【カムシャフト】オーケストラのシンバルのようにタイミングが大切なのです。

“カムシャフト”は4ストロークエンジンには必需品! だったのですが、最近はカムシャフトを使わないエンジンが登場していてとても驚きました。とはいえ、ごくごく一部の話です。ちなみに2ストロークエンジンとロータリーエンジンもカムシャフトがありませんが、これもごく一部の話ですね。大多数のエンジンに使われているカムシャフト。名前は聞いたことあるけど実はよくわかってないシリーズですよね。しっかり解説します。

カムシャフトって何でしょうね。

“カムシャフト”って何なんでしょうね。はじめに書きましたが、ほぼすべてのエンジンに必要な部品です。最近はカムシャフトを使わないエンジンがある事を知ってとても驚きました。
ほぼすべてのエンジンで使われているカムシャフトについて、その働きも含めて考えてみましょう。

カム

“カムシャフト”=“カム”+“シャフト”なんです。
ではまず、カムについて説明しますね。

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%A0_(%E6%A9%9F%E6%A2%B0%E8%A6%81%E7%B4%A0)

“卵型”とか“ティアドロップ”などと言われるしずくのような形をしている部品です。回転することで“何か”を押し下げる(押し上げる)運動に使います。
上の動画では、オレンジ色の軸を押し下げていますよね。回転させることによって“一回転に一度だけ”、つまり周期的に別の運動を促すことができるのです。

シャフト

文字通り“棒”のことです。
カムが定位置で回転できるように、棒にカムを通した状態で固定します。
とは言えシャフトを回すことでカムを駆動しますから、カムとシャフトは一体成形されています。
直列4気筒エンジンでしたら、4気筒分のカムを整列させなければなりませんので、一本の棒にカムを並べて使います。
4バルブエンジン(1気筒あたりバルブが4本)の場合、通常は吸気2本&排気2本ですから、吸気側のカムは8個必要です。その8個のカムを整列させるためにシャフトを用いています。

カムシャフト

出典:http://www.pearltrees.com/bryn_allen/engines/id12623969/item125100297#l593

つまり、カムがシャフト上で合体したものがカムシャフトです。
ちなみに画像は直列4気筒DOHC4バルブエンジン用の吸気及び排気用カムシャフトです。

カムシャフトの仕事

さてこのカムシャフト、いったい何に使いましょうか。カムの説明の動画でピンと来ている人も多いのではないでしょうか。
あのオレンジ色の棒状のものをバルブに見立てるとわかりますよね。
そうなんです。エンジンのバルブを開閉するのにもってこいの形状なんです。エンジンには、世代や用途によって数種類のバルブ機構があります。
エンジンが実用化された初期の頃は“サイドバルブ”機構でした。それが“オーバーヘッドバルブ”になり、“オーバーヘッドカム”になり、“ダブルオーバーヘッドカム”になりました。
最近では、カム(シャフト)を使わないでバルブを開閉するシステムまで考案されていて、いよいよ“ノーカム”なんて呼ぶべきエンジンが登場しているんですね。
いずれの機構にしても(ノーカム以外の)一般的な4ストロークエンジンには必需品と言って良いでしょう。バルブ機構が変わってもカムシャフトの仕事は同じです。
4ストロークエンジンは、吸気・圧縮・爆発膨張・排気という一連のサイクルで作動しています。バルブ機構は、吸気のタイミングで吸気バルブを開き、排気のタイミングで排気バルブを開くのが仕事です。
つまり、カム(シャフト)は、そのタイミングに合わせてバルブを押し下げる(押し上げる)という仕事をしています。

4ストロークエンジンのサイクルとバルブ機構の違いや変遷については、以下の“4ストロークエンジンについて”に詳しく書きましたので、ぜひご覧下さい。

カムシャフトはどうやって動く?

カムシャフトの仕事がわかったところで、どうやって作動しているのかが気になりませんか?
エンジンの行程に合わせてバルブを開閉しなければなりませんから、エンジン(ピストン)の動きに同調していなければなりませんよね。しかも、エンジン(クランク)2回転に対して吸気・排気は各1回ですから、これまたやっかいな話です。
順に見てみましょう。

サイドバルブ機構の場合

出典:https://proud2ride.wordpress.com/2013/01/28/perkembangan-teknologi-mekanisme-katup-side-valve-sv-dohc-vs-sohc-1/

サイドバルブの場合は、クランクシャフトとカムシャフトがギヤで繋がっていました。後にチェーン駆動のものも登場します。
この時にギヤの歯数をクランク:カム=1:2にしておけば、クランク2回転に対してカムが1回転しますよね。あとは、タイミングが合う位置でギヤをかみ合わせればできあがりです。

オーバーヘッドバルブ機構の場合

出典:http://www.samarins.com/glossary/dohc.html

バルブは頭の上ですが、“プッシュロッド”という部品でバルブを駆動します。カムがプッシュロッドを押し上げ、ロッカーアームがシーソーのように反転作用してバルブを押し下げます。カムシャフトの位置はサイドバルブの時と同じですので、基本的に駆動もサイドバルブの場合と同じですね。ギヤかチェーンで駆動されています。
もちろん、ギヤ比は1:2です。
ちょっとしたデメリットがります。駆動を介する部品の間に、ある程度のクリアランスが必要なんです。冷えた状態でクリアランスをゼロにしておくと、エンジンが温まったときにプッシュロッドやロッカーアームが膨張して、バルブが閉じなくなってしまいます。
結果的に、部品点数の数だけクリアランスも大きくなってしまい、駆動にロスが生まれてしまうのです。

オーバーヘッドカム機構の場合

出典:http://www.samarins.com/glossary/dohc.html

ここで一気に進歩しました。カムシャフトまで頭の上へ移動しました。クランクとカムシャフトの位置が離れましたので、長いチェーンで駆動します。もちろんギヤ比は1:2です。
頭の上では、カムが直接バルブを押し下げるように駆動します。
わざわざこんな長いチェーンで駆動してまで、クランクとカムシャフトを離して配置するメリットって何でしょうね。
先ほど“進歩しました”と書きましたよね。
プッシュロッドやロッカーアームなどの部品を介して駆動していたオーバーヘッドバルブ機構に比べると、カムがダイレクトにバルブを押しますので、格段にロスを減らすことができます。
おかげで高回転化が可能になりました。

ダブルオーバーヘッドカム機構の場合

出典:http://www.samarins.com/glossary/dohc.html

そしてダブルオーバーヘッドカムへ移行します。吸気・排気それぞれにカムシャフトを用意し、独立してバルブを駆動します。部品点数が増えるし、エンジンの頭(シリンダヘッド)も大きくなってしまうのに、一体どんなメリットがあるのでしょうか。
1つ目は、バルブの数です。
吸気・排気1本ずつだったのが、2本ずつ配置できるようになりました(4バルブ化)。
燃焼室に対してバルブの面積を増やすことができます。これは吸排気効率に比例しますので、より多くを吸い込み、すっきり吐き出せるのです。さらに吸気効率を高めた、吸気が3本の5バルブエンジンもあります。

もう1つはバルブの“挟み角”です。
吸気と排気が独立したおかげで、バルブを傾けることができるようになりました。吸気・排気の通路が直線的に設計できるため、吸排気効率がさらに良くなるのです。
10,000rpm以上の高回転型エンジンの開発が可能になりました。

タイミングの統制

出典:http://jcraft-eng.com/contents/sales_parts/engine_01.html

エンジン内でピストンが一番上から下がり始めるときに吸気バルブが開きます。
ピストンが下がるときに発生する負圧で、吸い込むように吸気します。
ピストンがいっぱい下がるころには吸気バルブが閉じます。
ピストンが上がる行程は両方のバルブは閉じていますので、逃げ場の無いままピストンが上がります。これが圧縮行程です。
ピストンが上がりきったころにはスパークプラグで点火され、爆発がはじまります。爆発の力でピストンが押し下げられます。これが膨張行程です。
下がりきったピストンは惰性で上がり始めますので、排気バルブを開いて上がってくるピストンに押し出してもらいながら排気します。
ピストンが上がりきったら排気バルブを閉じて、吸気バルブを開いて吸気が始まります。
アイドリングくらい=1,000rpmの時でも、60秒で1,000回転(=500行程)ですので、1秒間に8.3回(0.12秒に1回)行うことになります。
じつは1/100秒単位でコントロールしなければうまくいかないことなんですね。
チェーンが緩んでしまったら、そのぶんだけバルブの作動タイミングが遅れてしまいます。
チェーンの駆動音やフリクションロスを無くすためにタイミングベルトという部品で駆動するのが主流になった時代がありますが、このベルトが切れるとエンジンが壊れてしまいます。
実に緻密な制御で駆動されているのです。

カムの形状でエンジンの性格が変わる

出典:http://blog.livedoor.jp/ponkotu5600/archives/52059764.html

画像をよく見てください。“おにぎり”のとんがり具合が違いますよね。この部分の形状次第で、カムの開閉タイミングを換えることができます。おにぎりの山が小さいとバルブが開いている時間が短く、尖りがにぶく丸いものは、バルブが開いている時間が長くなります。
さきほど1/100秒単位で動いていると書きましたね。混合気の流速や個々の部品にはたらく慣性力などから、エンジンスピードが速くなる(回転数が上がる)ほど早めに開かなければならなくなります。つまり、開弁タイミングが早いほど高回転に向いているのです。
画像の左側のカムを一般的に“ハイカム”と呼びます。“High”ですので、高さが増えるように思いがちですが、高さが増えてもバルブが突き出る量が増えるだけでですので、おにぎりの尖りを丸くすることで開弁時間を増やしています。
ところが、これは低回転時には向きません。ゆっくり動いているときは、早めに閉じてしっかり気密した方が効率が良いのです。
ハイカムに交換すると高回転域では使いやすいのでレース車輌ではよく使われるのですが、反面街中などの低中速域では使いにくくなってしまいます。

可変バルブタイミングの登場

出典:http://www.weblio.jp/content/%E5%8F%AF%E5%A4%89%E3%83%90%E3%83%AB%E3%83%96%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%9F%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0

上述の通り、カムの形状(プロフィールと呼びます)によってエンジンの特性が換えられるのですが、複数のプロフィールを使い分けることはできませんでした。その都度シリンダヘッドを分解してカムシャフトを交換しなければなりません。
でも、それを実現するシステムがデビューしました。それが、“可変バルブタイミングシステム”です。上の図のように、チェーンやベルトで駆動されるプーリーとカムシャフトの間にアクチュエータがあり、内部でずれが生じる構造になっています。これを油圧で操作します。
低回転時にはノーマルプロフィールカムとして働き、回転があがるとカムシャフトが進む(開くのが早くなる)ことで吸排気のタイミングを早めてくれるのです。
画像はトヨタのVVTエンジンのものですが、実はこの機構を世界ではじめて実用化したのはアルファロメオです。

さらに進化したシステム

出典:http://porsche-fukuoka.at.webry.info/201102/article_11.html

これはポルシェのバリオカムプラスです。2種類のプロフィールのカムが同居していて、エンジンの状況に合わせて油圧で切替ながらベストなバルブタイミングとバルブリフトを使い分けられます。

最新の技術ではカムが無い?

出典:http://www.allpar.com/mopar/multi-air.html

これ、凄いです!
フィアットが開発した“マルチエア”エンジンです。
向かって右側が排気バルブで、こちらは上にカムシャフトがいますよね。ところが左側、インテークバルブの上にはカムシャフトがいないんです。これはもう事件ですよ。
赤く塗られているプランジャで油圧をコントロールして、直接バルブを押し下げるのです。バルブタイミングもリフト量も想いのままなんです。
排気ガスをクリーンに保つために、一度の吸気で2回開くなんて凄技もこなしてしまいます。
エコ走行もパワフル走行も、ドライバーの意図に合わせて自在に操れるのですからすばらしいですよね。フィアット車は当然のこと、グループ内の車種に続々と投入されています。プログラム次第でエンジンの性格をいかようにも変えられるので、搭載する車種を選ばないというのも大きなメリットです。

理想を追い求めた贅沢なカムシャフト

出典:http://bike-lineage.jpn.org/etc/agusta_f4/f4_1000.html

この画像は、“走る宝石”と謳われたイタリアのMVアグスタというバイクメーカーが作っているエンジンのシリンダヘッドです。わかりにくいかもしれませんが、吸気・排気それぞれ2本のバルブが並行ではないんです。
燃焼室の理想的な形状は球面と言われていますが、球面の燃焼室にバルブを配置すると放射状に並ぶことになります。これがバルブが並行でない理由です。
つまりアグスタのエンジンは、理想的な燃焼室形状なのです。
ところが、カムシャフトはバルブを真下に押し下げるので、2本のバルブが並行でないと具合が良くありません。

出典:http://msxmagazine.blogspot.jp/2013/08/mv-agusta-f4.html

そこでアグスタのエンジンでは、カムの先端が斜めになっているのです。こうすることで、放射状に立ったバルブをまっすぐ押し下げることができるのです。
この技術は、フェラーリの“ラジアルバルブ”と呼ばれるもので、アグスタはこのエンジンの開発をするためにフェラーリに技術協力を求めました。
この技術の採用により、MVアグスタのF4シリーズはスペックからは想像もつかないほどのパフォーマンスを発揮するのです。

カムシャフトについて

カムシャフトの働きと作動はご理解いただけたでしょうか。いろいろなカムシャフトが出てきましたが、基本は同じです。
理想を追い求めてひたすら研究と開発を重ね、ひとつずつ進化してきたのです。
最終的にはカムシャフトがなくなってしまうという、なんとも不思議な状況になっているのですが...
20世紀の終わり頃、エンジンの進化はもう望めないという議論がなされていましたが、21世紀のエンジンは格段に進歩しています。
この先どうなっていくのだろうかと考えるとわくわくしてきますね。