自由を味わい人生を楽しむためのクルマ「光岡・ラセード」を解剖してみた

かつて、50ccエンジンを搭載した「ゼロハンカー」シリーズを手がけ、その後も自作で自動車を作れる「キットカー」など、既存のメーカーとは違った自動車文化を作り出している光岡自動車。市販車両をベースにしたクラシックスタイルのシリーズも有名です。今日は、そのクラシックスタイルの中でもシルビアベースのラセードを紹介します。

「ラセード」登場までの光岡自動車

光岡自動車。知ってる人はよく知っている。そんな光岡自動車ですが、1968年富山で創業した比較的古い会社と言っていいでしょう。当時の業務は新車・中古車の販売業で「BUBU(ブブ)」という店舗名称で1981年には東京江戸川区に支店を開くなど、中古車販売で全国に展開するほど事業を成長させていました。

同じ1981年、富山県内に開発部を設置し、1982年2月には当時の法令では原付き・自動二輪免許でも運転が可能だった50ccエンジン搭載車両「BUBUシャトル」を発売しています。ここからしばらくは、ゼロハンカーシリーズを着実に展開していたのですが、1985年に道路交通法が改正されゼロハンカーの原付き・自動二輪免許での運転が禁止されてしまいます。そこで1987年、1987年にフォルクスワーゲン・ビートルをベース車両として、1920年代の名車、メルセデスベンツ・SSKのレプリカ「光岡・BUBUクラシックSSK」を発売します。

このように得意な形の自動車や、過去の名車のデザインを彷彿とさせるような自動車を「パイクカー」と呼びますが、光岡自動車はまさにパイクカーの専門業者のように、その後、今日ご紹介する「ラセード」や「ビュート」を発表していきます。街なかを走るクラッシクタイプの光岡の自動車を見て「古い車なのに走ってるのね」と言った声が聞こえますが、「(それ、新車ですから)」と心のなかで言ってしまうことも少なくありません。

限定500台が即完売。伝説を作った「初代ラセード」

1987年、ワーゲンビートルをベースとしたメルセデス・ベンツSSKのレプリカ「光岡・BUBUクラシックSSK」が200台限定で発売されると、ルパン三世で見慣れたクラッシクカーが手の届く値段で購入できるという理由もあって、非常に話題になりました。この後を継いだ形で発売されたのが、「ラセード」です。名前の由来は、「ライフ・セカンド・ドリーム」(第二の人生・飽くなき夢を追い求め、自由を味わいながら長い人生を楽しむ)という言葉から取った頭文字で「ラセード」としたそうです。

BUBUクラシックSSKと同じように、ベース車両に改造を加えた形の車種で、ベースに使われていたのは当時の人気車種、日産シルビアです。そして、外観はアメリカのクラッシクカー、ティファニークラシックをモデルとした2ドアのクラシカルクーペとして、限定500台で発売されました。そして伝説のようになっていますが、話題の高さに比例して500台の生産枠があっという間に完売御礼になってます。

人気国産車がベース。メンテの苦労のない「クラッシクカー」

初代のラセードは、日産シルビアS13をベースにしています。外観はアメリカのティファニークラシックそのものという形が、当時は物凄い話題になったそうです。

クラッシクカーというと、故障した時の部品入手が難しかったり、その修理に手間が必要だとか、あるいは元が古い自動車だけに、不具合箇所を直しながらの運転になってしまうなど、どうしても一般のドライバーが乗るには敷居が高くなってしまいます。しかし、このラセードはベースに当時の人気車種を使っているだけに、部品の入手も簡単でしたし、安定した流通に乗っている状態でしたから、通常のクラッシクカーで心配される「メンテナンス」の心配がほとんど無くなるということは大きなメリットだったのでしょう。

S13型シルビアからの変更点

ラセードの発売時に話題になったのは「S13シルビアの面影」を探すことでした。外観をぱっと見る限りシルビアとは似ても似つかないシルエットだったからです。実際には、キャビン部分はロゴがあることを以外、ほぼシルビアのまま。エンジンも標準のCA18DE型(直列4気筒DOHC)をFRレイアウトと標準のまま搭載しているなど、スペック的な部分での変更は一切ありません。また、トランスミッションは5速MTと2種あったうち、4速ATのみを採用しています。これは型式認定の費用を抑えるためには、マニュアルよりもオートマチックトランスミッションの方が有利だからという理由のようです。

逆に大きく変わった点は、外観を除けばホイールベースはS13シルビアの2,475mmから3,375mmに大幅に延長したことなど、サイズアップが大きなポイントだと思います。

ダミーパーツもある外装アクセサリ

外装での変更点としては、シルビアのフロントバルクヘッドより前部分が延長されているほか、多々ありますが、左右についているタイヤカバー、そして6本のエキゾーストパイプが装着されています。ただし、これはダミー装備で、中にはバッテリーなどのパーツが格納されています。そして、フロント部分に装着された4本のクラクションのラッパですが、こちらは本物のクラクションで音はキチンとなります。ダミーだと思って気楽に触らないようにしましょう。

また、他の光岡車にも多く見られるのですが、外装にはFRPが使われていて、若干でも車重を軽くしようとし、またクラッシクカーとしての流線型を再現したかった様子が伺えます。

S15型シルビアをベースとしたニューラセード

2000年、ラセードが生まれ変わります。とは言っても、基本思想は初代と同じまま、ベース車両をうまく使って外装を中心に変更を加えています。この「ニューラセード」とも呼ばれた自動車の概要を書いておきましょう。

ベース車両は、S13シルビアからS15シルビアに変更されています。が、シルビアということは変わっていません。内装も、ほぼS15シルビアのオリジナルから改造していません。エンジンについても、SR20DE型(直列4気筒DOHC)をFRレイアウトと15シルビアの仕様の通りで、トランスミッションはやはり4速ATのみで発売しています。ただ、今回は初代と違い、バブル崩壊の影響があったのでしょうか、限定台数が100台に縮小されています。

そして、2002年、更に本格的にクラシカルな装いを引き立てる本革シート特別限定仕様車が発表されますが、これでラセードの生産は終了となります。第35回東京モーターショー(2001年)には、ラセードのコンバーチブルモデルが参考出展されていたのですが、この仕様での発売はありませんでした。

ここでもベースのS15シルビア探しをしてみれば、フロントガラスやドア、ミラー、そしてサイドガラスとルーフの前半部分などが挙げられます。

改造によって起きた不便さ

その後もラセードには、恐らく形を求めたファンが続いていたようです。ただ、幾つか実用には不利な面。つまりベースのシルビアを改造してクラシカルスタイルにしたデメリットがありますから、上げてみましょう。

1. 極端にながいロングホイールベース
ホイールベースが極端に伸ばされたため、小回りが効かず機動性が下がっています。S13シルビアでは4.7m程度だった最小回転半径が6.3mに拡大していることで数字にもはっきりと出てしまっています。当時の試乗インプレッションを見ても、化物だとか全く前が見えないなどの意見が並んでいました。また飛び出した形状のフロントライトも視界を遮る要因になっているようです。

2. ロングノーズの外観
クラッシクカー特有の長いフロントノーズを再現するために、シルビアのフロントバルクヘッド部分から前を延長した形になっています。このことで視界が低下していますし、最小回転半径が大きくなっているのと合わせて狭い場所での取り回しが難しく、「慣れ」が必要だと言われています。

3. 故障(外装)修理の費用
ベース車両に国産の人気車種を採用しているため、エンジンやクーラーなどの内部的な故障は少ないですし、故障しても交換パーツを容易に入手できるため、ほとんどデメリットはありません。ただし、外装は前記のように、ぶつけやすくもあり、また特注品のボディを載せているような形のため、修理費用が高くなりやすいと言われています。

4. 燃費の悪化
ミッションや排気系、エンジンはほぼベースのシルビアと変わりませんが、改造を加えた分、車体重量は増えています。S15シルビアとニューラセードを比較すると、S15シルビアでは1,240kg、ラセードでは1352kgと100kg以上も重くなっています。このため、若干燃費が悪化していると言われています。

5. 塗装が弱い
FRPへの塗装は、金属に比べて落ちやすいと言われています。ラセードでも、FRPボディを採用しているために、比較的短期間で塗装が剥げてしまうということがありました。このため最長でも10年に一度は全面塗装替えをしなくてはならないと言われています。

6. 居住性
ベース車両がシルビアですから、居住性はあまり高くありません。後部シートとなると、長距離のドライブには不向きと言えるはずです。

数字で比較するシルビアとラセードの違い

では、どれだけラセードが大きくなったかが客観的にわかると思うので、ベース車両のシルビアとラセードを数字で比較してみましょう。

S13型シルビアと初代ラセード

☆ S13シルビア:
販売期間:1988年 - 1993年
乗車定員:4人
ボディタイプ:2ドアクーペ、2ドアコンバーチブル
エンジン:CA18DE 直4 1.8L NA、CA18DET 直4 1.8L ターボ
最高出力:135PS/6,400rpm(CA18DE) ※ラセードとの比較のためNAエンジンATのみ記載
最大トルク 16.2kgf·m/5,200rpm(CA18DE) ※ラセードとの比較のためNAエンジンATのみ記載
変速機:4速AT/5速MT
駆動方式:FR
全長:4,470mm
全幅:1,690mm
全高:1,290mm
ホイールベース:2,475mm
車体重量:1,120kg

★初代ラセード
販売期間:1990年
乗車定員:4人
エンジン:CA18DE型 1.8L 直4 DOHC 135ps/16.2kgm
変速機:4速AT
駆動方式:FR
全長 :5,100mm(630mm増)
全幅:1,870mm(180mm増)
全高:1,280mm
ホイールベース:3,375mm(900mm増)
車体重量:不明(-)

S15型シルビアとニューラセード

☆S15型シルビア
販売期間:1999年1月 -2002年8月
乗車定員:4人
ボディタイプ:2ドアクーペ、2ドアコンバーチブル
エンジン:SR20DE 直4 2.0L NA、SR20DET 直4 2.0L ターボ
最高出力:160PS/6,400rpm(AT) ※ラセードとの比較のためNAエンジンATのみ記載
最大トルク:19.2kgf·m/4,800rpm(AT) ※ラセードとの比較のためNAエンジンATのみ記載
変速機:4速AT/5速MT/6速MT
駆動方式:FR
全長:4,445mm
全幅:1,695mm
全高:1,285mm
ホイールベース:2,525mm
車両重量:1,240kg

★ 二代目ラセード
販売期間:2000年
乗車定員:4人
エンジン:SR20DE型 2.0L 直4 DOHC 160ps/19.2kgm
変速機:4速AT
駆動方式:FR
全長:5,230mm(785mm増)
全幅:1,880mm(185mm増)
全高:1,270mm(15mm減)
ホイールベース:3,424mm(830mm増)
車体重量:1,352kg(112kg増)

まとめ

実用車としては、かなりの欠点があるラセードですが、デザインに惹かれて購入に踏み切った方が多いようです。

逆に欠点が長所なのかもしれません。そう、このクルマの最大の長所は「目立つ」ことなのです。のんびりゆったりと広い道を走っていれば、何の問題もないでしょう。もし多少、狭い道で対向車とのすれ違ったら? そんな時には、なんとなく漂う威圧感で、道を譲ってくれるかもしれませんね。

ラセードの他にも、日産マーチをベースにジャガー・Mk2をモチーフにした美遊人(ビュート)、2代目トヨタ・カローラアクシオをベースにロールス・ロイス・シルヴァークラウドIIをモチーフにした流儀(リューギ)などのパイクカー、いやファッションカーを送り出してきた光岡自動車。海外への輸出もはじめており、更に面白いクルマが世界のあちこちで見られるようになると良いですね。先端技術ばかりが目立つ自動車業界ですが、こういった味のあるメーカーにも頑張って欲しいです!