【消えた技術】「蒸気エンジンは何故消えたのか」について考えてみる

蒸気エンジン。つまり蒸気機関を使ったものは、今では全く見なくなりました。以前、ディーゼルエンジンを調べた時に、その発明者「ディーゼル」は、蒸気機関が余りにも成熟していて参入を諦め別の機関開発をせざるを得なかったほど世の中には無くてはならなかったものなのにです。それほどの技術が一体、何故消えてしまったのでしょうか。

蒸気エンジンとは何か?

よく、私たちが知っているエンジンを「内燃機関」と呼ぶのに対して、蒸気機関は「外燃機関」と呼ばれます。この違いは、燃やす場所としての「ボイラー」と動力を発生させる「タービン」や「ピストン」とが全く違う場所、外側にあるのか、それとも燃焼室からダイレクトにタービンやピストンに伝えるのかの違いです。前者が外燃機関、後者が内燃機関ですね。

外燃機関としては、蒸気機関の他にも潜水艦に使われるスターリングエンジンや、発電用・大型船舶用に使われる蒸気タービンなどがありますが、今日は、ワットが発明した蒸気機関について考えてみましょう。

1世紀から開発され始めていた「蒸気機関」

蒸気機関の原理は非常に昔から解っていた「蒸気の力」で、これについては1世紀に古代アレクサンドリアのヘロンという数学者が発明した機関が記録に残されています。その後も様々な努力や工夫は行われたのですが、かなり「使える」段階になったのは18世紀に入ってからのことです。イギリス人のトーマス・ニューコメンが考えた蒸気機関は、蒸気が湧いているところに冷水を吹き込み急速に冷却をし、このことで蒸気が水へと戻るときに起きる「負圧(真空減圧)」を使ってピストンを吸い上げる方式です。他の考え方のアプローチでは、蒸気圧がものを押し上げる力を使うもあったのですが、どれもが、充分な力を得られるだけの蒸気圧に耐えられる蒸気釜を作れず、結果として破裂・蒸気漏れで「使える」ところには行き着くまでに至っていませんでした。その点、ニューコメンの機関の真空減圧方式は蒸気釜そのものの圧力はそれほど高い必要がなかったので商用化まで行き着くことができます。とは言っても自動車のエンジンなどのように、ここで得られた動力は回転運動としては利用されず、鉱山の湧き水を汲み出すための自動の汲み上げ機…つまりは「つるべ」として利用されるまででした。それでも、この技術は画期的で、ニューコメンは相当な財を築いたと言われています。ただ、この機関の最大の欠点は「効率の悪さ」でした。実際、掘り出した石炭の1/3は真空減圧機関を動かすために使われてしまったそうです。

産業革命に火付け役「ワット」による蒸気機関の発明

この効率の悪さに目をつけたのが、有名な「ジェームズ・ワット」です。同じイギリス人のワットは蒸気を冷やすために直接、水を吹き込むのではなく「復水器」という仕組みを使って冷却することを思いつきます。ニューコメンの方式では、蒸気を冷やす水がシリンダーを冷やしてしまうために、充分な蒸気を作るためには、猛烈に火力を上げる必要があったのです。しかし復水器は管の中を水が通って蒸気を冷やすようにしています。そのためにシリンダーは常に高温に保たれて効率よく蒸気を作り出すことができたのです。しかもワットはこの仕組みを改良し、負圧だけではなく、今まで誰もできなかった蒸気の力を直接使うことも可能としたのです。このことで効率は飛躍的に上がり、それまでの「馬」が動力の主役だった時代から、蒸気機関が主役の時代へと劇的な変化をもたらすことになります。

廃れていった蒸気機関。その理由は「低効率」

では、このように画期的な発明で、日本でもSLなどに使われていた蒸気機関が廃れていったのでしょうか?まず、大きな理由は「大きさ」です。先ほども書いたように、蒸気機関には「ボイラー」と「ピストン」が別々に置かれている必要があります。通常の自動車エンジンならエンジンシリンダーの中にピストンが付いている状態とは違いますね。そうなると、どうしてもスペースが必要になってしまうのです。また、充分な動力を得るためには大きなボイラーと頑丈な蒸気釜が必要です。そうなると、どうしても重量も大きくなってしまいます。また、水を蒸気にするための燃料の主役だった石炭も決して「燃料効率」としては良くなく大量に積み込まなければ充分な動力を得るための火力も得られませんし、長距離の無補給移動もできません。更に、蒸気を作り出せば、水はどんどん失われていきます。そのために、水も積み込んで置かなければならないのですから、燃料の石炭に加えて更に重量の増加が必要なのです。

効率の悪さを嫌った「移動体」

そうなると、最初に「蒸気機関って不便だね」とされたのが「移動体」です。簡単に言えば、自動車と鉄道ですね。自動車も初期にはガソリンエンジンと同じように蒸気自動車がありました。時速200kmを最初に記録したのもガソリン車よりも蒸気自動車の方が早かったのです。ですが、今書いたような理由やガソリンエンジンの急速な発達に対して、致命的な大きさと重さが災いして「不便」と見られるようになってしまったのです。

また、鉄道も同じような理由で蒸気機関車の時代から、ディーゼル機関車や電気機関車の時代へと移っていきます。また、熱効率、つまり燃料を動力に変換する効率自体もディーゼルエンジンが35%程度と言われているのに対して、蒸気機関では10%と言われていますから、同じ仕事をしようとすれば3倍以上の燃料が必要になってしまうのです。この状況では、どうしても外燃機関よりも内燃機関の方が「効率的」と見られても致し方無い状況でしょう。

ただ、今でもレトロ感やノスタルジックな雰囲気のあるSLは愛される存在ですし、効率優先では無いところで生き続けていって欲しい存在ですね。

まとめ

外燃機関としての蒸気機関は、効率優先の社会の中で単純に過去の遺物になってしまった訳ではありません。スターリングエンジンは、高効率の仕組みにできることや、非常に静かなことが知られており先ほど書いたように潜水艦などに使われています。また、大きさをそれほど気にしない船舶の世界では、石油ショックの起きた1970年代まで蒸気タービンが主役でした。その後、一般的な船舶はディーゼルエンジンに切り替わっていきましたが、実は原子力潜水艦や空母などでの仕組みは蒸気機関の中でも蒸気タービンの仕組みが使われています。そして、この蒸気タービンの基本的な原理は1世紀にヘロンが作った機関と同じなのです。少し不思議な科学の鎖みたいなものを感じます。