東日本大震災を乗り越えた「73式大型トラック」

1973年から自衛隊に配備された「73式大型トラック」。改良や設計の見直しなどを繰り返しながら、既に40年以上も「3トン半」と呼ばれ続けている自衛隊の名物トラックは、悪路も物ともしない優秀な輸送車両として活躍しています。今回は、この73式大型トラックの秘密に迫ってみたいと思います。

1973年デビュー「73式大型トラック」の最大積載量などは?

1973年に採用されいすゞ自動車で製作されている73式大型トラック。そもそもの利用目的は、人員や物資輸送などのための汎用キャブオーバートラックで、陸上自衛隊としては全職種部隊に配備されている車両です。自衛隊中では「3トン半(さんとんはん)」や「カーゴ」という愛称もつけられ重宝に使われています。この愛称の「3 1/2」というのは、「標準積載量」を示しています。この標準積載量というのは、不正路面や危険物など取り扱いに注意を要するような物資輸送の際の規定重量を示しています。陸上自衛隊の車両名には、「1 1/2」などのように重量が使われるものがありますが、これらも「3 1/2」と同様に標準積載量を表しています。一方で舗装路面を通常走行する場合には「最大積載量」という数値が設定されています。ちなみに73式大型トラックの最大積載量は6トンと決められています。

繰り返しの改良で、既に誕生から20年以上

今回のタイトルにも使っている「73式大型トラック」という呼び名は、現在正式な名称にはなっていません。制式化を行っていないので、2001年から正式名称は「3 1/2tトラック」とされています(この記事の中では「73式大型トラック」で統一しておきましょう。この73式大型トラックの初代モデルが自衛街で使われはじめたのは1973年のことで、現在使われているモデルは8代目になるご長寿状態です。

73式大型トラックの利用目的は?

先程、73式大型トラックが人員や物資輸送を主目的にしているとは書きましたが、実は非常に多くの利用バリエーションがあります。自衛隊ならではなのかも知れませんが、とにかく働くクルマなのです。その例として、
■ ダンプ車
■ 軽レッカー車
■ 道路障害作業車(道路上に障害を構成するための車両。地雷敷設などが行える他、東日本大震災では行方不明者の捜索や瓦礫除去作業に投入された)
■ 81式短SAM搭載車
■ 11式短SAM搭載車
■ 燃料タンク車
■ 航空用燃料タンク車
■ 水タンク車
■ 除染車(地域、施設等の大規模な除染作業に使用される。地下鉄サリン事件や阪神・東日本大震災や海外での防疫活動にも使用)
■ 生物偵察車(生物兵器により汚染された地域を偵察する)
■ 国際任務仕様(イラク派遣を契機に配備。フロントガラスは防弾化、ドアと車体正面に装甲を装着)
■ 暖房装置付(寒冷地での人員輸送用に荷台側面2箇所に暖房を装備。主に北海道や東北方面の部隊に導入)
■ フロントウィンチ付車
■ シェルター車(幌の代わりにシェルターを搭載し、整備用工具・機材、各種装備などを格納)
■ 作業装置付(作業用のクレーンを追加で装着)
■ ロング車(通常より全長が約1,000mm延長)
■ 対空戦闘指揮装置用車(対空戦闘指揮装置を搭載するための専用車。アオリのデザイン変更、全長は約500mm延長)
■ 教習用車輌(自衛隊内の教習所用車両。助手席側にハンドル、ブレーキ、スピードメーター、パワーステアリング切替装置などを装備)

これだけ多様な使われ方に対応できるだけの基礎設計がなされているのが、73式大型トラックの大きな特徴かもしれません。

次に、これまでの73式大型トラックの変遷を見てみましょう。

降車して四駆・二駆を切り替えた「初期型」73式大型トラック

初代から暫くのモデルを「初期型」と呼んでいます。(SKW-440~441)

このモデルは1973年から配備され基本タイプになっています。初期型の特徴はフロントに開口部があって、ラジエーターが露出した構造になっています。そして、エンジンを停止させるため、車両センターにある停止用スイッチを引っぱらないとなりません。トランスミッションはフルシンクロ化はされていませんが、2〜5速だけはシンクロ化しています。

フロントのフリーホイールハブは手動ロック式になっていてるため、フロントタイヤを駆動させる場合、あらかじめ事前にクルマから降りて操作しなくてはなりませんでした。また、全ての車輪を駆動させたいときには、運転席左のスイッチかレバーによる操作が必要になっています。シフトレバーはトランスミッションへ直結した方式なのですが、トランスミッション自体がドライバーから見ると少し後ろに下がった位置に置かれていたため、シフトノブはリア側からフロント側に対して曲げた形状でした。

フロントウインドシールド用に用意されたワイパーは車体の上部から吊り下げる式で4本が装着されています。フロントのナンバープレートはラジエーターのスリットにナンバープレート上部を、ガードメッシュにプレート株を挟みこむようなかたちで設置されています。ブレーキペダルは踏み込み式ですが、強力に制動をかけようと思うときにはポンピングのように数回踏み込む動作が必要とされる仕様で、また、サイドブレーキは運転席の左フロアに設置されていたため、サイドブレーキレバーを引くときや、戻すときには前屈みにならないと操作ができません。

【基本情報】
初期型
配備開始:1973年
全長:7,030mm
全幅:2,485mm
全高:3,080mm
車体重量:7,980kg
積載量:路外3.5トン、路上6.0トン、人員22名
エンジン:いすゞ製 水冷V型8気筒ディーゼルエンジン
出力:240ps
最高速度:95km/h

騒音規制や排ガス規制に対応した「改良型」73式大型トラック

改良型は、1987年から1989年まで配備され車両で、初期型からの変更点として大型化されたキャビン、ホイールベースを延長、騒音規制への対応のためエンジンの遮音性向上、タイヤもサイズの変更と静粛性の高いブロックパターンを採用、ハブリダクションの採用など。5速マニュアルだがシフトレバーは直結でなくリンケージによるリモートコントロールとされ、全輪駆動とするために初期型では一旦、車両を降りて操作する必要がありましたが、改良型では乗車したままで切り替えができるようになっています。エンジンは58年度排ガス規制適合のいすゞ8PC1エンジンに変更され、出力増加に伴ってディファレンシャルの大型化してしまうことで最低地上高が低くなることを抑止するためハブリダクションを採用しています。

改良型の最終形「SKW-464」にはABSが装備されるようになり、スロットルもドライブ・バイ・ワイヤ方式に変更されました。フロントウインドシールドへのワイパーは下部から出た4本式に、フロントのナンバープレートはガードメッシュ左側の位置へと移動しています。そしてタイヤも変更され従来のバイアスからラジアルが装着されています。ブレーキペダルは、このタイプからオルガン型ペダルへ、エンジンストップはハンドル左下に配置されたスイッチを引くことで停止するようになり、比較的大規模な改修が行われています。

【基本情報】
改良型
配備開始:1987年
全長:8,130mm
全幅:2,470mm
全高:3,080mm
車体重量:7,980kg
積載量:路外3.5トン、路上6.0トン、人員22名
エンジン:いすゞ製 水冷V型8気筒ディーゼルエンジン
出力:240ps
最高速度:95km/h

一般部隊にはAT車を納入「新型」73式大型トラック

新型はこれまで3どの改修を経て、形式名はSKW-475、SKW-476、SKW-477とに分かれています。1999年から配備され、改良型からの変更点はキャビン形状やエンジンの出力増強、一般部隊に納入される車両に関してはトランスミッションが6速オートマチックに変えられ、トランスミッションのギア比も見直されているため最高速度が上げられ、各師団の自動車教習所向け教習車両の更新用や一般部隊にはシフトノブなどが改良型と同じものが装備されたマニュアル車が納入されています。また、第2形のSKW-476ではエンジンが直列6気筒ターボに変更され、オートマチックトランスミッションの制御が変更されました。また、小さなところですが、2012年納入車から方向指示器が増設されています。

また、新型ではエンジンストップ用に「エンジン停止スイッチ」がハンドル下部につけられていますが、基本的な停止はキー操作で可能になりました。エンジン停止スイッチは、キー操作でエンジンが停止しない場合など異常発生時に備えたものとなっています。また大型車のATにはパーキングが存在しないため、ブレーキの強化を目的に駐車ブレーキはワイヤー式からホイールパーク式へ変更されました。そして、コストダウンもあり新型では民生品の活用が進められ、計器類のスイッチなどに民生品が使われています。

【基本情報】
新型
配備開始:1999年
全長:7,150mm
全幅:2,485mm
全高:3,080mm
車体重量:8,570kg
積載量:路外3.5トン、路上6.0トン、人員22名
エンジン:いすゞ製 水冷V型8気筒ディーゼルエンジン
出力:285ps
最高速度:105km/h

73式大型トラックだけが、津波に襲われながら出動できたのは何故?

2011年3月11日に起きた東日本大震災では、地震発生後に災害派遣の準備をしていた自衛隊車両にも津波が襲いかかりました。自衛隊車両といえども、海水の中で水没してしまっては稼働不能になってしまいます。ところが、その中で唯一稼働状態を維持した車両が73式大型トラックでした。

73式大型トラックを含む多くの自衛隊車両を納入しているいすゞにも早い段階で水没の知らせは入っていて、相当に落胆していたのですが、73式大型トラックが稼働してることを聞いた関係者は、落胆、苦痛の中で一種の感慨を覚えたそうです。73式大型トラックには、ここまで書いてきたように道交法や排ガス規制への適合や、自衛隊の任務に合わせた改良が重ねられてきました。その改良にはトラックを得意とするいすゞにとっても想像を絶するような要求が含まれていたそうです。そして、これまでの間、常に全てのハードルを飛び越え、法規制にも適合させてきた中では「組み合わせテクノロジー」が非常に多くの成果をもたらしています。

一般車では登らないような傾斜地でも登坂可能な機能を持たせる。それは当然の事として、更に登坂中の停車や後退、再発進なども求められますし、橋のない河川を渡り、重くぬかるんだ路面も想定した走行能力も求められます。当然、こういった場面では路面のギャップも舗装路面とは比べものにならない段差も想定されますが、この状況も含めて河川やぬかるみを乗り越えないとならないのです。しかも、危険物などを積載していることを考えればスピードを出して乗り切る訳にもいかず、ゆっくりと慎重に駆け抜けることが求められてもいます。

仕様の行間を理解。「いすゞ」の底力が73式大型トラックを動かした?

このため、いすゞでは、全ての要求を満たすため、そして満たしていることを確認するために合計6年、通常の3倍もの時間を掛けた開発、そして試験期間をとっているそうです。しかも海外の軍用車輌の環境に比べ、日本では一般道や高速道路を走るためにハードルが架せられます。それが道交法です。普通の自動車ができている道交法への適合なのだから、軍用車にも可能と思われがちですが、タイヤの接地圧(前方と後方のバランス)やバックミラーにもウインドウにも規格があり、ウインカーの高さ、サンバイザーの固さと細かなところまで厳格に規定されています。当然、防衛装備を搭載しなければならない場合もあるのですが、道交法に触れてしまっては、移動もままならないということですから、両立するための苦労は並大抵のことではないでしょう。

そんな要求を満たしていても、東日本大震災で押し寄せてきた津波の水位は、73式大型トラックに要求されていた性能を遥かにこえるものでした。つまり、防衛庁・省や自衛隊の要求を満たしているだけでは、稼働するはずが無かったのです。しかし、73式大型トラックが稼働したのは夢でも幻でもなく現実です。その理由は何だったのか。いすゞでは、特に何かのコメントを出した訳ではありませんが、要求仕様の内容や想定を文面だけではなく行間も含めて理解したいすゞの尽力の賜物だったのかもしれません。

まとめ

改良が加えられ、様々な意味での実践経験を積んだ73式大型トラックですが、既に初期モデルから20年以上を経過しています。性能面などでは徐々に世代の遅れが出ているという話も聞きます。心情としていつまでも走っていて欲しいと思う反面、そろそろ全般的に見直す時期なのかと思われる時期です。

ただ、いずれにしても自衛隊を支える重要な兵站を担う73式大型トラックが名車であることには変わりはないでしょう。自衛隊にとって、便利な大型トラックであり、日本の土地や法律に合わせた安全なトラックが引退するのは、まだまだ先の話になりそうです。これからもいすゞと共に頑張って欲しい。本当にそう思わせてくれる73式大型トラックです。