パドルシフト、もっと使って、もっと楽しく走りませんか。

ハンドルの両側にセットされた「パドル」を操作してシフトチェンジするパドルシフト。最近はオートマチックのクルマによく見かけますし、ゲームセンターのレースゲームなどで体験できたりしますので、おなじみの方も多いのではないでしょうか。これを使うともっと楽しく走れるようになります。その使い方をチェックしてみませんか。

出典:http://www2.nissan.co.jp/Z/performance_mission.html

パドルシフトって、どうしてできたの?

現在のスタイルは、フェラーリのF1がルーツ

出典:http://www.formula1-dictionary.net/gearbox.html

レース実戦用のステアリング。パドルが裏側に取り付けられている

パドルシフトが“発明”されたのは、1989年のこと。F1のフェラーリ・チームのレーシングカーに採用されたのが、そもそもの始まりといえます。
ちょうど時代は、アイルトン・セナとアラン・プロストの頃。マクラーレン・ホンダで無類の速さを発揮していたセナに対抗するために、フェラーリ陣営が開発した秘密兵器がセミオートマチックトランスミッション(セミAT)と、それを操作するためのパドルシフトだったのです。

それまで右手(レーシングカーはシフトレバーを右側にセットするのが標準)のレバーと、クラッチ操作で手動により行っていたギアチェンジを、もっと素早く簡単にしようという発想から生まれたものでした。

出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Ferrari_640

セミAT+パドルシフトを実装したF1マシン、フェラーリ 640(F189)

コンマ1秒を競うレースで、タイム短縮のために

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ちなみに、1回のレースでは数千回のギアチェンジを行うといわれています。有名なモナコのF1レースは1周約3.3kmのコースで、1周あたりのギアチェンジは約60回もの操作を行っています。
1回あたりのギアチェンジがコンマ1秒早くなるだけで、モナコだったら1周あたり6秒もタイム短縮が可能になるわけです。これは凄いアドバンテージです。

さらに1回のレースでは、モナコの場合約80周走りますから、ギアチェンジの回数はなんと4,800回にものぼります。昔のレーサーは、走り終えると手の皮がむけてボロボロになっていたそうです。セミATとパドルシフトなら、そんなこともなくなります。

基本は、セミATとの組合せで

自動車のドライビングに、ギアチェンジは欠かせないものです。スピードに応じて適切なギアを選ぶことは、速く、思い通りに走るために欠かせない要素です。市販車では性能よりも運転のしやすさなどから自動化が進みましたが、100分の1秒、1,000分の1秒を争うレースの世界では異なります。ギリギリの速さを競う世界で最優先されるのはドライバーの判断や操作であり、その部分の自動化は難しい問題とされていました。
そこで、クラッチを踏んでギアチェンジする部分のみ機械化し、そのタイミングはドライバーに任せるという方法がとられました。乗用車のようにギアチェンジのタイミングなどすべてを自動化するのではなく、一部分のみの自動化なので、セミATといわれます。

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フェラーリF1用のセミATギアボックス

そのギアチェンジの指令を出すデバイスとして開発されたのが、パドルシフトです。
一般的には、ハンドル右側のパドルでシフトアップ、左側でシフトダウンを行います。以前のギアシフトよりも素早くギアチェンジできるようになるため、前述のようにタイムアップすることができます。さらに、ハンドルから手を離さずにギアチェンジできるため、コーナリング中でハンドルから手を離しにくいときなどでも自由なタイミングで適切なギアチェンジができ、さらなるタイムアップも望めます。
このセミATとパドルシフトにより、レースのドライビングがさらに進化することになったのです。

レース発想のテクロジーを、市販車へ

フェラーリは、市販車にもこのセミATとパドルシフトの組合せを導入します。1997年、「F355」に「F1マチック」というネーミングで導入されたのを皮切りに、その後のモデルでもフェラーリは次々と導入していきます。
F1と同じ操作が公道を走るフェラーリでも楽しめる、というのが当時のセールスポイントでした。
実際に操作してみると、シフトアップもダウンもギアチェンジが瞬時に行われ、スポーツムード満点のメカです。

その後、パドルシフトはそのカタチだけ真似され、一般的なオートマチックトランスミッション(AT)と組み合わされるようになりました。
当時、市販車のATといえば、クラッチの役割にオイルを使うトルクコンバーター方式。スムーズに変速できるものの、フェラーリのセミATのようにダイレクトな方式ではないため変速には少しタイムラグがありました。

そのトルクコンバーター方式のATで、スポーティなムードを演出するために、パドルシフトが組み合わされたのです。
ただし、せっかくパドルシフトで操作をしても、さっきも書いたようにギアチェンジにタイムラグがあったりしたため、フェラーリF355ほどの本格的なスポーティさを味わうのはなかなか難しかったようです。

ツインクラッチ・セミATとの組合せで本領を発揮

パドルシフトが本領を発揮するようになったのは、ツインクラッチ方式のATが開発されてからです。その名の通り、クラッチを2セット用意し、次にチェンジするギアをつねにスタンバイする方式で、これによりギアチェンジのスピードと効率が格段に上がりました。
さらに、ギアの数も従来の一般的な4速から、最近は7速など多段化され、スピードにより適切なギアを選ぶことでより低燃費を実現することも可能になっています。
通常はオートマチックモードで、従来のATと同様に走ることができますが、パドルシフトの操作をすることで、走行状態に応じたギアを積極的に選択することができるようになります。これによってよりスポーティに走ったり、あるいは省燃費運転を目指したり、走り方の幅や楽しみがいっそう広がりました。

シングルクラッチ、CVTなどにも

ツインクラッチ方式のセミATよりも簡略な方式でシングルクラッチ方式のものもあります。多くの場合、小排気量のクルマに使われていますが、少ないパワーをより有効に活かすために積極的にギアチェンジできるよう、パドルシフトを装着するモデルもあります。
クラッチがシングルですので、ツインクラッチほどの素早いギアチェンジは望めませんが、パドルシフトを活用することで街中でもキビキビと、高速道路の追い越しなどもより素早く安全に完了することが可能になります。
トルクコンバーター方式のAT車も改良が進み、パドルシフトでも素早くギアチェンジできるモデルも登場してきています。このほか金属ベルトによるCVT(Continuously Variable Transmission)方式などでもパドルシフトが組み合わされるようになっています。

出典:http://www.abarth.jp/abarth595_turismo/

基本的な使い方は?

詳しい使い方や機能は、マニュアルなどで確認を

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では、パドルシフトはどのように使うのでしょうか。ここでは一般的な車種の例を挙げます。車種によっては使い方や機能の名称が異なりますので、一度マニュアルを確認するか、あるいはディーラーのセールスなど詳しい人に操作方法を確かめてください。

パドルの設置方法にもいくつか種類が

市販車のパドルシフトは、以前はステアリングのスポークの部分にセットされたボタンを操作する方法などもありましたが、最近はハンドル裏側にセットされたパドルを操作する方法に統一されつつあります。
ただし、パドルがハンドルに固定されハンドルを回すと一緒に回転するタイプのほか、パドルがハンドル軸のケースに固定され、ハンドルを回してもパドルは動かないタイプもあります。現在、一般的なのは前者のタイプです。
ハンドルを握りながら、指でパドルを手前に引きます。右側のパドルでシフトアップ、左側でシフトダウンを行うのが一般的になりつつあります。

パドル操作で瞬時にマニュアルモードに

AT車の場合、ギアチェンジをすべて任せるオートマチックモードと、自分でギアを選択できるマニュアルモードの2種類があります。以前はその両者を、フロアにあるギアレバーでそれを切り替えていました。
パドルシフトAT車の場合、パドルを操作した瞬間にモードがマニュアルに切り替わります。つまりオートマチックモードで走っていても、必要なとき、自分がギアを変えたいと思ったとき、パドル操作で瞬時にギアチェンジできるのです。
走行中、シフトアップしてエンジンの音を抑えたい、あるいはシフトダウンしてエンジンブレーキを使いたい、そんなときにパドル操作で瞬時に行えるようになるのです。

そのまま走っていると、オートマチックモードに

オートマチックモードで走行中は、パドル操作によっていったんマニュアルモードになっても、しばらく走っているとまたオートマチックモードに切り替わり、ギアチェンジを自動で行うようになります。
また、マニュアルモードでは選択したギアで走り続け、自動でシフトアップすることはありません。

減速すると、徐々に自動でシフトダウン

走行中にスピードを落としていくと、自動でそのスピードに応じたギアに変わり、停まると次の発信に備えるために1速になります。これはオートマチックモードでもマニュアルモードでも同じです。
また、走行状態やそのときのエンジンパワーに不適切なギアチェンジは受け付けてくれません。例えばゆっくり走っているのに、必要以上に高いギアを選択することはできませんし、その逆に、必要以上に低いギアも選択することもできません。

実際に走ってみよう!

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クルマの性能を引き出し、スポーティな走りを

その成り立ちからも分かるようにパドルシフトは、メリハリを持ってスポーティに走りたいときに効果を発揮します。ギアチェンジをATに任せてしまうのではなく、自分で積極的に選ぶことで、狙ったスピードでよりスムーズに走ることができるようになります。また、クルマそのものが持っている性能や能力をさらに引き出す走りもできるようになり、ドライビングの楽しさがさらに広がります。

コーナーの立ち上がりや、加速で

ワインディングロードを走っていて、小さなコーナーに侵入するとき、あらかじめパドルでシフトダウンしておくと、その後、コーナーからのスムーズに立ち上がることができます。

加速力が欲しいときはマニュアルでパドルシフトを行えば、エンジンを高回転まで使えるようになります。その際、ツインクラッチATであれば、瞬時にギアチェンジが行われ、従来のようなシフト操作に比べて加速力が途切れることなく素早くスピードを上げていくことができます。

ブレーキングを素早く、安定して

また、減速のときは、フットブレーキとともにパドルによりシフトダウンし、エンジンブレーキを使うことでより安定して素早くスピードを落とすことができるようになります。シフトダウンの際、従来のレバーによるシフト操作ではブリッピング(空ぶかし)してエンジン回転を低いギアに合わせる必要がありました。そのためにブレーキとアクセルとクラッチの3つのペダルを両足で同時に踏む「ヒールアンド・トウ」といったテクニックが求められていましたが、そんなこともパドルシフトとATの組合せなら必要なくなりました。ブリッピングも自動でATが行ってくれます。
スポーティなドライビングの醍醐味を、より手軽に味わえるようになったのです。

大きなコーナーではマニュアルモードにしてギアを一定に保ちながら走るようにします。不意にシフトアップして、そのために駆動力が変動するようなこともなくなるため、一定のスピードで安定して安全に回り込めるようになります。

ハンドル操作に集中して、リズミカルに

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そして何よりも、パドルシフトならリズミカルに走れるようになります。ハンドルから手を離すことなく、その操作に集中しながら、周囲の交通や道路の状況に合わせて、瞬時にギアを上げたり下げ、思うとおりのスピードで走れるようになります。
そうなると気分はレーサーといったところでしょうか。パドルシフトのいちばんのメリットは、そうした爽快な走りとそこからくる満足感です。でも、スピードの出し過ぎはくれぐれもご注意を。

一般ドライバーも、パドルシフトで快適に

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一般的なドライバーでも、パドルシフトの使い方を知っているとさらに快適に、省燃費に走ることも可能です。その例をいくつか見てみましょう。

街中で、駐車場などの急坂も安定走行

陸橋や自走式駐車場などで坂を上るとき、車種によっては登坂中に自動でシフトアップしてしまい、そのせいで登板するパワーが途切れたり、力が少なくなりすることで、思いもよらずスピードが落ちたりすることがあります。そんな違和感が気になるときは、マニュアルモードでギアを固定して走るといいでしょう。オートマチックモードのままでは、パドル操作でギアチェンジしても、一定時間が過ぎると再びオートマチックモードになって自動でギアチェンジしてしまうため、できればマニュアルモードを選択します。

シフトダウンで、エンジンブレーキ

逆に、坂を下りるときはパドルシフトでシフトダウンすれば、エンジンブレーキにより安定して走ることができます。シフトダウン時は、アップ時とは異なり、次のシフト操作をしたり、アクセルを開けたり、一旦停止したりしない限り、そのギアで走り続けますので、坂を下りている限りは一定のギアで走り続けることができます。

エンジンブレーキとは、エンジン回転が下がろうとするマイナスの力をブレーキに応用するものです。走行中、アクセルを開けずに閉じたままにすると、エンジン界点が下がろうとします。その結果、スピードが落ちます。その力をブレーキのように使うものです。このとき、ギアを下げることでスピードが下がる作用がさらに強まります。
パドルシフトによるシフトダウンにより、そのエンジンブレーキを積極的に使えるようになるのです。

急な上り坂も力強く

上り坂でクルマのスピードが落ちてきたら、パドルでシフトダウンしてみましょう。より低いギアにすると、エンジンの力が強まり急な上り坂も力強く走ることができるようになります。

下り坂でも、シフトダウンして先に書いたエンジンブレーキを上手に使うようにしましょう。特に長い下り坂などで、ギアをそのままにしているとどんどんスピードが上がってしまうことがよくあり、スピードの調整にブレーキを踏むんだりしてクルマの挙動が不安定になり同乗者に不快な思いをさせたり、急なカーブや物陰からの飛び出しなどに対応できなかったりもします。
そんなときも、パドルシフトによりエンジンブレーキを使うことで、より安定して安全に走ることができるようになります。

シフトアップで、省燃費を狙う

また、平坦で一定のスピードで流れているような道では、シフトアップしてできる限り高いギアを使うようにします。そうするとエンジン回転が下がり、より省燃費で走れるようになります。またエンジン音も下がるため車内が快適になり、よりリラックスしてドライブが楽しめるようにもなります。
ただし、そのときの走行スピードによって選べるギア以上のギアチェンジはできません。高いギアで走行中は、ちょっとした坂でもスピードが低下したりすることがありますが、その際は自動でシフトダウンされるため安定して走ることができます。

高速道路の合流もスイスイと

高速道路で最初の問題は、本線への合流です。安全に合流できるよう、合流車線で十分にスピードを上げる必要があります。短い時間でスピードを高めるには、低いギアで勢いよく加速ることが秘訣です。通常のオートマチックモードでも、アクセルをグッと踏むと自動でシフトダウンが行われ、速やかにスピードを乗せていくことができますが、ためらう人も多いようです。
そんなとき、パドルでシフトダウンしても同じ効果を得ることができます。通常は1回のシフトダウンでも十分な加速力が得られますが、合流車線が上り坂だったりしてより強い加速力が必要なときはさらにもう1回シフトダウンしてみてもいいでしょう。

愛車の良さを見直す、きっかけにも

前にも書いたとおり、パドルシフトは思い通りに走るためのデバイスです。特にこれを使わなくても、最近のクルマはきちんと走ってくれるはずです。
でも、もしあなたがいま乗っているクルマにパドルシフトが付いていたら、せっかくなのでたまには使ってみませんか。「このクルマ、意外に力があるな」「運転が上手くなった感じ」なんて、愛車を見直すきっかけになるかもしれませんよ。