縦性も、トランスアクスルレイアウトが生み出す良好な重量配分のおかげで高いポテンシャルを持っていました。
リアエンジンレイアウトを採用している911では、テールヘビーな重量配分から来る直進性の悪さやオーバーステア特性の強い操縦性の克服に長年悩まされていました。911のレース専用車であるポルシェ935の後任として、924カレラGTへスライドさせようとしたほどです。
残念ながら、元々のエンジンベイが小さいためパワーアップに限界があり、最終的にはレースの主力にはなり得なかったのです。
後期には、日産フェアレディZやマツダRX-7など、より安価なライバルの台頭にも悩まされましたが、後のポルシェ944やポルシェ968の原型として長寿を保ち、ビジネス的にも車両の設計の面でも大成功だったと言えるでしょう。

モデル遍歴

歴代ポルシェの中でも長寿モデルだった924には、進化とともにいくつかのバリエーションができました。

PORSCHE 924S

出典:http://www.mobile.de/modellverzeichnis/porsche/924.html

924をベースに、 前後スタビライザーと強化ダンパー、6J-14インチのアルミニウム合金鍛造ホイール+185/70HR14タイヤのスポーツキット、本革ステアリング、リアワイパーを装備したもの。

PORSCHE 924 TURBO

出典:http://www.topcarrating.com/1979-porsche-924-turbo-coupe.php

924にターボが追加されました。ヨーロッパ仕様で170PS・25kgm、日本仕様はブースト圧を下げて150PS・21.0kgmでした。
マニュアルトランスミッションがポルシェ製5速になっています。

PORSCHE 924 TURBO S

出典:http://www.pistonheads.com/gassing/topic.asp?h=0&t=1366938&d=0&nmt=

924ターボに、16インチアルミニウム合金鍛造ホイール+205/55のピレリP7タイヤ、928用ベンチレーテッドディスク、ビルシュタイン製サスペンションなどを装備した豪華版です。

PORSCHE 924 CARRERA GT

出典:http://www.artandrevs.com/porsche-924-carrera-gt/en/pr-39-16

1980年限定発売モデルで、1980年のル・マン24時間レースに参加し、6位入賞を果たしています。
グループ4のホモロゲーションを取得するため、デチューンバージョンが400台市販されました。日本に正規輸入されたのは、シャシナンバー92ZBN700060の1台のみ。
エンジンは1,983ccのM31/50型ですが、ピストンはカールシュミット製の鍛造品で、インタークーラーも装備しています。圧縮比:8.5、ボッシュKジェトロニックで制御され、210PS/6,000rpm・28.0kgm/3,500rpmを発揮しました。
ポリウレタン製のオーバーフェンダーが装着されていて、そのデザインは後の944に踏襲されました。スタビライザがフロント23mm・リア16mmに強化されています。

PORSCHE 924 CARRERA GTS

出典:https://de.wikipedia.org/wiki/Porsche_924

1981年限定発売モデルで、924カレラGTをさらに高度にチューンしたものです。
エンジンは1,983ccで圧縮比8.0のままですが、245PS/6250rpm・34kgm/3,000rpmに出力向上しています。
トレッドはフロント1,475mm・リア1,481mmに拡大されました。
リトラクタブル・ヘッドライトは廃止され、固定式に変更のうえ樹脂製のカバーが追加されています。
プライベーターによりラリーに参戦し、ヴァルター・ロールが1981年のヘッセンラリーで優勝しました。

PORSCHE 924 CARRERA GTR

出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Porsche_924

1981年限定発売モデルで、924カレラGTをさらに高度にチューンしたものです。
エンジンは1,983ccのままですが、圧縮比を7.0に下げることでKKK製K27型ターボチャージャーのブースト圧を1.5barまで上げて、375PS/6,400rpm・40.5kgm/5,600rpmを発揮しています。
車輛重量は945kgと超軽量です。トレッドはさらに拡大され、フロント1,534mm・リア1,504mmです。GTS同様にリトラクタブル・ヘッドライトは廃止され固定式に変更+樹脂製カバーが付いています。
生産台数はプロトタイプ2台、市販15台と言われています。

PORSCHE 924S ClubSport

出典:http://porsche.924.free.fr/circuit/924S/index.htm

924ラストイヤーとなる1988年、世界限定車として1,000台が用意され、そのうちの日本への割り当てはM/T5速12台(625万円)、A/T3速8台(640万円)でした。
“Club Sport”はモータースポーツ入門車として、快適装備をそぎ落とすことで軽量化するとともにホイール、タイヤ、サスペンションを強化したモデル、なのですが...なぜか924CSには、エアコン、パワステ、パワーウィンドウ、サンルーフ、リヤワイパーが装備されていました。
ただし、標準では電動格納式のラジオアンテナが固定式になっていたり、サンルーフ(電動でチルトのみ)のパネルは樹脂製です。
車高調整式のサスペンションにKONI製のショックアブソーバーを装備し、前6J-15インチ・後7J-15インチアルミニウム合金鍛造ホイール+195/65VR15タイヤを装着。

※後の968CSでは、ドアの内張なども最小限、リアシートはありませんでした。もちろんオーディオもスピーカーもなく、電動モーターを排除するためにドアミラーの調整さえも手動式でした。

まとめ

グループ内の量産車の部品を集めて作った“廉価車”という扱いを受けることが多い924シリーズ。実際、“ポルシェの入門車”とか“プアマンズポルシェ”なんて呼び方をする人もいます。
ですがこうしてみてみると実によく練られた設計ですし、純粋に操縦性能を極めながらもできるだけリーズナブルに抑える工夫もなされていますよね。
私がメカニック時代はまだ現役モデルでしたので、924や924ターボは乗ったことがありますが、実に素直なハンドリングでアクセルレスポンスが良いという印象でした。
おしりの重たい911よりもずっと扱いやすかったと記憶しています。
“フロントエンジンだから”、“空冷エンジンじゃないから”、“アウディのエンジンだから”などなど、“ポルシェはかくありき”に縛られた人たちはいろいろなことを言ったものです。
ですが、レースでの成績や、ワークスチームがレースカーに採用しようとしたという事実が、何よりも924の素性の良さを物語っていると思いませんか。
今では911も水冷エンジンですし、パナメーラはフロントエンジンです。そういう角度から見れば、先進技術を取り入れていたとも言えます。
911とは路線が違いながらも、ポルシェが本気でつくったスポーツカーなんです。