自衛隊のマルチ車輌「軽装甲機動車」を調べてみた

ドライブをしていると、高速道路などで自衛隊の車輌とすれ違う事がありますよね。中には、思いも寄らず戦車が道を横断している光景にびっくりした経験がある方もいらっしゃるかと思います。今日、ご紹介する軽装甲機動車は、全国に配備されている車輌ですから、出会った方も多いかも。そんな隠れたベストセラー車、軽装甲機動車を紹介します。

軽装甲機動車って、どんなクルマなのか?

「軽装甲機動車」、略称はLAV(Light Armoured Vehicle)、相性「ラヴ」と呼ばれている車輌です。この車輌の使用目的は「普通科(一般に歩兵と呼ばれる兵種)」などの隊員の防御力、移動力を向上させる事が挙げられます。一般には歩兵機動車というカテゴリーに相当する性能と利用目的に当てはまっています。

この車輌の開発は防衛省になる以前、防衛庁の技術研究本部と小松製作所が行っていて、製造は小松製作所が担当しています。平成13年に陸上自衛隊での調達が始まり、平成24年までに1,780両が、平成15年からは航空自衛隊にも導入がはじまり、やはり平成24年まで119両の調達を終えています。

多くの自衛隊車輌には「10式戦車」のように「◯◯式」という名前がついていません。この「◯◯式」というのは、制式名称というもので、軍隊などの組織が兵器などに命名する識別用の名称で、「公式」にその採用を認定した段階で付与されます。つまりこの軽装甲機動車は制式名称をつけていないと言うことなのです。その理由は「費用」にあります。コストを抑えるため民生品を多用しているので、制式名称をつける対象外とされたようです。

性能やスペックは?

車体サイズですは、全長 4.4m、全幅 2.04m、全高 1.85m、重量 4.5tとなっています。乗員数は通常、前席2名と後席2名の計4名。エンジンは4ストローク水冷ディーゼルとなっています。

自衛隊車輌というと戦車のような砲が装備されている姿が想像されると思いますが、 固定武装は無く、乗員が天井ハッチから身を乗りだす形で5.56mm機関銃や対戦車誘導弾などを使用できる設計になっています。また、配備された部隊で独自の改造を行い、12.7mm重機関銃M2を搭載した軽装甲機動車が記念行事などで披露されたことがあります。

軽装甲機動車の「使用目的」は?

単に歩兵科隊員の保護や移動という使いみちだけではなく、他にもいろいろな使い方をされていたり、使いみちを想定されています。

■ 無線機搭載車:
中隊長など指揮官用として配備されています。特徴はアンテナが3〜4本立てられていることのようです。
■ 発煙弾発射機搭載車:
車体の側面、後側に4連装の発煙弾発射機が2基装備されています。偵察隊や普通科連隊情報小隊用として配備されていて、実戦の時には発煙弾が煙幕を張る役割を担います。
■ 機関銃搭載車:
機関銃用の防盾を装備したタイプです。普通科連隊の機関銃手用に配備されていたり、機甲科(戦車部隊など)の偵察部隊の威力偵察用用に配備されています。
※ 威力偵察とは、情報収集の手段の一つで、敵の勢力・装備などを把握するため、実際に敵と交戦してみる事や、敵の位置がわからない場合に、敵が潜んでいると思われる所へ射撃を行う事を指します。あくまで偵察なので攻撃した後は、素早く情報を持ち帰ることが必要です。そのため、機動力が不可欠になります。
■ 航空自衛隊:
基地の警備用に配備されています。
■ 警務隊:
いわゆるMPや憲兵隊といわれる部隊向けの仕様で、パトライトと拡声器が付けられ、「MP」という表記がされています。イラクへの派遣に使用されたのは報道写真などで確認されたのですが、その後は確認されていません。

多目的化している理由は「安さ」

批判にもあるように「ジープ」の代わりとしてまで配備されている軽装甲機動車。その多目的化の理由に上がるのは、そのコストです。「外国の機動車の方が、安い」と言われますが、後でも書きますが日本の道路事情などを考えると、大きすぎる難点があります。そのため、国産化が必要となったのです。

ただ、国内で調達しようとすれば、どうしても「生産量」がネックになってしまいます。アメリカなどのように輸出前提で大量生産をしない国産兵器の多くは、このために「海外に比べて高い」と言われがちなのです。その解決策として民生品を流用するなどのコスト対策を行ったのが「軽装甲機動車」です。平成22年には一台あたり約3,000万円だったといわれ、(それでも確かに高価格ですが)消防署に配備される救急車が2,500万円程度、ポンプ車で3,000万円程度とされていますから、ずば抜けて高いとは言えず。むしろ自衛隊の配備車輌では格段に安いと言えるそうです。そのため、有事も考慮した上で、「ジープ」が担っていたような役割にも対応しているようです。

実際に使われている「軽装甲機動車」

ある意味、実戦配備とも言える状況だったのは、東日本大震災での災害派遣とイラクへの人道派遣だったのではないでしょうか? 特にイラクでは危険な状況が予想されたため、幾つかの改造が加えられていたようです。
■ 機関銃や対戦車誘導弾を打つための上面ハッチの全周をカバーする装甲板の追加
■ 機関銃手をワイヤートラップから守るため、ワイヤーカッターを装備
(道路にワイヤーを張り、車体から顔を出している乗員の首を狙う恐ろしい罠から守るためだそうです)
■ 狙撃や爆発物への対応のため、防弾ガラスを強化
■ 非常用の予備タイヤ、燃料缶を積むためのラックを装備
■ ラジエーターなどを砂漠の砂埃から保護するための改修

危険な状況、そして派遣先の地理や特性に合わせた改造が行われているのですね。しかも、派遣が決まってから、実際に派遣されるまでの時間が無かったので、こういった改修は設計から取り付けまでを3か月程度で終わらせたそうです。

軽装甲機動車の「弱点」(?)

実は、この軽装甲機動車には、いろいろな批判があります。例としては

■ 車高が高いために横転しやすい
■ 装甲が薄く、実戦には危険
■ 不正地走行能力が低い
また、ジープの後継として配備された部隊では
■ 防弾能力を高めるために、フロントウィンドが分割されていて視界が悪い
■ 大きすぎて駐車場所をみつけにくい
■ 目立ちすぎてコンビニに立ち寄りにくい(某所では、確かに演習・訓練の帰り道に、コンビニで買物をするジープに乗った若者の姿を拝見したことがあります)

では、他国の状況はどうなのでしょう。

アメリカでは「ハンビー」が主力

こういった軍用車輌や兵器には必ずと言って良いほど「他国と比べてどうなの?」「優秀なの?」という興味や好奇心が出てきます。

恐らく、一番の比較相手とされるのはアメリカ軍で使われているハンビーなのではないでしょうか。ハンビーは1985年からケネディジープの後継車輌としてアメリカ軍に配備が始まりました。皆さんが良くご存知のハマーは、このハンビーをアーノルド・シュワルツェネッガーの要請で民生化した自動車です。

このハンビーは、アメリカを含め60カ国以上で運用されているベストセラーです。そのため、この軽装甲機動車のように装甲を持たない車輌もある一方、余裕のある軽装甲機動車よりも一回り大きな車体を持っているので、装甲化して歩兵機動車としてのバージョンもあります。

軽装甲機動車のような発煙弾発射機搭載をしたものもありますが、対空火器や野戦救命に特化したタイプなどとても多くの仕様で製造されています。これには、ハンビーが経験した「実戦」が大きく影響しているのでしょう。配備が始まった1985年から、パナマ侵攻やソマリア内戦、イラク戦争など多くの実戦を経験しています。その過程で、現場での改造や、実戦のフィードバックから仕様としての追加などが繰り返されたのです。そして1995年には能力向上型も製造がされてました。

ハンビーの後継「L-ATV」とは

ただ、やはり、その経験も踏まえても20年余りの時間を経て、ハンビーの後継車が必要になりました。そして2015年、ハンビーの後継として、オシュコシュ社(もちろん、アパレルのオシュコシュとは別の会社です)の「 L-ATV」が選定されています。

このL-ATVは、ハンビーよりも更に大きくなっていて6,400kgもあります。日本と違って、大きいことが大好きなアメリカなので、自衛隊が持つ同じような兵器よりも大型化する傾向があります。大きいことで、様々な装備が可能になり、用途を広げる効果も得られますが、一方で「巨大化」というデメリットもあります。このデメリットについての批判は、ハンビーの後継選定の段階から、このL-ATVだけではなく競合相手にもあったようです。特に大きいのが「遠くからでも見つかる」ということです。海軍や空軍では「ステルス」を追求しているのですが、陸軍のL-ATVでは人間の目に見つかることが批判されている状態なのです。

巨大化するアメリカの機動車。日本では「コンパクトさ」を優先

この巨大化は、自衛隊の場合は米軍以上に致命的欠陥になってしまうのが現状です。軽装甲機動車の場合、「装甲が薄い」や「重心が高くて転倒しやすい」などという批判もあるのですが、逆に「ジープの代わりに使うときには大きすぎる」とか「目立ちすぎてコンビニに停めづらい」という切実な状況もあります。軽装甲機動車が大きすぎる、目立ちすぎるという状況では、L-ATVは議論の余地も無いのですが。それ以上に輸送の問題があります。

軽装甲機動車は、そのサイズを確定する上で重要な要素がありました。それは「空輸」です。ニュースなどでも話題になる「離島防衛」や、東日本大震災のように陸路が使いにくい災害派遣では空輸が必要になります。そのため、今、自衛隊が持っている輸送機(C-1、C-130H)に積載あるいは吊り下げができることが必須なのです。そのため、居住性などが犠牲になっても、空輸が可能であることが求められたようです。

また、空輸といえば輸送機の格納庫に収める方法の他に、大型ヘリコプターでの搬送もあります。大型ヘリコプターとしては自衛隊にはCH-47があります。軽装甲機動車は、CH-47のお腹の下に吊り下げて運ぶことが可能な重量で、また、ヘリコプターからパラシュートつきで投下することができます。

将来は「RWS」を搭載?

もう一つの批判は、武装です。5.56mm機関銃MINIMIや89式5.56mm小銃を据え付けて射撃することができる車輌があるのですが、単に据え付けるだけではなく「ターレット」という回転式銃座を使います。このことで360度回転しながらの射撃を可能にしています。ただ、これに合わせて使う防楯付の銃架が貧弱だと言われています。

ただ、自衛隊・防衛省は既に、この問題を含めて、今後、軽装甲機動車を強化するための準備をはじめたようです。それがRWSといわれている武装です。

「RWS」の今後

軽装甲機動車のように射撃手が車外に身体を露出していると、特に市街地では「狙撃」の標的になりやすいと言われています。戦車のように、砲塔を備えていれば良いのでしょうが、歩兵機動車の機動力を奪うことになってしまう思い部品は付けられません。そのため、軽量かつ人体を車外に出さない兵器として各国で研究・開発・配備が進んでいる兵器が「RWS」です。

RWSはRemote Wepon Systemの略称です。簡単に言ってしまえば、リモコンで銃の操作をするシステムと言うことですね。実際、リモコンのように操作をするようで、射撃手は車内にいながらカメラを通して敵の位置を把握して撃つことになります。

これが更に発展して、今では暗視カメラや赤外線カメラが使われているそうです。そうなると、射撃だけではなく、視界の悪い軽装甲機動車の中から車外の様子を充分に監視することができるようになりますね。そして、もう一歩進んだ状況は自動で運用することだそうです。いわばRobot Wepon Systemとでも言えば良いのでしょうか。音声や温度など一定のパターンを認識したRWSが自動的に敵を捕捉したり、攻撃音に反応して自動的に反撃・応戦するように進化すると言われています。一種のロボット兵器ですね。

こういった装備をすることで、軽装甲機動車の弱点が補われていくのでしょう。

まとめ

こういった兵器が「戦争」で使われるところは見たくありませんが、災害派遣を含めても軽装甲機動車の高い機動力は必要なのでしょう。価格は平成22年で1両3,000万円だそうです。開発段階から製造工程の簡略化や民生品の活用で、一両あたり630万円の費用削減も実現しています。

アメリカなどのように兵器を大量生産できれば、もっと安くできるのでしょうが、日本でのベストセラーとはいっても、年間203台製造したのが最大です。そのような環境でギリギリまで節約しているというのはL-ATVの価格が目標2,500万円、実質は遥かに高額になるだろうと言われていることからも推察ができます。

民生品を活用して低価格を実現した軽装甲機動車の経験が、今度は逆に民生品へフィードバックされて私たちの生活に直接役にたってくれると、もっと嬉しいですね。