アルファロメオ156 華麗な変身を遂げた“大人のセダン”

156のデビューはとてもセンセーショナルなものでした。発表前から多くの噂が聞こえていましたしたし、現役メカニック時代でしたから、事前の情報を受け取っていました。それでも実物を見たときの衝撃は昨日のようにはっきりと憶えています。一部のマニアのためのメーカーであるアルファロメオが、広く認められるきっかけとなった車です。

Alfa Romeo 156 という車

出典:http://www.carsensor.net/catalog/alfaromeo/alfa_156/F001/M002G004/

アルファロメオ156のデビューは、1997年のフランクフルトショーでした。その流麗なデザインはワルテル・デ・シルヴァによるもの。“角を取る”などという中途半端な丸みではなく、美しくデザインされた柔らかなボディ。それでいてぼってりとしないように、流れるような伸びやかさを強調したスタイルを実現しています。
さらにアルファロメオは、この車で大きな冒険をしています。それは“赤からの脱却”。ある意味常識のようになっていた“アルファ=ロッソ”という流れを断ち切るかのように、薄いブルーがかったパールカラーである“ヌヴォラブルー”を使ってイメージ展開したのです。
この冒険は大成功を収めます。“エレガントな大人のセダン”というイメージを植え付け、ドイツ車や国産ミドルグレード車からの乗り換えを促進することになったのです。

ワルテル・デ・シルヴァによる美しいデザインを纏った156は、デビューイヤーとなった1998年のタイトルを総なめにしました。世界中で36の賞を受け取っています。グッドデザイン賞はもちろんですが、ヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤーも受賞しています。実は、アルファロメオ史上初のことでした。

考え抜かれた秀逸なデザイン

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%AD%E3%83%A1%E3%82%AA%E3%83%BB156

外観で1番好きなところは、サイドミラー(ドアミラー)です。“はぁ?”って声が聞こえてきそうですが、私はとても気に入っています。
イタリアのデザインカロッツェリアたちが描き上げたデザイン画を見たことがある人には共感して頂けると思いますよ。車に限らないことですが、モノをデザインする時には付属品はひとまず考えないようです。初期のラフスケッチなどでは、ヘッドライトですらろくに描いてないことも多いのです。
1つの塊としてデザインしたものに、肉付けしたりそぎ落としたりしながらデザインを進めます。その仮定でライト類やホイール、グリルなどの詳細を描き込んでいきます。このあたりまで来ても、ミラーがデザインの中に入っていることは稀です。
156では、イメージデザインを損なわないように、ドアミラーが黒色に仕上げられています。しかも、埋没することを狙ったのでしょう、つや消しの梨肌に仕上げるという手の込みようなのです。
とかく日本では、商用車イメージを嫌うあまりボディカラーと同色に仕上げることが多いのですが、結果的には“耳が生えている”ようにしか見えず、全体のデザインを台無しにしていまっていることがほとんどです。
すみません。ミラーフェチのごとく書きすぎてしまいました。まだまだこだわりのデザインギミックはたくさんあります。
たとえば、リアドアのアウターハンドル。どこにあるのか探してしまうほど、上手にCピラーに隠してあります。逆にフロントドアのアウターハンドルは、その存在をしっかりと主張するように大ぶりなデザインにメッキ仕上げが施されています。
一見すると2ドアクーペに見えることを狙っているのでしょう。きれいに丸めたルーフラインも相まって、見事に成功していると思いませんか。
丸さを強調すると“垂れ目”になりがちなヘッドライトも、わずかに両端を引き上げることで精悍さを損なわないようにデザインされています。
斬新な中にも、伝統的な盾型グリルはフロントバンパーにつきささるように立てられていますし、比較的大きなグリルも目立たないようにうまく処理されています。
サイドに入れられたストレートなプレスラインは、一見すると丸みを帯びたデザインに似合わないようにも見えますが、実は秀逸に強弱が付けられていて、フェンダーの膨らみをより強調する事に成功しています。
宝石をイメージしたと言われるサイドマーカーやテールランプも、ボディサイズに対しては少々小振りな印象を与えるサイズにすることで、逆に引き立つようにデザインされています。

高級家具を思わせるインテリア

出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Alfa_Romeo_156

インテリアにおいても、徹底的な改革が行われています。それまでのアルファロメオと言えば、内装は黒一色というイメージでした。唯一オープンカーであるスパイダーにのみカラフルなインテリアを採用したモデルがありましたが、ことセダン&ハッチバック(アルファロメオ流に言えばヴェローチェ)モデルは、かたくなに 黒一色に統一されていました。
ところが156では、薄いベージュ色のタンレザーやアルミパネルの採用、メッキの多様などにより高級感を手に入れています。縫製のステッチサイズや色にまでこだわるという徹底ぶりです。それは、さながらイタリアの高級家具のような仕上がりなのです。
もちろん、座り心地まで変更されています。従来のスポーツライクな堅いソリッドな印象ではなく、柔らかくゆったりと包み込むような印象です。とはいえ、ふかふかというものではなく、しっかりと身体を支えてくれる安心感も併せ持っています。
丸いカバーを持つメーターまわりも、メッキリングが配されるとともにアナログデザインを採用していて、クラシカルな印象を与えています。その結果、重厚感に近い高級さを持たせることに成功しています。

FFにしてダブルウィッシュボーンという選択

出典:http://www.scuderia-sfida.jp/s/asso/ajustsuscervopiede2.html

FF車のフロントサスペンションと言えば、ストラット式が王道です。アルファロメオでも、FR時代から長らくストラット式が採用されてきました。
156ではサスペンション型式も一新され、フロントにはダブルウィッシュボーンを採用しています。リヤも一般的なトーションビーム&トレーリングアームではなく、マルチリンク&ストラットというとても凝った型式を採用しています。
荷重移動による姿勢変化が少ないダブルウィッシュボーンは、フォーミュラカーでも採用されている型式です。FF車の場合は構造が複雑になるため敬遠されがちですが、アルファは敢えて採用したのです。その恩恵は大きく、フロントヘビーながらも余裕のホイールストロークを生み出し、高速旋回時の安定性が格段に向上しています。
リヤもトーションビームに比べて柔らかいバネ設定が可能になり、リヤシートへの乗員の有無による加重変化にも柔軟に対応できています。ストラットにスペースを取られてしまうため、トランクルーム左右に大きな張り出しができてしまったことは残念ですが、それに目をつぶっても余りある恩恵を手に入れています。

無骨からお洒落へ

出典:http://www.goo-net.com/catalog/ALFA_ROMEO/ALFA_155/9003656/index.html

これは156の先代にあたる155です。直線的なデザインでこれはこれで格好良いのですが、“アルファロメオ”を象徴するような無骨さです。
これまでのアルファロメオと言えば、そうとうな車好き=マニアの乗り物とか、男の遊び道具のようなイメージを持たれていました。メーカーサイドもそれを認め、助長するような動きを見せていたことも事実です。
156はそんな無骨なイメージを完全に払拭し、お洒落で洗練さえたデザインに置き換えた車です。上述したように、足回りの細部にまでメスを入れるという徹底した改革が功を奏し、アルファロメオに抱かれがちなイメージからの脱却に成功したのです。
そういう意味では、日本でもアルファロメオが広く認められることになった車なのではないでしょうか。

マイナーチェンジでシャープなイメージに変身

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%AD%E3%83%A1%E3%82%AA%E3%83%BB156

2003年9月、フロントまわりに大きなデザイン変更を受けます。これは先にデビューしていたクーペモデルである“ブレラ”のデザインをアルファロメオのアイデンティティにしようという流れに乗じたものです。ブレラのフェイスデザインを踏襲しながらも、156の丸みを帯びたデザインに溶け込むように変更されています。好き嫌いの分かれるところですが、販売台数のみで比較すれば、圧倒的に前期モデルに軍配が上がります。

エンジンもマイナーチェンジ

出典:http://www.pistonheads.com/gassing/topic.asp?t=1146785

2002年7月、主力となる2.0Lのエンジンを変更しました。前期モデルは、フィアットが設計したエンジンブロックに、アルファロメオが設計したシリンダヘッドの組み合わせでした。
ところが、ヨーロッパの新しい排出ガス規制に対応することが難しく、新規エンジンが必要になったのです。アルファロメオでは、厳しくなった排出ガス規制に向けて1から設計し直す道を捨てて、既存の技術を活用する選択をしました。
白羽の矢が向けられたのは、我が国日本の三菱自動車が開発した“GDI”エンジンでした。アルファロメオは三菱自動車からGDIエンジンのパテントを取得し、アルファロメオ流にアレンジを加えて156に採用しました。
それは、アルファロメオ製エンジンの消滅を意味し、多くのアルファファンは嘆きに暮れたのでした。

モデルバリエーション

スポーツワゴン

出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Alfa_Romeo_156

2000年9月に追加されたステーションワゴンモデルの“スポーツワゴン”です。面白いことにこの時点では“156”を名乗っておらず、単に“アルファロメオスポーツワゴン”という車名でした。エンジンがJTSに変更された頃から“アルファロメオ156スポーツワゴン”に改称しています(ただし、初期からリヤには156のエンブレムがありました)。
ステーションワゴンとしては、とても美しいデザインですが、言い換えればデザインだけが優れたステーションワゴンでもありました。サスペンションはセダンモデルをそのまま流用していますので、ラゲッジルーム左右にはリヤサスペンションを収めるための大きな張り出しがあります。加えてテールに向けてすぼまるデザインのおかげで、リヤハッチドアの開口が小さくなってしまいました。
おかげで“世界一荷物を積めないワゴン”の異名を取ることになります。実際、ゴルフバッグが横向きに乗らないために、ターゲットのはずの中上流層からも敬遠されてしまったのです。
ただ、言い換えれば走りの良さはセダン譲りですから、セダンよりもたくさん荷物が乗る156としては悪くない選択だと思います。

栄光に輝くモデル名の復活

出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Alfa_Romeo_156

往年の名車である“GTA”の名前が復活したモデルです。その名も“156GTA”です。
旧来アルファロメオにおいて“GTA”の“A”は、イタリア語の“Alleggerita(軽量化の意味)”の頭文字です。1965年に登場したジュリア・スプリントGTAは、ベースモデルから約200kgの軽量化を実現していました。
ところが156GTAは、全ラインナップ中で最も重くなっていることから、イメージ先行の命名だとする見方がありました。でも、パワーウェイトレシオで考えれば、156全ラインナップ中最も大きく、相対的には軽量化を達成している高性能モデルです。
250馬力を発生する3.2リッターV6エンジンは、FF車としては十分に優れたスペックでしたし、専用設計のサスペンションとエアロパーツなども相まって、世界中で人気モデルとなりました。日本では、発売日である2002年7月20日の受注だけで、2002年輸入分を完売しています。
日本では、セダンの6速MT、ワゴン(2003年に追加)は6速セミAT(セレスピード)仕様のみが導入されていましたが、2005年2月にはセダンにもセレスピードが追加設定されました。
このセレスピードのセダンは、BMW・M3E46、SMG2モデルと比較されることが少なくないのですが、スペックでは遠く及ばないものの、官能的な走りは互角以上と高い評価を得ています。
強化された足まわり、成熟されたセレスピード、V6・3.2Lエンジンのマッチングは抜群ですし、日本では2005年2月~2006年2月の1年間のみしか販売されなかったことから希少価値が高く、良い個体が少なくなったことで中古市場では高額で取引されている希少・人気モデルとなっています。
親会社フィアットのGM・クライスラーとの提携関係から、アルファロメオ製V6エンジンが生産中止となったことも要因のひとつでしょう。

156の中古車情報

アルファロメオといえばという車でもありますので国内でも中古の流通はそれなりにありそうです。下記にリンクを貼っておきますので是非チェックしてみてください。

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愛車としての選択

正直、初期のセレスピードはよく壊れました。言い換えれば、156でトラブルと言えばセレスピード関連しか思い浮かびません。というくらい故障知らずな車です。つまり、初期のセレスピードさえ避けておけば、外れくじはほぼ無いと言えます。
イタリア車に限らず言えることですが、2000年頃までの輸入車にはマイナートラブルがつきものでした。これは、自動車に対する文化の違いと、気候風土の違いが大きく関係しています。
総じて欧米の人は、自分で点検・整備を行います。DIYと言う言葉がありますが、車に対してもある程度は通用します。たとえば、オイル交換などの軽作業でしたら自宅のガレージでこなしてしまいます。
対して日本では、技術的な問題だけでなく、ガレージの保有率も低く作業スペースを持たないユーザーが多く、カーショップや整備工場に任せるしかないのが現状です。
この違いから、普段の生活の中で“車が故障する”という事象に対して、被る損害の大きさが違うのだと思います。欧米では、走行に支障がない症状であれば“帰ってから見てみよう”となりますが、日本では“このままでは使えない”となります。
気候風土という面では、日本の高温多湿な夏が理解されていなかったことが大きな要因だと思います。日本では配線同士をつなぐ“カプラー”を防水するのは当たり前ですが、欧米ではそんなに問題ではありません。そのまま日本で使っていると、電装系統が湿気にやられてしまいます。“外車は電気系が弱い”などと言われ続けた原因だと思います。
欧州メーカーが世界戦略の中でそのあたりに目を付けたのが20世紀の終わり頃だったのです。ですから、2000年以降、とりわけ2005年以降のCANシステム導入後の車輌では、日本特有のトラブルも起きないはずです。