19世紀から21世紀まで、「ディーゼルエンジン」の改良ストーリー

いまや、各メーカーがしのぎを削るディーゼルエンジンの開発。その歴史は、19世紀にまで遡ることができるって知っていましたか? そして、かつては黒煙を巻き上げるイメージだったディーゼルも、いまではクリーンと言われています。その間に何があったのか。今日は、そんなディーゼルエンジンを調べてみました。

食用油でも動いているディーゼルエンジンって、どんなものなの?

ディーゼルエンジン。トラックなどに搭載されていて、大きなクルマに良さそうなイメージがありますが、最近では、クリーンディーゼルなど普通車にも搭載されるようになりました。また、かつては黒煙を巻き上げながら走るイメージが強かったので、排ガスなどが気になりましたが、エコカーとしても使われるという状況ですから、以前とはイメージそのものが変わってきたようです。

では、ディーゼルとガソリンエンジンの違い、具体的に説明できますか? と聞かれると少々心細くないですか? 「燃料が違う。ガソリンエンジンはガソリンで走るけど、ディーゼルなら軽油だよね。」確かに正解なのですが、正しくは「軽油でも走る」のです。東京だと、自由が丘で走っている「サンクスネイチャーバス」では天ぷらに使った食用油を加工した燃料で走っていたり、テレビ番組などでも廃(食用)油を使って動かしているクルマが出ていたりしますね。

このような事はガソリンエンジンではできません。なぜ、ディーゼルエンジンだと、廃油などでも動いてしまうのでしょう。(でも、ガソリンはつかってはいけません!)

ディーゼルエンジンの発明

まず、ディーゼルエンジンの歴史を考えてみましょう。この仕組は、ドイツ人のルドルフ・ディーゼルによって19世紀に発明されています。その動機は、「新しい動力機関の発明」にあったそうです。当時の主力の動力機関はSLなどでもおなじみの蒸気。いわゆる「外燃機関」と呼ばれる方式ですが、この世界は当時すでに成熟してたため、ディーゼル氏は付け入る隙はないと判断したようです。そこで、「内燃機関」という仕組みに取り組んでいきます。シリンダーの内部に可燃性のガスを投入して、シリンダーをピストンが上昇することで圧力を掛けて高温化して燃料を燃やす。その燃焼によってシリンダーに仕掛けたピストンを押し下げる。ということを繰り返せば、燃焼が動力に変わるというシステムです。

当初の発想では、この仕組に使う燃料は「石炭ガス」だったそうです。そして苦労の末、仕組み自体は出来上がったのですが、ガスを上手く格納する技術が足りずに当初のエンジンは3mの高さがあったそうです。これでは、実用には不向きだと言われても仕方ありません。

そこで、ディーゼル氏は新しい燃料を考えます。それは「ピーナッツオイル」です。オイルならガスよりも効率よく格納できますし、当時は植民地時代だったこともありアフリカなどで盛んに栽培されていたピーナッツは主要な「油」として認識されていたようです。そして、このディーゼルエンジンが日の当たる場所で発表されます。1900年に行われたパリ万国博覧会にピーナッツ油で動くディーゼルエンジンが出品されたのです。しかも、そこでグランプリを受賞します。ディーゼルの苦労が報われた瞬間でした。

しかし、そこから再び苦難が待ち受けます。ディーゼルのエンジンの仕組みは優れていたものだと認識はされたのですが、蒸気機関を脅かすような存在にはなれなかったのです。一応、定置用として水の組み上げポンプに使われていたようです。しかし、そこから先の適用・普及へのハードルになったのは、当初3mだった大きさのようです。ピーナッツオイルによって小型化されたとはいえ、まだまだ蒸気機関のように陸上で動くようなところまでは小さくできていませんでした。そして、ディーゼルは1913年、若くして亡くなってしまいます。心労からの自殺だと言われています。

石油、戦争によって実用化が進んだディーゼル

ただ、そこでディーゼルエンジンまでもが死んだわけではありません。それは、みなさんもご存知のとおりです。まず、徐々に世界の燃料に石油が使われてきます。そうなるとピーナッツオイルよりも安定して安く、石油から作った油が手に入るようになりました。ピーナッツオイルが燃料になるのですから、当然、石油でも燃やせるということで、軽油が使いやすいと認識されたそうです。そして、ディーゼルが亡くなった翌年、第一次大戦が起こります。ここで、世界初の戦車が登場し、陸上戦の主役に躍り出てきます。戦車なら大きなエンジンも搭載できますね。そこで1927年にはイギリスではじめて、ディーゼルエンジン搭載の戦車が登場します。また、民間でも1924年からベンツがバス・トラック用として開発を行っています。ただ、どうしても、小型化、そしてディーゼルが振動を発生しやすいことから普通自動車への普及は暫く遅れて1936年のメルセデス・ベンツ 260Dが登場するのを待つ必要がありました。

ディーゼルエンジンの仕組み

では、ピーナッツオイル、そして軽油、更には廃(食用)油でも燃料になるのでしょうか? そこには、先ほど書いた流れ、「シリンダーの内部に可燃性のガスを投入して、シリンダーをピストンが上昇することで圧力を掛けて高温化して燃料を燃やす。その燃焼によってシリンダーに仕掛けたピストンを押し下げる」が関係してきます。ガソリンエンジンの場合、この「燃焼」という過程には「プラグ」が必要になるのですが、ディーゼルの場合は圧力を加えた空気が発生する熱によって勝手に燃焼が行われます。そのため、一定の温度で発火する燃料ならば使えることになります。現在では一般的に圧縮後225度になると発火する燃料として認識されていますが、基本的にシリンダー内で燃えるものなら燃料になるという仕組みがディーゼルの基本になるわけです。

ディーゼルエンジンの長所とは

では、ディーゼルエンジンとガソリンエンジンを少し比較してみましょう。まず、長所として挙げられるのは、
1. 燃費の良さ
2. 二酸化炭素の排出量が少ない
3. 低速でのトルクに優れている
4. 耐久性が高い
5. 引火点さえ確保できれば安価な燃料を使用できる
などが挙げられます。

まず、「燃費の良さ」ですが、ディーゼルエンジンは燃焼効率が非常に良いので、燃費も良いと言われています。実際には高回転でエンジンを回し続けるような運転をすれば、ガソリンエンジンと同様に燃料消費も高くなってしまいます。しかし、後でも書きますが、低回転のエンジンでも高いトルクを得られるので、ガソリンエンジンでやりがちな、急なアクセルの踏み込みをしなくても対応できることが多いのです。このことで、実際に運転していればガソリンエンジンよりも燃料消費を少なくしやすいと言っても過言ではないでしょう。

次に、「二酸化炭素の排出量が少ない」と言う点についても、上で書いたように余計にアクセルを踏み込む必要がガソリンエンジンよりも低いということも挙げられれますが、それ以上に「軽油」の存在を忘れてはいけません。ガソリンの精製には高い技術力が必要で、日本のガソリンは世界でも指折りの品質だと言われています。それだけガソリンを使ったときにエンジンにも環境にも優しいのですが、技術とともに精製行程が多いのです。その生成過程で、どうしても二酸化炭素が発生してしまいます。一方、軽油の生成過程は非常に少ないそうです。
更に、日本の場合はガソリンへの依存性が高いため、ガソリン精製の段階で産み出される軽油がダブつくこともあるのです。「そのダブついた軽油はどこに行くのか?」という質問が上がれば「売ります。外国へ」と答えてください。日本は軽油の輸出国なのです。
少し古いデータですが、2006年の統計では、
生産量 40,574千キロリットル
輸入 247千キロリットル
輸出 4,950千キロリットル
消費 36,605千キロリットル
と実に生産量の1割以上を輸出に廻せる状態なのです。
また、軽油を再精製してガソリンを抽出することもあるそうですから、そうなると軽油を使うほうが「低炭素」という状況になるのは当たり前のことなのですね。

次に「低速でのトルクに優れている」と言う点ですが、これはディーゼルエンジンの「圧縮比」に秘密があります。燃料を自己発火させるためにシリンダーの内部で空気を高圧縮していますが、このため1回の爆発で
得られる動力がガソリンエンジンよりも強くなるのです。そのため、少ない回転数で比較するとディーゼルエンジンの方が「分厚いトルク」という表現の通りの乗り味を見せてくれます。ただ、この爆発力の強さは両刃の剣になっていて、あまり高回転で使ってしまうとエンジン自体にダメージを負わせることにもなりかねません。そのため、高トルク低回転が特徴になっています。逆に、ガソリンエンジンの場合、高回転でも対応ができるので、エンジン性能を見てみると回転数に応じてトルクも上がっていく高トルク高回転になっていることが多いのです。

そして、「耐久性が高い」と言う点も高圧縮に依るところが多いのです。ガソリンエンジンのおよそ2倍に空気を圧縮し、更に強く爆発するシリンダーを持っている以上、エンジン自体が頑丈にできていなければいけません。また、従来のエンジンではガソリンエンジンに比べて電装品、部品が少なかったので故障発生率が低かったことも、理由にあげられるでしょう。また、空気のみ圧縮した中で燃料が発火するので、ノッキングが起こりにくいことも理由に上げておきたいと思います。低速のノッキングなら、それほどエンジンにダメージを与えないでしょうが、エンジンが激しく動いている高い回転数の時にノッキングが起きればエンジンも簡単に壊れてしまいます。それが起きる可能性が非常に低いというのはエンジンとしての信頼性を高める大きな要因でしょう。

そして最後が「引火点さえ確保できれば安価な燃料を使用できる」です。これも、裏を返せばマイナスのこともありますが、最初に書いたサンクスネイチャーバスのように「バイオディーゼル」と呼ばれる燃料を使うことができます。このことで石油に依存する率が下げられる! という見方もできますが(先ほど書いたように軽油はダブつくことも多いのですが)、それ以上に「カーボンニュートラル」という見方で植物が光合成で二酸化炭素を消費した結果作られる種子などからの燃料を使えば、二酸化炭素を余計に増やすことにはならないということが大きいようです。ただ、それ以上に石油という基盤以外から燃料を採取可能なオプションができることは大きいかもしれませんね。

ディーゼルエンジンの短所は?

逆に短所を考えてみましょう。
1. 振動が大きい
2. ススや窒素酸化物が発生しやすい
3. エンジンが大きくなる、高い
ということがあります。

まず、振動ですが、これもディーゼルエンジンが高圧縮であることが原因です。シリンダーの中で空気をガソリンエンジンよりも余計に圧縮しようとすれば、それだけピストンの上死点と下死点の距離を長くする必要があります。もっと普通に言えば、シリンダーの中でピストンが上下する距離を長くすると、上に上がった時に余計に空気を押しつぶすことができるのです。逆に、この距離の長さが振動を生みやすくしてしまい、それが騒音を産み出すということに繋がるのです。

次に「ススや窒素酸化物が発生しやすい」と言う点ですが、最近話題の「PM2.5」や、より大きな粒子が発生しやすいのは確かです。この原因は、ディーゼルエンジンが燃料を自己発火させているため、シリンダーの内部で均一な燃焼ができないことが大きな理由です。そのため、古いタイプのディーゼルエンジンほど、ススや黒煙が明らかに出ますし、今では、不完全な燃焼をどう克服するかがポイントにされて「クリーンディーゼルエンジン」が開発されているのです。

これは、長所の「耐久性が高い」の裏面です。高圧縮に耐えるため頑丈に作れば、必然的にエンジンは重く、大きくなります(それでもディーゼル氏が見たら、気絶するくらいに小さいはずです)。そうなれば、材料費を含めて、コストも高くなってしますね。また、先ほど書いた振動や騒音を抑える仕組みも必要ですす。更に、後でも書きますがディーゼルエンジンの燃焼効率を上げるための燃料噴射の仕組みや、ガソリンの三元触媒に変わる排気ガスからの有害物質を取り除く触媒、また、最後まで残ってしまったススなどを取り除くDPFなどのパーツが必要なため、エンジン以外にも補足的なコストが掛かってしまうのです。

ディーゼルエンジンの課題を解決するために

振動や騒音を抑える「バランスシャフト」

では、どのように短所を解決する努力がなされているかを考えてみましょう。まず、振動や騒音ですが、これには、各社ごとに呼び方がことなりますが「バランスシャフト」という技術が搭載することで解決していこうという傾向にあるようです。このバランスシャフト、エンジンがピストン運動からクランクシャフトで回転に変化するときに生まれる振動なのですが、これに対抗するように、クランクシャフトの回転をベースに、同速度や2倍の速度でオモリを動かして打ち消すために回転させるシャフトです。このことで、振動だけではなく騒音も低減させる効果があります。

特に、一次振動というクランクシャフトと同じリズムで発生する振動や、二次振動というクランクシャフトの動きの2倍の振動への対応が主になるのですが、そのスピードを考えると、非常に緻密な設計が特にベアリング部分を中心に要求されます。また、このシャフトは、クランクシャフト自体から動力を得ますし、エンジンの重さが振動の強さに比例するので、排気量が大きいほど重くしなくてはなりません。更に、部品点数が増えてきますから製造コストもかさんでしまうのです。それでもディーゼルエンジンの乗り心地を向上させるための手段として、積極的に採用する方向に進んでいるようです。

ガソリンエンジンのような簡単な排ガス除去ができない

ススや窒素酸化物が発生しやすい点の方から考えます。このための努力は、2通りあります。一つはできるだけシリンダーの内部で均一に燃料を燃やすことで完全燃焼させ、ススなどの不完全による物質を出さない努力。そして、もう一つは出てしまった物質に対する除去、先ほど書いた「触媒」による解決です。ガソリンエンジンでも、エンジンから排出された段階の排気ガスには有害物質が含まれています。ですが、ガソリンエンジンでは、「三元触媒」という比較的簡単な仕組みで、その成分を除去できることができるのです。

三元触媒は、排気管の途中に取り付けられている部品で、ガソリンエンジンが出す排気ガスに含まれている有害物質(炭化水素 、一酸化炭素、窒素酸化物)をプラチナ、パラジウム、ロジウムを使って同時に除去します。この触媒を通すと、炭化水素は水と二酸化炭素、一酸化炭素は二酸化炭素、窒素酸化物は窒素と酸素と、酸化や還元されるのです。ただ、これが上手く機能するためには、ガソリンと空気が完全燃焼することと、余計な酸素が排出されてこない理論空燃比という状態にしておく必要があります。ディーゼルエンジンの場合、エンジンに過剰に酸素が残ることが多いので使う事はできません。

各社ともに色々な方法を考えているようですが、少なくともガソリン車よりも工夫のしどころになっているようです

噴射ポンプの改善

そこで鍵になっているのが燃料の完全燃焼で、そのための最も重要な技術が噴射ポンプです。噴射ポンプは、シリンダーの中の圧力が燃焼可能なところまで上がったところで燃料を噴霧するのですが、この技術が非常に難しいそうです。その一つが「霧化」です。一瞬にして燃料が燃えるためには、燃料を霧のようにしておく方が効率が良いのですが、このために以前は、霧吹きのように空気の力を使っていたこともあるそうです。しかし、この方法を含めて、燃料を完全に燃焼させてしまわないと、ススが発生したりと排ガス規制に抵触してしまいます。

従来型の噴射ポンプはクランクシャフトやカムシャフトなどから動力を得て機械的に作動する仕組みをとってきました。その動力で作り出す噴射圧力は、200MPaを超える圧力が掛かることが一般的だったそうです。ガソリンの噴射圧は通常0.3MPaだと言いますから、いかに高圧なのか判る数字ですね。それだけの圧力を加える噴射ポンプには、当然、様々な摩耗が発生します。その摩滅を防ぐためにと軽油に硫黄分を含ませていたのです。しかし、排気ガスの汚染物質が問題化していた中で、硫黄は当たり前ですが目をつけられる対象です。そのため、ディーゼル車規制条例や平成17年のディーゼル車に対する排出ガス規制などが定められ、これをクリアするため軽油に硫黄を使えない状況が産み出されます。これをクリアするためには、この機械式の噴射ポンプは捨てざるを得ない技術になり、他の方式のポンプの採用が必要になってきたのです。

機械式ポンプに代わる「コモンレールシステム」

そこで使われるようになってきたのが「コモンレールシステム」と言われる噴射ポンプです。「コモン」つまり 「共通」のレール(燃料パイプ)を使うと言うコモンレール方式の前に、少し従来の方式(霧吹きからの進化形)をお話しておく必要があるかもしれませんね。従来の方式だと、ポンプから直接エンジンのシリンダーに対して燃料を分け与えるように噴霧していました。この方式だと、どうしても噴霧する燃料の圧力に限度があります。より高い燃焼効率を実現するために考えられた「コモンレール」方式は、電気ポンプを使って、共通パイプ(コモンレール)に蓄えます。その時、燃料は従来のポンプが作り出したものよりも非常に高圧にします。コモンレールで高圧にされた燃料は、シリンダーの中に噴射されると霧以上に細かな粒子となって広がり、既にシリンダーの中にある空気に効率よく溶け込んでいきます。これで完全燃焼を実現しようとしているのです。このことで、ススの発生も抑制されますし、燃費効率も向上することができるのです。これだけでも燃焼効率をあげられそうなものですが、更に、噴射する「タイミング」と噴射する「時間」を制御し、更にこの本格的な噴射前にプレ噴射という少しだけ噴射しておく処理をするなどの高度な制御システムを伴っています。

このコモンレール方式は、1998年にメルセデスベンツといすゞがほぼ同時に発表した後、各自動車メーカーが続々と搭載車両を発表し、現在ではディーゼルエンジンの主流になっています。

コモンレールシステムの歴史

ただ、このコモンレール方式は意外に古い歴史があります。1910年代の終わりにボッシュが最初に開発しています。作られる圧力は全く違うものですが、原理としては当時も今も同じだそうです。

そして、1960年代に画期的な進歩を迎えます。スイススイス工科大学が中心となり研究が進められたそうです。そして、環境対策と言う側面では、日本のデンソーがはじめて実用化に成功しています。1980年代のデンソーでは、ディーゼルエンジンの排気ガスを低減するための技術を検討していたそうです。それは海外の市場と日本の市場でのディーゼルエンジンに対する認識の違いがあったからです。ヨーロッパを中心にディーゼルエンジンは燃費、燃料代が安く済むと人気がある一方で、日本では黒煙を吐き出す汚いエンジンという認識と、実際に排気ガスの中の有害物質が社会問題になっていたのです。デンソーといえばトヨタを中心に部品提供を行っている大メーカーです。ヨーロッパだけを見ているわけには行かないのですね。つまり、ヨーロッパで人気があっても、日本では「汚染源」のレッテルが貼られてしまっては、売ることができません。しかしデンソー車内では、ディーゼルエンジンを「内燃機関」として高く評価していました。この排気ガスにまつわる問題さえクリアすれば…と考えて、新たな排気ガスの低減技術を探していたのです。

模索から始まったデンソーのコモンレール開発

この黒煙のもとは、エンジンの回転数が低い段階で起こります。先ほども書いたように、当時のディーゼルエンジンでは噴射ポンプをエンジンの駆動力、つまりクランクシャフトを経て駆動していました。そのため、エンジンのスタート時などでの回転数不足や加速するためにアクセルを踏み込んだ時には、燃料の噴射圧力を充分に得ることができません。そのため、シリンダーの中で燃料と空気がきれいに混ざらずに不完全燃焼がおきて、その結果、黒煙としてススが大量に発生していたのです。

ここまでは解っていたのですが、しかし、それを解決するための方策が見つかりません。その中で開発チームの部長がヨーロッパへ視察に行きます。そこで、あるトラックメーカーと燃料噴射装置の共同開発という話をおみやげに帰国してきたそうです。その話の中に出てきたのが「コモンレールシステム」です。それまで、当たり前に燃料をシリンダーに直接噴射することを前提としていたのが、一旦、コモンレールにたくわえてから噴射する方式。そこに電子制御の技術を加えれば活路が見いだせると考えたのでしょう。開発チームにとっては目からうろこの情報だったにちがいありません。
先ほども書いたようにコモンレールで高圧にされた燃料をシリンダー内に細かく霧状に噴射する、それを更に高速で噴射すれば、燃料を完全燃焼させやすいですし、そのことでスス、つまりPMが発生しにくくなるはずです。でも、ここに一つの問題があります。実は、あまりに高温になるとNOxが発生しやすくなってしまうのです。そこで、微量の燃料を数回に分けて燃やすことで、高温になることを防ぐことができます。このことでNOxの発生も低減できるのです。

10年で実用化へ。しかし元祖からの巻き返しが始まる

1985年からプロジェクトがスタートするのですが、当初はわずか3名。実用化のためには、高圧に耐えられる材料開発や、高速噴射や最適のタイミングで噴射するための技術、そして低コスト・高品質で量産するための技術が必要です。そしてようやく、実用化に踏み切れるだけの技術が出来上がったのが10年後。エンジンのPMもNOxも大幅にへった上、燃費やトルクが上がり、騒音を減らすことに成功しています。そして、このシステムは世界初のコモンレールシステムの実用版として日野自動車などでのトラックに採用されます。

その一方で、競合他社の存在を忘れるわけにはいきません。一番の強敵はコモンレールシステムの元祖「ボッシュ」です。デンソーのコモンレールがトラックに採用されたのに対し、ボッシュは乗用車をターゲットにしていました。当時は「地球にやさしい」というような言葉が日本でも言われたころで、ヨーロッパでも地球環境保護の理由で二酸化炭素の排出を減らそう、そのためには燃費の良いディーゼル乗用車に乗ろうと、ディーゼル車への関心が高かったのです。まさにそのタイミング、1997年に1,350気圧のシステムを完成し、すぐに高級乗用車に採用されます。

デンソーによる、さらなる技術革新

このままでは、乗用車でのコモンレール市場はボッシュに独占されてしまいます。デンソーが、そのまま引き下がるわけには行きませんし、日本の自動車メーカーにしてもヨーロッパ市場での状況を考えれば、より良いディーゼルエンジンを搭載した乗用車がなければ勝負ができません。そこで、デンソーはトヨタ自動車は、1.450気圧のコモンレールシステムを共同開発し、1999年に「アベンシス」に採用します。ただ、これはあくまで通過点でした、競合優位性を確立するためにも、より高圧なコモンレールシステムの開発が求められていたのです。そこで掲げた目標は
・1,800気圧(ちなみにマリアナ海溝の水圧より高いんです)
・1燃焼あたり5回の噴射制御
・NOxとPMを大幅に低減
・メンテナンスなしで100万kmの耐久性
型破りな目標だったといいます。

まず、1,800気圧に耐えられる部品がないのです。あまりの高圧のため部品一つひとつが従来のものでは通用しない。つまり部品をゼロベースで再設計する必要があったのです。

再設計を行った中で、製造に対しては非常に高い水準が求められたそうです。なにせ1ミクロン以下という高精度ですから。それでもデンソーはハードルをクリアします。そして、2001年ついに1,800気圧・5回噴射の新型コモンレールシステム、つまり目標を達成したのです。このシステムは高い評価を受け、日本車では、マツダのアテンザ、トヨタのアベンシスに採用されています。

こうしたデンソーをはじめ、各社の努力もあってコモンレールシステムは更に進化を続けていますし、すでにコモンレール方式のディーゼルエンジンが主流になっています。

まとめ

バランスシャフトやコモンレールシステムによって、ディーゼルエンジンが抱えていた弱点は大きくクリアされてきています。その一方で、悪質なソフトウェアの利用で技術への信頼性を疑われるような場面にも直面している状態なのかもしれません。しかし、ディーゼルによって開発され、デンソーの技術陣に内燃機関としての可能性を信じさせたディーゼルエンジンには、バイオディーゼルなども合わせ、その疑いを晴らし更に発展していくだけの底力があるのではないでしょうか?

今後、更に「クリーンディーゼル」として各メーカーが本当の技術開発にしのぎを削って、発展していく様子を見ていきたいと思います。