ヒルズ族の象徴だった?フェラーリ360(1999〜2015)を今振り返る。

1999年にフェラーリからV8ミッドシップの2シータースポーツとして発売された360モデナ/スパイダーは、新車当時はセレブ御用達の華々しいイメージで紹介される機会が多いモデルでしたが、一方で従来のモデルとはコンセプトを大きく変化させたモデルでもありました。360の変化のポイントについてまとめました。

フェラーリ360の歴史と特徴

出典:http://en.autowp.ru/picture/323285

フェラーリ360は1999年に、フェラーリのスポーツモデルのボトムエンドを担うモデルとして、フェラーリF355の後継として登場しました。360のネーミングは、エンジンの排気量が3.6Lであることを意味します。先代のF355同様に5バルブエンジンだったので、同様のルールで命名すれば365となるところでしたが、フェラーリには「365GTB/4」や「365GT4BB」など、365を名乗るV12モデルが既に多数存在していたので、重複を避けたことが考えられます。

このボトムエンドのモデルは、古くは若くして亡くなったエンツォ・フェラーリの長男の名前を冠した「ディーノ」のブランドで販売された206GTに端を発するもので、1970年代半ばのディーノブランドの廃止でフェラーリのラインアップに組み込まれたという経緯があります。本流とも言うべきV12エンジンを搭載した大型のフェラーリに対して、この軽量で小型なレンジを担うモデル群は代々、ピッコロ・フェラーリと呼ばれて親しまれ、その魅力は、絶対的な動力性能ではなく、軽快な運動性能にありましたが、先々代の348以降は、その性格をスーパースポーツ志向に変化させつつありました。

フェラーリ360はスーパースポーツ志向を更に強め、全長の大幅な延長など、コンセプトを更に大きく変化させたモデルとなり、自動車好きの間では、その変化には賛否両論ありました。また日本では販売期間が六本木ヒルズ族が話題になった時期と重なり、堀江貴文氏が愛車として選んだエピソードなどから、セレブの愛車の象徴的な存在として認識されました。

華々しいイメージの影に存在したコンセプトの変化の本質は果たしてなんだったのか? フェラーリ360の特徴を振り返ります。

ダイナミックなデザイン

出典:http://en.autowp.ru/picture/212223

フェラーリ360のデザインは、かなり抑揚に富んだダイナミックなものになりました。先代のF355や先々代の348のスクエアなデザインから一転、また後述する通り車体が大きくなったため、かなり迫力が感じられるようになりました。また代々続いてきたフラットなエンジンフードも廃止され、リアガラスからエンジンヘッドを覗けるという演出も行われました。

デザインは当時の他のフェラーリ同様にピニンファリーナ、原案を手掛けたのはプジョー406クーペや、その後BMWに移籍してBMWの5シリーズ(E60)を手掛けるも、急病で夭逝したダビデ・アルカンジェリです。アルカンジェリの名前は日本では奥山清行の著書である「フェラーリと鉄瓶」で知られるようになりました。

フェラーリと鉄瓶 (PHP文庫)

¥596

販売サイトへ

しかし当時のフェラーリは生産規模の拡大と財務基盤の強化の最中で、ときのフェラーリ社長、ルカ・ディ・モンテゼーモロは新型車360に、これまで以上に消費者のニーズを重視した商品性を持たせようとしました。その意向を受けて最終的にディレクションを行ったロレンツォ・ラマチョッティは、360を上下にも前後にも肥大させてしまいました。

このエピソードは評論家の沢村慎太朗により『BMWのすべて』内でのコラムにて紹介されています。

名車アーカイブ BMWのすべて (モーターファン別冊)

¥1,080

販売サイトへ

ゴルフバッグも積める広い室内

出典:http://en.autowp.ru/picture/459335

前述したとおり、フェラーリ360の車体は大型化しています。特にホイールベースは先代のF355に比べて150mmも長い2,600mmに達しました。これは当時の2+2のGTモデルでV12エンジンを搭載したFRの456M GTと同じ数値で、その長さが伺えます。

延長分は室内空間の拡大に充てられ、これまで直ぐにエンジンとの隔壁があった運転席・助手席のすぐ後ろには、ゴルフバッグが積めそうな空間が生まれました。そして実際にフェラーリは360用の純正アクセサリーとして、本革であつらえられた専用設計のゴルフバッグを用意したのです。

一般にホイールベースの拡大は旋回性能を損ねるので、多くの自動車好きからは、この様な判断には疑問符が付けられました。しかし一方で実用性の高さは、フェラーリの敷居を下げることに貢献しました。また、かつてフェラーリのV8ミッドシップには2+2のGTであるモンディアルが存在しましたが、360発売当時は既に廃盤となっていました。360には、モンディアルが欠けた穴を埋める必要があったとも考えられます。

出典:http://loveferrari.seesaa.net/article/25896529.html

アルコア社によるアルミ製のスペースフレーム構造車体

フェラーリ360はアルミ製の車体を採用したことでも話題になりました。ボディ外板もアルミパネルで構成されていますが、車体にかかる応力を受け持つのは内側にある、アルミ製のスペースフレームです。このスペースフレームはアルコア社とフェラーリの協業で生まれました。アルコア社は北米発祥の老舗アルミニウム関連企業でしたが、1990年代からはアウディとの協業を契機に、自動車の車体フレーム製造にも進出していたのです。

先々代の348では車体鋼管フレーム構造を捨ててセミモノコック構造を採用、当初は芳しくなかったその評価は、モデルライフ途中のマイナーチェンジや後継のF355での強化により払拭されていましたが、フェラーリはセミモノコック構造を2世代限りで捨てて、早々に方針転換を行ったことになります。

360の完全新設計のスペースフレームは、高い剛性を持つのは勿論、軽量化にも貢献しました。事実360はF355に比べて大きくなったにも関わらず、逆に10kgの軽量化を果たしています。

出典:http://en.autowp.ru/picture/414338

タテ置きエンジン、タテ置きトランスミッション

フェラーリ360ではパワートレインのレイアウトも再構成されました。過渡期にあった348や、その設計を引き継ぐF355では、エンジンを縦置きとすることで低重心化を行いましたが、トランスミッションは横置きのままでした。

この部分を完全に新設計したフェラーリ360ではトランスミッションも縦置きとされ、1970年代以降のスーパースポーツと同じレイアウトになりました。この構造はタミヤの1/24スケールのプラモデルでも精密に再現されています。

1/24 スポーツカーシリーズ No.298 フェラーリ 360 モデナ

¥2,009

販売サイトへ

スーパーカー的ジオメトリーとグラウンド・エフェクト

出典:http://en.autowp.ru/picture/362461

フェラーリ360がスーパーカー的になったのは、パワートレインのレイアウトだけではありません。これまでのピッコロ・フェラーリがハンドリングマシンとしての要素が大きかったのに対して、360では一転してリア優位の安定志向に変わりました。代わりにフロントのトレッドは幅広となり、細かなハンドリングには機敏に反応します。一方でフロントタイヤは以外にも細く、限界は決して高くありません。つまるところアンダーステア。公称最高速度は295km/hに達し、最高出力は遂に400馬力の大台に到達。超高速域を考慮すれば、安定志向は必至だったとも言えます。

また360の車体下面には「ベンチュリートンネル」と呼ばれる構造が設けられ、地面との間の空気の流れで車体を地面に押し付ける作用である、超高速域で強力なダウンフォースを発生しました。このような効果は「グラウンド・エフェクト」と呼ばれるもので、超高速域での安定性を高めることが意図されていました。

しかし但し、360は必ずしもフェラーリが意図した様なハイスピードマシンとしては仕上がりませんでした。風洞実験室やコンピューターのシミュレーション、あるいはテストコースでは効果の大きかったグラウンド・エフェクトも、実際の公道上では路面の荒れや段差により変化する地上高に合わせてダウンフォースが細かに変動するため、高速域では逆に不安定となることが指摘されました。

出典:http://en.autowp.ru/picture/129017

2000年代のV8ミッドシップフェラーリの原型、それがフェラーリ360

出典:http://en.autowp.ru/picture/ho1jcr

マーケティングの都合やパワーの向上に伴い、全く新しいフェラーリ360は、2015年現在になって振り返ると失敗要素が多いモデルだったかもしれません。それらの欠点の一部は、後継のモデルでは解消されました。一方で、スーパースポーツ的な性格は後継モデルでは更に強められています。

フェラーリをはじめスーパーカー全般に造詣が深いことで知られる自動車評論家の福野礼一郎は、当時360スパイダーを新車で入手し1年程度で手放してしまいましたが、特にスパイダーがクーペボディに対して破綻が大きかったことを批判しつつも、その品質水準は非常に向上しており、F355以前とは比べ物にならなかった点を評価しました。

2005年の生産終了までの生産台数は16,244台に達し、少なくとも販売の上では大成功したフェラーリ360。その経験は、21世紀のフェラーリの戦略の礎となるのです。

TOKYOスーパーカー研究所PDFデータブック vol.2 (DVD-ROM)

販売サイトへ

フェラーリ360のグレードやスペック詳細

フェラーリ360は1999年から2005年までの製造期間の間、前モデルのF355同様に大きなマイナーチェンジは行われませんでした。但し細かい変更は毎年行われており、その中にはハロゲンヘッドランプがキセノンに変更されるといった小規模なものから、マフラーの変更といった大きなものも含まれています。

出典:http://en.autowp.ru/ferrari/360/spider/pictures/page3/

フェラーリ360のボディタイプとグレード

フェラーリ360には2ドアクーペとフルオープンボディの2種類が設定されました。伝統のタルガトップは、遂に廃止されてしまいました。

クーペの名称は先代F355のベルリネッタに代わってイタリアの都市名から引用した「モデナ」となりました。当時のフェラーリはV12のFRで2シーターの550にも「マラネロ」という都市名を付け加えていますが、「マラネロ」が車種名に含まれているのに対して、360での「モデナ」はグレード名として扱われていました。

2001年に追加されたフルオープンボディのグレード名は「スパイダー」が継承されています。エンジンフードはフラットなものが採用され、垂直なリアスクリーンと合わせて、幌を閉じた時のフォルムは、F355以前のデザインを思い起こさせる優美なものでした。

トランスミッションはF355に引き続き、6MTとF1マチックが両方のグレードで組み合わせられます。

他にモデナをベースとしたワンメイクレース参戦仕様の「チャレンジストラダーレ」が存在します。以前のF355チャレンジを継承する内容ですが、「チャレンジストラダーレ」で単一の車種名となっており、独立した単体車種として扱われました。25馬力程度の出力向上や、実践上は不利となったベンチュリートンネルを廃止し、リアエンドの造形を変更してダウンフォースを稼ぐなど、沢山の変更が行われています。

チャレンジストラダーレのトランスミッションはF1マチックのみでした。

出典:http://en.autowp.ru/picture/323275

フェラーリ360モデナのスペック

新設計が目立つフェラーリ360ですが、唯一エンジンに関しては先代のF355から多くを継承しています。F131型エンジンはF355同様に5バルブのヘッドで、排気量拡大はストロークの延長のみで行われており、ボア径は348以来変わらない85mmです。制御系はボッシュのモトロニックME7.3ですが、2基を搭載して左右バンクそれぞれを1基ずつ制御する設計は、1996年までのF355の設計に回帰しています。

注目は車体サイズで、全長とホイールベース、トレッドです。以下の内容は基本モデルとなる、2ドアクーペのモデナのものを採り上げました。

出典:http://en.autowp.ru/picture/d1xxw4

全長 4,490mm
全幅 1,925mm
全高 1,215mm
ホイールベース 2,600mm
トレッド 前/後 1,670mm/1,620mm
車両重量 1,430kg
乗車定員 2人

最小回転半径 5.4m

エンジン V型8気筒DOHC40バルブ
排気量 3,586cc
ボアxストローク 85.0x79.0mm
圧縮比 11.0
最高出力 294kW [400ps] / 8,500rpm
最大トルク 372.6Nm [38.0kg-m] / 4,750rpm
燃料タンク容量 98L

変速機 6MT / F1マチック(2ペダル6MT)
サスペンション前/後 ダブル・ウィッシュボーン / ダブル・ウィッシュボーン
ブレーキ前/後 ベンチレーテッド・ディスク / ベンチレーテッド・ディスク
タイヤ前/後 215/45ZR18 / 275/40ZR18

フェラーリ360の中古車事情

人気車種だったことや、比較的乗りやすいことから、生産終了から10年が経つ2015年現在も、チャレンジストラダーレを除けば360はそれなりの台数が日本の中古車市場で流通しています。価格帯は800万円から1,200万円程度が主で、先代であるF355と同じくらいの相場です

コンセプトが異なるので一概には言えないものの、360はF355と同様に手を伸ばしやすいフェラーリだと言えるでしょう。また、信頼性や購入後の手の掛かり方についても、360はF355に比べて圧倒的な優位性があります。後に続くF430と比較すると、3ペダルの6MTが流通している点もポイントです。

出典:http://en.autowp.ru/picture/323286

まとめ

以上駆け足でフェラーリ360についてまとめてきましたが、如何だったでしょうか?

テレビなどにもしばしば登場したフェラーリ360ですが、この記事から新たな発見があったら幸いです。

出典:http://en.autowp.ru/picture/w9i0zc