【元祖・羊の皮を被った狼】四角いセダンはスポーツカー「ルノー8」

真四角な車体からは想像しづらい、スポーツシーンでも活躍していたルノー車「ルノー8」。このクルマが戦闘的なフォルムのアルピーヌA110でベースとして使用されていたとは中々信じられません。今回は、このクラシカルなフォルムで戦闘力を覆い隠したルノー8に迫ってみます。

アルファ・ロメオの皮を被ったルノー誕生

モデルコードをR1110とされたクルマは、ルノー4CVやドーフィンと続いたルノーの大衆車路線の中にあり、駆動方式はリア置き後輪駆動とされ、ルノーが開発した5ベアリングのエンジンでスムーズな走りを提供し、またクラス初の4輪ディスクブレーキを装備するなど、先進的な仕組みが搭載されていました。

デザインはアルファ・ロメオの「ティーポ103」(1960年発表、前輪駆動式のプロトタイプ車)に非常に似ているのですが、これは「パクリ」や「模倣」というよりも、1950年代〜60年代に提携していたルノーとアルファ・ロメオの良好な関係に基づくものと考えるべきでしょう。

このルノー8。フランス風には「ルノー・ユイット」と呼ぶクルマは、1962年6月から1971年までフランスで、そしてスペインとメキシコでは1976年まで生産をされていたセダンです。初期型に搭載されていたエンジンは、ルノー8のために新たに開発された直列4気筒で最高出力は44psと中々の性能を持っていました。

モデルチェンジはせずに、ラインナップ追加で繰り返された「強化」

1964年、よりパワフルな1108ccエンジンを搭載した「ルノー8 マジョール (8 Major)」モデルコードR1132が追加され、そして同じ1964年、モータースポーツ用のベースモデル向け「ルノー8 ゴルディーニ」モデルコードR1134が追加されます。

さらに1965年にはルノー8の上級モデル「ルノー10」が発売されます。ルノー10は、ルノー8のボディを延長しトランク容量を拡大、また装備を充実させたモデルです。更に、この1965年、ドーフィンにも使われていたジャガー製3速オートマティックトランスミッション搭載モデルも追加されています。ちなみに、このオートマチック、ダッシュボードに置かれたプッシュボタンで操作する方式でした。

ルノー8S追加で、スポーティ化を促進

1966年にはエンジンを1,255ccにサイズアップ、フルシンクロのクロスレシオ5速マニュアルやフロントの追加ランプなどを装備した8 ゴルディーニ 1300 (R1135)が追加され、1968年、上級モデルR10と共にマイナーチェンジが実施されます。このことで全車の搭載エンジンは1,108ccの排気量となり、ダッシュボードのデザインも変更されています。このマイナーチェンジに合わせ、ウェーバー製キャブレターやゴルディーニと同じ4灯式ヘッドランプを装備したルノー8S、モデルコードR1108もラインナップに追加されました。このルノー8Sのボディカラーはイエローの一色だけです。もう一つの追加は、1965年に一度、ラインナップから消した「マジョール」の復活がありました。

【諸元】
乗車定員:5名
ボディタイプ:セダン
エンジン:956cc水冷直列4気筒OHV、1,108cc水冷直列4気筒OHV、1,255cc水冷直列4気筒OHV、1,288cc水冷直列4気筒OHV
トランスミッション:4速マニュアル、5速マニュアル、3速マニュアル
駆動方式:RR
車両重量725kg〜855kg

羊の皮を被った狼「ルノー8・ゴルディーニ」

ここで先ほど触れたルノー8・ゴルディーニについて書いておきましょう。まず、ゴルディーニですが、これはイタリア生まれのアメデ・ゴルディーニによって創業されたチューニング会社です。アメデは、第一次世界大戦に従軍した後にフィアット車などのチューニングを手がけるようになり、モータースポーツ界で注目を集めています。そして、1962年にデビューしたルノー8をベースにアメデがエンジンを中心にチューンした高性能モデルがルノー8・ゴルディーニなのです。

アメデのチューニングのポイントはエンジンにヘッドの大改造を施し、2基のツインチョークキャブレターを装備することで、ベースとなったルノー8・マジョールの約2倍のパワーを絞り出すものでした。

「ゴルディーニ」の名前でルノーのブランド力強化

このハイチューンナップにゴルディーニを起用したところには、ゴルディーニの知名度とレースでの結果が大きく影響したと言われています。ミニならば「クーパー」、フィアットなら「アバルト」という名チューナーがブランド化したように、ルノーにとって「ゴルディーニ」もモータースポーツで名を知られた人物だったのです。

ルノー8は、ゴルディーニを起用する以前にも順調に生産台数を伸ばしていました。ルノー8・ゴルディーニが登場する以前から、アメデは自身がルノー8をチューンナップしてレースに持ち込んでいました。そして当然のごとく、ツール・ド・コルス優勝をはじめ好成績を上げていました。ルノーとしても、この好成績を放置しておくことはあり得ません。そこでアメデがチューンした高性能モデルを「ルノー8・ゴルディーニ」としてラインナップに追加します。

そして、1966年当時のモータースポーツシーンを席捲していたミニ・クーパーSに対抗するため、ルノー8搭載の直列4気筒OHVエンジンの排気量を1,255ccにサイズアップさせ103PSにパワーアップしたルノー8ゴルディーニ1300を登場させます。このモデルでは、独立ブランチのエグゾスト・マニフォールドを搭載し、またタペット・カバーにはゴルディーニを意味する「g」の文字を浮き出させエンジンの外観もプレゼンテーションの一環として魅せるものとしています。

インテリアもほぼノーマル。そんな「ルノー8・ゴルディーニ」を速く走らせたければ腕を磨け!

このようなチューニングは、ハコスカGT-Rを思い起こさせますね。ルノー8はアルファ・ロメオのプロトタイプモデルを外観のベースにしているとは言え、四角いセダンで強いクセもないクルマです。そこにゴルディーニが強烈なパワーアップを施したルノー8・ゴルディーニは、GT-Rと同様「羊の皮をかぶった狼」同然だったわけです。

通常のルノー8とルノー8・ゴルディーニとの大きな相違点は、ブルーに白のストライプの入ったボディカラーが目立つくらいです。そして、室内も基本はベースのルノー8とゴルディーニモデルとの相違点はほとんどありません。レース仕様だからと言ってシフトレバーをショートにすることもなく、フロアからスクっと伸びたレバーを操作するのですから、中に載っていればますます、ノーマルとの区別が付けづらかったかもしれません。ただ、これもゴルディーニ風の味付けだという見方もあります。つまりスポーティな操作を前提とした操作系ではないからこそ、素早い操作をすることはドライバー自身の腕次第なのです。腕に覚えがあるからこそ、ルノー8・ゴルディーニを操って高速走行が可能になるのだと考えれば、むしろ長いシフトレバーがセールスポイントにすらなってしまうというのです。特にスピードに憧れるエントリーのドライバーには一種ゲーム感覚でゴルディーニの実力を発揮ようと努力しようとするでしょうし、そのためにルノー8・ゴルディーニを所有したくなるという循環が生まれるのかもしれません。

まとめ

ルノー8をベースに作られたアルピーヌA110にもゴルディーニのチューンモデルが存在します。ルノーにとって、ゴルディーニの存在はモータースポーツで戦うには不可欠だったのでしょう。そして、猛々しいお狼のオーラを発するアルピーヌのベースが、正に「羊の皮を被った狼」ルノー8だったのも何かシンボリックなクルマに思えて仕方ありません。また、こんなライトウェイトな四角いクルマがレースで活躍するような日は来ないでしょうか? 来そうに無いので…少し妄想で我慢しましょうか。