三菱ランサーエボリューションの23年にわたる変遷を振り返ってみよう!

2015年8月に惜しまれつつ姿を消したランサーエボリューション。1992年に登場した初代のコンセプトはWRC制覇を目的としたコンパクト&ハイパワー4WDでした。その後、電子デバイスをもちいることにより、ロボットマシン的となりイメージは変わってきましたが人気は変わらずでした。その23年にわたる歴史を振り返ってみましょう。

三菱がWRC制覇を目的に2,500台を発売

コンパクトなボディにハイパワーエンジンを搭載することが最初のコンセプト

ランサーエボリューションは三菱自動車がWRC(世界ラリー選手権)を制覇するために投入したモデルといえます。それまで三菱はギャランVR-4でWRCに参戦していましたが、いいところまで行ったものの優勝までは果たせませんでした。当時のライバルはランチアデルタ・インテグラーレやフォード・エスコートなど、ショートホイールベース、ワイドトレッドのマシンです。そこでロングホイールベース、ナロートレッドのギャランよりコンパクトなランサーに、よりハイパワーなエンジンを搭載しようという発想から生まれたのがランサーエボリューションです。

1992年に市販されたランサーエボリューションの正式名称は「ランサーGSRエボリューション」と「ランサーRSエボリューション」となります。GSRは一般使用、RSは競技用のベース車両となっており、この路線は基本的に最後まで続きます。

当時、WRCタイトルは、FIA(国際自動車連盟)が定めたグループAという規定で作られたクルマにかけられていました。ランサーエボリューションが出た頃、グループAは1年の間に2,500台生産したクルマでの参加が義務付けられていました。その台数をクリアするために三菱はランサーエボリューションを市販したわけです。

初代のランサーエボリューションはギャランVR-4で熟成されて信頼性の高い4G63型+インタークーラーターボエンジンを搭載していました。もくろみのとおりコンパクトなボディにハイパワーとなったわけです。パワーは1,997ccの排気量で250PSとギャラン搭載時より10PSアップされていました。

じゃじゃ馬的な性格で乗り手を選ぶマシンだった

駆動方式はセンターデフにビスカスLSDを装着したフルタイム4WDという、当時の定番なものです。GSRとRSの違いのひとつはリヤLSDにありました。GSRでは効きはマイルドですが、メンテナンスが不要なビスカス式を、競技を前提としたRSでは効きは確実ですが、定期的なオイル交換が必要になる多板式LSDを装着していたのです。これは国内でラリーなどのイベントに出るドライバーのことを考えた結果といえるでしょう。

サスペンションはフロントがマクファーソンストラット、リヤがマルチリンクです。初代のランサーエボリューションでは、必ずしも優れた足回りとはいえず、これは代を重ねていく中で熟成されていきます。市販モデルでは採用されたタイヤサイズは195/55R15でした。これはタイヤが比較的自由に選べるグループAでは関係ありませんでしたが、タイヤのサイズ規定が厳しい国内のラリーなどを考えるとライバルであるインプレッサなどに比べ小径タイヤとなってしまい不利な面がありました。乗り手を選ぶクルマであったともいえます。

じゃじゃ馬的な性格で誰もが簡単に乗りこなせるクルマではありませんでしたが、WRCファンやいわゆる走り屋層に熱狂的な歓迎をもって迎えられたランサーエボリューションは、発売3日でグループAに必要な2,500台を売り切ってしまいました。1993年のWRCには8戦出場します。開幕戦のモンテカルロ・ラリーで総合4位、6位に入賞、最終戦のRACラリーで2位に入賞するなど優勝こそないものの、まずまずの活躍を見せました。

エボリューションIIは初代の欠点を潰して、完成度が高まった。

エボIIではパワーアップとともに各部を改良!

1993年、三菱はランサーエボリューションIIを投入してきます。パワーユニットは同じですが、ターボの過給圧のアップやエンジン本体のハイカム化などで260PSと、さらに10PSパワーアップされました。トランスミッションのギヤ比の見直しが行なわれ1速、2速がローギヤード化されました。これで低中速でエンジンがより使いやすくなり、国内でモータースポーツをするプライベーターには喜ばれました。

他にもランサーエボリューションの持っていた欠点を補うチューニングが施されていました。サスペンションではロアアームがスチールからアルミに変更されるとともに、ホイールベースが10mm延長されました。トレッドはフロント15mm、リヤ10mm広げることで、より安定性を高める方向となったのです。

特にランサーエボリューションで不評だったリヤサスペンションまわりの剛性不足を補うために補強を入れるなどの改良は有効で操縦性、信頼性もアップしています。タイヤサイズが205/60R15にサイズアップされたことも国内でのラリーなどでは朗報でした。エクステリアはフロントにエアダムエクステンションが付けられ、リヤはスポイラー+ウイングとなりより大きなダウンフォースを生み出す改善がされています。

ついにスウェディッシュラリーを制し、ランエボ伝説が幕を開ける!

1994年のWRCでは、デビュー戦のアクロポリスラリーで総合2位が最高でしたが、明けて1995年の第2戦となったスウェディッシュラリーで悲願の優勝を果たします。これは電子コントロール式のアクティブ4WDシステムの効果が大きく、その後のランエボの方向性を決定づけることにもなりました。これは追って触れていきましょう。

ガンダム的迫力で他車と一線を引いたエボリューションIII

第一期ランサーエボリューションの完成形がエボIII

1995年にランサーエボリューションIIIが発売されます。好評を得てきたランサーエボリューションを一般ユーザーにも乗ってもらおうということを意識し、エクステリアもエダムスポイラーや大型リアウイングなど派手なものとなり、パワーユニットは4G63型エンジンを270PSまでアップし、エボIIからさらに10PS増しました。サスペンションや駆動系では少変更が行なわれましたが、基本的にはエボIIと同じで、熟成の域に達していたといえます。

トミ・マキネンがドライバーに加わりWRCでも破竹の勢い

WRCでは1995年の第4戦であるツール・ド・コルスから実戦投入され、デビュー3戦目のオーストラリアラリーで優勝しました。1996年になると後に無敵と称されるトミ・マキネンがドライバーとして加わり、その強さを決定づけることになります。WRC全9戦中5勝をあげ、マキネンに初のWRCドライバーズチャンピオンタイトルをもたらしました。ここまでが第一期のランサーエボリューションといえます。

エボリューションIVから電子デバイスを採用しはじめる

ボディの変更とともに、エンジン搭載位置も逆転する。

1996年はランサーのフルモデルチェンジの年となり、ランサーエボリューションも大きく変わりました。エボリューションIVになって先代から継承されたのは、4G63型+インタークーラーターボエンジンと、フロントストラット、リヤマルチリンクというサスペンション形式のみといっていいでしょう。エンジンも搭載向きが180度変わって、右側にエンジン、左側にトランスミッションとなっています。この変更によって、これまで3軸あったトランスミッションを2軸に変更できたことで軽量化につながりました。

さらに大きな変更となったのが駆動系です。GSRのリヤデフにAYC(アクティブ・ヨー・コントロールシステム)が採用しました。それまでアナログ式のLSDに頼っていたリヤの駆動力を、電子制御デフで最適化したものでした。「速いけれど曲がりにくい4WD」からの脱却を図ったといえるでしょう。ただし、競技ベース車であるRSにはコンベンショナルな多板式LSDが装着されました。RSにはフロントデフにもヘリカルLSDが装着されるなどの駆動系の強化が図られました。

洗練されたデザインは空力的な性能も向上させた。

フルモデルチェンジでボディが別物となったのも特徴です。ボディが大きくなるとともに剛性も上げられています。それまでのランサーエボリューションIIIまでは、普通のセダンに空力パーツをつけて空力を改善したのに対して、エボリューションIVからは、ボディ形状自体の空力特性が上がりました。

フロントエアダムやリヤウイングも、最初から一体化してデザインされたものとなり、より洗練度の高いスタイルとなったのも特徴です。タイヤサイズはGSRが205/55R16、RSが205/60R15となっています。GSRのタイヤが16インチになったのは、フロントブレーキディスクが16インチとなったためです。

WRカーに伍して不利なグループAで連続チャンピオンタイトルを獲得

この頃WRCでは、グループAだけでなくWRカーと呼ばれるラリースペシャルカーが参加できるようになり、グループAで参加する三菱自動車は不利な状況となりました。それでも市販車ベースのランサーエボリューションIVで参戦することに意義を見出していた三菱は不利な状況を覆しました。シーズンをとおしてほとんどマシントラブルもなく、トミ・マキネンは2年連続ドライバーズチャンピオンとなったのです。

エボリューションVはサスペンションを含めスパルタン路線へと変更

ターボでパワーを高めたため、インタークーラーも拡大

1998年にはランサーエボリューションVが発売されました。パワーユニットは変わらずですが、ツインスクロールターボチャージャーのノズル面積が拡大されました。ターボで過給された空気を効率的に冷やすためにインタークーラーも大容量となっています。エンジン本体内部も、ピストンの軽量化、ラジエターやオイルクーラーの大型化などが施されました。カタログ上の最高出力は280PSとエボIVと同じですが、トルクが厚くなり扱いやすいエンジンとなりました。

ワイドになったボディと、フロントサスペンションのロアアームの延長、リヤサスペンション各アーム取付点の変更のおかげでトレッドの拡大が可能となり、モータースポーツを楽しむプライベーターにとっては好ましいものとなりました。ボディのイメージはエボIVが「スマート路線」だったのに対して、「迫力路線」へとなりました。ワイドアンドローなプロポーションに大型のエアロパーツが付くことによって、力強さが増したのです。

WRCでは念願のメーカータイトルを獲得した。

モータースポーツでの使用を前提としたRSは注文生産で、ボディの軽量化が図られています。ブレーキはGSRにフロントがブレンボの17インチ4ポットキャリパー、リヤが16インチ2ポットキャリパーとなり、耐フェード性を含むブレーキ性能の向上が図られています。1998年のWRCで三菱自動車は念願のマニュファクチャラーズタイトルを手にしました。ライバルがWRカーというラリースペシャルだったのに対して、市販車ベースのグループAで獲得したことがより価値を高めました。

ナンバープレートをずらし冷却効率の向上を図ったエボリューションVI

エボVIは、エボVと基本は同じく各部を強化した。

1999年に登場したランサーエボリューションVIは、エボVからの少変更の感が強いものとなっています。それでもハイパワー化によって厳しくなる冷却系の性能を増すために、水温制御方式の変更、クリーリングチャンネルをピストンに追加するなどの改善がされています。ターボチャージャ自体も吸気入口径の拡大がなされ、性能アップされました。駆動系はクラッチの強化がされたのが特徴となっています。ツインプレートクラッチをオプション設定として強力なパワーに負けないものとしたのです。

エクステリアではフロントバンパーのライセンスプレートの取り付け位置がオフセット化されました。さらにオイルクーラーベンチレーターやエアブローダクトを採用して冷却効率や空力性能を高めています。ナンバー位置の変更は、チューニングカーを製作するショップレベルでは行なうことがありますが、メーカーがこれをやってきたということで並々ならぬ意欲を感じさせるものです。

グループA規定のためリヤウイングが小型化されたが同等の効果を得る形状とした。

反面、リヤウイングが小型化されたのは、普通に考えると意外なものでした。この変更は1999年のWRCの規定でグループAのリヤウイングの大きさが制限されてしまったためでした。ただし、小さいながらも、迎角可変ツインリアスポイラーとして、二枚翼となりエボVと同等の性能を維持しています。

WRCは開幕戦のモンテカルロ・ラリーから登場。ライバルのWRカーを抑えて開幕戦を勝利して不利なグループAでの活躍を見せました。続くスウェーデンでも優勝するなどの活躍で、トミ・マキネンは前人未到の4年連続ドライバーズタイトルを獲得しました。これを記念してエボVIにはトミ・マキネンエディションというバージョンも登場しました。ここまでのエボIVからエボVIまでをランサーエボリューションの第二世代とします。

ACDの採用により、よく曲がる4WDとなったエボリューションVII

フルモデルチェンジによりランサーセディアがベースとなり大型化した。

2001年にランサーのフルモデルチェンジの年となりました。ランサーエボリューションVIIは、前年に発売されたランサーセディアをベースとして開発され、さらに大型化することになりました。エンジンは4G63型+インタークーラーターボエンジンを継承しましたが、改良によりさらに中速域を中心に出力向上が図られています。この辺はもう完全に熟成の域に入っていました。

エボVIIの最大の特徴となったのは、センターLSDにACD(アクティブ・コントロール・デフ)が採用されたことです。これはWRCの中で鍛え上げられた技術で、4WD機能としてエポックメイキングになりました。走行状態によりACDは電子制御により差動制限を50:50から0:100まで可変させることが可能で、「ドリフトができる4WD」になったといえます。

ACDの装着により、乗り手を選ばないロボットマシンに近づく。

逆にいうと、乗り手を選ばない面もあり、コツさえつかめば誰でもある程度までは速く走れるようになり、それに賛否がありました。エボVIIでは、ランエボシリーズにはじめてATを装着したランサーエボリューションVII GT-Aというバージョンが追加設定されています。

WRCに関しては、WRカーに対抗してグループAでの参戦をしてきた三菱でしたが、WRカー有利な規定の中でランサーもWRカーとなり、エボVIIはWRCをグループAで戦うことはありませんでした。

WRCで培った電子デバイスを満載したエボリューションVIII

エンジンのトルクアップと軽量化でさらに速く。

2003年に登場したランサーエボリューションVIIIは、さらに進化したものとなりました。WRCで培った電子制御技術が存分に行かされているといっていいでしょう。パワーユニットはそのままですが、ターボチャージャーの冷却性能のアップやエンジン内部の耐久性を上げるとともに、エンジン本体の軽量化まで図りました。

リヤデフに採用されたAYCは、それまでスポーツ走行に十分耐えうるものとは言いがたいものでしたが、内部をベベルギヤ式から遊星ギヤ式に変更することで、左右のトルクの移動力を従来に対して約2倍に増大しました。これとACDの効果と相まってよりコントローラブルな4WDとなりました。ACDのみを装着したRSでは各モード制御をより競技用に特化させる改良を行っています。

グループA以外のモータースポーツシーンでプライベーターに愛される。

モータースポーツではグループAにこそ参加していないものの、国内のプライベーターに愛用され、全日本ラリー、ダートトライアルなどの得意種目はもちろん、スーパー耐久選手権などのサーキットレースでも大活躍しました。2004年にはランサーエボリューションVIIIMRというルーフをアルミニウム化して重心を下げ操縦性を向上させるなどのチューニングを行なったスーパーモデルを発表しました。これはプレミアムモデルとして、現在でも多大な人気を誇っています。

可変バルタイ「MIVEC」を搭載したエボリューションIX

トルクフル&高回転で良いとこ取りをしたエボリューションIX

2005年、ランサーエボリューションIXが登場します。最大の特徴はパワーユニットにMIVEC機構付きのシリンダーヘッドを搭載したことです。これは連続可変バルブタイミング機構と呼ばれるもので、低中速回転と高速回転でバルブの開閉タイミングを変えることで、トルクフルでありながら高回転まで吹け上がるという性能を持たせたものです。

熟成されたサスペンションとACD+スーパーAYCという組合せは同クラスのクルマはもちろん格上のクルマさえも凌ぐものとなりました。ボディもリアバンパー形状下部を空力性能を考えたディフューザー形状とすることでより洗練されました。

エボリューションIXMRはエンジンの改良とサスペンションの高性能化が図られた。

2006年にはランサーエボリューションIXMRが発売されました。これが4G63型エンジン+インタークーラーターボエンジン搭載の最終モデルとなります。エボIXから少変更にとどまっているモデルでしたが、エボIXではマグネシウム合金のターボのコンプレッサーホイールが壊れるという話があり、これは存続されるがオプション設定となりました。サスペンションはアイバッハのコイルスプリングを採用、ビルシュタインのショックアブソーバーを組合せ、穏やかな挙動と優れた接地性を確保しています。

フルモデルチェンジで究極のランエボ、エボリューションXが発売される

パワーユニットも変更されて新世代のランエボとなる。

2007年、フルモデルチェンジにともないランサーエボリューションXが発売されました。パワーユニットは4B11型エンジン+インタークーラーターボです。これは吸排気にMIVECが備えられるとともに、シリンダーブロックが鋳鉄からアルミとなり、前方吸気、後方排気となるなど大幅な変更がなされました。

GSRのトランスミッションにツインクラッチSST(スーパーシフトトランスミッション)が採用されたのもトピックとなりました。これは6速自動マニュアルトランスミッションと称するもので、2つの自動クラッチを組み合わせた構造を持ち、素早いシフトが可能となっていました。

ツインクラッチSST&S-AWCは走るシチュエーションを選ばない!

駆動系は、4WDであることはもちろん、ACDやスーパーAYCに加え、スポーツABS、ASC(アクティブスタビリティコントロール)がより高いレベルで制御される「S-AWC(スーパーオールホイールコントロール)」が採用されました。これによって、さまざまな条件の路面にオールマイティに対応できるようになりました。

まとめ

エボXはその後マイナーチェンジを繰り返しながら、2015年にファイナルエディションが発売されて、惜しまれつつ23年の歴史に幕を閉じることとなりました。当初のハイパワー&コンパクトというコンセプトからは徐々に離れていったものの、走りの性能を徹底的に追求していったランサーエボリューション。三菱自動車とモータースポーツ、特にラリーというイメージはファンの中で根付いています。ぜひとも後継となるクルマを出して欲しいと願うばかりです。