【スバルの水平対向エンジン】50年にわたって進化を続けたスバルのアイデンティティ的存在

2016年は、スバルが誇る水冷水平対向エンジンが開発されてから50年のの節目にあたります。構造的な振動の少なさや、全高が低く全長もおさえられるなど比較的コンパクトなことから、搭載位置によって操縦性にも寄与できるなどのメリットを持っています。これがレガシィやインプレッサの操縦性の良さにつながっているわけです。その始まりから現代までを振り返ってみましょう。(飯嶋洋治/RJC会員)

スバル前史。スバルの源流となった中島飛行機

photo by Iijima

スバルが誇る水平対向エンジンが50年を迎えたということで、先般、幕張メッセで行われたオートモビルカウンシル2016でその歴史を振り返る展示が行なわれ、富士重工業株式会社スバル国内営業本部マーケティング推進部の中村亜人氏のプレゼンテーションも行なわれました。今回は、それを踏まえながらスバルと水平対向の歴史について振り返ってみたいと思います。

星形エンジンが水平対向エンジンの原点?

富士重工業の前身は戦前の中島飛行機にさかのぼります。同社は中島知久平によって設立され、最盛期には従業員25万人にのぼる世界有数の飛行機メーカーでした。1917年5月に中島知久平は飛行機研究所を群馬県尾島町に創設します。これが後の中島飛行機となり、同年12月には本拠地を太田町(現・太田市)に移します。この時から富士重工業の時代を加えると来年で100周年となります。

中島飛行機時代のエンジンで名作と言われるものに「寿」「栄」「誉」などがあります。特に「栄」は戦時中に一式戦闘機「隼」などに搭載されて、高性能を誇りました。後に水平対向エンジンをスバルが開発したのには諸説あるそうですが、当時の飛行機で用いられた星型エンジンが発想の一旦にあるのは間違いないところでしょう。後述する星形エンジンは水平対向エンジンは、星形エンジンの上と下のシリンダーを取り去った形式といえないこともないのです。

水平対向エンジンと兄弟関係? 星形エンジンとは?

星形エンジンとはエンジンのピストンが放射状に並べられた形式となります。5気筒ならばまさしく星を絵で描いたようなスタイルとなります。このエンジンは、かつての飛行機の前面に取り付けられプロペラを回す動力として使われました。ピストンシリンダーが前面にあることで空気にさらされますから、空冷でも冷却効率に優れます。また、クランクシャフトを短くすることで全長も抑えられます。この辺は4気筒の場合、片側2気筒ずつとすることによって、全長を抑えられる水平対向エンジンに通じるものといえます。

「栄」発動機 主要諸元

正式名称

二式一一五〇馬力発動機(呼称 ハ115)

形式分類

形式:二列星形14気筒
冷却:空冷
過給機:1段2速ギヤ駆動遠心式過給機
動弁系:頭上弁式 吸気バルブ×1 排気バルブ×1

形状諸元

直径:1,150mm
乾燥重量:590kg
ボア×ストローク:130mm×150mm
排気量:27.9L

性能

離昇出力:1,130hp
公称出力:過給機ギヤ1速/1,100hp(高度2,850m)/過給機ギヤ2速/980hp(高度6,000m)

その他

製造会社:中島飛行機株式会社武蔵野製作所
生産月日:昭和18年12月
生産数:栄シリーズとして2万機以上

水平対向エンジンが登場するまで

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戦後、中島飛行機は解体されて紆余曲折を経ますが、最終的に富士産業、富士工業、富士自動車工業、大宮富士工業、宇都宮車両、東京富士産業の6社が合併することにより「富士重工業」が発足します。スバルのエンブレム「六連星(むつらぼし)」はこの6社から来ているわけです。

スバルは、「機能の本質を追求すること=スバルDNA」と位置付けています。それは「走り」「パッケージング」「安全」の3つの要素に妥協しないことであり、初期の富士重工にそうしたことが可能だったのは、中島飛行機を支えた優秀な飛行機技術者の存在が欠かせなかったことは容易に想像できます。

1958年には「スバルDNA」の原点ともいえるスバル360が開発、発売されて大人気となります。このクルマは水平対向エンジンこそ搭載していませんでしたが、大人4人が快適に乗れるパッケージ、軽量化構造、モノコックボディの採用など先進的なものでした。チーフエンジニアは元中島飛行機のエンジニアの百瀬晋六氏でした。百瀬氏は、中島飛行機の解体後は、富士産業の小泉工場に在籍しており、バスのボディやフルモノコックボディの乗用車「P-1」の開発に携わっていました。初期のスバルは百瀬氏に代表される飛行機エンジニアの力もあり「約60年前から合理的で正しい技術開発を行ってきた」ことを誇っています。

ちなみにスバル360をベースにした「サンバー」も百瀬氏がチーフエンジニアとなっています。同車はRR、四輪独立懸架という基本コンセプトを変えずに、2011年まで製造販売してきており、「合理的で正しい技術開発の証明」といえるものでしょう。

スバル水平対向エンジンを搭載したスバル1000とは?

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スバル1000は国産車としてはじめて水冷式の水平対向エンジンを積んだ車です(空冷水平対向はトヨタ・パブリカが1961年に搭載)。発売は1966年。その年は、日産からサニー、トヨタからカローラが発売されて1000ccクラスの大衆車の普及していく時代でした。サニーやカローラが直列4気筒エンジンを搭載し後輪を駆動するのに対して、スバル1000は水平対向4気筒エンジンを搭載して前輪を駆動するという独特のスタイルとなりました。このコンセプトが現代まで続いていきます。

直列エンジンで後輪を駆動する形式だと、エンジンが長くなり、室内をプロペラシャフトが通るということで、どうしても室内スペースに制約が出ます。しかし、スバル1000は片バンクが2気筒ずつとなる水平対向エンジンを採用することで、全長を短くし、さらに前輪を駆動するというシステムによって、普通乗用車としては広い室内を実現していました。ピストンシリンダーが寝ていることによって、必然的に重心位置もさがり、サスペンションは4輪独立懸架としたことで、きびきびとスポーティに走ることで人気がありました。

1967年になると、当時はスポーティエンジンにはつきものとされた「SUツインキャブレター」(現代のインジェクションにあたる)が装着され、圧縮比も10.0まで高められ67馬力に強化されたスポーツセダンも追加されました。ただし、水平対向エンジンは部品点数が多くなることで、コストは高くなるデメリットがありました。

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主要諸元

サイズ

全長:3,900mm
全幅:1,480mm
全高:1,390mm
車両重量:670kg

エンジン

型式:EA52
種類:水冷水平対向4気筒OHV
ボア×ストローク:72.0×60.0mm
圧縮比:9.0
排気量:977cc
最高出力:55ps/6,000rpm
最大トルク:7.8kgm/3,800rpm

水平対向エンジンのその後の進化は?

スバル1000に搭載された第一世代の水平対向エンジン(EA52型)はその後、レオーネクーペ1400(EA63型/1971年)、今日のシンメトリカル4WDの原点となるレオーネ4WDエステートバン(EA63型/1972年)、乗用ワゴンの先駆けとなり、大人気となったレオーネ4WDツーリングワゴン(EA81型/1981年)などに搭載され進化していきます。

1986年にはレオーネRX/II(EA82型)が登場します。これは1781ccの水平対向4気筒エンジンにターボを装着することによって、120ps/5,200rpmという当時としてはハイパワー車となりました。そして、もうひとつ見逃せないのは、パートタイム4WDからセンターデフロック機構付きのフルタイム4WDとなったことです。ここで現在のスバルのイメージが作られたと言っていいでしょう。

1989年には第二世代水平対向エンジンとしてEJ20が登場します。これは、センターデフにビスカスカップリングを採用したレガシィに搭載されました。当時はマツダがファミリア4WD、トヨタがセリカGT-Four、日産がブルーバードSSS-R、三菱がギャランVR-4といわゆるハイパワー4WDが登場していた時期。レガシィRSもその中に加わり、ラリーを中心としたモータースポーツにも積極的に参加し、後のインプレッサWRXにつながるWRC(世界ラリー選手権)での大活躍の礎を築くこととなります。

2010年になると第3世代の水平対向エンジン(FA・FB型)に入っていきます。マイナーチェンジのタイミングでフォレスター2.0XSにFB20が搭載されます。2011年にはインプレッサスポーツ2.0iにも同エンジンを搭載。リニアトロニック車はアイドリングストップ機能を与えられ、運転支援システムEye sight(ver.2)が搭載されたグレードもありました。

2012年はスバルBRZがデビューします。これにはFA20型が搭載されます。トヨタの直噴D-4S(燃料噴射システム)の組み合わせの専用開発となりました。スバルとして初の水平対向エンジンを搭載したFR車となりましたが、動力性能、運動性能ともに高い評価を得ているのはご存知のとおりです。2012年にはレガシィB4 2.0GT DITに、FA20型水平対向4気筒直噴ターボを搭載、2014年にレヴォーグが登場。1.6GT-S EyeSightには、1.6リッターのFB16型直噴ターボを搭載するなど、バリエーションが広がっています。

水平対向エンジンのこれからは?

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オートモビルカウンシルの会場には新型インプレッサが展示されていました。今年秋の発売ですから、まだ詳細は発表されていませんが、現在わかるところをご紹介しましょう。まず「安心と愉しさ」をグローバルレベルに高める、という目標を掲げ、新型インプレッサから「スバルグローバルプラットフォーム」を導入することが明らかになっています。

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これは高性能を超え、感性に響く「動的質感」と、世界最高水準の「安全性能」を備えるスバル史上最高レベルの総合性能進化を謳ったもので、レガシィからインプレッサの全車種&電動化まで、商品の特徴に対応するプラットフォームとされています。その他、新設計の水平対向2.0L直噴NAエンジンを搭載予定や、歩行者保護エアバッグの標準装備、アイサイト(ver.3)を標準装備など見逃せない点の多いクルマとなっています。

主要諸元

エンジン

型式:FB20
種類:水冷水平対向4気筒DOHC16バルブ デュアルAVCS直噴
ボア×ストローク:84.0×90.0mm
排気量:1,995cc
最高出力:113kW(154ps)/6,000rpm

駆動系

トランスミッション:リニアトロニック
駆動方式:2WD/AWD(常時全輪駆動)

サイズ

インプレッサスポーツ(インプレッサB4)
全長:4,460mm(4,625mm)
全幅:1,775mm(1,775mm)
全高:1,480mm(1,455mm)
ホイールベース:2,670mm
乗車定員:5名

エンジン

形式:FB20
種類:水冷水平対向4気筒DOHC16バルブ デュアルAVCS直噴
ボア×ストローク:84.0×90.0mm
排気量:1,995cc
最高出力:113kW(154ps)/6,000rpm

駆動系

トランスミッション:リニアトロニック
駆動方式:2WD/AWD(常時全輪駆動)

安全装置

標準装備:アイサイト、歩行者保護エアバッグ
メーカー装着オプション:スバルリヤビークルディティクション(後側方警戒支援システム)、ハイビームアシスト、ステアリング連動ヘッドランプ

まとめ

富士重工業は、乗用車メーカーとして考えると、どうしてもトヨタ、日産、ホンダに規模的にはかないません。スバル1000の時代は、独創性を発揮した結果ではありましたが、その後、他社との差別化を図り、生き残る手段として水平対向エンジンと4WDを続けざるを得なかった面もあるでしょう。しかし、そのかたくなともいえる姿勢が、現在「スバリスト」と呼ばれるほどの熱心なファンを得るきっかけともなりました。今後、水平対向エンジンがどのような進化を続けるのか? 注目したいところです。