【ドライビングテクニック「ヒールアンドトゥ」解説】ブレーキングとシフトダウンを同時に決めろ!!

トヨタ86、スバルBRZに続くように、ホンダS660、マツダロードスター、そしてアルトワークスとMTで乗りたいクルマが登場してきました。ところでMTのスポーツドライビングに欠かせないテクニックとして「ヒールアンドトゥ」を聞いたことがあるのではないでしょうか? 難しいテクニックとして語られることも多いと思いますが、コツさえつかめばそれほど難しくはありません。そのポイントなどを解説しましょう。

ヒールアンドトゥとは? 

ヒールアンドトゥのやり方大説明! 右足でブレーキを踏みながら、かかとでアクセルをブリッピング

ヒールアンドトゥ(heel and toe)は、かかと&つま先という意味です。レーシングテクニックの代表的なもので、つま先でブレーキングをしながらかかとでアクセルをあおる操作をいいます。実際には主体がブレーキングでアクセルをあおるのが副次的なものになるので個人的にはトゥアンドヒールというのがしっくりくる面もありますが、この辺の解説は追って説明していきましょう。

このテクニックはブレーキングとシフトダウンを同時に済ませてタイムを短縮する意味を持っています。ブレーキングをしてコーナーを立ち上がるとき、進入のままのギヤでは立ち上がりでエンジン回転が下がり、パワーバンドから外れてしまう場合、シフトダウンが必要となります。ヒールアンドトゥをしないで、そのコーナーをクリアしようとする場合、(1)進入でブレーキング、(2)ブレーキングが終了してからクラッチを切りシフトダウンしクラッチをつなぐ、(3)アクセルコントロールでコーナーをクリア、(4)立ち上がりでアクセル全開という流れになります。必ずしもこの方法が悪いというわけではありません。

アクセルをあおるのは、エンジン回転を低いギヤでの走行スピードに適したものに合わせるため

ただし、(2)のようにブレーキングが終了してからシフトダウンをすると、スピードによっては急激にエンジンブレーキがかかり駆動系に負担をかけます。また、ブレーキング中にシフトダウンを済ませてしまうよりも時間がかかりますし、クルマを曲がりやすくすることを考えると、コーナー前半までブレーキを残しておくことも必要になります。それをヒールアンドトゥは可能にしてくれます。ヒール・アンド・トウを使用したコーナリングでは(1)進入でブレーキング、(2)ブレーキングの後半でクラッチを切りシフトダウンし、アクセルをかかとでブリッピング(あおること)しエンジン回転を上げ、クラッチをつなぐ、(3)必要なところまでブレーキを踏む、(4)アクセルコントロールでコーナリング、(5)立ち上がりでアクセル全開、となり時間の短縮が図れるだけでなく、変速ショックなしにスムーズに減速でき、特に(3)の段階でブレーキにより荷重移動の自由度が高まります。

ヒールアンドトゥのやり方を細かく分けて見てみる。

まずはブレーキングでの減速に集中することが大事!

ヒール・アンド・トウのやり方をもう少し詳しく解説してみましょう。まずしっかりとブレーキングで減速をはじめます。ヒールアンドトゥに気を取られてここがおろそかになっては本末転倒ですから、全神経を集中してコーナリングに適した速度に減速できるようにします。これがトゥアンドヒールの方がしっくりすることの理由です。ブレーキングしたままクラッチを切ります。そして例えば4速から3速にシフトダウンが必要な場合は、3速の位置にシフトレバーを入れます。アクセルをかかとでブリッピングします。その段階で4速60キロまでブレーキングで減速していたとしたら、シフトダウンをすると3速60キロになるわけですから、エンジン回転をその分だけ上げてクラッチをつなぐ必要があります。かかとでアクセルをブリッピングするのは、そのためのエンジン回転に合わせるということです。4速と3速はギヤ比が比較的近いので車種によっても違いますが、4速60キロで2,000回転だとしたら3速60キロになる3,000回転に上げるわけです。もちろんサーキット走行などではもっと高速、高回転となります。

その間もブレーキングし続け、十分に減速した段階で右足をアクセルに移しアクセルコントロールに入ります。これが3速から2速へのシフトダウンになると、ギヤ比が離れますから多めにアクセルをブリッピングする必要が出てきます。そういう意味では自分のクルマの各ギヤの回転数が同じスピードのとき、どのくらい離れているのかを覚えておくことも必要かもしれません。ただ、そこは「習うより慣れろ」の格言どおり感覚で覚えておくのもありです。一旦身につけてしまえば、ぱっと他のクルマに乗り換えても、そんなに違和感なくできてしまうものです。

ダブルクラッチとの違い

ダブルクラッチとヒールアンドトゥを合わせたテクニックもある。

ヒールアンドトゥと同時に語られるものにダブルクラッチというテクニックがあります。旧式のノンシンクロのトランスミッションを使用したクルマなどで使用されたもので、現在は事実上必要のないものですが、それについてもちょっと触れてみましょう。ちなみに現在のレース用のノンシンクロミッション(ドッグクラッチ)はクラッチペダル操作なしでギヤチェンジできますが、これは別の機会に解説できればと考えています。ここで解説するのは正確にはダブルクラッチ併用のヒール・アンド・トウということになります。(1)進入でブレーキング、(2)ブレーキングの後半でクラッチを切る、(3)シフトダウンの途中(ニュートラル位置)でクラッチをつなぎ、かかとでアクセルをブリッピングする、(4)再びクラッチを切ってシフトダウン完了、(5)クラッチをつないで必要なところまでブレーキングとなります。

1回のシフトダウンで2回クラッチを切るのでダブルクラッチといわれるわけです。ここでキモとなるのは、ニュートラルの位置でクラッチを一旦つないでブリッピングすることです。クラッチを切るということは、トランスミッションがエンジンから切り離されるということですから、その状態でアクセルをブリッピングしてもエンジン回転だけしかあがりません。クラッチをつないでアクセルをブリッピングするとトランスミッション内部も一緒に回転が上がりますから、それだけエンジン回転とトランスミッションの回転が同期しやすくなるということです。つまりシンクロ機構の負担が減ります。ただ操作も煩雑になりますし、失敗するとかえってトランスミッションにダメージを与えることにもなりかねませんから、古い(大切な)クルマでタイムをぎりぎりまで追求せずに走りたいときに有効なテクニックと考えればいいでしょう。

こっそり教えるヒールアンドトゥのコツ

頭で考えるよりもタイミングとリズムで覚えた方がうまくいく。

ヒールアンドトゥで必要なのは、まずしっかりブレーキングをするということです。スポーツドライビングでは、しっかりスピードコントロールをすることが大事ですから、これがおろそかになってしまっては意味がありませんし、危険でもあります。それができてからのコツですが、あまり難しく考えずにブレーキングからクラッチを切ったらシフトダウンと同時にアクセルをかかとでブリッピングするということです。前に細かく順序立てて書きましたが、そんなことを考えてやっていては間に合いませんし、かえって上達も遅くなります。さらに極端に言えば、ブレーキを踏みながら、クラッチ切りとシフトダウンとアクセルブリッピングを同時に行い、すぐにクラッチをつなぐという感じになると思います。リズムがつかめたらこっちのものです。

初心者の場合、足首をねじってアクセルにかかとを持って行ったときに、ブレーキ踏力が変わってしまうことが多いですが、これはブレーキペダルがしっかりと踏めていないからという面もあります。ここでもしっかりブレーキングが大事になります。そしてアクセルをブリッピングするときは、最初は高めにしてあげたほうが無難でしょう。エンジン回転の上昇が低いと、せっかくのヒールアンドトゥが無意味なものになり、ギヤも入りづらくなります。高めならば多少回転が合っていなくても、ギヤさえ入ればクラッチをゆっくりつなぐことなどである程度リカバーできます。

ペダル配置でもヒールアンドトゥのやりやすさが変わってくる。

ちなみにですが、ペダルレイアウトでもヒールアンドトゥのやりやすさが変わってくると思います。ブレーキペダルとアクセルペダルが離れていては当然やりづらいですし、最近国産車でも増えてきましたがオルガンペダルもやりづらいと思います。私自身、オルガンペダルのMT車に乗っているので感じたことですが、慣れてしまえばいいのですが、最初はちょっと違和感がありました。
アクセルペダルとブレーキペダルの距離が近い場合には、トゥアンドトゥの方がいい場合もあります。かかとをアクセルペダルに持っていくのではなく、ブレーキペダルを右足の左側で踏むようにして、アクセルペダルを右足の右側であおるようにします。これはかつてF1などのフォーミュラカーがMTだった頃に、狭いフットスペースでヒールアンドトゥを行なう際に用いられたテクニックでもあります。

坂道発進でもヒールアンドトゥ

ちょっと例外的なヒールアンドトゥの使い方?

坂道発進でヒールアンドトゥを使うという人もいるそうですね。MT車の場合は、ブレーキから足を離すとバックしてしまいます。そこでブレーキから足を離さずにクラッチをつなぎつつ、アクセルをかかとで調整して、ブレーキから足を放し発進するというために使うようです。私はあくまでもレーシングテクニックとして指導? されてきたので、それについては多くは語れません。というか、ちょっと違うんじゃないか? と思っています。かかとでは、1,000回転単位でエンジン回転を大きく上げるというようなアバウトな操作はできても、スタート時の100回転で調整するというのは、かなり難しいものです。例えば細かい操作が可能なつま先でアクセル操作をするとして、クルマと止めた状態のままアイドリングから1,500回転へコントロールしてその回転を維持などという操作をすると、けっこう難しいものではないかと思います。それをかかとでやれと言われると「ちょっと無理……」と答えるしかありません。坂道の角度にもよりますが、急角度ならサイドブレーキを引き、半クラッチの状態にしてからスタートがいいと思いますし、ちょっとした坂道ならば、ブレーキを踏んだままクラッチを繋がる直前まで持って行って、普通にブレーキからアクセルに足を移して発進することをおすすめします。

ヒールアンドトゥの練習はこうやる。動画も見てみよう。

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谷口信輝選手がヒールアンドトゥの解説をしています。けっこう難しいことを強調していますが、完ぺきに回転を合わせるという意味ではそうかもしれません。シフトダウンできればとりあえずカタチからでもいいと思います。

スピードを出さなくてもヒールアンドトゥの練習はできる。

ヒールアンドトゥの練習は普段の運転でもできます。スピードも法定速度内で十分です。信号で止まらなければいけないときに、4速から3速、3速から2速、2速から1速とヒールアンドトゥを使ってみましょう。あまりやり過ぎると「アブない人?」と思われないとも限りませんから、ある程度周辺に配慮する必要があると思いますが、まず形だけでも覚えることが第一歩です。見通しの良いコーナーでヒールアンドトゥでシフトダウンし、そのままスムーズにカーブすれば、それはまさに正しい減速からのコーナリングです。

こういう場所で練習しよう

安全運転が大前提となりますが、ワインディングロードにいけば、いくらでもヒールアンドトゥの練習はできます。このテクニックは絶対スピードの問題ではなく、回転数をいかに上手に合わせるかがポイントですから、ある程度のスピードさえあれば、十分に練習になるのです。そして、自信がつけばジムカーナ場やサーキット走行で本格的に身に付けるようにしましょう。アクセル全開からブレーキング、ヒールアンドトゥでシフトダウンしてコーナーを抜けるという醍醐味はここでしか味わえませんし、MT車のドライビングの楽しみを存分に味わえることになるでしょう。

番外編:ゲームでも役に立つヒールアンドトゥ。G27で訓練? する。

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販売サイトへ

今は、グランツーリスモなどに代表されるドライビングシミュレーションゲームでもヒールアンドトゥができるコントローラーが発売されています。G27などが代表的なものですが、すごい時代です……。実車でヒールアンドトゥができるのであれば、もちろんゲームでも使ってみましょう。ゲームでもよりリアルなドライビングが楽しめると思います。もっとも個人的には、そうしたゲームで育った世代が、免許証を取ったときにMT車に乗ってくれることを期待したいです。実際には、ゲームの方が実車より難しい面もあるようですから、そこからスゴ腕のレーシングドライバーが現れれば……と期待したいところです。

まとめ

私がヒールアンドトゥを覚えたころに、速いドライバーから「ヒールアンドトゥに酔っているね」と言われたことがあります。自分では気持ちよく「ファン、ファン」とシフトダウンしているつもりなのですが、それだけで全然タイムにつながっていないという意味だと思います。昔、「日本一速い男」という異名を取った星野一義選手がある雑誌で、「(コースレコード出そうと思ったら)ヒールアンドトゥなんてファン、ファンなんてやってたらダメなんだよね。もっとグワシャグワシャやらないと」というようなことを言っていた記憶があります。スポーツドライビングではヒールアンドトゥを越えたところにタイムを縮める方法があるということでしょう。そういう意味ではできて当たり前のテクニックでもあります。あとは練習あるのみです。大丈夫、誰でもできるようになります!