ベレットといえば、ベレG。日本初「GT」を名乗ったスポーティカー

クレイジーケンバンドの曲にもそのものズバリの車名をタイトルがある「ベレット1600GT」。スカイライン2000GTなどと並んで、60年代から70年代を代表する一台としていまも根強い人気を誇っています。そんなベレット、特に「ベレG」の愛称で人気を呼んだ「ベレットGT」について見てみましょう。

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4ドアセダン

60年代終わりから70年代を象徴する人気のクルマ

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ユーミンの曲にも登場

クレイジーケンバンドの曲では「ベレット1600GT」以外にもベレットはよく登場しており、ジャケットの写真にも使われています。曲を作った横山剣さんもきっとお気に入りの一台なのでしょう。その他、松任谷由実の「コバルトアワー」にも「ベレG」として唄われています。こんなふうに、ある時代を象徴するアイコンとしてもベレットはよく登場しています。

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日本で初めて「GT」を名乗ったブランド

「ベレット」は、いまはトラックなど商用車のメーカーとなっているいすゞが、1963年から73年代までの10年間に生産・販売した小型車です。1,500ccの2ドア/4ドアセダンから始まり、1964年には、日本で初めて「GT」を名乗った「ベレット1600GT」がデビューします。さらに高性能なDOHC(ツインカム)エンジンを搭載した「GT type R(GTR)」が1969年に登場しています。

時代背景でいうと映画「ALWAYS 三丁目の夕日」の少し後から、大阪で開かれた万国博覧会(万博)の少し後ぐらいまで、という感じでしょうか。

「ALWAYS 三丁目の夕日」では、主人公の家族は自宅で自動車修理工場を経営していましたが、あの時代はクルマがようやく庶民の乗り物として普及し始めた頃。ラストシーンでは家族3人がオート三輪に乗って走っていきますが、あれでも当時は贅沢な乗り物だったはずです。

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スポーティな2ドアセダンもあった

時代がもう少し進むと、メーカーの生産技術が進んだりしたおかげで、もっと豪華で高性能なクルマが発売されるようになります。日産からはセドリック、プリンス・スカイラインなども60年代に販売が始まっています。
そんな中、発売されたのが「ベレット」です。小ぶりなボディに2ドアセダンからクーペまで多彩で手頃なバリエーションで大いに人気を集めました。
キュッと引き締まったボディに「GT」のネーミング、そして高性能なエンジン、レースでも活躍するなど実際に速かったこともあって、「ベレG」の愛称で呼ばれ、当時の「ヤング」の憧れともなりました。クレイジーケンバンドやユーミンの唄に登場してくるのも、この時代のベレットです。

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万博や東名高速の時代に

そんなブームを巻き起こしたベレGも、少しずつ時代から取り残され始めます。万博の開催に合わせるようにして東名高速道路が開通しましたが、そのあたりから日本にも「ハイウェイ時代」が幕を開けます。
クルマもより速さと快適さを目指すようになり、ボディやエンジンの大型化が進みます。小型車枠のサイズと排気量(2,000cc)をめいっぱい使った大きなクルマが増えるなか、小ぶりなボディと1600ccエンジンをセールスポイントとしていたベレットは次第に存在感が薄れていきます。
1973年、原油価格高騰を単に発した世界的な経済混乱「オイルショック」が起き、クルマの売れ行きなどにも大きな影響をもたらしたこともあり、ベレットはラインアップから退きます。その後、新型車「ジェミニ」へと引き継がれていきます。

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そのエクステリアは

ベレットとはどんなクルマだったのでしょうか。実際に見てみましょう。やはりここは、「ベレG」と呼ばれブームにもなった1600GT type Rをご紹介します。

幅は、いまの軽自動車なみにコンパクト

パッと見て印象的なのは、ボディの小ささです。サイズはベレット1600GTで全長4,005×全幅1,495×全高1,350mm。いまの時代のクルマと比べてみると、全長はトヨタ「アクア」の3,999mmとほぼ変わらないくらい、全幅は軽自動車規格の1,480mmに匹敵しますし、全高は小学4年生男子の平均身長(133.6cm/2013年調べ)くらいしかありません。

みんながあこがれた、流麗なクーペスタイル

デザインは、いま見てもカッコいいクーペスタイル。2分割されたフロントバンパーの間に装着されたフォグランプが、レーシーなムードです。フロントの短いオーバーハングからサイドに水平にストライプが伸びていき、タイヤを少しだけ隠すリアフェンダーの真上をかすめてリアまで続き、ちょっと長めのテールで収束します。テールはスッと沈み込むようなデザインとなっており、それがクルマ全体に優美なイメージを与えています。

デザインはいすゞ車内の作

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全体のプロポーションは、当時一世を風靡したアルファロメオの「ジュリア スプリント」に似ています。そのため、ジュリアをデザインしたベルトーネ(に所属していたジウジアーロ)が、このベレットもデザインしたのでは、と噂されたりしていましたが、実際にはいすゞ社内のデザインです。
ただ、このイタリアの香り漂う小粋なデザインも、人気を集める大きな理由だったといえます。

ツヤ消しブラックのボンネットが高性能をアピール

ボンネットとリアエンドは通常はボディカラーと同色ですが、GTRだけはツヤ消しブラックとなります。ブラックのボンネットは太陽の反射を抑えるといわれていましたが、高性能イメージをかもし出す狙いもあったようです。
またボンネットには左右にふたつのエアアウトレットが設置されています。これはGT系専用の装備で、実際にダクト効果があり、エンジンルーム内の熱を逃がしています。

リアのオーバーハングが長いため、トランクルームは前後方向の余裕はありますが、もともと低いデザインで天地方向の余裕がなく、積載量は限られます。もっとも、このクルマにぎゅうぎゅうに荷物を積んで出かける人はそう多くはないでしょうが。

そのインテリアは

低く座る、スポーツカースタイルのポジション

ドアを開けて乗り込みます。車高が低いため、腰をかがめるようにしてシートにつきます。足と手を前方に伸ばすようにして座る、典型的なスポーツカー・ポジションです。最近のクルマでいうと、トヨタ86(あるいはスバルBRZ)に近いポジションです。

足を前にのばすように座るため、ともするとボトムス(ズボン)の裾がフロアに触れてしまいます。雨の日などはそれで裾が濡れてしまったりもします。現代の服でもそうなるのですから、70年代に流行った「パンタロン」を履いて運転した人はさぞかし困っていたことでしょう。

ホールドの良いシート

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シートはヘッドレストと一体となったハイバックスタイル。ビニールレザーですが、背中の要所にパンチング加工が施され、汗などによるムレを防いでいます。
一見すると薄くてサイドサポート等もほとんどないためホールド性が低そうですが、どうしてどうして。ワインディングロードなどでも身体をしっかりとサポートしくれ、楽しいドライビングを支えてくれます。

細くて大きめのステアリングは、パイ(直径)38cmくらいはあるでしょうか。3本のY字型の細いスポークの中にホーンボタンが埋め込まれた、スポーツタイプが標準です。走り屋たちは36パイや35パイといったもっと小径なモノに交換してしまい、オリジナルのステアリングが残っている例は少ないようです。

カチカチと小気味よいシフト

ハンドルを持った左手をスッと助手席側に伸ばすと、そこにシフトノブがあります。シフトレバーはフロアから垂直に、短く生えており、そこはイギリス車の雰囲気が漂います。
シフトタッチはカチカチと心地よく決まるもので、いすゞは当時から優れた工作技術を持っていたことがうかがえます。

メーカーのプライドが垣間見える

メーターは正面にスピードとタコメーターがセットされています。盤面の隅に「YAZAKI」と入っており、これは製造した矢崎総業のしるしです。ヨーロッパでは「VEGLIA(ヴェリア)」「SMITH(スミス)」といった有名な自動車部品メーカーがあり、クルマに乗るとメーターやエンジンルームにその刻印をよく見かけるのですが、ベレットも同様の“作法”が見られます。自動車メーカーだけでなく、その部品メーカーも一緒になって、このクルマを一生懸命に作り上げたプライドを物語っているようです。
タコメーターは当時としては珍しい電気式です。ワイヤー式のようなねじれがなくレスポンスが良いため、エンジンの回転を比較的リアルタイムで伝えるというメリットがあります。
この2つのメインメーターに加えて、助手席との中間に水温、電流、燃料のサブメーターが3連でセットされています。
ダッシュボードには木目調のパネルが貼られ、そのパネルの天地のセンターにシルバーのモールが水平に伸び、横方向の視覚的な広さを室内にプラスしています。

走らせてみると

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オーストラリア向けのセダン

120ps、2,000c.c. DOHCエンジン

ベレットGTのエンジンにはいくつかの種類があり、初期はOHV1.6リッターが搭載され、後にOHC化されています。
さらに、1968年発表の117クーペ用に開発したDOHCエンジンを移植したバージョンも加えられ、「GT Type R」、略してGTRと名乗りました。直列4気筒、ボア×ストローク82×75mm、排気量1,584c.c.に、ソレックス(あるいはミクニ)のツインチョークキャブレターを2連奏して、当時の1.6リッターエンジンとしてはトップクラスの120ps/6,400rpmのパワーと14.5kgm/5,000rpmの最大トルクを発揮、970kgのボディをゼロヨン16.6秒で加速させ、最高速190km/hまで引っ張りました。その性能は当時のライバルだった「トヨタ1600GT」をパワーで10ps、最高速で15km/hものアドバンテージがありました。

出典:http://minkara.carview.co.jp/userid/949539/blog/26892670/

豪快なサウンドが、走る気分を盛り上げる

エンジンをかけましょう。
キーをひねるとキャブレターの豪快な吸気音とともにエンジンが目ざめます。前方からはさらにメカニカルノイズが、後方からは野太い排気音が、それぞれドライバーのはやる気持ちをさらに刺激します。
短めのストロークのギアを1速に入れ、少し踏みごたえのあるクラッチをリリースすると、ボディはかるがるとダッシュを始めます。

サスペンションは独特なスイングアクスル形式

サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン、リアは独特なスイングアクスル形式で、当時の国産小型乗用車で初の4輪独立懸架を採用していました。
このスイングアクスル形式はリアタイヤが良く動くサスペンションで、発進時、リアがグッと沈み込みトラクション獲得に後見していたほか、乗り心地にも有利に働いていました。

しかし、リアタイヤの路面に対する角度変化が大きく、タイヤがスライドを始めたときのコントロールが難しく、レースやラリーなど極限の状況では横転につながることもありました。しかもGTRではリミテッドスリップデフ(LSD)が標準装備となっており、雨やミューの低い路面では突然のデフロックでハンドリング特性が急変したりなど、じゃじゃ馬ぶりを発揮することもありました。
とはいえ、当時としては先進的だった、このリアのサスペンション形式がベレットのスポーティな走りを支えていたことは間違いありません。

小気味よいハンドリングを生み出すラック・アンド・ピニオン式ステアリング

GTRをワインディングで走らせてみましょう。小ぶりなボディは狭い日本の峠道でもストレスなく振り回すことができます。慣れてくると、難しいサスペンションとはいえ、アクセルのオンオフで自在にテールを滑らせるようになり、ヘアピン上の小さなコーナーでも難なくクリアできるようになります。
さらに、正確なハンドリングを支えているのが、ラック・アンド・ピニオン式のステアリングです。それまで一般的だったボール・ナット式よりも軽く切れるハンドルで、左右の切り返しなどもスパッと気持ち良く決めることができます。このラック・アンド・ピニオン式も日本の乗用車としては初の装備でした。

ただし、ブレーキには要注意

ハイパワーで軽快に吹け上がるエンジン、そして軽く身のこなしの良いボディ、そして爽快なエグゾーストを発しながら、峠の上りは一気に駆け上がることができます。しかし、下りになったら注意が必要です。それはブレーキ。日本でも高性能なスポーティカーが作れるようになったとはいえ、まだまだ経験不足な点がありました。その代表的なひとつがブレーキで、何回か強めに踏むとオーバーヒートしてブレーキがきかなくなる「フェード現象」を起していました。これはベレットだけでなく、当時の日本車メーカーに共通する“アキレス腱”でもありました。そんな弱点は、いまはもちろん克服されています。

矢のように突き進む直進性

高速道路などでの直進性は良好です。アクセルを踏んでハンドルに手を添えていれば、矢のように突き進みます。
エンジンのメカとエグゾーストが渾然一体となったサウンドは、この時代の“高性能マシン”ならではの迫力です。アクセルを開けるほどにエンジンが唸り、エグゾーストが吠え、走りの気分がどんどん高まってきます。

すみずみに技術者の意欲とプライドを感じる名車

世界に追いつき追い越せ

「世界に追いつき追い越せ」という信念で、当時のいすゞのエンジニアたちがベレットを開発したのだと思います。その思いはカッコいいデザイン、高性能なDOHCエンジン、4輪独立サスペンション、ラック・アンド・ピニオンなどの日本初のメカ、時速200キロに迫るスペックなど、すみずみに感じることができます。日本車で初めて名乗った「GT」のネーミングには、彼らのプライドも感じることができます。

出典:http://www.tochigi-isuzu.co.jp/tokusyu/beret/beret2.htm

メーカーのこうした意気軒昂ぶりが実際のクルマにも感じられ、それもあって当時、多くの人の心を捉えたのではないでしょうか。このベレGをフラッグシップに、4ドアや2ドアセダンなどもスポーティなクルマとして人気を呼び、ベレット全体の人気にもつながっていったのです。

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