フェラーリの新世代V8ミッドシップの幕開け、348(1989〜1995)

現在はスーパースポーツに括られるV8ミッドシップのフェラーリですが、元の流れは1968年に登場したV6ミッドシップの「ディーノ」に端を発し、V12搭載モデルに対してピッコロ・フェラーリと呼ばれていました。そんなピッコロ・フェラーリがコンセプトを大きく変化させた最初のモデル、348についてまとめます。

フェラーリ348の歴史

出典:http://en.autowp.ru/picture/302512

フェラーリ348は1989年に、フェラーリのスポーツモデルのボトムエンドを担うモデルとして登場しました。

このボトムエンドのモデルは、古くは若くして亡くなったエンツォ・フェラーリの長男の名前を冠した「ディーノ」のブランドで販売された206GTに端を発するもので、1970年代半ばのディーノブランドの廃止でフェラーリのラインアップに組み込まれたという経緯があります。本流とも言うべきV12エンジンを搭載した大型のフェラーリに対して、この軽量で小型なレンジを担うモデル群は代々、ピッコロ・フェラーリと呼ばれて親しまれてきました。その魅力は、絶対的な動力性能ではなく、軽快な運動性能にありました。

348はピッコロ・フェラーリとしては1975年の308、1985年の328に続く3代目に相当します。348という名称は「3.4LのV8エンジン」を意味しています。フェラーリのネーミングはモデルレンジや販売時期によって一様ではありませんが、348の命名法はディーノの流れを汲むものとなっています。

V12モデルを連想させるデザイン

出典:http://en.autowp.ru/picture/363704

348の特徴のひとつは、当時発売されていたV12搭載のテスタロッサを連想させるデザインです。先代の328や先々代の308が、線の細さを感じさせる流麗なデザインだったのに対して、348はモダンで角ばった、ややマッシブな印象を与えるものとなりました。エアダクトに向かうサイドフィンや、テスタロッサ同様に伝統の丸型から横長基調へと改められたテールランプも、その印象を強めています。このデザイン路線は賛否両論あり、特にテールランプは後継のF355では丸型に回帰することになりました。

デザインは当時の他のフェラーリと同様に、ピニンファリーナのレオナルド・フィオラヴァンティによるもので、同氏が手掛けたフェラーリとしては348は最後のモデルとなりました。

セミモノコックボディの採用

出典:http://en.autowp.ru/picture/363702

348の特徴として、車体構造の変化も見逃せません。348は、フェラーリとしては最初に取り組んだ本格的なモノコック構造を持つモデルだったのです。

従来のフェラーリの各モデルは、強靭な鉄パイプを組み合わせた鋼管でフレームを作り、その外側にボディパネルを組み合わせる鋼管フレーム構造が採用されてきました。これはスポーツカーの古典的な設計手法です。

しかし348では車体のボディパネル自体が応力を受け持つモノコック構造を一部に取り入れ、鋼管フレームと組み合わせたセミモノコック構造が採用されました。この変更の理由は諸説あり、例えば生産性の向上による生産規模の拡大が念頭に置かれていたのではないかという推察があります。

一概に鋼管フレームとモノコックは方式だけで優劣が語られるものではなく、例えばライバルのポルシェは911で一貫してモノコック構造を採用してきていますが、その剛性の高さが長く評価を受けてきました。しかしフェラーリにとっての初のモノコックは、当初は従前の鋼管フレームに対して完璧な設計が出来ていたとは言い難く、モデルライフ途中でのマイナーチェンジでは車体の強化が行われました。

タテ置きエンジン、ヨコ置きトランスミッション

出典:http://en.autowp.ru/picture/c5m0aw

348の従来のピッコロ・フェラーリとの違いはエンジンレイアウトにもあります。フェラーリはV12のミッドシップではエンジンを縦置きにするレイアウトでしたが、V6/V8搭載のミッドシップでは、ディーノ以来一貫してエンジンを横置きに配置してきていました。しかし348ではエンジンを縦置きに変更、V12モデルと同様のレイアウトを手に入れたのです。

ミッドシップのエンジン搭載方向も一概に横置きと縦置きで優劣を語れるものではないのですが、一般的には縦置きの方が低重心や良好な重量バランスを実現しやすいと言われており、348でのレイアウト変更もそれを意図したものだと言われています。

一方で変速機の方向は、従来通りの横向きが継承されました。これは1970年代後半に活躍したフェラーリのF1マシンの312Tと同じ構成であり、前期型の348のグレード名には"transverse"の頭文字である"t"が組み込まれています。

同様の構成は、2+2のGTモデルであるモンディアルシリーズの当時の最新モデル、モンディアルtで348に先駆けて採用されています。2+2のGTモデルをテストヘッドとして2シーターのスポーツモデルで本格投入するというのは同時期の他のフェラーリでも見られた方針でしたが、とはいえ発表・発売の差は数ヶ月程度の僅かなものでした。

348は今日のV8フェラーリの原点である

出典:http://en.autowp.ru/picture/276965

冒頭で書いたとおり、ピッコロ・フェラーリの魅力は、絶対的な動力性能ではなく、軽快な運動性能にありました。しかし348でのコンセプトの変更は、ピッコロ・フェラーリが、これまでとは異なるスーパースポーツ的な方向性に向けて舵を切る契機となりました。

348自体はエンジン出力も今日の水準から見れば特筆すべき点は薄く、そのエンジンと比べても車体の強度が心許ないという内容でしたが、スーパースポーツとして分類される最新の488にも通じる基本構成を獲得したピッコロ・フェラーリは、新たな歴史を紡いでいくのです。

評判は今ひとつながら魅力は十分な前期型(1989〜1993)

出典:http://en.autowp.ru/picture/nkb9s4

348は8,844台が製造されたと記録されていますが、このうち7,000台以上を占めるのが、こちらの前期型に相当するグループです。前述の通りフェラーリとしては初の試みだったモノコック構造の車体は剛性不足が指摘され、購入後に対策が行われるケースもありました。

内装は、ミッドシップでは本来構造上不要なセンターコンソールとダッシュボードが繋がった囲まれ感のあるレイアウトが特徴的で、これはテスタロッサを筆頭に、この時期のフェラーリが積極的に採用していたものでした。

後期型との識別点として、328以前のモデルとの共通点を感じさせる樹脂色のフロントスポイラーやサイドスカート、エンジンフード前部などがありましたが、販売後に後期型同様にボディ同色に塗られ、外観上の区別が付かなくなった個体も多く存在します。

前期型フェラーリ348のボディタイプとグレード

出典:http://en.autowp.ru/picture/363678

前期型の348は、2ドアクーペの"tb"と、リアガラスなどは残したままに屋根の中央部のみが着脱出来る"ts"の2種類のボディタイプ・グレードで展開されました。

"t"は"transverse"、"b"は"berlinetta "、"s"は"spider"の頭文字を取ったものですが、tsはフルオープンというよりも、タルガトップに分類されるものです。このタルガトップは1977年の308GTS以来人気を集めてきたバリエーションでした。348でもタルガトップ人気は続き、tbの2,894台に対して、tsは約1.5倍の4,228台が製造されました。

フェラーリ348tbのスペック

フェラーリ348前期型のスペックとして、ここでは代表的なモデルである348tbのものを紹介します。ボディサイズは先代の328に比べて長さは殆ど変わらないものの、ホイールベースが10cm、横幅が17.5cm大きくなり、かなり大きくなっているのが注目点です。

348前期型に採用されたエンジンは、当初はF119Dという形式名で、登場から間もない1990年に制御系がボッシュのモトロニックM2.5から同2.7へのアップデートに伴いF119Gに変わりましたが、カタログスペックに変化はありませんでした。このエンジンは1973年のディーノ308GT4以来ピッコロ・フェラーリで採用され続けてきたエンジンブロックは継承していますが、ボアとストロークの拡大で排気量が3.4Lになり、カタログ上の最高出力は遂に300馬力の大台に到達しました。尚、このエンジンはモンディアルTと同一のものです。

出典:http://en.autowp.ru/picture/ou6sqh

全長 4,230mm
全幅 1,895mm
全高 1,170mm
ホイールベース 2,450mm
トレッド 前/後 1,500mm/1,580mm
車両重量 1,490kg
乗車定員 2人

最小回転半径 4.95m

エンジン V型8気筒DOHC32バルブ
排気量 3,405cc
ボアxストローク 85.0x75.0mm
圧縮比 10.4
最高出力 220kW [300ps] / 7,000rpm
最大トルク 309.7Nm [31.6kg-m] / 4,000rpm
燃料タンク容量 95L

変速機 5MT
サスペンション前/後 ダブル・ウィッシュボーン / ダブル・ウィッシュボーン
ブレーキ前/後 ベンチレーテッド・ディスク / ベンチレーテッド・ディスク
タイヤ前/後 215/50ZR17 / 255/45ZR17

洗練が進むも短命で終わった後期型(1993〜1995)

出典:http://en.autowp.ru/picture/xae38a

モデル末期の1993年、フェラーリは348のマイナーチェンジを敢行しました。その内容は、ボディ剛性の低さなど前期型の欠点を潰すことにありました。またこのマイナーチェンジには、1991年からフェラーリの立て直しを行っていたルカ・ディ・モンテゼーモロの意向があったとする説もあります。

外観上は車体下部のエアロパーツがボディ同色となったので、よりボリューム感のある雰囲気となり、前期型の348でも、これを模した個体が増えることになりました。

エンジンの強化もあり、後継のF355と比べても硬派なスポーツカーとして仕上がった348の後期型ですが、スパイダーを除くと生産期間は僅か1年程度でした。

後期型フェラーリ348のボディタイプとグレード

出典:http://en.autowp.ru/picture/302399

(手前のベルリネッタのみ前期型のtb)

後期型の348では最初にフルオープンモデルとしてスパイダー(Spider)が新たに追加され、次いで前期型のtbがGTBに、tsがGTSに置き換えられました。後期型348は、2ドアクーペ、タルガトップ、フルオープンの3ボディ展開となったのです。

このようなフルオープンモデルの設定は2シーターのV8ミッドシップでは過去に見られなかったものですが、設定の背景にはモンディアルTの生産終了により空白になったフルオープンモデルを置き換えるという意味合いがあったようです。

少数派の後期型ですが、その人気は新しいスパイダーに集中しました。348スパイダーは後継のF355登場後も、F355にスパイダーが設定されるまでは継続生産されたこともあり、その生産台数は1,146台だとされています。対してGTBとGTSは合わせても450台しかなく、348の中でも希少な存在としてプレミアが付いています。

フェラーリ348GTBのスペック

フェラーリ348後期型のスペックとして、ここでは代表的なモデルである348GTBのものを紹介します。基本的にボディサイズ等に変化はありません。車両重量に関しては資料によって表記が異なりますが、前期型よりは若干の軽量化が図られたと言われています。但し、その一部は7L削減された燃料タンク容量によるものです。

348後期型に採用されたエンジンは高回転型のF119Hにアップデートされています。最高出力は320馬力に到達しました。

[iframe width="560" height="315" src="https://www.youtube.com/embed/ukFXf9FwDaM" frameborder="0" allowfullscreen][/iframe]

全長 4,230mm
全幅 1,895mm
全高 1,170mm
ホイールベース 2,450mm
トレッド 前/後 1,500mm/1,580mm
車両重量 1500kg
乗車定員 2人

最小回転半径 4.95m

エンジン V型8気筒DOHC32バルブ
排気量 3,405cc
ボアxストローク 85.0x75.0mm
圧縮比 10.4
最高出力 235kW [320ps] / 7,200rpm
最大トルク 323Nm [33.2kg-m] / 5,000rpm
燃料タンク容量 95L

変速機 5MT
サスペンション前/後 ダブル・ウィッシュボーン / ダブル・ウィッシュボーン
ブレーキ前/後 ベンチレーテッド・ディスク / ベンチレーテッド・ディスク
タイヤ前/後 215/50ZR17 / 255/45ZR17

より硬派なモデルも!フェラーリ348のスペシャルモデルたち

フェラーリ348はモデルライフの途中にいくつかの限定車やスペシャルモデルが設定されました。

348 Serie Speciale

1992年から1993年にかけて北米でtbとtsをベースに販売された限定車です。エアロパーツはボディ同色に塗装されており、後期型の348のデザインを示唆するものとなりました。

348 Challenge

1993年から1995年まで行われたフェラーリ主催のワンメイクレース、348チャレンジに参戦するための仕様として設定されました。既に販売された車両にキット取り付けで製作された個体と、最初から348チャレンジ仕様としてラインオフした個体があるようです。

ベースは2ドアボディのベルリネッタで、これにロールバーや18インチホイール、レース用のシートベルトなどが加わりました。エンジンは原則としてノーマルでしたが、当初は前期型のtsが、途中から後期型のGTBがベースとなったため、参戦資格を維持する場合、tsベースの個体はシリンダーヘッドとインジェクションの交換で、エンジンの後期準拠へのアップデートが行われたようです。

348 GT Competizione

348 GTコンペツィオーネは、フェラーリの公認チューナーであるミケロットが手掛けたチューンアップモデルで、後期型をベースに製造されました。GTB、GTSに準えて、便宜上GTCと省略されることがあります。

ベースとなったのは原則としてGTBで、エンジン出力は330馬力程度に高められていましたが、オーダーに伴いGTSをベースにしたり、更に強力なチューニングを行った例もあるようです。またGTコンペツィオーネには複数のバリエーションが知られています。特に有名なのがレース参戦仕様に準拠した公道モデルの348 GT Competizione Corsaで、最も硬派な348のバリエーションとして知られており、その最高出力は375馬力に達すると言われています。

最早決して安くない?348の中古車事情

フェラーリ348は日本では不人気車種としてしばしば名前が挙がっていました。中古車としては事故車や過走行車ではなくとも500万円を大きく下回る個体も流通することもあり、手頃な価格のフェラーリの代名詞にもなっていました。また投機対象として見られることもありませんでした。

その背景として、剛性不足問題や328以前より肥大した車体、この時期のフェラーリ特有の微妙にクセがあり、前後のモデルと比べると「らしくない」内外装のデザインなどが挙げられます。

しかし生産終了から20年が経過し、その中古価格は少しずつ上昇気味です。背景としては部品代の供給事情の変化による整備費の上昇や、中国のバブルによるスポーツカー人気で引っ張りあげられたことなどが考えられます。そのため、348は以前よりは買いにくい車種になってしまいました。

ですから348は「なんでも良いからフェラーリに安く乗りたい」という需要は最早満たさなくなりつつあり、それよりは348の個性を知った上で指名買いされる様な存在になりつつあると言えるでしょう。特にGTBやGTCは、現在では失われた硬派さから、今後も評価が上がっていくことが考えられます。

フェラーリ348のまとめ

駆け足でフェラーリ348についてまとめてきましたが、いかがだったでしょうか?

特にスペシャルモデルの詳細や中古購入での個体の選び方については、掘り下げるとキリがないので、是非興味を持った方はご自身で調べてみてください。348なんて…と食わず嫌いしていた方も、意外と深く楽しめるのではないかと思います。